大都市アルカリス 潜入と微笑
今日は二回投稿します。まずは一回目です。
諸事情でしたが家のルーターが壊れて暫くWi-Fiが使えませんでした。
通販で良い物を見つけて今は順調です。
ベネットがトリスの家に引き取られて十日が経過したいた。最初の頃は借りてきた猫の様に大人しかったベネットは今ではよく笑う様になり、仕事も順調にこなしていた。懸念していた体調についてもトリスが診察したところ原因も直ぐに判り、トリスが処方することで普通に生活がおくれていた。
ベネットの仕事はフレイヤとローザの補助であるが子供と言うことで作業は昼食をまでで、それ以降は自由にさせた。自由と言ってもただ遊んでいるだけではなく、文字の読み書きや計算の方法などと言った一般の勉学を手が空いている人に教わっていた。
以外にもベネットの世話を一番よく見ていたのはクレアとジョセフだった。クレアは幼少の頃に娼婦達の子供が集められていた施設にいた為に子供の面倒を見るのが得意だった。ベネットを妹の様に可愛がり勉強や面倒をよく見ていた。
ジョセフも似たようなもので母親が仕事をしている時に施設に預けられていた。施設では自分よりも小さい子供がいて、クレアと同じように子供の面倒を見るのは得意だった。その反面に子供の扱いに慣れていなかったのが朔夜とエル、ナルの天元槍華のメンバー達であった。
ベネットを歓迎しよとしていきなり子供に武器を持たせようとした朔夜。勉強を教えようとして逆に計算の間違いを指摘されたエル。テーブルゲームで完敗して泣きそうななったところを逆に慰められるナル。など女性でありながら子供の面倒を上手に見れない朔夜達は暫く落ち込むことになった。
そのような出来事があったがベネットはトリスの家に来てからは楽しく穏やかな日々を過ごしていた。
一方のロバートはザックのサポートとして一緒に街で情報収集を行っていた。一人で行動するのは危険なので常にザックと行動し、ザックが手が回らない時は護衛としてダグラスが付き添った。少し窮屈な思いもしているかとトリスが心配したが、今までは自分が望まない仕事をして、さらに従姉達の事やベネットの心配をしていたので、それに比べれば大したことは無いと笑った返事をするくらいロバートも今の生活を気に入っていた。
そんな日々を過ごしていたある日、またしてもトリスの家に侵入してくる者がいた。
月の明かりが無い新月にカドルは黒い外套を羽織り夜の街を歩いていた。新月の為に外に出歩く人は少なくカドルは夜の街に溶け込んでいた。カドルが目指しているのはトリスの家で、今からトリスの家に侵入しトリスの命を奪うのだ。
この数日間、カドルはトリスは殺害するためにあらゆる計画を練った。だが、トリスはここ最近はあまり外出しない。冒険者なら三日に一度の割合で『塔』に挑戦するために外出するが、トリスは新しい武器が出来上がるまで『塔』に行く様子はない。外出しないトリスの命を狙うにはロバートの様にトリスの家に襲撃するしかない。だが、安易に襲撃しても返り討ちに会うだけだ。カドルはこの数日間、トリスの事や家の住人達の事を調べ上げ対応を考えた。
まず、部下を商人に変装させトリスの家に行かせた。トリスの家は大人数で大量に食料品を購入する。異国の香辛料や珍しい食材を買う傾向があったので部下には大陸の東で使われる香辛料を持たせた。その他にも珍しい調度品も持っていることをほのめかせるように言いつけた。
その結果、部下はトリスの家に入り込むことができた。部屋に飾る為の調度品の選定の為に部屋の外装を確認する名目でカドルの部下はトリスの家に入り、主な部屋の場所やトリスの部屋を調べることに成功した。そして、その情報を聞いたカドルは自らトリスを殺すべくトリスの家に侵入することにした。
トリスの家に辿り着いたカドルは正面の門ではなく反対側の塀がある場所に移動した。なんの変哲もない塀だがカドルは迷うことなく膝くらいの高さにある一部を手で押した。押した塀の一部が凹み塀の一部が外れた。カドルは地面に倒れる前に外れた塀を掴み音を立てないように静かに地面に置いた。
隠し通路。人が這いつくばって進められるだけの大きさの通路が塀の中に存在していた。
この家は賊などは入った際に中の住人が脱出できるように隠し通路が設置されていた。だがこの隠し通路の存在は住人のトリスですら知らないことだ。何故ならこの隠し通路は建設時に設置されたものだが建設者がこのことを隠匿したからだ。隠匿した理由までは知らないがこの家を購入者や管理者に知らせれていない。
ではなぜカドルがこの隠し通路を知っているかと言うと十年前の持ち主の依頼でこの家を訪れた事があり、その時にこの隠し通路を見つけたのだ。普通に生活している分には判らないが、カドルは密偵の仕事の為に家の造りを必ず把握するようにしていた。家の大きさと内部の広さが一致しているかを確認し、その際に家の中の造りで違和感を覚えたのだ。
当時の持ち主にその事を報告すると違和感の正体を調べるように言われ、家を隈なく調べたところこの隠し通路を見つけたのだ。持ち主には当然この隠し通路のことを報告したが、持ち主はその事を秘匿し、家を売り払う際にもこの隠し通路のことは誰にも話さなかった。その為、この隠し通路の存在は当時の持ち主とカドルしか知らなかった。
カドルは隠し通路に入ると迷うことなく進んだ。暫くするの通路が開け階段が見えた。カドルはそこで一度自分の装備を点検した。投げナイフに愛用の短剣。そして、刃に塗る為の毒と念のための解毒薬があることを確認して魔術道具を身につけた。魔術道具は暗視用の魔術道具で暗闇でも使用者には十分な視界を確保してくれる。カドルは準備を整え三階にあるトリスの部屋に向かった。
隠し通路の階段は全ての階に行ける仕組みになっているので、カドルは足音を立てないように三階まで行き、気配を忍ばせながら一番奥の部屋にあるトリスの寝室に向かった。
トリスの寝室の前に来るとカドルは一呼吸し、扉のノブに触れた。ノブのゆっくり回し鍵がかかってないことを確かめ扉を開けた。広い部屋の奥にベットがあり、ベットの上にはトリスが寝ていた。部下の調査に間違いは無かった。
カドルは投げナイフを取り出し慎重に毒を塗った。
ナイフに塗った毒は例え急所を外したとしても手傷さえ負わせれば死にいたる程の毒だ。カドルは狙いを正確に定めナイフを投げた。カドルの手から離れたナイフは一直線に進み見事にトリスの胸の辺りに刺さった。会心の手応えを感じた。カドルはナイフを回収するためにベットに近づいた。
「ナイフ投げは相変わらず上手いな。」
カドルがベットに近づくとトリスが話しかけてきた。カドルは直ぐに愛用の短剣を抜きトリスから距離をとった。トリスはカドルに驚きもせずにそのまま起き上がると左手でナイフを抜き、ナイフを投げ捨てた。トリスは右手を胸の前で構えていた。ナイフはトリスの胸に刺さらず右手の甲に刺さったようだ。
「運のいい奴め。」
「運じゃないさ。お前は必ず胸を狙うと思ったから事前に構えていたんだ。」
「減らず口をたたくな。」
「別に減らず口じゃないさ。」
カドルがわざわざ声を出してトリスに話しかけているのは毒の効くのを待っているからだ。確実に殺せる毒を選んだが人によっては即効性に欠ける。だが、毒の効果が出てくればトリスは立つことも喋ることも出来なくなる筈だ。カドルは少しでも時間を稼ぎ毒の効き目が出るまで待つことにした。
トリスはベットから立ち上がると右手で光を作り部屋を照らした。カドルは直ぐに魔術道具を目から外した。僅かな光量を増大する道具なのでトリスの光を直視すれば目が焼けてしまうからだ。トリスが作った光はトリスの手から離れ天井まで昇った。
「口元の布は外さないのか? カジノオーナーさん。」
「ロバートの奴が喋ったのか。」
「普通は言うだろ。自分を見限った奴の事なんて。まあ、ロバートが死んだと思わず信じていれば結果は変わったかもしれないがな。」
「よく、喋る口だ。」
「そいつはどうも。それよりも何時までそうしているつもりだ。短剣を構えたのに斬りつけて来ないなんて。俺はこの通り丸腰だぞ。」
「・・・・・・。」
トリスはカドルを挑発するがカドルはその誘いには乗らなかった。それよりも平然と話すトリスことが気になり始めた。人によっては即効性に欠ける毒だがいくら何でも効果が出てくるの遅すぎる。そろそろ眩暈や呂律が回らなくなる筈なのにトリスはそのような素振りは見せなかった。
カドルは慎重にトリスから視線を外し、トリスが投げ捨てたナイフを見た。ナイフには毒が塗った痕跡が確かにある。トリスの右手の甲に刺さっていたのは確かだ。一瞬だがトリスの右手の甲にはナイフが刺さった痕があった。カドルはそこまで考えて違和感を感じた。投げ捨てられたナイフに血が付着していない。
トリスの右手からも血が出ていない。身体に刺さったナイフを抜けば血が出てくる。ナイフにも血が付着する筈だ。それなのにその痕跡が一つもない。理由は判らないが『ナイフはトリスの身体を傷つけていない』とカドルは自分のナイフが外れた事に気が付いた。
「どうした。急に焦った顔なんかして。」
「うるさい!」
自分の心情が顔に出てしまった事にカドルは後悔しながらもう一度心を静めた。ナイフが外れたことは仕方がない。今はトリスの命を確実に奪う為に行動するべきだと自分に言い聞かせた。
カドルは今、右手で短剣を持っている。左手は空いているが袖の下にナイフを隠している。このナイフには毒は塗っていない。牽制用に使う物でカドルの得意とする戦法だ。
左手に隠したナイフを相手に気付かれることなく目元に向けて投げる。生き物は急に顔に物が飛んでくると必然的に顔を庇う。それは人間も同じで、その隙をついてカドルは短剣で斬りつけるのだ。短剣には毒が塗ってあるので投げたナイフはあくまでも囮。本命は短剣で傷を負わせること。この戦法はカドルが冒険者時代に編み出し技で本来は魔物を仕留める為に編み出した技だ。
カドルはトリスに悟られないようにナイフを投げるタイミングを待った。一方トリスはカドルが何も行動をしないことを気にした様子もなくカドルの出方を伺っていた。そんな余裕のある態度をとるトリスにカドルは内心苛立っていたがカドルは自制しナイフを投げるタイミングを待った。
一瞬とも永遠とも思う時間が過ぎトリスの視線が僅かにカドルから外れた。カドルはそのタイミングを逃さず左手でナイフを投げた。
ナイフを投げた瞬間、カドルは確信した。何千、何万回とナイフを投げたカドルには投げた瞬間に手応えが感じた。カドルの理想通りにナイフはトリスの目元に向かい、カドルもナイフを投げたと同時にトリスに斬りつける為に地面を蹴った。
トリスにとっては不意に投げられナイフで普通であればナイフを躱そうとする。だが、トリスはカドルの投げたナイフを避けずに正面からナイフを受け止めた。そして、斬りかかって来たカドルに対しても難なく短剣を躱して、カドルの足を払い転倒させた。まるで予めカドルの戦法を知っているような動きだった。
トリスは転倒したカドルの背中を思いっきり踏みつけた。
「ぐっはぁ」
「初見では効果のある戦法だが生憎俺には通用しないぞ。」
トリスはカドルを踏みつけながら言い放った。背中に受けた衝撃でカドルは呼吸がままならない。抵抗しようにも呼吸が上手く出来ないために抵抗することが出来ず、出来るのはトリスを睨みつけるだけが唯一の抵抗だった。
「さて、どうして俺の命を狙った。喋れるようになるまで待ってやる。」
トリスはカドルを踏みつけている力を緩めた。だが、カドルが起き上がれないように身体の重心は抑えている。起き上がる事が出来ないカドルは反撃の機会を待つためにトリスの言う通りにするしかなかった。呼吸が落ち着いてきたところでカドルは話しを始めた。
「お前を狙ったのはリューグナーのモンテゴから依頼されたからだ。目障りだから始末して欲しいと言われた。」
モンテゴに罪を擦り付ける為にカドルは敢えてモンテゴの名を出した。
「そうか。口ではああ言っていたが腹の中は違ったか。それで他には。」
「他ってなんだ。」
「勿論、俺を狙った本当の理由さ。依頼だけじゃないんだろう。」
「・・・・・・どういう事だ。」
「どうもこうも無いさ。小心者のお前なら殺害を指示したことがバレたらそのままにしておくことはしないと思っただけさ。
俺からの報復が来ると思っただろ。報復される前にケリをつけたい。殺さる前に殺す。お前はそう考えた。違うか?」
「ふざけるな! いい加減なことを言うな。赤の他人の貴様に俺の何が判る!」
「判るさ。お前の故郷はスーサで仕立て屋の次男として産まれた。成人した時に家出同然でこのアルカリスに来た。最初は単独で冒険者をしていたが、数年後に同郷の者とパーティーを組んだ。金遣いが荒くよく金欠に困っていた。」
「俺の事を調べたのか!」
「調べてなんかいないさ。昔から知っていただけさ。」
「昔から? どう言うことだ。」
「密偵の割には察しが悪いな。カドル・ガッスパー。」
トリスに名前を言われカドルはその呼び方に懐かしさを覚えた。遠い昔、親しみを込められて何度も呼ばれた自分の名前。それは記憶の彼方に追いやっていた思い出を呼び起こし、トリスの顔が自分が親しかった者の顔と一致した。
「お、お前は。お前はエドモス。エデモス・ダンテ。」
「正解だ。ようやく気が付いたようだな。変装もしていなかったのに誰も気が付かなかったのは笑えたよ。二度と思い出したくないのか、それとも本当に忘れていたかのどっちらなのか知りたいな。」
トリスは昔を懐かしむように嬉しそうに微笑んだ。
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