歩道橋
毎朝、娘と一緒に、少し遠いところにある大型公園へと、ウォーキングをしている。
行って帰って、ちょうど一時間。
歩数にして8000歩。
健康的な運動に、ちょうどいい時間と、歩数。
今日も、いつもの道を歩いて、公園へ、向かう。
行く途中に、幹線道路を跨ぐ歩道橋がある。
ここを通って、公園に向かうのが、いつものコース。
片側4車線の車の行き交う様子を、上から見下ろすのが、地味にお気に入りだったりする。
「あれ、靴がある。」
昨日はなかったはずだ。
歩道橋の中ほどに、一足の靴が落ちている。
まあまあ綺麗な紐靴が、少しだけ乱雑に落ちている。
何でこんなところに。
「ええ、こんなところに、忘れるか?普通…。」
「よっぽどドジなんじゃないの、ははは!」
大声で、靴の持ち主を、ディスる。
「それ、僕のですけど!!!」
なんと、歩道橋の向こう側から、人が!!!
はあ?!何この人!めっちゃ危ないじゃん!!
良く見ると、荒縄?を手に持っている。
ああ、歩道橋の修理の人だな。
「ご、ごめんなさい。修理ですか?朝からお疲れ様です。」
「…どういたしまして。」
いささか憮然とした様子で返事をすると、また歩道橋の向こう側へ消えた。
そそくさと、歩道橋をわたり終わる。
「もう!!あんなところで作業するとかさあ!!」
「つか、作業中って書いとけよ!!」
「なんかさ!あの人めっちゃ怒ってたね!!」
「あんたがひどい事言うからじゃん!!」
「お母さんだってひどかったし!!」
「何だと!!失礼なやつだな!!」
「あんたがだってば!!!」
大喧嘩をしながら、ふと、わたり終わった歩道橋を、振り返る。
あれ?
「ねえ、あの歩道橋、誰も、いなくない・・・?」
今、作業中なんじゃ、なかったっけ・・・?
「え、ちょっと!!やだ!!!」
こっち側に、いるはずの人が・・・いない?!
「怖いこといわないでよ!!!」
「た、確かめに、行ってみよう・・・。」
慌てふためいて、歩道橋に、戻る。
す る と 。
歩道橋の上には、何も、残っていなかった。
「ぎゃあああああああ!!!」
「ちょっとぉおおお!!置いてかないで、よおおおおおお!!!」
わめき声を上げる私たち。
急いで歩道橋を駆け下り、家までダッシュしようと…あれ。
歩道橋横の小さな公園のトイレから、さっきの無愛想な人が、出てくる。
「何だ!作業が終わったから、帰ってただけじゃん!」
「何だ、ばかばかしい!!おどろいて損しちゃったじゃん!!」
「あんたがあわてるからじゃん!!」
「親ならもっと落ち着いたらどうなのさ!!!」
「子供のほうこそ!!!」
ドハデにケンカをする私たちは。
後ろを振り返ることなく、家路に、着いた。
もしかして。
振り返っていたら。
そこには誰も、いなかった、なんて展開が、あったかもしれない。
…まさか、ね。