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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
拘う者としての時間
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大都市アルカリス 禍津災我

新章突入です。

この章ではトリスに関わる人達との話です。

ですがその前に刀の事を先に書きます。

トリスがガゼルと食事をした翌日、宿屋に一泊したトリスは朝食をガゼルと一緒に食べ、そのまま家に戻った。ガゼルは一ヶ月後にこの都市に引っ越して来ると言い、ここでの生活を楽しみにしていた。一年前はベットから出れなかった程衰弱していたのに、今は年齢を感じさせない程に精力的に活動していた。妻のティナもガゼルの回復には大層喜んで、トリスに何度もお礼を言っていた。


(来月からはガゼル来るとなると色々計画を見直した方がいいな。ガゼルを計画に取り込まないと不確定要素が出てしまう。)


トリスは今後の事にガゼルを巻き込むことにしていた。ガゼル程の大物を野放しにするにはリスクが高過ぎるので敢えてこちらの陣営に巻き込み事にした。もっとも賢明なガゼルがトリスの思う通りになるとはトリスも思っていないので敵対しないようにすればいいと妥協もしていた。


トリスがそんな事を考えながら家にたどり着くと家の前にリズがいた。リズは家に入ろうと門の扉を開けようとするが何故か躊躇し、手に持っていた紙を見直しそれを何度も繰り返していた。


「リズじゃないか。何か用事か。」

「トリスさん、良かったぁ。間違ってなかった。」

「間違って無かった?」

「あ、いえ、あまりにも立派なお家だったから違うお宅だと思っていました。」

「そうか、ありがとう。それでリズ何の用で来たんだ?」

「刀が出来上がりましたからそれをお知らせにきました。」

「出来たのか?」

「はい、今朝方に出来上がりました。」


リズは満面の笑顔を浮かべながらトリスに報告するが、目元には隈があり、髪の毛に艶はなく何処か疲れ切った様子だ。


「リズは寝てないのか?」

「徹夜明けです。でも、トリスさんに刀を渡したらゆっくり休みます。親方と美味しい物を食べて、お風呂に入ってゆっくり休むつもりです。」

「そうか、ならいいが無理をするなよ。」


トリスはこれ以上リズに負担を減らす為に今から親方の店に行くことにした。


「これから店に向かうがいいか?」

「はい。助かります。では途中で朔夜さんの処に寄っていきましょう。」

「朔夜も呼ぶのか?」

「朔夜さんも刀の出来栄えを気にしていました。紹介したのに粗末な物を渡したら朔夜さんの信用に関わると言っていました。」

「そうか。ならここで待っていてくれ確か昨日家に泊まった筈だ。」

「昨日、泊まった? 朔夜さんが? トリスの家に?」


何やらトリスの言葉に誤解をしたリズを置いて家の中に入った。トリスが帰宅するとベネットが出迎えた。たどたどしくトリスを迎えたベネットにトリスは労いの言葉を言い、朔夜を呼んでくるように指示した。ベネットはトリスの言いつけを直ぐに実行し、急いで朔夜を呼んできた。


「お帰り。それであたしに用事って何かあったのかい?」

「朔夜、リズが外で待っている。今すぐに出掛けれらるか?」

「リズがいるってことはついに出来たのかい?」

「ああ、出来たみたいだ。」

「そう言うことなら直ぐに出掛ける準備をしてくるよ。ちょっと待っていておくれ。」


朔夜はそう言うと出掛ける準備するために部屋に戻り、トリスはベネットにまた出掛けて来ると託を言い、昼食までには戻ることも伝えた。朔夜は言葉通りに直ぐに身支度を整え、トリスはリズ、朔夜と共に親方の店に向かった。




「来たな。待ちくたびれたぞ。」


店に入ると親方が店のカウンターに座りトリス達を待っていた。親方が座るカウンターの前には二振りの刀が置いてあった。親方もリズと同じで何処か憔悴していたが、目は活力に満ちて満面の笑顔を浮かべトリスに声をかけて来た。


「挨拶はいい。それよりも一目見てどう思う?」


親方の質問は余りにも抽象的過ぎた。だが、言いたいことはトリスも直ぐに判った。黒塗りの鞘に納めある刀は刀身を出していないにも関わらず異質な雰囲気を醸し出していた。


この店に置いてある武器は親方が作った物がほとんどで、どれも希少(レア)以上の品物である。だが、カウンターに置いてある刀はそれらを寄せ付けないほどの存在感を出していた。間違いなく名刀の格を備えた逸品だとトリス感じた。


「前の武器よりも更に存在感がある。刀を手に取らなくてもそれが判る。」

「さすがに判るか。これは俺が打った刀の中で最高傑作になった。抜いてみな。」


親方はそう言うとトリスに刀を抜くように言いトリスは親方の言葉に従い刀に触れた。


刀に触れた瞬間指先に指先に痺れるような軽い痛みが走った。義手の腕は痛みを感じることはないのになぜか指先に痛みを感じた。トリスは不思議に思いながら二振りの刀を鞘から抜き両手に持った。


「不思議だ。始めて持ったのに違和感がない。刀の重さや重心が今まで持ったどの武器よりも手に馴染む。」

「嬉しいこった。そう言ってもらうと刀鍛冶師の冥利に尽きる。少し振ってみたらどうだい? お前さんの腕なら誤って棚や天井に当たることはないだろう。」


親方の好意にトリスは甘えることにした。両手に持った刀を意識を向け、一度だけ大きく深呼吸し、両方の腕でそれぞれ二回刀を振った。


「見事だ。」


親方はそう言うと指で二枚の金貨を弾いた。二枚の金貨は放物線を描きながらトリスに向かって来た。トリスは直ぐに親方の意図に気付き、右腕で二度刀を振り、左腕で一度刀を振った。


親方が弾いた二枚の金貨は地面に落ちた瞬間に六個の欠片となっていた。


「!?」

「凄い!」


六つの欠片となった二枚の金貨を見て朔夜は驚愕し、リズは称賛した。リズは落ちた金貨を拾い上げ、六つの欠片の重さと斬られた断面を確認した。


「四つの欠片は全部均等に斬られています。こっちの二枚の欠片も均等です。凄いです! 本当に凄いです!」

「親方とリズが打った刀だから出来たんだ。本当に見事な刀だ。」

「そう言って貰うと嬉しいです。トリスさん、この金貨の欠片を貰っていいですか? お守りにしたいんです。」

「お守り?」

「お守りと言うか目標です。いつか僕もこんなことが出来る刀を打てるようになりたいので。」

「ああ、そう言うことなら大事にしてくれ。」


トリスはそう言うと刀を鞘に納めたそして懐から皮袋取り出し親方に渡した。


「刀の代金だ。受け取ってくれ。」

「前金で金貨五十枚を貰っている。あれで充分だ。」

「これは鞘と柄の代金だ。こんな見事な鞘と柄は見たことがない。」


刀が納められている柄は一見鉄鞘に見えたが木で作られた物だ。軽くて丈夫な木に漆と呼ばれる塗料を塗られている。口の部分は綺麗な模様まで彫られていて、二つある鞘にはそれぞれ別の模様が彫られていた。


柄については普通の剣のような金属製の物ではなく、動物の皮を鞣した物を使い手が滑らないように細い紐が編みこまれていた。実用的であったが編み込まれた紐は美しく、これだけでも美術品として価値がある。


「その鞘と柄は親方の知り合いが作って下さった物です。親方が頭を下げて刀に見合う代物を作ってくれるように頼んだんです。」

「余計な事を言うな。」

「それならなおのことこの金は受け取ってくれ。」

「判ったよ。」


親方は渋りながらトリスが差し出した皮袋を受け取った。皮袋は前金で貰った時よりも倍以上に重たかった。親方は『貰い過ぎだ。』と言いそうになったがそれは口には出さなかった。この金はトリスからの気遣いと依頼だと判ったからだ。


これからまた、昔のように店を盛り上げて行く必要があり、それにリズを一人前に鍛えなければならない。その事を考えると金はあっても困らない、むしろ今まで以上に必要になる。トリスもそのことに気付き大金を親方に托したのだ。


「ありがたく受け取っておくよ。それと刀の手入れは定期的に請け負う。リズを鍛える為にするから格安にしとくよ。」

「ありがとう。いい刀を打てくれて本当に感謝する。」


(感謝したいのはこっちだ。腐っていた俺をまた鍛冶師に戻してくれたお前さんには本当に感謝している。)


口には出さなかったが親方は心の中でトリスに感謝した。


「親方、刀の銘については言わないのですか?」

「ああ、そうだった。年を取ると忘れっぽくていけねぇ。」

「銘?」

「ああ、いい刀には銘をつけるんだ。この刀にも銘を付けた。」

「何と言う?」

彩華(さいか)だ。」

「さいか?」

「俺の故郷で使われる文字でこう書く。」


親方は紙に『彩華』と書き、トリスに見せた。


「これは漢字だな。表語文字で確か一つ一つの文字により、言語の一つ一つの語や形態素を表す文字体系だ。」

「知っているのか?」

「ああ、この文字の意味だと美しい色を指す文字と花びらが綺麗に咲き乱れている様子を指す文字が使われている。」

「その通りだ。意外と博識だな。」

「誉め言葉として受け取っておくが、刀の名前に付ける銘では無いと思うが。」

「まあ、刀の銘は少し華やかな方がいいのさ。ただでさえ刀は血生臭い物だ。銘くらい華やかな方がいいのさ。」


そう言って親方は誤魔化したが、実際の刀の銘は違う。本当の刀の銘は『災禍』と言い、厄を表す二つの文字を組み合わせが刀の正式な銘だった。




親方がこの銘にしたのには理由がある。刀を打っている時に完成した刀を持つトリスを想像した時にある神の伝承を思い出した。親方の故郷に伝わる厄の神、『禍津災我(まがつさいが)』の伝承を。


親方の故郷の伝承では全ての災いはこの神が起こし、全ての禍はこの神からの賜わる事。彼の神の身体からは災害、疫病、事故が津の様に溢れ出て、生きる者全てが嘆き悲しむ様子を見守る厄の神。


親方は厄の神の伝承を思い出し、この刀の銘を『災禍』とした。何故そう決めたのかは判らない。だが『災禍』と決めた時から刀が生きている様な脈動を醸し出してきた。そこからの作業はまるで物を作る事ではなく、物を生みだす作業になった。親方とリズはまるで何かに憑りつかれた様に刀を作り、気が着くと二振りの刀が出来上がっていた。


二つの刀は親方が打ったどの刀よりも美しく、親方の最高傑作と言っても良い出来であった。だが、刀につけた銘があまりにも不吉だった為に、親方は同じ読み方だが違う意味の『彩華』の名を仮の銘とした。リズにも刀の本当の銘は告げておらず、親方は誰にも本当の銘は言わず刀の(なかご)に文字を刻んだだけだった。


厄の神、『禍津災我』の名から付けた二振りの刀『災禍』。この刀を携えるトリスがこの大都市でどんな事を成すのかは親方には判らない。だが、どんな事が起きようとも自分の刀がトリスの役に立てばいいと親方は願っていた。



コロナの感染者が連日200人を超えています。私はまだ影響はありませんが気をつけるようにしています。


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