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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
強者としての時間
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大都市アルカリス 邂逅と幸福

(これは夢なの?)


ベネットはまるで夢を見ているのかと錯覚していた。目の前にはたくさんのご馳走が並べられて好きなだけ食べて良いと言われた。どの料理も美味しそうでどれから手を付けていいか迷う程だ。今までの生活ではパンと野菜が入ったスープが殆どで肉や魚は滅多に食べられなかった。


昼前にロバートの従姉のリーシアに引き取られ今まで住んでいたところから屋敷の様な立派なこの家に連れて来られた。そこでは大人達が優しく迎えてくれて自分の身体を綺麗に洗い、綺麗な服を着せてくれた。自分をここへ連れて来てくれたリーシアが言う通りだった。




ベネットはロバートが死んだことを聞かされてから数日の間ずっと落ち込んでいた。そんな時にオーナーに呼ばれ部屋に行くと見知らぬ女性がいた。オーナーからこの女性がベネットの引き取ることになったと告げられた。ベネットはついにこの時が来たと絶望した。


ベネットは物心ついた時からここで働かされていた。病弱なベネットは何度も寝込むことがあったがそれでも自分の食い扶持は自分で稼がないといけなかったので精一杯生きてきた。


大人達の会話を盗み聞きして自分の境遇も少しは判っていた。自分はまだ十歳だが好色家や幼女趣味のある貴族や富豪達に引き取られる可能性はあった。今まではロバートの身の回りの世話をしていたがそのロバートがいなくなり、いつか売られてしまうことを感じていた。


そして、その日が訪れた。オーナーに告げられて最低限の自分の荷物を持って長年住んでいたところを後にした。この場所から抜け出したいと何度も思ったがこうして出ると少し寂しく思う自分に驚きながらベネットは新たな住む場所に向かった。


引き取った女性と道を歩いているとベネットはあることに気が付いた。最初にあった時は自分が売られた絶望で女性をあまり見ていなかったが、改めて見てみるとベネットを引き取った女性は何処かロバートに雰囲気が似ていた。


あり得ないと思いながらベネットは極小の希望にベネットはすがった。


「失礼ですがお姉さんはどなたですか?」

「これから行くところより私の事が気になる?」

「はい、失礼ですが知っている人に似ていたので。」


恐る恐る尋ねるベネットに女性は優しく答えベネットの手を握ってくれた。女性の手は暖かくベネットは女性の顔を見上げた。女性の瞳に自分の姿が移り、そしてその瞳はベネットがもっとも信頼しているロバートとそっくりだった。


「お姉さんはロバートの知り合いですか?」

「ええ、そうよ。あの子の従姉よ。」

「もしかして、リーシアさんですか?」

「よく判ったわね。その通りよ。私の名前はリーシア。ロバートがお世話になったようね。」

「はっ、はい、私の方がロバートにはお世話になりました。」


極小の可能性が現実となり、ベネットは嬉しくて満面の笑みを浮かべた。しかし、ロバートの事を思い出しベネットは直ぐに辛そうにして黙ってしまった。ベネットはロバートのことを思い出すと胸の奥にある辛さを思い出してしまう。そんなベネットを見守っていたリーシアは「今から行くところはとても良いところだから大丈夫。」と言いそれ以外は敢えて何も言わずにベネットの手を放さないように強く握りトリスの家に向かった。


リーシアとベネットがトリスの家に着くとロバートが家の扉の前で待っていた。ロバートはリーシアとベネットを見つけると大きく手を振りベネットの名前を呼んだ。ベネットはロバートの幽霊でも見ているのかと思ったがロバートがベネットのところまで来て抱きしめた。


「ロバート、生きていたの?」

「うん、心配かけてごめんね。」


ロバートはベネットを抱きしめ何度も謝った。ベネットは抱きしめられたロバートの温もりを感じていると目から涙が溢れ出て来た。大好きなロバートがこうして生きていたことが嬉しくてベネットは大声で泣いた。


ベネットの大声を聞きつけ家の中から大人達が何人か出てきた。泣いているベネットをロバートがあやしている姿を見た大人達は優しくベネットを家に迎え入れてくれた。


家の中のリビングでベネットが落ち着いたところでロバートはこれまでにあった事をベネットに話した。この家の主人であるトリスの命を狙ったが逆に助けられここで働くことになったこと。ベネットもトリスに引き取られここで働かせてもらえること。これからはここで一緒に暮らしていけることを話した。


ベネットは半信半疑だったがロバート周りにいる大人達がベネットの世話をやいてくれた。薄汚れているベネットを暖かいお風呂に一緒に入り身体を綺麗に洗ってくれた。


洗ってくれた人はフレイヤとローザ、そしてクレアだった。姉妹にしか見えないフレイヤとクレアはその時に母娘と教えてもらいベネットは驚いた。ローザは旦那さんとこの家で一緒に働いていることを教えてくれた。


皆とてもいい人でベネットは自分がこんなところに引き取られたのは何かの間違いだと思ってしました。だがそんなことは序の口でお風呂からでるとベネットには新しい服が用意されていた。


ベネットが今まで与えれた服はお世辞にも良い物では無かった。どの服も古着屋で捨て値で売られているもので補修されているのが当たり前で、酷い物は破れたままになっており自分で補修したことも何度もあった。それなのに今用意されているのは新品の物で下着から上着まですべてが着心地が良かった。


ベネットが服に驚いているとクレアが手を繋ぎ食堂に案内してくれた。食堂の扉を開けるとテーブルに所狭しとご馳走が並べられていた。ベネットは思わず喉を鳴らすとクレアは苦笑しながらベネットを椅子に座らせ、「好きなだけ食べていいんだよ。」と告げクレアも自分の席に座った。


テーブルにはこの家の住人が全員いるようでベネットの左にはロバート、右にはリーシアが座り、正面には双子の姉妹が座っていた。ベネットは双子のことについて覚えがあり、ロバートを見るとロバートは予想通りの返事をしてくれた。


「前に話しをしたルーラお従姉(ねえ)ちゃんとレベッカお従姉(ねえ)ちゃんだよ。」

「ロバートやリーシアさんと一緒にこの国に来たんだよね。」

「そうだよ。それよりもご飯食べよう。ベネットの為に用意してくれたんだよ。」


ロバートの言う通りここにある料理は全部フレイヤとローザがベネットの歓迎の為に作ったものだ。子供が喜ぶ料理がメインで料理の匂いでベネットのお腹が痛いくらい鳴いていた。だが、ベネットは手をつけようとしない。お腹は空いているのに自分から手を付けようとはせずに手を足の上に置いて我慢していた。


「どうしたの? 食べていいだよ。」


一行に手を出さないベネットにロバートは心配になり優しく話しかけるとベネットは消えそうな声で正直に答えた。


「お洋服汚しちゃう。せっかく綺麗なのに汚しちゃったら申し訳ないです。」


ベネットはテーブルマナーなどは知らない。もし誤って洋服を汚してしまったと思うと料理に手が出せないでいた。その言葉を聞いたトリスは立ち上がりベネットに大きめのテーブルナプキンを掛けてベネットに優しく声をかけた。


「子供は遠慮しないで食べなさい。せっかく料理を作ってくれたフレイヤとローザが気の毒だ。洋服が汚れるのを気にするのはいい事だが、洋服は汚れたら洗えばいいから気にせず食べなさい。」


『トリスの言うことは聞きなさい。』とロバートやフレイヤ達に言われていた。家の主であるトリスが言うのでベネットは従い、ベネットはたどたどしくであるが料理に手を付けた。料理を一口食べるともう止まらなかった。今まで食べたどの料理よりも美味しくベネットは夢中で食べた。


一口食べるごとに『美味しいです。美味しいです。』と何度も言いながら夢中で料理を食べた。夢中で料理を食べるベネットに安心したトリス達も楽しく料理を食べを始めた。




「トリスさん、今回の件はありがとうございます。」


ラロックはそう言いトリスに頭を下げた。リーシアがベネットを引き取りに行っていた時にラロックは用事を終えてトリスの家に訪問していた。トリスからロバートの事情を聞き、さらにルーラやレベッカ起こした問題も聞かされた。この件を聞いた時はラロックも流石に血の気が引いたがトリスが今後の商談を譲歩して貰うことで手打ちになった。


その後はリーシアが連れてきたベネットを一緒に歓迎し昼食を共にしてた。昼食を取り終えるとベネットは眠気に襲われたのでフレイヤ達がベネットを寝室に連れて行き、残った者は食後のお茶を楽しんでいた。


「ラロックさん、その事はもういいので頭を上げてください。それよりもリーシアさん達はどうするつもりですか? 確か雇用するのはロバートが見つかるまでと聞きましたが。」

「それについては考えてあります。リーシアは予定通りこの都市に出す支店で働いて貰います。ルーラとレベッカは支店と本店、つまりサリーシャにある私の店との連絡係にします。連絡係と言っても月の定例報告と緊急報告が無ければ基本はこの都市で働きます。」

「そうですか。それなら今度は離れ離れになることはありませんね。」

「ロバートが見つかったので暫くは一緒にさせます。二年近くも離れて離れになっていましたから。」


ラロックはそう言うと残ったお茶を飲み干した。


「それと支店のことでトリスさんにお話があります。」

「なんでしょうか?」

「実は支店の責任者がガゼル様になりました。」

「ガゼル様が! どうしてそんなことに?」

「実はガゼル様が体調が戻りその事は喜ばしい事ですが、どうも時間を持て余しているようです。病が無ければまだ現役で働ける筈でした。その事を息子のデイル様と妻のティナ様に相談されていました。」


ラロックは困った顔をしながらトリスに話した。数日程度しかガゼルと面識がないトリスだがガゼルの人となりはよく判っていた。精力的なガゼルが病気が治り暇を持て余して公務に関わろうとしていたのだろう。しかし、今の領主はゲイルなのでガゼルが公務に関わるとやり辛くなる。そこでゲイルとティナがラロックに相談して支店の責任者にしたと流れだとトリスは予測した。


「ガゼル様は今はサリーシャの私の店で経営などを学んでいます。それが終わり次第この都市に来られます。つきましてはトリスさんにはガゼル様のことを少し気にかけて頂きたいのと住居の相談をさせてください。」

「気にかけるのいいですが住居についてはお役に立つとは思いません。土地も家もここしかありませんから。」

「いえ、住居についてはこの西区画に決まりました。丁度いい物件がありそこを購入しました。問題は生活用品です。」

「生活用品ですか?」

「ええ、この家で使われている物と同じ物を用意して頂けると助かります。」


なるほどっとトリスはラロックの依頼が判った。この家の生活用品はトリスが自作している物が多い。今、ラロックと取引を始めた洗濯機以外にも便利な生活道具がある。それらはトリスが基礎を作り、この家の住人たちから意見を聞き改良もしていた。


ラロックの狙いはそれらをガゼルに使用してもらい製品として売る為の見極めをしてもらうつもりだ。もっとも便利だから使いたいと思いもあるだろう。トリスは少し考えたが問題は無いと判断した。


「いいですよ。幾つかの品をお渡しします。」

「ありがとうございます。代金の方はお幾らになりますか?」

「ガゼル様の回復祝いと引っ越し祝いの品として差し上げます。」


トリスはラロックに欲しい品を聞き、ラロックは品物のリストを作成してトリスに渡した。ガゼルがこの都市に来ることでまた賑やかになるとトリスはそう思いながら食後のお茶を堪能した。



いつも通り、誤字脱字の指摘や感想などを頂けるとありがたいです。

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