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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第一部

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第15話「森の大賢者」

 うきうきしながら大した意味のない話をしているうちに、森に到着するまでの二時間はあっという間に過ぎた。森に着いたら、荷物を持って馬車を降りた。


 森の中には別荘までの道が丁寧に敷かれていて、周辺の草木も綺麗に刈られ、手入れがよく行き届いている。頼んでもいないのに、とオフェリアがくすっと笑う。


「さあ、別荘はこちらですよ。あ、御者さんはどうなさいますう?」


 急ごうとしたところで足を止めて振り返ると、御者は申し訳なさそうに首を横に振って「申してくだされば、迎えに参ります」と断った。もともとアリンジューム家の馬車なので、何かあっては彼の責任になってしまうため滞在はできなかった。


「そうですか、残念ですねえ。まあ仕方ありません」


 馬車が去っていくのを見送ってから「仕方ないですね、また菓子折りでも持って訪ねてあげましょう」と、再びジョエルたちを連れて歩きだす。


 しかし、歩いても一向に辿り着かない。森に着いてから数分も歩けば見えてくるはずの別荘が、まったく見えてこなかった。


「オフェリア、道に迷ったりはしていないよな」


「まさかあ。間違いなく正しい道ですよう」


 変だなあ、と思いながら止まり、足下を見る。りんごが転がっていた。なぜこんな場所に、とは思わず、さっと拾い上げて──。


「お二人共、ちょっと目を閉じてみてくれます?」


 言われた通りに、二人がぎゅっと目をつむった。


「良いって言うまで開けないでくださいね」


 拾ったりんごを握り締め、目の前にどこまでも続きそうな道へ目掛けて思いきり投げつけると、透明な何かが光を反射するように砕け散り、りんごがコロコロと転がって、大きな家の、手入れの行き届いた庭で止まった。


「……はあ。もう目を開けてもいいですよお」


 呆れた。目に見えない、オフェリアですらまともに認識できないような、ガラスの壁を模して作った結界だ。魔導師の家門であるアリンジューム家以外で、そんな芸当ができるのは世界を探しても一人しかいない。


 だが、それはひとまず置いといて、やっと目に映った別荘には安堵した。


 体力の有り余っている自分はともかく、ジョエルとロイナはまだまだ歩き慣れていない。額にも汗を滲ませていたし、息もあがりつつあったので、ようやく休ませてあげられる、とオフェリアはホッと胸をなでおろす。


「まあ、素敵なログハウスね。大きさもちょうどいいわ」


「部屋は四つあるので、好きに使ってもいいそうですよ」


 預かっていた鍵で扉を開け、ジョエルたちを中に案内する。オフェリアは自分の仕事が出来るようにと一階の部屋を選び、二人は二階へ荷物を置く。


「どうです、このフルオープン窓。庭にあるテーブルで朝食も摂れますよ。人の敷地で入れないからって狼とか熊が出るなんて言う人もいますけど、このあたりは絶対に出ませんので、安心して敷地内を歩いて下さいね」


 さっそくコーヒーを淹れて三人でゆったり過ごす。大自然に囲まれた穏やかな時間。メイドたちの忙しさ溢れる喧騒とは遠く離れ、山と積まれた書類とも数日のお別れ。嬉しそうな二人を見つめながら、オフェリアも連れてきて良かったと心底に思った。


「そうだ、オフェリア。君が招待状を渡す相手って?」


「ああ、そんな仕事ありましたねえ。多分、もう気付いた(・・・・・・)と思いますよ」


 その言葉通り、いつの間にかオフェリアの隣の椅子に見知らぬ男が座っていた。腰まで伸びた灰青色の髪に、薄青の瞳。穏やかさの感じられる慎ましい顔立ちで、さもそこにいることが当然のように振舞った。


「うわっ、だ、誰だ、この人は!?」


 ジョエルが声をあげて驚くのも無理はない。隣ではロイナも口を手で押さえて、言葉にならないほどぎょっとしている。男は答える気配がなく、代わりにオフェリアが彼を手で差しながら答えた。


「こちらセレスタン・テルミドール卿です。この森に暮らしている大賢者様だそうですよ。魔導師の家門にいる方ではないのですが、魔法が使えるんです」


 セレスタンと呼ばれた男は無表情で横目にオフェリアを見た。


「……なんで他人行儀なんだ?」


 小さな声で尋ねて足を踏まれたが、彼はまったく動じない。何か理由があるのだろうと、ひとまずは合わせることにした。


「失礼、自己紹介が遅れた。セレスタン・テルミドールだ。この別荘や周辺の敷地を預かっていて、普段はあまり人目に触れないようにしているので、魔法を解くのが遅れてしまった。すっかり見えているものだと思っていたから」


 深く頭を下げるセレスタンに、ロイナが首を横に振って──。


「お気になさらず、大賢者様。私たちも事前連絡もなしに訪ねてしまったものですから、さぞや驚かれたことでしょう。こちらこそ申し訳ありません」


 出会い方はともかく、互いに納得もできたところで、セレスタンが手を叩く。


「そうだ、客人をもてなすのにちょうどよい。近くで野菜を育てているから、こちらのレディに手伝ってもらうとしよう。構わないか?」


 目配せにオフェリアが応じる。二人だけで話す時間が欲しかった。


「もちろんでございますう~。そういう仕事は好きなので」

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