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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
拘う者としての時間
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大都市アルカリス 毒婦隠匿

もう10月ですね。時間が経つのは早いです。

物語は春と夏の間ですのが現実では長袖が必要な今日この頃。

体調にも気をつけながら日々を過ごして行きたいと思います。



 ジェテルーラは自宅に帰らず、妻のエイスを呼び出し高級宿にきていた。西区画と南区画の間にあるここには高級宿が幾つもあり、ジェテルーラが夫婦でよく使う高級宿にエイスを呼び出していた。


 エイスを呼び出した理由は今日の鬱憤を晴らすためだ。高級宿にあるレストランで食事をしてそのまま高級宿に泊まった。ジェテルーラは部屋に着くとすぐにエイスを求めた。何度もエイスを求め、エイスもそれに応えた。


 ジェテルーラは性欲が強い男だ。普通の女性ではジェテルーラを満足させることができない。エイスも最初の頃はジェテルーラの求めについていくことができなかった。今は身体がなれたことと魔術による回復でジェテルーラの求めに答えることができる。女として、妻としてジェテルーラを満足させることができ誇らしかった。


 ただ、ここまで性欲の強いジェテルーラの相手をしていると前妻の噂はあながち間違っていないと思ってしまう。


 ジェテルーラは二度結婚している。一度目は前妻であるネルエラと結婚した。ネルエラはジェテルーラとの間に娘のヴァランティーヌを授かったが、ヴァランティーヌが十歳、今から十年前に病死した。エイスはネルエラが死んだ後に、後妻としてジェテルーラと結婚した。


 ネルエラは死因は持病の悪化とされている。しかし、彼女の死後に変な噂が流れたことがあった。それは夫であるジェテルーラに殺されたのではないかと言う内容だ。ネルエラは病弱ではなく至って健康な女性で、持病があったなど誰も知らなかったからだ。そのため世間で変な噂が流れた。エイスは最初はただの噂だと思ったがジェテルーラと寝床を共にするようになりあながち間違いではないと思えてきた。


 ジェテルーラの性欲は強い。エイスはジェテルーラを満足させるために魔術を使い身体を回復させていた。教会の神官や司祭のような高位の魔術はさすがに無理だが、小さい怪我を治すことや自身の体力を回復させる程度の魔術なら扱えた。エイスは健康な肉体と魔術の補助があってジェテルーラの相手ができるのに、一般の女性が彼の相手が務まるとは思えなかった。だからネルエラは腹上死したのだとエイスは邪推していた。




 行為が終わり、ジェテルーラは疲れて眠ったが、エイスはまだ起きていた。隣で寝ているジェテルーラを見つめていた。エイスはこの瞬間がたまらなく好きなのだ。ジェテルーラの顔立ちは整っておりエイスの好みの顔だ。普段は凜としているが眠っているときは無防備で、その横顔がエイスのお気に入りだった。


 十年前にジェテルーラとの結婚の話が出たときは乗り気ではなかった。結婚の話が出たときのエイスはまだ二十歳でジェテルーラは三十五歳、年齢が十五歳も離れていた。幾ら父親の薦めでも、もう少し年の近い男性がよかった。だが、お見合いの席でジェテルーラを見たときエイスは一目惚れした。


 エイスからジェテルーラにアピールを繰り返し、一年間の交際を経てジェテルーラからプロポーズされた。プロポーズされたときは飛び上がるほど歓喜した。勿論、ジェテルーラの事情は全て知っていた。前妻と死別していること、娘のヴァランティーヌがいるなど全て承知の上での結婚だ。エイスの父親も結婚には当然賛成し、ワノエルティと親族になれたことにも大いに喜んだ。


 エイスの父親とエイスは魔術師至上主義者で、父娘ともに魔術師至上主義者の団体に所属していた。団体に正式な名称はなく『会』と称されていた。『会』の歴史は古くこの大陸のあらゆる国に存在する。序列(オーダー)と呼ばれる序列が存在し、外界、内界、深界と分けられている。エイスの父は内界に所属しているがジェテルーラとワノエルティは深界に所属している。


 外界は新参者で、ある程度の実績を示した者が内界に選ばれる。そして、更に深界まで到達するには実績の他に家柄などが求められてくる。魔術師の素質は遺伝するとは限らない。父親や母親が魔術師だからといって子供も魔術師の素質を受け継ぐとは限らない。逆に親族に魔術師がいなくても魔術師の素質を持つ者もいる。それゆえか『会』では何世代も魔術師を出した血統を尊い者として敬う傾向にあった。


 ワノエルティの家計のヴォルフィールは『会』の中では三番目に長い魔術師の血統である。八代目のワノエルティ、九代目のジェテルーラと続き、次の十代目の魔術師が出れば二番目に古い家計と並び、更に『永世』の称号が得られる。ジェテルーラの娘であるヴァランティーヌは魔術師の素質がないために当主に選ばれることはない。当主に選ばれるのはエイスの息子であるエドゥワールだ。


 エドゥワールはまだ十歳に満たない年齢だが既に魔術師の要素があった。日常生活でその片鱗が何度も確認されていた。ワノエルティやジェテルーラは大いに喜び、母親であるエイスを賞賛した。このままエイスが成人すれば間違いなく当主として選ばれ『永世』の名誉をヴォルフィール家にもたらすだろう。そして、親族であるエイスやエイスの父親も、深界へと属することができる。


 エイスは今の生活に満足していた。愛する夫と息子がいる。そして、輝かしい未来がもうすぐそこまで来ていた。贅沢を言えば息子にヴァランティーヌが相続する遺産も受け継がせたいと思っている。ヴァランティーヌの母方の莫大な遺産までもエドゥワールに渡すことができれば、地位、名誉、富、全てが愛する息子の手に渡るのだ。




 ジェテルーラとエイスが出掛けているヴォルフィール家はヴァランティーヌとエドゥワール、住み込みので働く使用人達しかいなかった。ワノエルティの部屋はあるが、ワノエルティ用の邸宅があるのでそこで暮らしている。西区画の中央付近にあるこの邸宅には家族四人と使用人数人が暮らしていた。


 ヴァランティーヌはエドゥワールと一緒に留守番をしていた。父と継母は月に何度か泊まりがけで出掛けるのでいつも通りと言えばいつも通りの日常だった。ヴァランティーヌはリビングで趣味の編み物をしながら使用人に絵本を読み聞かせて貰う弟を遠目で見ていた。


 ヴァランティーヌとエドゥワールは異母姉弟のせいか余り仲はよくなかった。いや、姉弟仲だけでなく家族の仲でもヴァランティーヌは浮いていた。祖父であるワノエルティはヴァランティーヌに興味はなく、継母であるエイスは息子のエドゥワールしか見ていない。そして、父のジェテルーラはヴァランティーヌを政略結婚の道具として扱っていた。


 ヴォルフィール家は魔術師の家計だ。ヴァランティーヌ以外は皆魔術師で弟のエドゥワールも魔術師の素質があるようだ。そのためのヴァランティーヌは家族からおざなりな扱いを受けていた。実母のネルエラが生きていた頃は良かった。ネルエラは父親は貴族であり大商人だ。そのため、ヴォルフィール家に多額の援助を行っていた。その頃は父親のジェテルーラもヴァランティーヌを愛し、今よりも気に掛けてくれていた。


 しかし、ネルエラが死んだことにより大きく変わった。ネルエラが死んだのはまだ三十歳を過ぎたばかりでだった。若くして亡くなったことにより、母方の祖父は大いに嘆いた。一人娘だったネルエラを溺愛していた祖父は腹いせからか今までの援助を半分以下まで減らされた。本来ならヴァランティーヌを引き取るはずだったが、ヴァランティーヌがまだ幼くその頃は父親と離れるのを嫌がったのでジェテルーラに引き取られた。


 それから十年間は様々なことがあった。母の死んだ数年後にジェテルーラはエイスと再婚した。エイスもエドゥワールが生まれる前はヴァランティーヌを実の子のように可愛がってくれた。けれど、エドゥワールが生まれてからはヴァランティーヌを気に掛けることはなくなった。ジェテルーラも余りヴァランティーヌを気に掛けなくなり、エドゥワールが魔術師の素質があると判明すると皆の態度が一変した。


 ワノエルティやジェテルーラ、エイスは皆がエドゥワールを溺愛した。エドゥワールが成人すれば正式にこの家の当主となり、ヴァランティーヌはその前にどこかに嫁がされることになるだろう。既に二十歳を迎えているので、良い縁談があれば父や周りの大人は話を薦めてくるだろう。現に五年前に成人したときに縁談の話が幾つかきたのだ。まだ、成人したばかりだったのでそのときは断ることができた。だが今はそうもいかない。母方の祖父に助けを求めれば手助けはしてくれるだろう。しかし、ネルエラが死んだときに一度祖父の保護を断っていたので今更になって助けを求めるのは図々しいと思っていた。


「エドゥワール様、そろそろお休みの時間ですよ」

「まだ、もうちょっとだけ」

「ですが、明日寝坊してしまいますよ」

「いいの。寝坊したら学舎を休むから」

「そ、それはいけません」

「いいの、僕が決めたの!」

「私達が奥様に叱られてしまいます」

「そんなの僕は知らないよ」


 ヴァランティーヌの耳にエドゥワールと使用人の会話が入ってきた。そろそろ寝る時間なのにエドゥワールが我が儘を言い始めていた。エドゥワールは周りの大人達の所為か少々我が儘に育っていた。自分の思うとおりにならないと、すぐに我が儘を言う。相手をしている使用人は申し訳なさそうにヴァランティーヌを見ていた。


 エドゥワールに注意するのは母親のエイスかヴァランティーヌだけだ。ジェテルーラは育児をエイス任せにしており、使用人達は雇われている関係で余り強く意見を言えない。母親のエイスがいないときは決まってヴァランティーヌがその役目を負っている。そうなると自分を注意するヴァランティーヌをエドゥワールは毛嫌いするようになり、姉弟の仲は悪くなる一方だった。




「お嬢様、私達はこれで失礼します」

「御苦労様です。明日もよろしくお願いします」

「はい、失礼します」


 使用人たちはヴァランティーヌに挨拶すると自分たちの部屋に戻っていった。ヴァランティーヌは編み物をきりのいい所まで行うのでリビングに残った。エドゥワールが我が儘を言い始めあとヴァランティーヌがエドゥワールを注意し、何とか自室に行かせ寝かしつけた。使用人たちも明日も朝早くから仕事があるので下がらせた。


 ヴァランティーヌが編み物をするのは現実逃避に近い習慣になりつつあった。昔の母親との懐かしい記憶を思い出し、記憶の中に逃避するようになっていた。楽しかった昔に戻りたいといつの間にか願うようになり、ヴァランティーヌの心は少し病んでいた。


 悩みを打ち明けられる友人か恋人がいれば多少は違っていたかもしれないが、ヴァランティーヌの友人は皆結婚しそれぞれ家庭を持っていた。中には子供も授かり育児で苦労している友人もおり、そんな彼女達に迷惑を掛けてしまうのではないかと遠慮していた。相談できる恋人もいなかった。


 ヴァランティーヌは母方の祖父から多額の遺産を相続することになっていた。祖父とは一年に一度しか逢えないが祖父はヴァランティーヌを溺愛している。一人娘のネルエラの忘れ形見であるヴァランティーヌに自分が貯めている資産を死後に譲るようにしている。他の親族と揉めないよう他の親族にも見合った額の資産を既に渡していた。そのためかヴァランティーヌにいい寄ってくる男の多くは遺産が目当てだ。中にはヴァランティーヌの容姿や性格に惹かれ告白する男もいるが、ヴァランティーヌにはそれを区別することはできなく全ての告白を断っていた。


 ヴァランティーヌは周りはそんなことになっており、ヴァランティーヌの精神的な負担は大きく、次第に心が病んでいた。エドゥワールが妹であったならもう少し接し方が変わったのかもしれない。同性のだったらもっと違う接し方ができたのかもしれないが、それも意味のない仮定でしかなかった。


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過去の投稿もちょくちょく修正を行っています。

設定などは変えずに誤字脱字と文章の校正を修正しています。

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