表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

富士の樹海へ

作者: 川西零

ある夏休み前、まったく涼しくならずむしろ暑さ倍増するような日。そんな中、高校の帰り道二人の男が、話していた。

「なんでこんなに世の中暑いのだ。この暑さどう思う賢吾。」

「どうもこうもないよ。暑いから暑いのだ。それとあんまり暑い暑い言うんじゃないよ勇樹。」

「分かった。」

彼らは高校で知り会った二人である。入学して席が近くにあった為、少しずつ話すようになった仲だ。そんな会話の中で不意にも家の事を話したら偶然にも家が近所だということが判明した。しかし、今の今まで話したことも会った事も一度もなかった。同じ中学校なのに二人とも会う事もなかった。

「そう言えば賢吾、アレだよ。」

「あれって何なの」

「俺の親戚の叔父さんが富士山の麓に家を建てたらしいんだ。『友達を連れて遊びに来い』っていっているんだけど来る?」

「それはありがたいけれど、親に聞かないと分からないよ。」

「分かった。検討してみて。」

そんなことを話しつつ暑さに耐えながら帰っていた。夕方にも関らず気温が三十五度ぐらいあるような気がして二人は足を早めた。そのせいか、いつもよりも少し早く家に着いた。

「ともかく親に聞いておいてね。よろしく。」

そう言って勇樹は家に帰っていった。賢吾も別れを告げ足を更に早めた。


 家に帰ると、全く外とは打って変わって、涼しい冷気が扉から溢れていた。

「ただいま」

「お帰り」

日常会話の最初にあるやり取りをしながら母親がリビングから出てきた。リビングからはとてつもない程の涼しい風が溢れてきた。外との気温差が十度ぐらいの差があるのではないかと思うぐらいエアコンが効いていた。

「エアコンの温度何度なの?」

「だいたい十八度ぐらい。」

それを聞いて少し驚いた賢吾は

「なんでそんなに低い温度に設定したの。」

「暑いからだよ。」

母親が言うことはもっともだが、もう少し高い温度でもいいんじゃないかと思った。こんな気温差があったら風邪でも引いてしまうのではないかと思うほどだった。もう少し気温差がないところはないのだろうか。廊下に出れば砂漠みたいに暑く、部屋に戻れば冷た過ぎる。その間ぐらいの丁度いい場所はないのか。富士山の麓は涼しいだろうか。もし涼しければ是非とも行きたいな。

「母さん、勇樹が、夏休みに富士山の麓に行くらしいんだけれど、それに一緒に着いていっていい。ちなみにこれは勇樹の提案だけど。」

「べつにいいけれど。相手方に失礼はないの。」

「恐らくないと思うよ。」

「なら行ってくれば。ちなみにそれはいつ行くの。」

「まだそれは分からない。」

「とりあえず分かったら教えて。」

「わかりました。」

賢吾は携帯電話を取り出し勇樹に連絡をした。

「もしもし、勇樹、親の了解がとれたよ。とりあえず行ける事になったよ。」

「それは良かった。」

「勇樹、ちなみに行く日はいつなの?教えてちょうだい。」

「行く日は、修了式の日の次の日に行くよ。あと電車で行くから電車代よろしく。」

「そんなに早く行くの。わかりましたそれではまた明日学校で。」

「それでは。」

修了式の次の日に行くことを賢吾はさすがにそれを予想することが出来なかった。それどころか、何日間居るのかどうかも聞きそびれてしまった。けれどそこまで長くなる事はない。せいぜい二、三日ぐらいだろう。そう思って、賢吾は母親にそのことを伝えた。だが、交通費は自分で出さないといけないことになってしまった。しかし、何日分かの衣類はあったので買いに行かずにすんだ。


 翌日、修了式の日。この日も猛烈な暑さであったが予定通り体育館で行われた。全国の学生が夏休み前の最後の試練である。こんな暑い日であるから校長先生の話しが終わるのが先か、熱中症で倒れるのが先か、休みと命を賭けた体育館の修羅場が待っているのだろう。案の定、熱中症で倒れた人が多発した。しかし、それに気付かず校長は話し続けた。あまりにも倒れる人が多いので教頭が横槍をいれやっと話しが終わった。予定していた時間より少しだけ早く修了式が終了した。その後、担任からは散々夏休みの心得構えを聞かされ、

「宿題はちゃんとやれ。夜更かしはするな。出校日は何があろうと必ず来い。そして、九月の始業式は死んでも来い。」

長々と話す担任の話が終わり、やっとのことで念願の夏休みを迎えることが出来た。終礼後、賢吾と勇樹はまた昨日と同じ帰り道を少し早足で倒れない程度に帰り道を話しながら歩いていた。

「明日、駅に八時に来てね。」

「電車で行くの?のそれとも新幹線で行くの?」

「一応新幹線で行く予定。それ相応の交通費を持って来てね。」

「わかりました。他に持って来る物はあるの?」

「特に持ってくるものはないよ。あるとすれば携帯電話と少しのお金ぐらいかね。」

「それは言われなくてももっていくよ。後それはシャレだから。」

「えっ。どういう事。そんなこと言った覚えがないよ。無意識に?」

「ま、どうでもいいや。もう家に着くし。では明日よろしく。勇樹。」

「こちらこそ。それでは。」

そう言うと勇樹は家に帰っていった。その後も、賢吾も昨日以上の速さで足を進めた。


 その日の晩、賢吾は交通費を母親から調達するために、交渉を行っていた。

「明日の交通手段は電車で行きます。しかし、在来線ではなく新幹線で行きます。その為お金が足りません。ですからお金をください。」そう母親にすがっていた賢吾は生まれてこのかた一度もお金を借りるといった行為を行った事がない、その為、母親は少し驚き、一瞬啞然とした。

「いったいなんで、そんなにお金がたりないの。新幹線の往復切符買えるぐらいは余裕で持っていたでしょうが。いったい何で使ったの。」そう言った矢先、賢吾は真っ先に口を開き

「それは全部高校の入学の為に消えて行ったのです。入学に係る費用を自分で全部出せて言ったでしょ。そのおかげで、電車に乗れるかどうかのお金しか持っていないんですよ。」そう若干怒りをあらわにしながら交渉を続けた「とりあえず、明日すぐに必要ですから。ともかく、頼みますよ。」

「分かった。但し、高校へ進学したことはあなた自身で決めたのだから、高校の進学費用はこちらでは負担しません。なので、今月の小遣いから引いていきます。もちろん七月なので、ボーナスの方から引いておきます。」

そんなことを言いながら母親は財布に手をかけた。賢吾は少しがっかりしたような気にはなったが仕方ないと思った。

「はい。」

「どうもありがとうございます。」そう言って賢吾はお金を受け取って、自分の部屋へ戻っていった。

さっさと自室に戻り明日の準備をしていた。賢吾はほとんど外泊することもなく、最後に行ったのは中学の修学旅行で行ったきりである。家族旅行も行ったことがなく、むしろ家の中にいる時間のほうが長いぐらいであった。そんな賢吾は少し心が浮いていた。だがその反面、何を持っていくのが良いかよく分からなかった。

(そう言えばなぜ勇樹は俺を誘ったのか他にも仲が良い人がいるのになぜだ。でも涼しいところに行けれるのだからいいか。)そんなことを思いながら明日に向けて準備を続けた。そんなこんなで、もう時間も日が変わる頃であるからもう寝ることにした。


 翌日、昨日言われた通り賢吾は八時に駅へ向かった。

しかし、賢吾は早く着いてしまったので少し待つことになってしまった。待つこと少し、八時を少し過ぎて勇樹が現れた。

「おはよう、では参りましょう。」

「おはよう、そうしましょう。」

あまり言葉を交わさなかったが、八時十分発の新幹線に乗らないといけないので、そうしたのかもしれない。券売機で券詰まりを起こすことなく、スムーズに乗ることが出来た。時間に追われる事無く、乗ることが出来たので、賢吾も勇樹も機嫌は上々だった。

「こうやって個人的に新幹線に乗るのは初めましてだよ。賢吾はそういう事したことある?」

「一切ないよ。そんなこと。むしろ家にいる時間のほうが長いよ。家族もあまり旅行に行かないし。」そんな、たわいもない会話を続けながら、富士の駅に着くのを待っていた。

「そう言えば、勇樹、富士山の麓に家を建てた君の叔父さんはいったいどんな人なの。」

「正しく言えば家を建てたのではなく別荘を建てたという方が正しいよ。叔父さんはよく知らないけど株をやっていてそれが大当りしたそうだ。しょっちゅうギャンブルをやっては負けている人が株に手を出した途端に大当りしたそうだよ。なんでも株に関しては負けなしらしいよ。」と勇樹は誇らしげに言った。しかし、それは、誇れる事なのかと少し自分の心を疑ったが賢吾は是非とも株で勝つ方法を教えてほしいと思った。ただ高校の入学費用分を回収したいとおもったからだ。そんな事を話しているうちに富士の駅に着いた。土曜日だったせいか少しホームは混雑していた。

「ここからどう行くの?バスでも乗って行くの?」

「駅に迎えに来てくれること事になっているよ。改札を

出れば多分来ているはずだよ。」と勇樹は話しながら改札へ向かった。それを追いかけるように賢吾もついていった。


新幹線の改札を抜けると少し離れたところに富士山が見えた。しかし、頂上は雲で隠れていたので上の方は良く見えなかった。勇樹がいった通り、彼の叔父さんらしき人が待っていた。

「叔父さん久しぶり。」そう言うと勇樹は叔父さんに近づいていった。叔父さんも、それに気付いて、

「久しぶり。元気にしていたか。」そんな感じで親戚が久しぶりにあった時に話すようなたわいもない会話をしていた。話しに夢中になる余り、賢吾を忘れかけていた。すると叔父さんが、

「そちらにいるのはどなた?」

それを聞いて勇樹はあわてて、

「彼は賢吾。電話で話した僕の友達。」

「そうか。それなら挨拶をしないといけないな。」そう言って叔父さんは賢吾の方へ近づいていった。賢吾もそれに気付き

「初めまして。賢吾と申します。この度は別荘に招待して頂きありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。」と丁寧に挨拶をすると、

「君が勇樹が言っていた賢吾君かね。どうぞ勇樹をよろしく頼むよ。今回は君以外にも招待した人達が居るがあまり気にしないでくれ。」と終始、叔父さんは和やかな口調で話していた。勇樹が長話をしていたせいか、気付けば到着して三十分以上も経っていた。それに気付いた叔父さんが「ここで長話をしても向こうにつくのが遅くなるから、そろそろ行くか。」そう二人に言って駐車場へ向かった。それにつられるかのように、二人もついていった。車に乗り込むと賢吾が「何分ぐらいで着きますか。」と聞くと「一時間半ぐらい。」とすぐに答えた。賢吾はここからそんなに時間がかかるのかと思ったが富士山の麓なら仕方ないと思った。久しぶりに新幹線に乗って疲れたのか乗って早々賢吾は寝てしまった。賢吾が寝ている間に勇樹が、

「今から行く所は樹海に新しく建てた別荘なんだよね。何故、樹海なんかに建てたの。誰かに追われているの?」と冗談半分で叔父さんに聞いた。すると叔父さんが、

「誰にも追われていないよ。追われていたのは半年までだよ。しかも、借金取りにね。でも、株で大当りしたから全額耳をそろえて返したよ。しかも、今回別荘に来ているのはその逃亡生活の時にお世話になった人たちだよ。」と少し自慢げにいった。その顔を見て、勇樹は、

(それは誇れるというか自慢できるものではないだろう。)と心の中で思った。そんなたわいもない会話をしながら富士の樹海へと車を走らせた。

 寝ている賢吾は車が揺れているのに気付き目を覚ました。そんな寝起きの彼が目にしたのは予想することの出来ない光景が広がっていた。なぜなら辺り一面は木で覆われていたからだ。樹海なら木で覆われていて当然だがそんなこと賢吾は聞いていないからだ。目を覚まして早々に、「ここは一体どこなんだ。俺はいったいどこに行っているのだ。」と声を上げた。するとその反応に驚く事もなく勇樹が「ここは富士の樹海だよ。」その言葉を聞くや賢吾はさらに驚き、

「富士山の麓の別荘に行くんじゃなかったの。それなのになんで、富士の樹海に来ているの。こんなところに来たら生きて帰ることなんてできないよ。」そう慌てて車を引き返すようにいったが、叔父さんは車を止めようとしない。そんな慌てている賢吾を見て勇樹は、

「今から行くところが別荘だよ。ここは富士の樹海だよ。しかも富士山にかなり近くに位置しているから富士山の麓だよ。ここまで来るのに使った道もちゃんと記録しておいてあるから大丈夫だよ。」と落ち着き払って言った。すると勇樹はすこし納得したような、していないようなよく分からない感覚に陥ったが無理にでも理解することにした。賢吾がそんな風にあたふたしているうちに車は別荘に着いた。


 車から降りるとそこには、立派な家とその後ろにそびえ立つ富士山がよく見えた。駅からではとてもじゃないけど想像できないぐらいの大きさであった。叔父さんは到着すると

「ようこそ我が別荘へ。君たちは四、五人目も来客者だ。」と言って家の扉を開けた。賢吾はなぜ僕達が初めての来客者ではないのか。他にも来客者が来ているのかと思ったがそれは聞かないことにした。中に入るとまるで豪華なホテルフロントを思わせる空間が広がっていた。普段そんなものはテレビでしか見ないから、賢吾はつい口から、「豪華すぎるだろ。」と思わず口に出してしまった。それにつられるかのように勇樹も、

「叔父さん。よくこんな山奥にこんな豪華な家を建てられたね。業者の人もよくこの家を建ててくれたね。」と感心を通り越して呆れてしまった。すると叔父さんが

「業者の人達はここに何回も来るのは大変だからと言って大型トラックを何台もいっぺんに持って来てこうじもいっぺんに済ましてしまったよ。別途で料金を取られてしまったけどね。」そう言ってさらに中を案内していった。

 二階に上がり二人それぞれの部屋を個室で用意してくれた。二階は部屋が六室あり全部横一列に並んでいた。一部屋だけ扉が開いていてその中は何も荷物が置いていなかった為、賢吾は三人来客者が来ていると思った。しかし、そんなことを聞いても仕方が無いため聞く事はやめにした。二階に先に案内されたので荷物を自分のへやみ入れ再び叔父さんの元へ戻った。すると叔父さんが「今から行く一階に行くけれどこれから人に会ってもらうから。ちなみにその人達も来客者だからよろしく。」そう言って一階へ降りて行った。

 階段を下りたすぐの所におおきなリビングがあり、そこへ通された。そこには三人の人が座っていた。すると叔父さんが「いまからこの二人を紹介するよ。」といきなり三人に向かって言い出した。

「こっちの俺に顔が若干似ているのが俺の甥の勇樹。そいでそっちがその友達の賢吾だ。仲良くしてやってくれよ。」と言ってこちらの簡単な自己紹介をしてくれた。更に叔父さんが続けて

「そっちの三人は俺が逃亡生活を送っていた時に助けてもらった三人だ。」と言って指を指した。

「そこにいる物騒な顔つきでいまにも犯罪を犯しそうな人が博広。」

「物騒な顔つきってなんだよ。一応、職質は一回しかされていないよ。」と少し機嫌悪そうに言って、

「君達初めまして。君達の叔父さんはこんな事言っているけれども犯罪は一度も犯したことはないよ。ちなみに職業は人工血液の研究をやっているよ。」それを聞いて賢吾達はやはりこの人は少し変わっている人ではないかと思った。

 次に叔父さんはその隣に座っている人を紹介した。

「この人は気が弱そうだが、実は物凄いヲタクなの俺もドン引きするぐらいの。そいつが刑田だ。」

「ヲタクってどういう事ですか。ぼくはただ四六時中刑事ドラマを見ているぐらいだよ。ただそれを見ていると実際の犯罪の現場を見に行くぐらいだよ。あとは、あるルートを使って実際に現場で使うものを手に入れるぐらいだよ。ちなみに職業はライターをやっています。君達よろしく。」そんなことをきいて賢吾達はさっきの人よりも更にヤバイと直感的に思った。むしろさっきの人の方が断然平常な人だと思った。

 最後に叔父さんはその隣に座っている女性を指差し、

「こちらが紅一点の幸子だ。俺の口からは何も説明することは何も無い。」と言って早々話しを切り上げたが、幸子は

「私の時だけ扱いが雑じゃない。一応、自己紹介ぐらいはさせてもらうわよ。」と言ってさらに続けた

「さっき紹介があった通り私の名前は幸子。薬品会社の研究部に勤めているわ。どうぞよろしく。」その言葉を聞いてこの人は普通の人そうだなと思った。三人の自己紹介が終わると叔父さんが「時間もいい時間だしそろそろ夕食にするぞ。その隣にある席に座ってくれ。ご飯が用意してあるから。」と、隣の席へ賢吾達は通された。そこには普段目にすることがない豪華な料理が並んでいた。「これは俺が作った料理だ。」と叔父さんが言って、食事がスタートとした。普段こんな料理が家ではまず出てこない賢吾は思わず「美味しい」。と口にするほどだった。

 食事も終了し後はゆっくりする時間になったので賢吾はもう寝ることにした。就寝前に叔父さんに挨拶をし、「本日は美味しいなど振る舞って頂きありがとうございました。僕は少し疲れたので早いですが、もう寝る事にします。明日もまたよろしくお願いします。」

「そうか、もう寝るのか。疲れているならそのほうがいいな。おやすみなさい。」そうして賢吾は自分の部屋へ戻って言った。


 賢吾が席を離れた後残りの五人が話していた。

「叔父さん本当にこの人たち知り合いなの。しかも逃亡生活ではとてもじゃないけど知り合える人達じゃないよ。」

「よく気付いたな。そう、この人たちは逃亡生活で知り合った人達ではないよ。」

「なら何で僕に噓をついたの?」

「今、部屋に戻った彼に面白い事をしようと思ってね。でもこの人たちは株の世界で知り合った人達だよ。」そう言って叔父さんは三人の方を見た。すると勇樹が、

「面白い事って何なの。教えてよ。」そう目を輝かせて叔父さんに聞いた。すると、

「今からここで殺人事件を起こす。」といきなり博広が言い出した。いきなりそんなことを言い出した為、勇樹は驚き、

「本当に!」と声を荒げた。するとすかさず幸子が、

「何も実際に起こす訳じゃないよ。ただ一人、薬をのんで疑似的に死んでもらうわけ。薬も四、五時間ぐらいしか効かないから。その間にちょっとした推理をしてもらうのよ。」それを聞いた勇樹は、

「なら大丈夫か。それで誰が薬を飲むの?」とほかの人達に問いかけた。

「それは僕が飲みます。」そう言ったのは刑田だ。なぜ率先して飲むのかと聞くと、

「なぜって、事件現場の死体になれるんだよ。刑事ドラマのファンとしては誰もが憧れる光景でしょ。しかも樹海なんてさらに怪しさ全開で、一番いいシチュエーションでしょ。後は本当に刑事が来てくれれば最高なんだけどね。」その発言を聞いた周りはしばらく凍り付いた。その後、叔父さんが「言っておくけど絶対に警察は来ないからね。」と念入りに刑田にいっておいた。

 明日の打ち合わせも終わり叔父さんが、

「それでは各々準備とアリバイ工作をよろしく頼むよ。」言ってそれぞれ部屋を後にした。


 翌日、朝、殺人事件らしき事が起こる日。賢吾は何も知らないままリビングに足を運んだ。するとそこには刑田以外の人達の姿があった。

「おはようございます。」そう挨拶をして昨日と同じ席に着いた。しかし、いつまで経っても刑田が降りてこない。不審に思った賢吾は、

「いつまで経っても起きてこないから、僕が様子をみてきましょうか。」といって席を立ったが、幸子が、

「私が見てくるで、君は先に朝食をたべていていいよ。」

そう言って席を立って二階に上がっていった。

しばらくすると二階から悲鳴が聞こえた。急いで駆けつけるとそこには血を吐いて倒れている刑田の姿があった。そこいら一面には荒らされた痕がありボンドやナイフも転がっていた。しかし、それらの物には血痕は残っていなかった。すかさず博広が脈を確認したがもう手遅れだった。

「一体だれがこんな事を。」そう叔父さんが動揺しながらいった。幸子が慌てて「早く警察を」と言ったが叔父さんが「ここは携帯電話の電波も電話線も通っていない場所だ。自力でこの中から犯人を探すしかない。」と言い全員一旦外に出た。この中で落ち着き払っているような人は誰もいない。その中でアリバイの検証が行われた。

最初に賢吾のアリバイ証明から始まった。

「僕は昨日夕食を食べて部屋に戻ったあと一度も自室から出ていません。恐らく防犯カメラにも写っていないと思います。」それを聞いて他の四人は納得し賢吾を容疑者から外した。

 その次に残りの四人のアリバイの証明を聞くはずだったが全員昨日のことは覚えていないと言うので。四人全員容疑がかかってしまっている。その為叔父さんが、

「君以外段階で全員容疑者だ。だから、君に犯人を見つけてもらうしかないんだよ。やってくれるかね。」

「できるかどうか分かりませんがともかく、犯人を探してみせます。」

「そうか、やってくれるか。俺も新築したばかりで縁起が悪いから頼むよ。あと刑田が持って来た道具も使えるなら使っていいよ。」と言った。しかし、賢吾はそんな物を使わなくても何とかなると思った。いや、使い方が分からないと言ったほうが正しいだろう。とりあえず、現段階で疑われている四人をリビングに残して、死体がある部屋に向かった。

 部屋の中は様々な物で溢れかえっていた。その中には何やら小さい袋に小分けされた白い粉など怪しい物もあったがそれは見なかったことにした。しかし、現場からは何も変な匂いはしない。窓も開いていないのに、普通、人が死ねばなにか腐敗した匂いがするはずだが、むしろここは自分の部屋とそう変わらない匂いだと賢吾は思った。死体が横たわっているベッドの下を見てみると、「なんじゃこりゃ!」と思わず声を上げる物が落ちていた。それは、血の着いた短刀が落ちていた。こんなあからさまに証拠を残していく犯人はよほど焦っていたのではないかと、思わせるものだった。他にも洗面所の方へ行くと排水口に少し血のあとがのこっていた。しかし、死体には刺傷一つ無い。そのことを賢吾は不思議に思った。

(なぜ、刺傷一つないのに血の付いた短刀が落ちているのだろう。)そう思いながら、つぎはゴミ箱の中を覗いて見た。するとそこには錠剤の入っていた銀紙が入っていた。そこには、幸子の勤めている会社の名前が書いてあった。しかし、それ以上の事は知ることが出来なかった。とりあえず、一旦、引き上げてリビングに戻ることにした。あんまり死体と一緒なのもこっちの気分も悪くなるから。そう思いながら部屋から出ていった。

 リビングに戻ったら叔父さんが、「どこまで調べることが出来た?」といきなり聞いて来たので、

「今、分かっていることは部屋に短刀が落ちていたこと、ゴミ箱に幸子さんの会社の薬が入っていたことぐらいしか分かりません。」と賢吾が言ったら

「叔父さんどうします。そろそろやめにします。薬も切れる時間だし。」と幸子が言った。

「そうするか。素人がここまで探すことができたし。良しとするか。」そういって刑田の部屋へ向かった賢吾は今起きたことがさっぱり分からず、

「え。どういう事ですか。刑田さんは死んだのではないですか。」そう叔父さんに聞くと

「行けば分かる」と即答した。

 部屋の中に入るとそこにはベッドに座っている刑田の姿があった。

「これは一体どういう事ですか。」と声を震わせながら聞くと、

「これは私が開発した、一時的に呼吸を抑える薬よ。人体実験も兼ねてこの人にのんでもらったわ。」と幸子が答えそれに続くように叔父さんが、

「どうせ死体にみたいになるだったら、誰かに殺人事件みたいなドッキリを仕掛けようと思ったわけ。どう、驚いた?」

「驚いたというより、人が死んでいたんですよ。こんなもん驚きを通りすぎますよ。」と言った。「しかし、なんで脈も止まっていたんですか。」質問した。すると博広が「それは、脈を計る場所に前もってボンドでコーティングしたんだよ。そうすれば誰が脈を計っても消えていると思うわけ。ちなみに、その口からから出ていた血はわが研究所で作っているものだよ。一応医療用だから、本物ぐらいのリアリティはあるけどね。」と平然に言い払った。勇樹も「驚いたおれは特になにもしていないけどね。」と笑みを浮かべて言った。すると叔父さんが、

「余興はここまでだ。今からは実際に死人が出るかもしれない。」その時賢吾は不安よりも恐怖を感じた。

「残念ながらここまで来るのに乗ってきた車がガス欠だ。ということで、ここから歩いて町に帰ってもらいます。」そんなことを平然と言っている叔父さんに今すぐ殴り掛かりたいと思ったが、賢吾は心の奥底に沈み込めた。

「ちなみにここに滞在できるのも後三十分だから。ここは直ぐに壊れるように作ってあるからね。」と言った矢先、どこかに消えていった。

ここから賢吾達は樹海の中をただひたすら歩くことになってしまった。ちなにみ、夏休みが終わっても彼らは発見されなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ