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大英雄はメイド様  作者: 智慧砂猫
第一部

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第9話「罪の重さ」

 はっきりと。淡々と。冷酷に。ただそう振舞っただけでなく、心底からそう思っているのが伝わってくる。だが、彼とは真逆にロイナは心温かい人間だ。ガレトの心無い言葉に、はっきり意志を宿した強い眼差しで返す。


「当然、問題しかないわ。別館にいるのが、たとえあなたの娘であろうとなかろうと、事実であればこれはれっきとした犯罪行為よ。私のことなんか別にどうでもいいけれど……、誰かも知らない子が軟禁されているのは見過ごせない」


 そんな彼女の言葉に、眉ひとつ動かない。


「だからなんだ。世間に公表しろとでも? この女の言うように、みずから罪を露見させて反省の意思を見せるのが社会的に正しいのだとしても、私には関係ない。それに、罪の露見は家内や親戚までも連帯責任を負うのは知っているよな?」


 罪を犯した人間の罰は最も重く、婚姻関係にある者および家系に属する者たちは連帯責任として、多額の罰金を支払うか、領土などの没収もあり得る。


 ロイナはもともと小さな、とても小さな領地しか持たない男爵家の人間だ。それほど裕福でもないのに、自分たちが苦労しても娘には苦労をかけまいと優しく大切に育ててくれた両親のために、その見目麗しさもあって、ガレトは自分にふさわしい外見だと妻に迎え、彼女も家族が助かるのならと結婚を受け入れた。


 もし多額の罰金を払うことになれば。なけなしの領地を奪われてしまえば。吹けば飛ぶような男爵家の未来など分かり切っている。これ以上の口を挟むなという脅しに、彼女は唇をかんで悔しさを堪えるしかなかった。


「……それなら問題ないと思いますけどねえ」


 いつもの調子を取り戻したオフェリアがニヤッとする。


「ハッ。つまりお前は、私の罪を公表して無関係の人間も──」


「いえいえ。告発者が身内であった場合は話が違いますから」


 自信たっぷりにそう言われて、ガレトも表情に陰りが見え始める。


「事態に気付いて隠蔽したなら問題です。しかし、彼女は今、はっきり『見過ごせない』と仰いました。それは彼女に告発の意思があったと見做します。なにしろまあ、私って自慢するほどじゃないんですが、ちょっぴり凄い人間でしてえ」


 自分の硬貨をつまんで見せびらかしながら。


「彼女の身柄はこちらで預かり、改めて〝王室騎士団〟の方々との協議を行わせて頂きます。もちろん、ジョエル・ミリガンについても」


 伯爵家など取るに足らない存在。オフェリアが正しく権利を行使すれば、悪辣なガレト・ミリガンの考えも瞬く間に霧散する。ジョエルを救い出すには、最も適した手段だ。本人としては好ましくないとしても。


 場合によってはガレトの首が飛んでしまうのだから。


「奥様、行きましょう。もはや彼にはなんの力もありませんから」


 もう彼は椅子からじっと動かない。天井を仰ぎ見て、ため息をついた。


「……いつか、こんな日が来るのは分かっていた。だが、まさかお前のような人間に目を付けられることになるとは思ってもみなかった」


 部屋を出ていこうとロイナの背を押して歩くオフェリアは、最後に彼の意気消沈した姿を振り返って──。


「それがあなたの罪の重さかもしれませんよ」


 他人の苦労と不幸で積み上げられた足場は、やがて容易く崩れていく。ガレトには清算の時が来たに過ぎない。哀れむ理由もなかったが、きっとこれが彼を見る最後になるだろう、とオフェリアは強く思った。


「ささ、奥様。まずは別館でジョエルにお会いしましょう」


「あ……うん、でも私を受け入れてもらえるかしら」


 庭を歩きながら、ふとロイナが足を止めてしまった。


「そのジョエルっていう子は、あの人(ガレト)と親子でも、私とは何の繋がりもないわ。会うだけ迷惑に思うんじゃないかって、すごく不安なの」


 後妻であるロイナはジョエルの事を知らないし、自分が誰なのかを知ったら、きっと軽蔑するのではないだろうか。そんな子に会いに行って、傷つけてしまわないだろうか。考えればきりがなかった。


 だが、オフェリアは首を横に振って微笑んだ。


「そんな子じゃありませんよ、奥様。とぉ~っても優しい子なんです!」


 強い信頼。まだ短いなれども、傍にい続けた彼女だからこそ言える。ジョエルはどんなときでも、誰を憎んだりしない、どこまでも心優しい娘だと。


「こっちですよお。別館の二階、隅の部屋にいつもいらっしゃるんです。他の部屋も使えるように掃除したんですが、どうにも落ち着かないそうで」


「緊張で、ど、どきどきしてきたわ……!」


 ぷっ、と小さく噴きながら背中を優しく撫でる。


「大丈夫ですってばあ。お嬢様は本当に陽だまりみたいな人で──」


「人を褒めるのが上手いな、君は。誰を連れて来たんだ?」


 部屋の扉が先に開いて、葡萄色の瞳がオフェリアとロイナを映した。部屋でゆっくりしていたところ、窓の外に二人の姿を見掛けたので待っていたのだ。


「あちゃあ……驚かせたかったんですけどねえ。あの、こちらロイナさん、アルメリア伯爵夫人です。まあ、今のところはですけど」


「知ってる。たまに窓から見ていたよ、優しそうな人だ」


 まだ肉付きの良くない細長い枝のような指を並べて、手を差し出す。


「ジョエルです。──初めまして、お母様」

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