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第9話 アタシもさ、人並みくらいには遠慮ってのが出来るわけよ ③







 ――そこからのアタシはもう必死。


 孤軍奮闘、獅子奮迅の働きをみんなに見て欲しいくらいだったわ。


 御屋敷の前での心まで凍りつく氷点下のような一悶着。

 悶着にすらなっていない、終始、相手側のワンサイドゲームだったけど、それでも誰が見ても褒めて貰えるくらいには頑張った。

 だって、メッチャ怖かったんだもん。

 知らない場所で、知らないヒトに声かけられてさ。普段なら、どうせナンパでしょってなノリでテキトーにあしらって、それでもしつこいようなら罵声のひとつやふたつ繰り出すとこだけど。

 まず、あの圧よね。睨みつけられたり威嚇されたわけではないんだけど、タダそこに居るだけで雰囲気が重い。

 せめて相手がヒステリックに来てもらえたなら、流石に“危ない”って身体も動いてさ。走って逃げたりしたんだろうけど、美人な上に、あの切れ長の目。アタシの胸の内を見透かされているようで、心当たりなんてなくても、ゴメンナサイ。ゆるしてください、って動けないのよね。その場で叫んじゃいそうになった。

 それに、塀に上ろうとか、ムリヤリ門扉を開けようなんてことはしてないけど、でも、思わせぶりにウロウロしてんだもんね。怪しいのは否定できなくて。


 ……よくよく考えたら、確かに変なことしちゃってんじゃんアタシ、ヤバ。って妙に冷静になってさ。


 アタシは何も言えやしないわよ。さっきも言われたとおりダンマリしかない。


 我ながら埒があかないことをしていると思った。

 黙ってたって何か変わるわけでもないのに、だけど、どうにも謝って許して貰えそうな雰囲気でもないし、この状況を打破できる術がないのだからしかたないもん。


『最近、この辺も物騒になってね。つい先日も、その家の前で変な男がウロついていて声をかけたばかりなんだ』


 まぁ、その方はただの酔っ払いだったわけだが。と、彼女は溜息をついた。


『その時は、ガー君……失礼。その家の住人に“危ないだろ。何かあったらどうするんだ”と、こっぴどく叱られてね』


 僅かに見せたギャップというか、むぅ。とフテ腐れた態度を可愛いと感じたが、同時に、このヒト酔っ払いにも絡んでいけるのかとビビった。マジか。生き物として強すぎる。


『キミみたいな少女が、まさか飲酒はしていないだろうけど。それでも幼馴染みの家なんだ。先だっての件もあるし、心配して当然だろう?』


 いやいや、あのですね。キミもそう思うだろ。的な目でこっちを見られても困ります。それに、――


『え?』


 我ながら、マヌケな声が出た。でも、


『おや。キミの名前、違ったかな?』


 アタシの思考を遮るように――言葉の終わりに、さらりと名前を呼ばれたのだ。


 ……えぇ、なんでぇ。


 名字にクンをつけた仰々しい形ではあったけど、彼女は、さも当然と言わんばかりの表情で飄々と。アタシの事、なんでか知ってるわけよ。


 どうして知ってるんですか? だったかな。ようやく出た言葉はその程度のもの。


『知ってるもなにも、同じ学校に通う生徒なんだ。それに、キミほど見目麗しければ、イヤでも目立つというものさ』


 とか言って、不敵にニヤリ。


 え、同じ学校の生徒なの!? 声には出さないけど、今日何度目かな。もうビックリの波状攻撃。

 いました? こんな美人さん、いましたっけ? これだけ可愛いなら女子の間で話題にならないわけないのに。

 そりゃアタシの学校に可愛い子が一人も居ないわけじゃないわよ。

 有名どころで言えば、一学年上の生徒会の書記だっけ? そういうのやってる先輩がすんごい可愛いらしい。

 らしいって曖昧さがどうなんって話なんだけど、アタシはさ、生徒会だとか集会だとか、そういうお堅い行事はだいたいグッスリスヤスヤだからさ、廊下やなんかで遠目からなら見たことあるなぁって程度なのよね。

 でも、その時見た感じはさ、大っきめな黒縁眼鏡と、低い位置での優等生な二つ結び。よくよく近くで見れば可愛いのかもしれないけれど、全体的にモッサリとしてたイメージが強かった。

 どっかで、同じ生徒会のイケメンとカレカノって話は聞いたことあったから、まぁ、それならやっぱり可愛いんだろうなぁってくらいの認識でさ。

 だからこそ、あの上級生よりも今、こうやって目の前に居るヒトのほうが圧倒的に美人なわけで、なぜあのヒトが有名で、このヒトが無名なのかが本気で意味不明なわけよ。

 共通点は長い黒髪ってとこだけじゃん。

 それで美人って言ってもらえるのなら、とっくに日本中の女子は黒のストレートばっかりになってるんですけど。


『憶えておいた方が何かと便利だからね。こういう知識はなにかと役に立つ』


 驚き固まり立ち尽くすアタシの顔で色々と察してくれたのだろう。

 実際には、全然関係ない女子に想いをはせる現実逃避の長期旅行中だったわけだけど、ウソではないと証明するためか、彼女は高校名と学年。更にはこちらの名前までフルネームで答えてきた。


 ……ひえぇ。


 その瞬間に、あぁダメだ。アタシはまだ見ぬ美少女の存在と、自分に逃げ場のないことを悟った。

 個々のパーソナルな情報を、全て知っているかのような凄みをもつ彼女だ。この様子だと、こっちの家まで知っていてもおかしくない。もしもそうなら逃げても無駄。相手が、ちょっと本気を出せば一瞬で詰み。


 暗い部屋で、磨りガラス越しの家族面会が脳裏をよぎったわ。


 もうね、頭の中は真っ白なのよ。こんなことで警察のお世話になったりなんて、あるわけないのにね。

 でもさ、今思えば確かに大袈裟でしかないけれど、その時は、目の前の彼女から出る見えない力に気圧されていて思考が止まるというか定まらないというか。

 ホント、恥ずかしいけどビビりっぱなしでさ。

 こんなアタシなんだから、今ならきっと、爪切りなんかを持っていただけで銃刀法違反などのあれやこれやで捕まるだろう。そう考えてしまうくらい混乱していた。

 それでもさ、どうにかしようとしたの。一か八かって、隙を突いて逃げようともしたの。


 必死も必死。チョー必死。


 確かに家を知られているのなら、逃げ帰ったところで無駄な努力。それはわかっている。なんて、逃げ場がないと散々狼狽えておきながら、かたや逃げようと考えるとか、前後の文がとっ散らかりまくってさ、どんだけそん時のアタシがテンパってたのかって話よね。

 でもさ。

 そうは言っても、そのままそこに居てもどーにもなんないわけでしょ? なんか相手はずっと不機嫌だし。それならどうにか許して貰えるように言い訳なりなんなり行動して、ワンチャン脱走に成功してさ、彼女がアタシの住所を知らなければ今日のところはそのまま逃げ切れるわけだし。


 あぁもう、わかってるわよ。問題を先延ばしてるだけって事は百も承知。

 じゃぁ、文句があるヤツの誰でも良いからアタシと代わってよ。この場をどう切り抜けるのか、お手本見せてよ。

 ね。どうにも出来ないでしょ? できっこないじゃん。出来ないんなら黙ってろってのコンチクショー。


 とにもかくにも、言い訳。もとい、ホントのことを誠実に伝える事に全力を尽くしたわ。

 そうよ。それこそ一晩では語り尽くせないほどの――


「――それで、なにがどうなったらウチで朝メシ食べる流れになるんですか?」


「……アタシだって、わかんないわよ」


 日当たりの良い、窓際の席。


 初めてお邪魔する他所様のリビングで、こないだまでただのクラスメイトだった、今は秘密を共有する男子が、いろいろと言いたいことがあるぞと不満顔でこちらを見ていた。

 ちょっと待って。何よその顔は。

 だいたいアンタが真面目に教えてくれていればこんなことにならなかったんでしょ。

 今日はすっごい良いスタートを切れたのに、蓋を開ければ不審者扱い。ダメ押しで震え上がるほど怖い目に遭うし。

 全然悪いことしてないのに、……というとウソになっちゃうけど、でも、なんにも知らないくせに、理解したような顔しちゃってさ。

 なにそれ。これじゃアタシばっかり悪者みたいじゃん。

 なんだかバカにされているような気がしてきた。

 なんかだんだん腹も立ってきた。

 いや、もともとキモオタは不思議な生き物だから、これはがっつりケンカを売ってきているのかもしれない。

 とりあえず、紅茶のおかわりどうですか? って呆れ顔のままで聞いてくるもんだから、ありがとう。お礼くらいは言っておくわ。

 ついでに小声で、うんと甘くしてって伝えた。


 やれやれと言わんばかりなアイツの小憎たらしい背中を、目で追う。


 その途中で、対面型のキッチンにはキモオタのママが居て、離れたソファーには、いつの間にか髪の毛をお団子に結い上げた彼女が。どちらもアタシに満面の笑みを向けてくる。

 どうやらあの美人さん。ご機嫌が麗しい辺りにまで上昇してれたみたいだけど、……いやー、良くないわ。

 あれはイヤな種類の含み笑いなんだもん。ああいう顔している時の女子は迷惑な勘違いをしていることが多い。


 目を逸らすように、目の前の卵サンドをかじる。


 うまぁ。どこを食べてもその都度ほっぺが落ちそうになる。

 手作り感満載のまさに家庭の味ってヤツなんだけど、それだけで済ませるにはクオリティが高すぎる。手際よくこんなスゴいの作れるママさんはかなりの料理上手なのだろう。


 でも、すんごい美味しいのも、なんか困るというのがアタシの本音。


 居心地が悪いというか、こんなにもおもてなしをしてもらってバツが悪いというかなんというか。

 ホントはさ、一秒でも速く逃げ帰りたい。それに、知らない家で、出されたモノを抵抗なく食べるのが良くないことだってのも知っている。

 だから、出された卵サンドもはじめは遠慮したの。困るじゃん。ヨソで御馳走になったとか、ウチの親からなんて言われるか分かったもんじゃないし。

 でもさ、


『す、すぐ帰りますんで、申し訳ないです』


『……え』


 アタシはさ、きわめて常識的な対応をしたはずなのに、……ちょっとヤメテ、なんて顔すんの。


 彼女のママがすんごい泣きそうな悲しい顔するのよ。その捨てられた子犬みたいな表情に、自分の胸があまりの激痛に悲鳴を上げたわけ。さらにその上、


『おや? 我が家に用事があるというのは、ウソだったのかな?』


 ホントにその雰囲気が怖いんだから、むやみやたらにピリッとしないでよ。


 ママさんのションボリ顔に反応したのだろう。彼女がまた、圧を増したのだから恐ろしすぎる。

 もしウソだったら、アタシをどうかするつもりなの? 聞きたくないし、知りたくもない。


『……メッソウモゴザイマセン』


 彼女を振り切って逃げ切れる、そんなイメージがまったくわかないんだもん。意味わかんないことだらけだし、謝るしかないじゃない。


 そう。アイツにも言ったように、今のこの状況がアタシもまったく何がなんだかわかっていない。


 あの時、焦り散らかしたアタシは、ただただ必死でホントのことを話しただけ。


“クラスメイトの家を探しています”


“はじめてお邪魔するので場所がわからないんです”


 それでもまだ、疑ってますって彼女の顔にありありと書いてあったから、あぁもう。どうしたら信じてくれんのよ。

 個人情報だけど、後でアイツには謝るわ。ゴメンゴメン。でも許してよ。

 頭の中でジコチューな言い訳を並べ、ええいと半ばヤケクソ気味にアタシがキモオタの名前を出した。


 ――それがどう転がったのか、


『……は?』


 ちょっとだけ。ほんの少しだけ驚いたような声が聞こえ、『へぇ、そう、ふーん』


『そのクラスメイトの名前には心当たりがありすぎるな』


 おもしろい。って呟くと、さっきまでの圧はドコに忘れてきたのか。彼女がにっこりと微笑んだの。

 こんな状況なのにね、その笑顔に“ヤッバ、バチクソに可愛い”と、もうこれでもかと感情が大混乱したのはナイショ。

 後は、あれよあれよと気がついたらこのざまよ。


『なるほど。動きやすい格好をしているのは、アイツめ、今日のために助っ人を呼んだというわけか』


 とか、


『なかなかキミも見る目があるな。ああみえてアイツは気の良いヤツだ。口が悪くて性格も悪い。人付き合いも悪いし、成績も悪い。だが、人間的には悪いヤツではない。それに、頭はアレだが勘は悪いほうではない。現に、女子の居た方が今日の大仕事をスムーズにこなせると考えたのだろう。悪い考えではない』


 私にだって異性には頼めないモノや場所がないわけではないからな。なんて、キモオタの事を散々ボロクソに言いながらも饒舌で、終始嬉しそうなの。

 もしかして、アイツと知り合いなのかとは思ったが、


『まぁ、そんなくだらない質問は後でいいじゃないか』


 なぜか、彼女の家にお呼ばれしてさ。


 アタシの頭の上では、でっかいハテナマークが増えっぱなし。

 なにがどうしてこうなるのか。たぶん、どんなに成績が良くてもこればっかりはわからないと思う。

 ようこそ。って、彼女は言うけれど、いやいや。ないわ。

 だって理由がないじゃない。なにがどうしたらこんな朝っぱらから知らないヒトの家にお呼ばれする流れが生まれんの。


 もちろん、アタシは断ったわよ。全力で遠慮した。


 でも、彼女には有無を言わせない迫力があって。

 あれよあれよと、力尽く。良いではないか良いではないかと、時代がかった悪代官のような台詞を吐きながら、強引とはまさにこれだと言わんばかりだった。

 更には、リビングからひょっこり顔を出した女性――彼女に近しいモノを感じたからまず間違いなくこの家のママだろう。ハッキリ言って、このママさんの優しそうな雰囲気をもう少しだけでも彼女に分けてはやれなかったのだろうか。そうすれば、今のこの悲劇も多少は緩和できたのではないかな。たぶん。


『――えっ! ウソっ!?』


『ホントだって。アイツが家に呼んだみたいでさ』


『やだ~。それならそうとあの子も言ってくれないと、母親として準備があるのに』


『ちょっと私、アイツ起こしてくるね』


『え~、も~、どうしよ~。お母さん困っちゃうわ~』


 彼女は自分のママにアタシをどう紹介したのだろうか。

 こっちをほったらかしで、ふたりでヒソヒソと内緒話をはじめたと思ったら、いきなり玄関先で『はじめまして』

 突然の正座から、行儀良く頭まで下げられるとはどうしたことなの。


『ウチの子がお世話になっております』


 いや、待って。マジでどういうことなの。わけわかんない。


 お名前から家族構成。更にはご丁寧な御挨拶までもらっちゃって。

 トドメに、ついさっき彼女がリズミカルに上っていった二階から、


“オラァ! いつまで寝てんだ! 何様のつもりだゴラァ!!”


“もっと優しく起こしてくれても良いだろ!”


 ドタバタとした物音と彼女の罵声。それに、なにやら聞き覚えのある、彼女とはまた別の声。

 さっきはあえて出さなかったのだろう。あの美女から出たとは思えないドスの効いた声に、


 ……ひぇ~っ。こわぁ。


 やっぱりヤバいヒトじゃん。本性見たりとはこの事かってね。


『騒がしくて、ゴメンナサイね』


 いえぇ、大丈夫ですぅ……。


 一見、彼女と同じようなキャリアウーマンなママだったからそのおっとりとした口調と物腰の柔らかさに、……もう疲れちゃったのよ。やめたの、考えることをスッパリと。


 しかも、なぜか二階からはアイツが降りてくるわけじゃん?

 彼女とキモオタが姉弟?

 しかも、このママさんとも親子? 


 あのね。ムリよムリ。


 ギャップの高低差と、キャラの濃さ。朝から続く、このよくわからないまでの怒濤の展開に、アタシの頭はもういっぱいいっぱいでギブアップ。

 流されちゃったのよね。トイレのように勢いよく。


 だから、紅茶を持って戻ってきたアイツに、アタシは言ってやったわ。アンタが二階から降りてきたあの時、なぜだか助かったと涙が出そうになったの。それくらい妙な安心感を得たの。でもね、


「たぶん、そっちもそっちで聞きたいことや言いたいことが盛りだくさんだろうけどさ、」


 こっちだって、言いたいことなんて山盛りよ。だけど、今だけはお願い。黙ってアタシの言うことを聞いて。いや、むしろ聞け、マジで。

 どうか伝われこの思い。

 小声で、できるかぎり周りには聞こえないよう細心の注意を払って、


「……はやく、アンタの部屋にいこう」


 ちょっとの静寂があった。


 でも、それもほんの少しの時間。戸惑ったキモオタの声と、イヤですと言わんばかりの困りきったその顔が、アタシを盛大にお出迎えしてくれた。


 ……なによ、その顔は。いよいよカチンときた。この溜まったストレスのままに、しこたまひっぱたいてやろうか。


 キャーなんて、いつの間にかソファーに並ぶ女性陣がこちらを見ながら大盛り上がり。


「さっそく二人きりよ。あの子いいわぁ。そうよね。若さって振り向かないことだし、愛って躊躇わないことなのよね」


「大胆だ。私にはアレはムリだ、出来そうにない」


「大丈夫。きっとガー君は断らないわ。ちぃなら出来る。お母さんは信じてるから」


「べ、べつにぃ、ガー君がどうとは言ってないんですけどぉ?」


 ……アタシは知っている。

 あの手の女子(ママさんも含む)が、ああいう状態になったらもはや止める手立てはない。気の済むまで、自分の妄想を語り尽くすまで止まることはないってね。

 こういうときは、即撤退がベスト。知った相手なら口で言い負かそうと躍起になるところだけど、今回は敵が強すぎる。

 ドン=キホーテになるつもりはサラサラないもん。一分一秒でも速く、この場を離れるよりほか手立てはない。

 アタシはムリヤリ残っていた卵サンドを口に押し込み、紅茶を流しこん――


「ぅ熱っっ!!」


 何よこれ!

 そういえば、さっき淹れたてだったのを思い出し、いよいよ自分のマヌケさに泣きそうになりながらも、


「なにやってんですか!」


 アイツが慌てて持ってきた氷を口に投げ込んだ。

 あまりの熱さにヒーヒー悶えるアタシとは別に、ヒューヒュー、文字通りお熱いわぁ。と、時代錯誤でバブリーな外野がうるさくて、恥ずかしくて、もうどうにかなりそうだったけど、無視よ無視。

 ちょっと強引かもだけど、アタシはアイツの手を掴んだ。

 キモオタの身体が小さく跳ね、見るからに顔面が引きつっていたけど、知ったことじゃぁないわよ。


「せめて、部屋を片付ける時間を下さい」


「そんな散らかってんの?」


 男部屋の散らかったイメージは惨憺たるもんだからね。テレビなんかで見る、下水道然とした汚部屋ならよろしくないもん。メンド―だけど、聞くだけは聞いておくべきか。

 ちょっとだけ足を止め、カラコロと口の中で氷を転がす。


「いや、散らかっているというかなんというか……」


 その歯切れの悪い物言いに、あぁメンドくさいわねっ!! 時間のムダよム~ダっ! こっちは一刻も早くこの場を去りたいというのに、なんでわかってくれないのか。


「別にいいって! ほら早く!」


 何かキモオタが言っていたが、だからそういうのはあとで聞いてやるわよ。何度も言わせんな。今だけはお願いだから、アタシの言うこと聞けっての。


 アイツの手を引いて、のしのし歩くアタシの姿がどう映ったのだろう。


「お~。かかあ天下か、参考になる」


「ちぃは彼の前ではハムスターだもんねぇ」


「な! あぁ見えて、ガー君はけっこう頑固で、」


「あれぇ、お母さん、別にガー君がどうとか言ってないけどなぁ?」


 ソファーでふたり、主に、彼女が喚きはじめたから、今がチャンスね。

 アタシは、これ以上はゴメンだと、大急ぎで階段に足をかけた。








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