11:茶色いシャツ
【2-11】
「み吉野さん!! み吉野さん!? おいっ!!」
草むらに倒れた老体をきしむほど揺さぶったが、何一つ返事は帰ってこなかった。それどころか数分前よりも彼の身体がひんやりと感じられた。
確実に、少しずつ冷たくなっていっている。
「ぁ………あぁっ……」
俺は震える手で彼の手首を診て、その診察結果に絶望し絶叫した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
――み吉野大和は事切れたのだ。
神代紅水に話しかけられるまで、俺はみ吉野さんの息のない身体を前で抱いて茫然としていた。その間目をつぶっていたのは、青白に染まる彼の顔と死んだという事実が、怖くて怖くて見れなかったからだ。
事実。
老医師、み吉野大和に出会ったのは数時間前のことだ。
そんなわずかな時間で俺と彼にはいろいろなことがあった。
苦しんでいるのを助けられ、強烈な一本背負いを決められ、確実な殺意をもって首を絞められ、遺言を託された。
最終的にポジティブな関係になれたと思った矢先、彼は死んだ。
「仲良くなれたのに……」
死者に口なし。
絶対に、彼の口が動くことはなかった。
必ず俺の言葉で完結してしまう、つまらない会話に嫌気がさした。
カサカサ……
草むらに侵入してきたのだ。
誰が、なんて言うまでもない。み吉野さんを殺した人間だ!!
コツコツという、病院の中に反響する耳をしっとりと包むような足音。
病院の廊下から草むらを通って俺たちのいるところに一直線に向かってきている。
――彼の敵を取るか、それとも逃げるか――
俺はそのどちらもしなかった。
何もしないでいた。
今や“大事な人”となった彼を放って逃げることはできないからだ。
もし撃ってきたら俺の命はそれまでだ。
確かに死ぬのは嫌だが、彼との会話の続きができる、と思えばそれはそれでありと思えた。
犯人の足が止まった。
その人の匂いが感じられるまでにその距離は近い。
「白露!! 大丈夫!?」
俺は犯人の第一声に怖気がした。
その人の声は聞き覚えがあったのだ。
その人を“彼女”と決めつけるのは早いと思った。
彼女ではないと思いたかっただけなのかもしれない。
顔のあたりに目をやる。
真っ暗な中、膨れ上がった黒目はその姿を捉えた。
「紅水……?」
「白露!! 生きてるの!?」
バイトで疲れているというのもあったが、何よりもこの出来事がショックで脳も心もキャパオーバーだった。
なぜ殺したのかと尋問する気も感情に任せて怒る気もしなかった。
彼女は死体を抱えたままの俺に抱きついてきた。
しかし、彼女の胸から直で伝わる香りに幸福ではなく、嫌気を感じる。
仮にどんな理由があったとしても、彼女が人を撃った事実を俺はシンプルに許せなかった。
良かったぁ……!! 良かったぁ……!と涙をこぼす紅水さんの肩をふわりと優しく掴み、ゆっくりと剥がす。
「え……?」
俺は彼女を拒絶した。
続く