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自覚と事実と恋心

「寺田くんのパワー……もう一度信じさせてくれるかな?!」

「いやです」

「うおーーん、初芽さん初芽さん、言ってやってください!」

「寺田くん、飯田先輩は安藤先生と同じ班になりたいそうです」

「身も蓋もねーなーーー!! 全部暴露なんだなー、それ」


 飯田先輩はキーボードをガチャガチャ打ちながら叫んだ。

 期末テストも終わり、もう夏休みを待つだけだ。もうすでにやる気満々の太陽が、じりりとソファーを焼いている。

 三年生は七月中に勉強合宿があるらしく、そこに安藤先生がくるらしい。

 

「近くの湖でさ、花火大会があるのよ。それで安藤先生の引率班、これまたくじ引きなんだな~~」

「勉強合宿、ですよね」

「勉強勉強、人生の勉強。はい、あのへたくそな絵描いて」

「いやです」

「うそうそ、最高に運気上がった、おーねーがーいー」


 飯田先輩に頼まれて、俺は仕方なく再びコケッコを手に描くことになった。


「はい、マッキー。どうぞ」

「ああ」


 和歌乃さんがニコニコ微笑みながらマッキーを渡してくれたんだけど……そこにはほんのりと和歌乃さんの体温が残っていて、なんとなく落ち着かなくて、その体温が消えるまでフイフイと振り回したら落とした。

 それをチョイと飛びついて丸くなった和歌乃さんが拾ってくれて「はい、どうぞ」と渡してくれた。

 受け取って描きながら思ったけど……前描いた時もペンとか受け取ってるのに、なんとも思わなかった。

 でも今は正直こんな小さなことで緊張してドキドキしている。

 今まで和歌乃さんをそういう風に見てなかったけど……なんか色々触れていた気がする。

 ずっと菫や美琴と同じような感覚で接していた。いや、それよりもっと弱いと認識して一緒にいた。

 とにかく支えないと、助けないと……と思ってたのに、あんなにすごい姿を見せられたら……なあ。

 トサカは赤色なんだけど……また和歌乃さんからペンを受け取ると体温で温かいのがつらい。

 よし。


「ダークサイドコケッコです」

「はあ?」

「トサカは黒にしましょう」

「ダメダメ、くじ引き失敗したら家に藁人形差しにいくよ」

「どうしてなんです……?」

「この前ネットで『ススキで作る藁人形』って動画みたの。作ってみたら頭の部分がふさふさで、超パワーありそうだったから」

「それで安藤先生のライバルを全員呪えばいいんじゃないですか?」

「怖いこと言うね、君」

「それを俺にやろうとしてました、よね……?」

「はやくちゃんと描いて! これからくじ引きなの!! 落ちたら呪う!!」


 仕方なく和歌乃さんからペンを受け取って、コケッコを描いた。

 喜び勇んで引きにいったくじは、再び当選していたらしいから、そろそろ俺自身もこのパワー、使うべきか?

 和歌乃さんは生徒会室で作業をしながら目を細めた。


「寺田くん。私も花火大会、行きたいです」

「……おう。ここら辺だと多摩川。いや……あれはすさまじい人の量だから、ロケ先で行こうか」

「夏休み中、和歌山いきますよね!」

「そうそう。そこでないか調べてみるよ」

「はい、よろしくお願いします!」


 和歌乃さんは両手を丁寧に合わせて口元に持ってきて、


「楽しみなんです。長期撮影。今までずっと断っていたんです。道尾さんを独占することになるのが初芽に悪くて。でも寺田くんが専属になってくれたので引き受けました。あの監督さんの作品、出てみたかったんです」


 と嬉しそうに指先をぱちぱちさせた。

 事務所の先輩に聞いたんだけど、高校生は基本的に夜10時までしか仕事できないから、事実上使い勝手が悪いらしい。

 でも高校生の間に顔を売っておく必要がある。売っておいて10時以降も仕事出来る18才のタイミングで大きく売り出す……のが最近主流らしい。

 だから高校二年生のタイミングでしておく仕事は、なるべく有名監督の作品。

 そう聞いていたけど……本当に大きな仕事依頼がきて(しかも二度目らしい。一度目は断った)……和歌乃さんはすごい。

 すごいと思うけど、それに違和感はない。あのプールでの圧巻の演技を目の前で見たからだ。俺はきっと如月初芽、和歌乃さんのファンで、それでいて……。


「花火大会……」

「浴衣も着たいです。楽しみです。タイミング合いますか? 大丈夫ですか? スケジュール見せてください」


 そういって俺のカバンを勝手にひっくり返し「あ、スマホに入ってるんでしたね」と膝を抱えて和歌乃さんは丸くなった。

 この小学生のように無邪気で(少なくとも俺の前では)、警戒心もなにもなく(そりゃ俺が助けてるし)、恋愛のれの字もない和歌乃さんと常に一緒に行動。それにたぶん、恋してるなんて初芽さん(俺的には社長)に知られたら、クビにされそうで怖い。

 だって下心がある男を仕事で大切な子の横に置きたくないだろう。

 初芽さんはあれで「如月初芽」という存在を長く育てたいと考える人だから。

 いや……俺しかこの複雑な事情を知らないからクビにはならない……大丈夫だ……いやでも、その考え方ズルくない?!


「あっ、この花火大会。スケジュール合いますよ。和歌山にいるタイミングです」


 そういって和歌乃さんは俺の腕にしがみついてきた。

 身体全体に電気が走ったようにびりびりして、ドキドキしてしまう。

 前ゴキブリの話した時も腕にしがみつかれたけど、なんとも思わなかったのに。

 これは……前途多難すぎる。

 俺はなんとなーく身体を曲げながら和歌乃さんから離れた。



 学校を終えて和歌乃さんの家に行く。

 道尾さんと話があり、部屋で資料を広げて話していたら、初芽さんが来た。


「やっほー。おつかれー! トカゲのデータ全部消したって父親からメールきた」

「そうか、良かった! 彩華さんや透桜子さんにそれは……」

「もちろん伝えた。トカゲの父親から謝罪と、お金も渡されたみたいよ。二人とも断ったみたいだけど。まあお金もらってそれで全部おしまい! にされるのはつらかったのね。私なら絶対受け取るけど。金に罪ないし」


 そういって初芽さんはマックシェイクを飲んだ。

 透桜子さんは結局転校してやり直すようだと横に座っていた和歌乃さんが教えてくれた。

 あの後もずっとお手紙でやり取りをしていて、もう友達なのだと嬉しそうに手紙の山を見せてくれた。

 「レターセットとペン、透桜子さんと文通で使えて嬉しいです」と微笑んだ。

 彩華さんは結局トカゲ11を抜けたようだ。目的はデータを消すことだったのでそれを果たしたからだろう。

 芸能活動もお休みして、これからのことをゆっくり考えると言っていた。

 頭よさそうだし、生徒会に入ってくれないかな?

 とりあえず良かった……と初芽さんのポテトを食べようと手を伸ばしたら、その手がグッとつかまれた。


「ねえ冬真くん。あなたの家のクリーニング屋に、KKって人いる?」

「KK? なんだそれ、そんな人いないぞ」


 とりあえずポテト盗もうとした俺の腕を再び初芽さんが掴んだ。


「じゃあこれよ、これを見て!」


 そういって初芽さんが見せてくれた写真は真っ白の髪の毛を染めて真っ黒なメガネ、そして全身破れてるみたいなパンク? みたいな服なのにフリルがついていて、なんだかすごいのを着た人だった。いやいや……俺は静かに首をふった。


「こんなすごい人、俺知らないよ」

「これは表の顔。これがファッションショーの時に隠し撮りされたKKの素顔。拡大っ……ほら、これは?」

「ええ……?」


 拡大してみると、それは……、


「圭一さんじゃん!!」

「マジであんたの所にいるの? KKが!! なんか業界に疲れて染み抜き専門で働いてるって噂聞いて」

「あー……ああー……なるほど」


 圭一さんこの前公園で「合わなかった」って言ってたな。

 しかしちょっと待てよ、このパンクドレスみたいな服を圭一さんが作ってたのか?

 しかも着てる。似合ってる、気がする。髪の毛白い? 丸いサングラス??

 え? え?

 初芽さんは目を輝かせて話を続ける。


「私KKの服が大好きで服飾目指したの。あっ、ちょっとまって、私が行った時にKK居た?!」

「KK……圭一さんね」

「そんな名前で呼べるはずないわ、KKを!! KKに謝って!!」


 謝る……? 目の前に存在しないのに崇拝しろという、よく聞く限界オタクムーブを初芽さんが始めたぞ。

 圭一さんが正しい名前で、KKはペンネーム……なんだけど、そっちは呼べても本名は無理ってよく分からないな。

 圭一さんはうちでニコニコしながらご飯作ってくれる寺田家のお兄さんで、服といっても普通の服を作ってた人だと勝手に思ってた。

 人に歴史あり……。

 初芽さんはドスンと家に座って俺の目を見た。


「私、KKに弟子入りして勉強したい。会わせてもらえないかな?!」

「えー……ええー-? えー……」

「初芽が好きそうな服。分かる、これ、すごく初芽が好きそうね。初芽こういうドレス作ってた」

 そういって和歌乃さんは写真を見た。

「でしょー--?」

 と初芽さんが俺の両肩を揺らす。

 正直我が家で初芽さんは悪役令嬢枠であまり良い反応はない気が……。 

 ていうか「助けが必要なほど酷い女だと思わせたほうが効果的」って変なキャラ設定で来たのは初芽さんだ。

 今さら? というか和歌乃さんとして来るの? 初芽さんとして?

 和歌乃さんがぴょんと跳んで俺の前にきて膝を抱えた。そして俺の顔をのぞき込んだ。


「これからたくさん楽しみですね。たくさんよろしくお願いします」


 そういってやわらかく眉毛を下げてにっこりと甘く微笑んだ。

 俺は「ああ……」と静かに答えた。

 和歌乃さんと重ねる日々は、やっぱりどうしても楽しみなんだ。




キリが良いので、第一章はここまでです。

普通なら『章』で区切りますが、どうやらスニーカー大賞に応募するためには、15万字以内完結設定が必要なようなので、ここで一度完結設定にします。

二章をまた半分くらいまで書き溜めたら、新作として連載再開します。

今の所、三分の一くらい書けてます。


第二章は、無自覚最強キャラ和歌乃さんが冬真に襲い掛かり、地獄の夏休み編。初芽さんはKK目当てに近づきつつ、冬真に恋していく……ここから入れ替わりラブコメですかね。個人的には思いついてしまった構造を書きたかったので、満足していたり……。

トカゲが単純な悪役では無かったので、そこが非常に難しかったですが、これも一度トライしたかった部分です。

やっぱりひとつの話でひとつは新しいことしたいなと思っています。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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