日常 脱退と居候
新年、あけましておめでとうございます。
今年初の投稿です。何時ものように日曜日の深夜に投稿できました。
今年も頑張っていきたいと思います。
冒険者の活動はする時期は限られている。冬が終わった新年から真夏になるまでの数ヶ月と真夏が終わって真冬になるまでの数ヶ月間が活動時期とされている。無論、真夏や真冬も『塔』に挑むことはできるが、『塔』の中にも季節はあり、暑さや寒さの対応をしながら魔物と戦うのは至難であった。
特に冬場は雪の所為で足場が悪く寒さで身体が硬くなるので冬場は最も活動しづらくなる。大半の冒険者は冬場は身体を休めるのが一般的であった。そう考えると冒険者が一年の活動方針は決まってくる。
冬が終わる年明けから活動を再開し、真夏まで身体を慣らすことと一年の活動方針を決める。真夏は魔物との戦闘を避けつつ身体が鈍らないように薬草採取や鉱物の採取を行う。そして、真夏が終わってから冬になるまでが最も活動をする繁忙期になる。
こうして冒険者は一年を過ごし日々の生活を送るが、大規模なパーティーだとそれに加えてパーティーの運営や規律なども管理している。在籍しているメンバーから毎月一定額の運営費を納めて貰い活動拠点の維持や消耗品の購入。更に武器や防具の整備なども行っているパーティーも存在していた。
朔夜やエル、ナルが在籍する天元槍華も例外ではない。むしろ天元槍華は最もパーティーメンバーが多く、冒険者活動をしていないメンバーも多数いるため運営はかなり複雑だ。定期的に幹部が招集され会議が行われる。今日もその会議が天元槍華が保有する館の一室で行われ、朔夜も出席していた。
「――なので朔夜さんは今後は自重するようにして下さい。その証拠にこれ以上は件の冒険者との接触はしないことを宣言してください」
いつもの議題が終了し最後の報告事項の際に朔夜の日頃の行動が問題として上がった。朔夜事態は問題行動をしている覚えがなかったので寝耳に水で、問題となっている行動が男性冒険者即ちトリスとの過度な接触だった。朔夜は定期的にトリスの家に行き訓練を行っている。そのことは両親にも話して承諾を得ていた。
しかし、それを快く思わない者が天元槍華のメンバーに多くいた。天元槍華は女性のみで構成されたパーティーで男性はいない。パーティーの行動理念として女性の保護と女性の自立も行っている。男性から酷い扱いを受けた女性を保護し在籍しているため、男性蔑視、女性尊重の傾向があり、パーティーの幹部である朔夜が頻繁に男性の家に通うことは看過できなかった。
「ちょっと待っておくれよ。幾ら何でもそれは横暴じゃないか! トリスの家に行くのは訓練の一環で男遊びなんかじゃないよ。その証拠に私の実力は上がっている!」
「朔夜さんが男遊びをしているなんて私達は思っていません。しかし、他の冒険者はどう思いますか? 独身の冒険者の家に頻繁に通うことを知ったら下劣なことを想像しますよ」
「全くその通りです。通い妻みたいなことはせず、訓練をしたいなら天元槍華のメンバーと行って下さい」
朔夜の行動を非難しているのは朔夜と同じサブリーダーのショウランと非戦闘員を統括するファルマだった。ショウランとファルマは朔夜の母親と同じくらいの年齢で朔夜が生まれる前から天元槍華に所属している。二人とも男に酷い暴力を受けた過去があり、それを助けたのが朔夜の両親であった。
それから二人は天元槍華に所属し朔夜の両親の手助けをしながら同じように男性から酷い扱いを受けている女性を保護している。今まで天元槍華を支えてきた彼女達の発言は重く、他の幹部達は彼女達の意見を反対しなかった。
「リーダの意見は……」
一番奥の席に座っているのは朔夜の母親であるマーヤだ。マーヤは会議を始まって以降何も発言していない。リーダーであるマーヤの言葉は全てを決定できるほど重い。そのためマーヤは会議中の発言は控えるようにしている。今回の件についても傍観を決め何も発言しなかった。
「ふぅ、まいったねぇ」
会議が終わった後朔夜は自室に戻った。結局朔夜の意見とショウランとファルマの意見は平行線で結論はでなかった。しかし、他の幹部達の様子からショウランとファルマの意見を押していた。近日に朔夜の行動を改めるように言われるのは火を見るよりあきらかだ。
「父さんに相談するした方がいいのかなぁ」
父親である観月は天元槍華を脱退して今は冒険者組合の職員として働いている。しかし、天元槍華を設立した人物のため今でも発言力はかなりある。しかし、自分のことなのに親に頼るのは朔夜の性格からして気が進まなかった。
朔夜は自室で頭を抱えていると誰かが扉をノックした。
「エルです。朔夜さんはいますか?」
「エルかい? 鍵はかけてないか入っておいで」
「失礼します」
部屋に入る許可をするとエルが扉を開けて部屋に入ってきた。エルは『塔』から戻ってきたのか普段着ではなく冒険用の服装だった。
「『塔』から帰ってきたばかりなのかい?」
「すいません。この後すぐに出かけるので……」
「出かける? 帰ってきたばかりなのに?」
「トリスさんの家に行くだけです。私が朔夜さんに会いに来たのもその為です。明日、フレイヤさんとローザさんが試食会を開くのでそのお誘いです。さっきクレアから言われて朔夜さんも来るか確認しにきたのです」
「トリスの家で試食会……」
フレイヤとローザは新作料理を作るとトリスや他の人に食べて貰い反応をみるのだ。今までも何度かあり朔夜も都合がつけば朔夜も出席していた。正直に言えば行きたい。今日の会議がなければ二つ返事で出席すると返事するのだが……
「朔夜さん、どうかしました?」
「明日はちょっと都合がつかないんだよ」
「そうですか、じゃあ今回は見送ると伝えます」
「……よろしく頼むよ」
朔夜は先ほどの会議の件があり少し自重することにした。しかし、少し自重したからといっても事態は好転する訳ではない。根本的な解決にはなっていなかった。
「他に用事はあるかい? なければ……」
「あります!」
「な、なんだい?」
「稽古をつけてください!」
「稽古? 今からかい?」
「いえ、今日明日じゃなくて朔夜さんの都合のいい日でお願いします」
「判ったよ。近いうちに都合をつけるけどその様子だともう新しい戦い方に慣れたのかい?」
「はい、ダグラスさんにも認めて貰えました」
エルは『身体強化の魔術』を習ってから剣から素手の戦い方に変えた。最初は思いつきだったがダグラスの師事を受けることで才能が開花し始め、剣で戦っていたときよりも強くなったようだ。
「魔物との戦闘でもダメージを与えられるようになりました。『身体強化の魔術』と拳法の組み合わせは私に合っています。これからどんどん強くなっていきす」
「それは頼もしいね。でも、剣に未練はなかったのかい?」
「未練ですか? 特にありませんでした。槍よりも扱いやすかっただけで選んだだけです」
「それならいいけど。下手に未練があると切り替えるのが難しいからね。新しいことに挑戦することは大事だよ……」
そこまで口にして朔夜は自分の言葉に違和感を抱いた。後輩には偉そうなことを言っておいて自分はどうだろうか。朔夜の武器の長刀は自分に合っていると実感している。しかし、周りの環境はどうだろうか。母親が所属するパーティーに入ったのは母親の手助けをしたいと思いからだった。だが本当にそれがだけだった。
朔夜は自分自身に問いかける。天元槍華に所属している理由について考える。そして、その理由に思い至った。朔夜は天元槍華の外で生活するのを恐れていた。
母親のマーヤが保護した女性達を何度か見たことがあった。瞳は虚ろで身体は怪我や痣だらけだった。朔夜はそれに恐怖した。自分が同じような目に遭うのを恐れ、冒険者になったときにマーヤの手助けをすると言う言い訳をして安全な天元槍華に身を置いた。
安全な天元槍華に身を置き挑戦を恐れた。天元槍華に所属しなくても冒険者をしている女性は数多くいる。彼女達にも理不尽なことはあっただろう。しかし、そんなことに彼女達は屈することなく生きている。自分の思うとおりに強く逞しく生きている。冒険者らしく自分の思うとおりに生きている。
そんな女性達に比べて自分は生まれた場所から巣立つのを恐れた。後輩に偉そうに指導するが実は一番成長しなければならないのは自分自身だった。朔夜は今日初めてそのことに気が付いた。
「……………………エル、やっぱり明日は私も行く!」
「き、急にどうしました? 用事はいいのですか?」
「用事はたった今なくなった。だから私も行く。それとエルとナルに言うことがあるからナルを呼んできておくれ」
「ナルはジョセフの家に行っています。私と同じでジョセフにも声をかけています。トリスさんの家で合流しますけど……」
「なら、トリスの家で合流したら真っ直ぐに帰ってきて、伝えることがあるから」
朔夜はそうエルに伝えると母親のいる部屋に向かった。突然の出来事でエルは呆然としていたが朔夜に言われてとおりトリスの家に向かった。
「今日から私達もここでお世話になるからよろしく!」
「何を言っているんだお前は……」
翌日、朔夜はエルとナルを引き連れてトリスの家を訪れた。朔夜はトリスの家に着くなりエルとナルを含めた三人を居候させて欲しいと頼んだ。
「昨日で天元槍華を脱退してきたんだ。今まで天元槍華の所有していた館に住んでいたから脱退するとそこから出なくちゃいけないだろ」
「だったら宿で泊まればいいだろ」
「ぶっちゃけ金がない」
「どういうことだ? お前の実力ならそこそこ稼いでいただろう?」
朔夜は脱退する際にエルとナルを天元槍華から引き抜いた。今後はエルとナルとパーティーを組むことにし、エルとナルもそれを了承した。二人は元々朔夜に憧れて天元槍華に所属していたので断る理由がなかった。しかし、エルとナルも自分の都合で脱退させてしまったので筋を通すために朔夜が所有していた有り金を全て天元槍華に渡してきたのだ。
「後先考えないで行動するな! せめて当面の資金だけでも返して貰え!」
「大見得を切って出てきたのにそんなことできないよ。エルとナルも今お金ないみたいだし」
エルとナルはここ暫く『塔』に挑戦をしていなかった。エルが新しい戦い方を身につくまで『塔』に行くのを控えていた。しかもエルはダグラスから師事を受けるために受講料を払っていた。ナルもトリスからウォールドの魔術理論を習うために受講料を払っているので二人とも金欠だった。
「部屋だって余っているから居候が増えても問題ないだろう?」
「居候を増やすために余らせているわけじゃない。大体居候すると言うが家賃は幾ら払うつもりだ」
「クレア達に同じくらいは払うよ」
「クレア達と同じって正気か?」
クレア達がトリスに払っている家賃は雀の涙程度だ。安宿と同じくらいの値段で家賃の殆どが食費に消えている。ここで生活をするならその三倍以上の金額を出す必要があるのに朔夜は思いっきり値切ってきた。
「勿論、家の手伝いもするし、更に私が稽古をつけるよ」
「俺はお前に稽古をしている側なんだが……」
「違う、違う。私が稽古をつけるのはクレア達だ。あの子達の才能を伸ばすために私もこれからは積極的に手伝うよ。後数ヶ月もしたら限界だろう?」
「……………………」
最後の言葉は他の人には聞こえないようトリスの耳元で囁いた。トリスは何も言えなかった。朔夜の指摘は正しく、トリスはそれを解決する方法がなかった。
「その様子だと気が付いているね。さすがだよ」
「――判った。その条件なら居候を許可する。だがそのことは……」
「安心しな。時期が来るまで誰にも言わないよ」
朔夜はそう言ってトリスの手をとり居候することが決まった。
「朔夜さんとエルちゃん、ナルちゃんもここで生活するのですか?」
成り行きを見守っていたフライヤが話がまとまったところでトリスに確認してきた。
「ああ、こいつらの世話も今後は頼む。掃除や洗濯なども手伝わせていい」
「お家賃を頂いているのにそれは……」
「家賃なんてこいつらの食費でどうせ消える。一層のことクレア達も含めて当番性にしろ。それなら公平だ」
「判りました。では今後そのようにします」
「迷惑をかけるからその分賃金は上げる。ローザとダグラスそれとベネットの分も上げるからよろしく頼む」
こうして朔夜とエル、ナルが新たな住人が加わり、そのことに一番喜んだのはクレアとベネットだった。エルとナルも
「マーヤさん、朔夜が出て行きましたが、本当にこれで良かったですか?」
「ええ、問題ないわショウラン。あの子はそろそろ外の世界に出るべきなの」
「私は心配です。朔夜ちゃんも私達みたいに酷い目にあったら……」
「ファルマは優しいのね。でもそうならないように今まで教育してきたから大丈夫よ。それよりも二人には嫌な役目をさせてごめんなさい」
「マーヤさん、頭を上げてください。このくらいのこといつでも言ってください」
「そうです。私達はマーヤさんと朔夜ちゃんのためならどんなことも平気です」
「なら、夫の愚痴に付き合ってもらえるかしら? 朔夜が出て行くことを知って一晩中泣いているの。よほどショックだったみたい」
「「それはちょっと」」
「うふふ、冗談よ。でも、エルちゃんとナルちゃんも連れて行くなんて予想外だったわ。あの二人の穴埋めは大丈夫?」
「問題ありません。エルとナルは二人で行動していたので他のメンバーに影響はありません」
「ショウランがそう言うなら大丈夫ね。じゃあ二人とも今後も私に力を貸してね」
「「はい!」」
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