第四話 『刻利奈村』
紅愛のいうあいつとはいったい誰なのか…
届いた手紙の内容は?
ペラ [手紙を開く]
『満月紅愛様。お久しぶりでございます。
今頃は私の仕業だということに気づいているところでしょう。
本日はあなた様の誤解を解きたく存じます。
石川五右衛門』
如月 雪夜 (これは…忍びイロハ…
つまり…私宛に書いたということでしょうか…)
満月 紅愛 これは何かしら…
尋 見たことない文字もあります。
碧人 その部分は後で僕たちで解読しましょう。
如月 雪夜 満月様。あいつっというのは石川五右衛門で間違いありませんか?
満月 紅愛 ……あなたをこれ以上巻き込みたくないわ。
このことは秘密にしていただき、本日はお帰りください。
後日またお礼をさせていただきます。
如月 雪夜 ………わかりました。
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夜 笹気川
ところどころは壊れかけ、古ぼけた笹気川の橋の上。
タ、タ、タ、タ [雪夜が笹気川にくる]
如月 雪夜 ……
石川五右衛門 待ってたよ。如月雪夜様。
如月 雪夜 ……やはり…私宛の手紙だったのですね…
石川五右衛門 さあ…それはどうかな?
如月 雪夜 ?
シュ キン
橋の向こうから雪夜に向けて苦無が投げられた。
雪夜はそれを隠し持っていた忍刀ではじかえす。
タ、タ、タ、タ
満月 紅愛 ………
如月 雪夜 満月様…?
満月 紅愛 まさか…あなたが五右衛門の仲間だったなんてね。
如月 雪夜 え?
満月 紅愛 陸からあなたの話を聞いたのに…もしかして、陸のことをたぶらかしたの?
如月 雪夜 満月様!私はーー
満月 紅愛 あなたのこと、調べさせてもらったわ。
如月 雪夜 !
満月 紅愛 あなたーー
石川五右衛門 ちょっと待った。
満月 紅愛 !
気づくと五右衛門は紅愛の後ろにいた。
紅愛は振り向くがそこにはもう五右衛門はいなかった。
満月 紅愛 ?
石川五右衛門 手紙にも書いたはずですよ。俺はあなた様の誤解を解きたいっと。
まず、あなた様のご友人を殺したのは俺ではありません。
満月 紅愛 それがどうかしたの?
石川五右衛門 殺したのは俺の仲間です。そして、そいつは俺が殺しました。
満月 紅愛 それを…信じるとでも?
石川五右衛門 はい。あなたは信じます。
ササ
満月 紅愛 !
[五右衛門はある男の首を差し出す。]
石川五右衛門 見覚えがありますよね?あなた様のご友人を殺した奴の首です。
[五右衛門はその首を紅愛の足元に転がす。]
石川五右衛門 大変だったのですよ?人を殺した奴を昨日まで生かしておくのを。
満月 紅愛 ………
石川五右衛門 あなた様はもう大人でしょう。状況把握ぐらいできる年です。
それはあなた様に差し上げます。
満月 紅愛 ……なぜ、私の誤解を時に来たの。
石川五右衛門 あなた様が俺の調査してるからです。やめてほしいんです。そう言うのを。
満月 紅愛 ………
石川五右衛門 それから、如月雪夜様は俺の仲間じゃありません。
タ、タ、タ、タ [五右衛門が雪夜に近づく]
満月 紅愛 証拠はあるの?
石川五右衛門 ………えぇ。もちろんです。
[五右衛門が雪夜の前から消える。]
如月 雪夜 !
[五右衛門が雪夜の後ろに周り気絶させる。]
満月 紅愛 !そのお方を離しなさい。
石川五右衛門 そのお方?あぁ…やっぱり、
あなた様はこの方を本気で私の仲間だと思っていなかったのですね。
大切な子供達を救ってくれた恩人を…敵だとは思いたくないですから。
満月 紅愛 ………
[五右衛門が姿を消す。]
満月 紅愛 ………
[紅愛がその場で立ち尽くす。]
満月 紅愛 ………蘭[らん]様…私は…どうすればいいのですか…
タタ [尋がくる。]
尋 ねーさん!
満月 紅愛 ! 尋?五右衛門を追うんじゃ…
尋 今、碧人が追ってる。
どうせ、まかれるから戻ってきた!
満月 紅愛 そ、そう…じゃ、今から如月家にーー
尋 本当は、疑ってなかったんでしょ?
ううん。疑えなかった。そうだよね。
満月 紅愛 ………
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翌朝 とある貧民街 とある家
如月 雪夜 …うっ…うん?………!
がばっ [勢いよく起き上がる]
ガサガサ [雪夜は腕を動かすが縄で縛られていた。]
如月 雪夜 なるほど。こういう時のために縄抜けの術があるのですね。
タ、タ、タ、タ [奥の部屋から男の子がやってくる。]
海 あ、…起きた。
如月 雪夜 ?あの。ここはどこですか?
海 ここは…刻利奈村…です。
お初にお目にかかります。お医者様。
僕は…海と申します…
如月 雪夜 海くんですね。 ! 海くん、手に怪我を…
海 これくらい平気です。
如月 雪夜 ですが…
石川五右衛門 海のいうとうりだ。
如月 雪夜 !五右衛門さん。
石川五右衛門 君はもうやるべきことがわかっているんだろ?
如月 雪夜 ………はい。考えはあります。
負傷者は何名ですか?
石川五右衛門 220人
如月 雪夜 道具はありますか?
石川五右衛門 ないよ。
如月 雪夜 では、まず症状を見ます。
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刻利奈街 広場
[雪夜は近くにいた男の人たちの症状を見る。]
如月 雪夜 ………簡単に診察したところ。
同じ症状が見られます。
喉を見ると吐血、腕を見ると青の斑点…
『ランジ』…伝染病の一種です。
ランジ…スラム街などの衛生状態が悪い地域で起こりやすい伝染病。
感染すると吐血や腕に青の斑点が見られる。
如月 雪夜 まずは私が感染者、重症者、軽傷者かを見ます。
それを広場には感染者。
重症者、軽傷者を分けたまま広場から一番遠いところへお願いできますか?
石川五右衛門 分かった。
ーーーーー
広場
如月 雪夜 ランジの特徴は汚れた空気が肺に送られほとんどが腕に集中すること。
感染がひどい人は腕を切らなければなりませんが。
ここの村ではあまり日が経っていません。
感染がひどい人は少ないです。初めてもよろしいでしょうか?
石川五右衛門 よろしく。
如月 雪夜 (《清空術》)
[広場にいる感染者全員を囲む空間を作る。]
石川五右衛門 ………
如月 雪夜 (《昏睡の術》)
[空間にいた人間全員が深い眠りにつく]
如月 雪夜 ランジは腕に集まります。青い斑点が腕にあるのがその証拠です。
正確には腕の血管に集まります。
つまり、腕の血管から感染体を取り除きたいのですが
これはとても地道な作業になり、
ここにいる100人近くを一人ずつ治療するのは時間がかかってしまいます。
ですので、違う方法を取ります。
石川五右衛門 その方法とは?
如月 雪夜 感染体は肺に一度送られ血液中に送られました。
なので、病原体を肺まで送り口から感染体を取り除きます。
石川五右衛門 その方法はどこで教わったんだ?
如月 雪夜 母からです。あらゆる場合を想定して幼い頃から教えられてきました。
母が亡くなってからは自分で考えたり医学書を読んでいましたが…
石川五右衛門 そう…
如月 雪夜 血液は一度その場所を通れば逆流はできません。
ですので血管なるべく近道をし、時間をかけて行います。
石川五右衛門 なるほどね。
如月 雪夜 ふぅ…(《水現流》)
水現流 すいげんりゅう…水を体内に出現させ、
その水と一緒に不用物を排出させる。
一つの体の一点に集中し強い力を発揮する。
[白い霧が感染した人々に広がり一人一人の腕に染み込む。]
如月 雪夜 ………
[染み込んだ白い霧が血管をゆっくり移動する。]
如月 雪夜 ………
石川五右衛門 ………
ーーーー
四半刻後
[感染者の口から白い霧とそれに混じった茶色の気体が出てくる。]
[気体は雪夜が持っていた袋に入り、雪夜は全部入ったことを確認すると袋を縛った。]
如月 雪夜 ……ふぅ…
石川五右衛門 お疲れ様。
如月 雪夜 ありがとうございます。ですが、まだまだこれからです。
石川五右衛門 だけど、少し休憩しよう。
タ、タ、タ、タ [雪夜に近寄る。]
ササ [水を渡す]
如月 雪夜 ありがとうございます。
石川五右衛門 さっきの術。孤児院で使ったものとは違ったね。
如月 雪夜 え?あ…(言っても…いいのかな…)
石川五右衛門 君の術は昔から知ってる。だから、今言ってもそう変わらないよ。
如月 雪夜 (それが嘘だとしても、もう術を何個も見られています…
少しだけなら…)
孤児院での術は一人の体の広範囲の遺物を弱い力で引き出します。
ですが、ここでの術は一人の体の一点に集中して
遺物を強い力で引き出しているんです。
石川五右衛門 遺物によって使い分けてるってこと?
如月 雪夜 はい。
石川五右衛門 なるほどね。
如月 雪夜 ササ ごくごく ふぅ…
ーーーーー
如月 雪夜 (《回療の術》)
[雪夜の術で他の重症者、軽傷者の傷を癒す]
ーーーーー
如月 雪夜 ……ふぅ…(日が高い…もうお昼…)
グギュルル
如月 雪夜 !
石川五右衛門 流石に、お腹は空いちゃうか。
如月 雪夜 カァァァ [顔が赤くなる]
石川五右衛門 もう準備は整ってるよ。
如月 雪夜 ?
ーーーーー
タ、タ、タ、タ
如月 雪夜 !
[そこには、雪夜が治療した人たちが料理を作っていた。]
石川五右衛門 みんな、君にお礼がしたいんだ。
海 お医者様…
如月 雪夜 ?どうしたの?海くん。
海 あ、ありがとう…ございます。…みんなを助けてくれて。
如月 雪夜 …はい。どういたしまして。ニコ
村長 あなた様がお医者様であらせられますか?
如月 雪夜 はい。如月雪夜と申します。
村長 儂はこの村の村長です。村を代表して心から感謝を申し上げます。
あいにく、儂らはお金を持っておりません。
ですので、僭越ながらお食事をご用意させていただきました。
よろしければ受けっとていただけないでしょうか?
如月 雪夜 では、皆さんと一緒に頂いても構いませんか?
最後に皆さんの体調をみて回りたいので。
村長 はい。構いませんよ。
如月 雪夜 ありがとうございます。
ーーーーー
女性 はい。
ササ [雪夜に食事を渡す]
如月 雪夜 ありがとうございます。
女性 こんな粗末なものしかないけど。うまいよ。
如月 雪夜 いただきます。 はむ ! とても美味しいです!
女性 そりゃよかった!どんどん食べな。
如月 雪夜 はい!
男性 お医者様。旦那はいますか?
よろしければ俺とーー
女性 あんたなんかが、お医者様と釣り合うわけがないだろ。
男性 ちぇ…
如月 雪夜 (皆さん。仲がいいのかな?賑やかで…とっても楽しそう…)
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数刻後 戌の刻
如月 雪夜 ………
[屋根の上に座って夜空を見上げている]
タ、タ、タ、タ [五右衛門がやってくる]
石川五右衛門 星は好き?
如月 雪夜 はい!大好きです!星だけではなく。私は、夜空が好きです。
ササ [五右衛門が雪夜の横に腰掛ける]
石川五右衛門 この時期はあまり見えないはずだけど…
如月 雪夜 それでも好きなんです。
石川五右衛門 そう…ここはどう?
如月 雪夜 とっても楽しかったです。皆さん優しくて、お料理もどれも美味しくて。
石川五右衛門 …雪夜。
如月 雪夜 ?
石川五右衛門 俺と一緒に来ないか?
如月 雪夜 ………
石川五右衛門 ………
如月 雪夜 それは…
石川五右衛門 この場所の他にも病気を抱えて困っている人たちがいる。
俺はその場所に傲慢な貴族から宝を盗んで
その人たちに渡すのが仕事だ。
今は俺一人だから盗むのも大変なんでな。
不治の病や金が足りなかったとき君に助けて欲しいんだ。
如月 雪夜 すみません。それはできません。
石川五右衛門 理由を聞いても?
如月 雪夜 私はまだまだ未熟です。
それに、兄様や龍君に心配をかけたくはないんです。
石川五右衛門 …やっぱり、そうだよな。お前はそういうと思ったよ。
如月 雪夜 ?
石川五右衛門 ?
如月 雪夜 あ、いえ。今までは君っと私のことを言っていたので。
石川五右衛門 ……あ。まぁ。そんな深い意味はないよ。
如月 雪夜 そうですか?
石川五右衛門 そうそう。
如月 雪夜 ………五右衛門さんはお優しいですね。
石川五右衛門 ?
如月 雪夜 満月様の誤解を解いたとき嘘をつきました。
石川五右衛門 ……なんのことかな?
如月 雪夜 石川五右衛門は大泥棒です。
金品を盗まれた貴族の方はあなたを調べます。
ですがあなたは満月様に自分のことを調べられると困るから。
っと申しました。多くの貴族の方にもそう言ってきたのですか?
石川五右衛門 ………
如月 雪夜 あなたは、自分に責任を感じています。
あなたの仲間が満月様の友人様を殺したことを。
満月様は忍びとなり同じ忍びであるあなたの情報を集め
自ら復讐を行おうとしていたのでしょう。
ですが、忍びは暗殺術を身につけることもあります。
あなたはそれを望んでいない。
だからあなたは忍びになることを止めたかった。
自分のせいで忍びとなり人殺しになってしまうことを。
石川五右衛門 ………証拠は?
如月 雪夜 ありません。ただの私の考えです。
石川五右衛門 そう。まぁ、一部足りないとすれば、紅愛様のご友人を殺した奴を
俺が殺したのは規則を破ったからってことだな。
その、規則の中に、人を殺してはならないっていうのと、
規則を破れば殺すっていうのだな。
如月 雪夜 …そうだったんですね。
石川五右衛門 ………ま、つまり、君の意見は大体合ってる。さすが忍び。
如月 雪夜 ありがとうございます。
石川五右衛門 ………やっぱり似てる。
如月 雪夜 ?誰にですか?
石川五右衛門 君のお母様に。
如月 雪夜 ! ど、どうして…母様のことをーー
石川五右衛門 はい。待った。
[雪夜は五右衛門に口を指で抑えられる。]
如月 雪夜 ?
石川五右衛門 もう少しで君の仲間が君を助けに来る頃だ。
質問はたくさんあると思うが、
一つだけだ。
如月 雪夜 ………では、お願いがあります。
石川五右衛門 ?…いいよ。
如月 雪夜 また、お会いしたいです。
石川五右衛門 !…そんなことお願いしなくてもまた会える。
如月 雪夜 本当ですか?
石川五右衛門 あぁ。約束だ。
如月 雪夜 ありがとうございます!
石川五右衛門 ……どうやら来たみたいだ。それじゃあ俺は行くとするか。
またな、雪夜。
如月 雪夜 はい。また、お会いしましょう。
シュ [五右衛門が去る]
如月 雪夜 ………
タタタタ [龍一郎が走ってやってくる]
如月 雪夜 あ、龍君!
龍一郎 ………
如月 雪夜 ?
龍一郎 ……雪…
如月 雪夜 ? うん。
龍一郎 怪我は?
如月 雪夜 ?ないです?
龍一郎 体調は?
如月 雪夜 元気です。
龍一郎 はぁぁぁぁぁ…
[龍一郎がその場でうずくまる]
如月 雪夜 りゅ、龍くん?
龍一郎 よかった…本当に…無事で…
如月 雪夜 ………ごめんなさい。心配かけて。
でも、この街の人の治療をしただけだから。
ササ [立ち上がる]
龍一郎 それは、みたらわかる。
この街のことも調べたしな。
とりあえず。帰るか。
[手を差し出す。]
如月 雪夜 …うん。
[手を差し出して手を握る]
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如月家 客間 長月
満月 紅愛 本当に申し訳ありませんでした。
[紅愛が雪夜に向かって土下座をする。]
如月 雪夜 え、えっと…申し訳ありません。なんのことでしょうか?
満月 紅愛 先日は雪夜様をあいつの仲間だと勝手に決めつけてしまい。
本当に申し訳ありませんでした。
どんな罰でもお受けいたします。どうか…罰を…
如月 雪夜 ………紅愛様は今でも石川五右衛門のことを恨んでいますか?
満月 紅愛 ……わからないわ。確かにあれは本物の人の首。
私の友人を殺した奴の顔。
術もかかっていませんでした。
でも…
[紅愛は自分の手を強く握り締める。その手に雪夜は自分の手をそっと重ねる。]
如月 雪夜 私は恨まないでくださいっと。言い切ることはできません。
ですが、五右衛門さんのとった行動をもう一度思い出してほしいいんです。
満月 紅愛 ……わかりました。もう一度…考えてみます。
如月 雪夜 …はい。では、話を改めまして。紅愛様。
満月 紅愛 ?
如月 雪夜 私のお友達になってはいただけませんか?
満月 紅愛 ………え?
刻利奈村の病を治し石川五右衛門の策略は終わった。
だが、紅愛の心にはまだ、とまどいがあるようで…