13:情報庁・下
【2-13】
部屋に置かれていた紙にはこう書かれていた。
「白露へ
み吉野大和について話しがあります。
目が覚めたらすぐに情報庁に来てください。
待っています。
夜渡橋 霜鵲」
――情報庁。
俺が今見上げているビルが、まさにそれだ。
それも当然、高さ1,111mというハイエストな建物なのである。
その高さから、タワー・フォー・ワンとも呼ばれる。
世界にいくつもある情報庁。そのなかの本部が日本、富山にある。
本部の主な役目は“ヒト・モノの修復”だ。
今から会う夜渡橋霜鵲という男はその情報庁の長であるとともに、両親を失ってすぐの俺を救ってくれた命の恩人なのだ。
(俺の父親代わりを買って出てくれたのだ)
さすがに、その人の職場について何も知らないのは失礼かと思い、電車で調べた。
すぐに付け焼き刃だと気付かれるだろうが、何もしないよりはマシだろう。
そんなことを考えていると、指定されたエントランスが見えた。
彼はエントランスの外に出て俺を待っていてくれた。
その人の元へ走る。
「お久しぶりです、白露君」
「お久しぶりです、夜渡橋さん」
――夜渡橋霜鵲
引き締まった体形、まっすぐな背筋、清潔感のある身だしなみ。
とても50歳とは思えない。
こうして対面するのは、実に10年ぶりだった。
俺は近況報告などをして談笑するつもりは元から無かった。そうしたかったが、できないものだと思っている。
庁長に任命される前でも、すでに彼は多忙だった。それにもかかわらず俺に家事をたたき込んでくれたのだから多忙ぶりは想像を絶する。
今や彼は世界の中枢となった情報庁の長である。コンマ一秒単位で動いているだろう。
そんな人物が張三李四の高校生と懇談するために時間を割くなんてありえない。
だから挨拶の直後に
事は急ぎなので、と案内を始められても何も感じなかった。
俺が説明を受ける部屋は階段ではとても登り切れない高さだった。
エレベータを2人並んで待っている時、夜渡橋さんの口が開いた。
「昨日は始業式でしたね、クラス分けはどうでした?」
「……え? あ、はい! 仲のいい友達とまた同じクラスでした」
「軒端君ですね」
「はい!」
すぐにエレベータが来てしまったから話はそれっきりだった。
それでも嬉しかった。
しばらく微笑みが消えず困ってしまう。
そこは4人入れば窮屈になるくらいの小さな部屋だった。
壁に向かってオフィスデスクと椅子が置かれており、そこにかけるように言われる。
俺と夜渡橋さんは肩を並べて座った。
「少し長い話になります。分からない箇所は逐一聞いてください。」
「はい。お願いします」
続く。