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映画と恋と青春と。砂上の恋愛

「ねえ、他の見ようよ」アキが画面から目を話して言った。「いいじゃん、これで」「やだ、つまんない」

自分で選んだ映画をつまらないと言われるのは面白いものではない。

「じゃあ自分で新しいの選んでよ。」「やだ。瀧盧が選んで。」

僕は自分のお気に入り映画をけなされて怒らないほど暇じゃない。いくら僕がスクールカーストの底辺でもこれくらいは許されるだろう。

「じゃあ我慢しな」

ほっぺたをぷくっと膨らませたアキが別途から立ってDVDラックに新しいのを取りに行く。

選ばれたのは、ジェームズ・キャメロンの”タイタニック”だった。随分と古風なところに来る。

時々思う。この関係は何で、アキはなんのためにここにいるのかと。なんで席は最前列窓側、映画部、メガネ、彼女いない歴=年齢の陰キャ代表の僕の部屋に、最後列、彼女持ち、バスケ部、金髪の陽キャ代表、

高坂アキがいるのかと。

「ねえ」アキがいきなり喋った。「なに?」「この映画、面白い?」。

いきなりどうしたっていうんだ。面白そうだと思ったから選んだんじゃないのか。

「面白いんじゃないかな。父さんのだからあんまりちゃんと見たことないけど。」

「ふーん」僕らの間ではとても珍しい”会話”という行為は、そこで終わった。


「ねえ、耳、舐めてよ。」

なにか性的な欲求があっていったわけじゃない。僕が、男性を愛せる男性、いわゆるゲイであることとなにか関係があるかもしれないが、自覚はない。もしかしたらこれを拒絶されて、このよくわからない関係が終わることを望んでいたのかもしれない。でもアキの返答は予想とは違った。


「いいよ」なんのためらいもなく、アキの顔が僕の側頭部に近づいてくる。温かい息が耳にかかり、体が震える。

「ほんとにいいの?」僕の勘違いじゃなければ、少し嬉しそうな声にうなずくと、温かい、ヌメッとしたものが耳たぶに当たり、何かドロっとしたものが耳の穴に入ってきた。背筋がゾワッとして、腹のあたりがムズムズする。手がピクピクと動いて、声にならない変な声が漏れた。アキは僕の背中に右手を、足に左手を回し、耳たぶを甘噛した。「もういい、やめて。」僕が終了を告げると、頬にキスをして元の位置に戻る。

「キスしろとは言ってない。」「え?そう?してほしそうな顔してたけど」図星でもなんでもないのに、表情が固まる。「と、とにかく、今日はもう帰って。」「もう来ちゃだめってこと?」上目遣いでアキが聞く。

「そういうことじゃないけど、とにかく帰って。」アキを急かして、ブレザーを着せ、カバンを持たせる。

玄関まで二人でいって外に出る。アキが振り返って「ほんとに帰らないとだめ?」とほざく。

「ふざけなくていいから。ばいばい」僕が手を振って家に戻ろうとすると、「明日も来てあげる」とアキ。

ムカついたけれど、なにか言い返す気も起きず、黙ってドアを閉めた。


翌日、恐る恐る学校に行った。アキが家に来るようになってから二ヶ月は経っている。けれど、機能のことを考えたらなにか変わっていると考えるべきだ。何か言いふらされているかもしれない。下駄箱になにか入っているかもしれない。机に落書きでもされているかもしれない。椅子には画鋲があるかもしれない。ロッカーは牛乳でビシャビシャかもしれない。一応自分から頼んだ後ろめたさもあり、そんな想像ばかり頭に浮かんだ。

校門を通り、昇降口を過ぎ、下駄箱を開ける。何も入っていない。階段を2つ上がり、二年生の教室へ入る。

机には、何も置かれていない。椅子には、なにもない。もしやと思ってロッカーを開けると、これも何もなかった。唯一変わったことといえば、アキが朝、僕に一度だけ笑いかけたことのみ。家では、僕の部屋ではあんな事があったというのに、学校は、教室は何も変わらなかった。


 家に帰ってカバンを置いて、ブレザーを脱いだタイミングでインターホンが鳴った。

「やっほー。」「・・やっほー。」「テンション低くない?」「そっちこそ高くない?」「えー?普段からこんな感じだよ?」「ウソつけ。」いや、たしかにテンションはいつもどおりだ。僕が不快に思ったのは、秋のテンションの高さそのものにじゃなくて、あんなことをしておきながらそれを変えないことだ。やらせたのは僕だけれど。

「んで、今日は何見るの?」「いつもどおり好きなの選びなよ。あるかわかんないけど」「いや、たまには自分以外のセンスも知りたい。なんか選んでよ」「やだ、めんどくさい。」「え〜〜〜」

目をうるませたアキを見るのは少し心が痛むけれど、別にいだろう。確かに呼んだのは僕だけれど、面倒なものは面倒なのだ。

「じゃ、これ。」「ん。」いつもどおり、デッキにDVDをセットする。いつもどおりアキが持ってきたジュースと菓子を出し、二人でソファーに座る。いつもどおり映画が始まり、いつもどおり何も言わずに鑑賞する。

いつもと違うのは、僕の心拍数だけだった。


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