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第8話 …知らなかったのか…? 彼女からは逃げられない…!!! ③







 この様子だと、やはり、両者の間でなんらかの揉め事が勃発していたようだな。


 でも、“あちゃー” じゃないよ “あちゃー” じゃ。巻き込まれた方としては、朝から面倒な目にあったのだから、少しはイヤミったらしく口が滑りもする。


 ……特に昨日は、色々あったからさ。


 お金やらマンガやら、可愛い陽キャやら。七面倒くさいあれこれが、そっくりそのままどうか夢であれ。そう願いながらも朝を迎えれば、そこはやっぱりどうにも現実で。

 それならせめて、これ以上のストレスは回避したい。大体のヒトは同意見のはずだ。

 でも、――重ね重ね勘弁しておくれ。


『どけ愚弟、……殺すぞ』


 今日は寝起きの一発目からこれだったもんな。

 ホントなら、朝はのんびりとしたい僕だけど、どっかのチンピラばりに背後から肩をぶつけてきやがって、何か言おうとしたら、もうね、睨んできた目が人殺しのそれ。

 無駄に切れ長の両眼が、実の弟に向けるものではなかった。


『朝っぱらからなんだよ。怖ぇーな』


『いいからつべこべ言わずパンを焼け。ぼさっとするな、ヨーグルトと牛乳も持ってこい』


 続けた言葉が、なんとワガママなことか。

 まぁ、今更その程度の事で気圧される僕ではないからね、同時に、これはもしやと“ピン”ともきた。


『ったく、暴君が。そんなんだといよいよ嫌われるぞ。……誰にとは言わないけど』


 言わなくてもわかるだろうけど。とまでは言葉にしなかったけどさ。


『っ!!』


 その含むような僕の一言に、一瞬だけ、こっちを睨みはしたんだけど、


『クソっ! どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも……みんな死ね! ばーかばーか!』


 ……的確に、かつ猛烈に痛いところを突かれたもんだから、反論のひとつも出来ない結果、


『あ、おい。トイレに籠もるな、うっとうしい。――ったく、パンは何枚焼くんだ?』


 こうなると長いんだ。いい年齢してしっかりと拗ねるんだから呆れてしまう。


『2枚だよっ! 焼けたらジャムをたっぷりと塗れ!』


『ったく、そんなとこから叫ぶなよ。恥ずかしいヤツだなもう』


 とまぁ、朝からこんな感じだったんだ。

 この一悶着の際に“嫌われるぞ”の辺りで、勝ち気な顔が一転して泣きそうなまでに曇ったもんだから、……ここまでコイツが荒れるのは、彼と何かあった時くらい。


 ……あぁまたかと。朝の一手目で、僕としても気がついているわけだ。


「――ゴメンな、今回は俺が悪いんだ」


「もういいよ。どうせあのゴリラも悪いんだろうから」


 いったいどれほどの時間を、玄関先で待ちぼうけていたのだろう。


 ココじゃ寒いからと招き入れたリビングで、彼は心底申し訳なさそうに謝ってきたが、いちいち事の顛末を聞いたりはしない。どうせろくでもない事に決まっているからね、知ったところでなんだそりゃ、くだらねぇと疲れるだけだ。


 それよりもまず、どうにかせねばならない現状が目の前にはあった。


 等間隔に鳴る天井と、止まることの無いスマホの着信。それだけでも鬱陶しいのに、入った先のリビングで、帰ってきて早々なんだこれはと頭を抱えてしまう。

 我が家は共働きだから両親が帰るのはもう少し後。だから、それまでの家事は分担して姉弟と交互にやっているのだが、


「ガー君、見ろ。これがアイツの正体だ」


 ソファや床には脱ぎ散らかされた制服と靴下、テーブルには飲みかけたままのコーヒーカップ。なぜそうなったのか、ゴミ箱の周りに落ちるお菓子の包み。

 大方、家の呼び鈴が鳴って、インターホン越しに見たガー君の姿に何か思うところがあったのか。好き勝手やりちらかしたまま慌てて二階へと籠もったのだろう。

 玄関で、片方裏返ったローファーと先程から続く二階の騒音がしっかりと姉の帰宅を伝えてくれているわけだし、この状況を、まさか他の人のせいになど出来るはずもなく、理由はどうであれ、なんともまぁ恥ずかしいヤツだ。


 まったく。僕としては普段の光景なのだが、第三者が見ればどう思うかね。


「台拭きって、どこにあるかな」


「あ、それならその桃色の――って、いいよ。僕がやるから」


 そういえば、そういう意味ではガー君も見慣れた光景か。手際よくゴミを拾い、机の上を片付けていく姿が中々に堂に入っていた。

 きっと僕の知らないところでも、あのゴリラの後始末、もとい尻拭いをやってくれているのだろう。

 今日だって、どんな経緯かは知らないがガー君は色々と謝りたいからと来ているのに、玄関先で待たせたまま、どっかのバカは知らんぷりだもんな。

 テーブルを拭き上げる彼の背中を見て、スミマセン、うちの姉があんなんで。僕は胸が痛んで仕方ない。

 さすがにこれはどうにかしてやるべきだろう。

 ちょっとだけまだ体温の残る生ぬるい制服を拾い集めながら、


「……ホントに嫌われるからな」


 そう独りごち、僕は、彼に少しだけリビングで待ってもらうようお願いすると、階段下からちょっと大きめの声で、二階へと籠城する誰かさんへとこれ見よがしに言い放った。


“ガー君。そのきったねぇクマさんパンツを洗濯機に入れといてくれない”


 ケンカの仲裁ってのは、賢いヤツが手練手管を弄し双方の落としどころを見つける難解な事柄の一つ。

 そんな賢い真似、逆立ちしたって無理なんだけど、こんなくだらない諍いを続けていればそのうち本当に取り返しの付かないことが起きかねない。

 そうなると、気まずくなったふたりの関係性に引っ張られるように、僕としてもこの自慢の幼馴染みを失いかねないわけで。

 だから、これが僕の出来る精一杯の助け船。


 その僕の言葉のあと。

 リビングから「なんの話?」ガー君が顔を出すのと、そして、あのゴリラの叫び声が上がるのは、ほぼ同時だったと思う。

 文字通り階段を駆け下りてきた姉は、焦り散らかした様子で僕の胸ぐらを掴むと、


「汚くないだろ! それにまだ履いてんのにどう洗濯機に――」


 うげぇっ、今履いてんのかよ。今日一番の悲報だな。


「は、ははは。俺は、可愛いと思うけどな」


 ガー君の気恥ずかしげなその一言に、どっからそんな声が出るのだろうかね、一瞬だけ顔を凍りつかせると、……ようやく今の自分が置かれた状況を思い出したのだろう。

 僕の顔から、ゆっくりとガー君のほうへと視線を動かし、どっかのゴリラは“ぴぃぃ”と息を吸ったのか吐いたのか。

 小さな躊躇い音の後、真っ赤な顔でもう一度、まるで女の子のような悲鳴を上げた。


 その後、慌てふためく女ゴリラは、


「ごめん。ちぃちゃんの気持ち考えてなかった」


 ガー君が頭を下げて謝ったって事もあるが、ケンカの原因もどうせくだらないに決まっている。弟の僕にそれを知られるのがいささか具合悪かったんだろうな、


「お、おい、オマエの部屋を貸せ」


「あ、なんでよ? 自分の部屋があるだろうが」


「私のは、……アレだ、ちょっと今はムリだから」


「まさかもう散らかしたのか? こないだ片付け手伝ったばかりだろ」


 僕の部屋はいろいろと物は多いが掃除をかかしたことはない。愛すべきグッズのためにも部屋の清掃は当然の義務なのだ。

 対してどっかの女ゴリラの部屋はまさに腐海。その汚しっぷりには才能すら感じる時がある。


「おま、ガー君の前で何言ってんだ! とにかく貸せ! 貸せったら貸せ!」


 相も変わらず、論点の狂ったワガママ放題。しかも、


「ちょっとお菓子とジュース買ってこい」


 なぜか、その勢いのままパシらせようとまでするもんだから閉口した。

 なんで僕が行かなきゃならんのだ。それに、何事も先立つものが必要だ。


「金は?」


 出した手のひらは派手に叩かれた。ゴリラパワー恐るべしだな。ビリビリと手が痺れて痛いのなんのである。

 ガー君はお構いなくと言ってくれたから、彼もそう言っているからと反論してみたが、どっかのゴリラにいいから行けと尻まで蹴られ、もう散々だ。これ以上は僕の身体が持ちそうに無い。


「いいか。僕はガー君のためにコンビニまで走るんだからな。どっかの蛮族のためじゃないからな」


 なんともまぁ、我ながら情けない捨て台詞だろうか。

 扉を閉める際、このままおめおめとパシらされるのも癪だと感じ、僕は最後に一言だけ。


「部屋は汚すなよ。……いや、違うか、」


 わざとらしく口元に手を当てて含むように笑ってやった。


「なんならしばらく時間潰してきてやろうか?」


 ガー君は、どういう意味かと首をかしげていたが、どっかのゴリラは発情期なのかね。

 いよいよ真っ赤な顔で、唸り声を上げた。


「40秒で帰ってこい! このバカタレが!」









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[気になる点] >「部屋は汚すなよ。……いや、違うか、」 溢すのはきっとカルピスだよ、いやヨーグルトか
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