チートスキル《未来視》で異世界転生無双したけど、人生楽勝すぎて逆につまらない
短編を書くのは初めてですので、至らない部分も多いかとは思いますがどうかよろしくお願いします。
どうしようもないほど深い悲しみと絶望を感じながら、俺は目を覚ます。
酷い頭痛がする。絶えずグワングワンと騒音が鳴り響いていて、例えるなら頭の中で誰かが騒いでいるようだ。今にも頭蓋が割れてしまいそうだった。
しかし時間とともにそれも収まっていき、ぼんやりと整っていく意識の中で、世界は輪郭を取り戻す。
「やっと気が付いた?随分うなされていたけど…本当に心配したんだから!」
目の前で大体14くらいの美少女が俺の手を握りしめ、目を潤ませている。
俺はそれが誰だか知らなかったけれど、すぐに見当がついた。
ああ、幼馴染のやつか
見当がついたのはそれだけではない。俺がいたのはのどかな農村で、魔王や勇者とはなんの関係もないような場所だったけれど、俺と幼馴染が二人で出かけている間に村は魔物に襲われて、俺たちは二人での旅を余儀なくされる。そうして旅の途中、新たな仲間と出会ったり町を救ったりしていると、俺が実は勇者の力を受け継ぐ者だとわかり、強大な魔族と死闘を演じ最後には魔王すらも打ち倒す。
そんなところまでわかってしまうのだ。
どうやら俺は異世界転生者ってやつらしい。俺はどうも昔懐かしい古典的RPGの世界に転生したらしいのだ。
思い返せば昔そういうのが流行っていて、俺も結構好きでかなりの作品を漁ったのを覚えている。確か転生すると前世の記憶があってチートスキルを貰えるのが大半だった気がしたけど、俺に前世の記憶はなかった。しかし目覚めたあの時の気持ちを思い出すと、どうも碌なものではなかったみたいだし、深くは考えないことにした。ただチートスキルは多分持っていた。ステータスが可視化されたわけじゃなかったけれど、世界に対するあまりにも高すぎる理解度。多分俺は「未来視」のスキルを持っているに違いない。
でもね、それってめちゃくちゃつまんないんだよ。
未来が視えるわけだから最初から俺は剣の腕も魔法の練度も魔王討伐時の水準にあることになるし、まずもって敵の攻撃なんか全部分かっちゃうわけだから、苦労なんて全然しない。
あー、なんだって?魔王直属の?え?なに四天王?
悪そうな顔をした魔族がさぞ誇らしげに自分の役職で名乗りを上げるがなーんにも怖くない。
大体いつも瞬殺して終わりで、後に残るのは虚無感だけ。
高名な魔族を倒すとみんな褒めてくれるんだけどさ、その内容すらもわかりきっているし、別に全然嬉しくないのよ。若くて綺麗な女の子にもモテモテなわけだけどそれすらもどうでもいい
本当につまらない。EDなんだ世界に対して。なーんにも感じない。むしろ苦しい。
それでもその道筋を変える気にはどうしてもならなかった。故郷の村を見殺しにしたように助けようと思えば助けられたのに物語の雰囲気に流されるままあえてそうしないでいたことは沢山あった。
どうしてそうしたかというと…マジでダルかったんだよ。
いや本当に、どうしようもなく。それをしようとしても体が絶対言うことを聞いてくれない。
だからこれはチートスキルを持っている代償かなにかだろうと諦めて俺は流されることにした。
SEXでさえそうだった。幼馴染と苦労の旅を共に過ごす中、想い通い合い結ばれる。誰もが羨むその行為でさえなんの感動もない。でもどうしたら喜んでくれるかは未来視でわかっていたから、あとはもうリズムゲーの要領だった。
はぁ〜せっかく転生したのになんでこんなにつまらないんだ。
わかりきった作業をするだけ、完璧に制御された工場のライン作業を延々と見させられているような気分だった。せめて何かアクシデントが起きて欲しい…しかし自分ではどうする気も起きない。
そんな人生の中でも本当に楽しみなことが一つだけあった。頭痛だ。最初に目覚めたときにしたあの頭痛。
早ければ数週間、遅ければ数ヶ月のスパンでそれはやってきた。その頭痛だけはどのタイミングで来るかもわからないし痛みの程度も視えなかったから、非常にリアルに感じられた。それがしている時だけは生きている実感がして、次第にその頭痛を心待ちにするようになった。
はやく、はやくはやく頭痛よきてくれ
俺はその頭痛だけを楽しみにライン監督業務に勤しんだ。
そうして頭痛に真剣に向き合っているうちに、気付いたことがあった。
頭痛がしている時に誰かが頭の中で騒いでいる感覚があると言ったが、あれは比喩ではなかったのだ。実際に頭の中で誰かが何かを訴えかけてきて…そしてその声は俺のものとまったく同一のものだったのだ。ごちゃごちゃと鳴り響いていて内容まではわからないが、声が俺のものなのは間違いない。
俺はそれを、あまりの人生の退屈さによるストレスが産み出した心の絶叫が、頭痛という形になって現れたのだと考えた。
そう考えるとあまりにもしょうもないのだが、それだけ苦しんでいる俺が可哀想にも思えるので、それからは自分を哀れむ慰みものとして考えると、次来るのが楽しみなのには変わりがなかった。
結局俺たちの旅路は8年ほど続き、魔王に大苦戦し…なかったわ、うん。魔王でさえ余裕で倒し、全ての事件の元凶だった魔神に死力を尽くした…わけでもなく世界を救ったのだった。
そこまでの偉業を成し遂げても、達成感を感じることはついぞなかった。やはり虚しいだけ
その後も人生は続き、功績によって爵位を与えられ、幼馴染や側室との間の子宝にも恵まれ子孫繁栄し、その一族は名家として栄えることになった…まあどうでもいいんだけどね
死期さえ完全に視えていたから、自分の体が動かなくなり、突然倒れ伏してもなんの感慨も持てなかった。
自分の寝台の周りでは愛すべき妻とその一族たちはみな涙を流し、世界を救った勇者の最期を見届けようとしている。年老いた元王様もそこにいて目に涙を浮かべていた。俺の心情的にはようやく終わるのか…としか思えなかったが、そういうわけにもいかず、子孫たちにもっともらしい遺言を述べていった。
…しかしついに意識も途絶えようという時、長い人生で最も愛した頭痛がやってきたのだ。
この時ばかりは自分の人生がそう悪くないように思えた。
今回は頭痛時の声が少しだけ聞き取れるようだ…最後まで生きたボーナスだろうか?
そうして耳を傾けると何やら必死に叫んでいることがわかる
「…ろ!…きろ!起きろ!頼むから起きてくれぇ!」
そこで俺はようやく''目が覚めた''
目を開ければ、そこに見えるのは暗黒の中に輝く星々と、側に見える真っ赤に燃える恒星。
その風景に戸惑いながらも、ゆっくりと全てを思い出していく。
宇宙旅行の時間潰しにコールドスリープに入ったこと、そこで俺はコールドスリープの幻想世界に浸れる機能を用いて、古典的なRPGの世界に入ったこと。
そして、その世界に入るのが、もう110782回目であることを…
装置が一部壊れていて前週の記憶消えてしまうようなのだが、体は覚えていたから変化はあった。
最初の数週は楽しかった。新たな発見もあったし魔王を倒すのにはとてつもない苦労をしその分の達成感があったからだ。しかし百周もした頃完全に飽きた。もうなにも苦労しないし王道ルートの道筋は完璧に視えている。それからはあえて違う選択肢をとったりして楽しんだ。魔王と協力して人間界を支配したり協力するふりをして出し抜いたり…あとは幼馴染と戦いから逃げてスローライフを送ったこともあったっけ?楽しみ方はいろいろありそれらを考えていくのは楽しかった。
しかしそれらも20000周もするともうなにも思い付かなくなった。それからは他にどうするわけでもなくただ無気力に、全てが分かりきった王道ルートをひたすらに繰り返した。およそ90000周も、だ。
そう俺は、チートスキル「未来視」など持ってはいなかったのだ。
…そうだ旅の途中で事故が起き、俺たちの船は大破し、俺はゴールドスリープの棺ごと奇跡的に投げ出されて宇宙空間を漂流しているのだった。コールドスリープ内では歳も取らず、太陽光で発電しているからどうしようもない。そう結論付けるのにおよそ30000周勇者としての人生を過ごした。なにせゴールドスリープから途中覚醒して正常な考えができるのはおよそ30秒、その間に記憶の混濁を整理しなくてはならないから、状況整理や次の手段を講じるのに充てられる時間は10秒もないのだ。その間に思考の断片をかき集め、状況のおおよそを理解したことを褒めて欲しいくらいだ。しかし次の手段がどうにも思い浮かばない。端的にいって詰んでいる。
考えるも考えるもどうしようもない。宇宙空間にも耐えられる棺は中からの衝撃で開くことなどないし、そもそも指の一本も動かせないのだ。
うう…またコールドスリープが始まってしまう。もうこの地獄は嫌だ、どうにか途中で起きて、起きて、起きてくれえ!!そう嘆くも次第に耐え難い睡魔が頭にモヤをかけそして…
「やっと気が付いた?随分うなされていたけど…本当に心配したんだから!」
110783回目の人生という名の《地獄》が、始まる。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。評価して頂けると大変大きな励みになりますので、少しでもいいなと思った方は星かブックマークの方をどうかよろしくお願いします。
文章のリズムの良さを重視して、あまり重くならないよう気を付けましたが、少し地の文が多すぎましたかね。
後数本短編とノクターンの方の連載(最初が酷い出来)を載せたら長編も書こうかと思っていますので、この調子で?頑張ります!