大都市アルカリス 女傑と幼馴染
何とか今日の更新に間に合いました。
本日二回目の投稿です。
「ただいま戻りました。」
「遅くなりました。」
エルとナルは自分達が所属する『天元槍華』の館に帰ってきた。時刻はまだ二つ目の昼の鐘が鳴ったばかりで冒険者が帰還するには早い時間だ。だが昨日から『塔』いた彼女らにとっては遅い帰還だった。
「おや、朝帰りかい?昼は回っているから昼帰りかな。」
エルとナルを出迎えたのはサブリーダーの朔夜だった。朔夜は館の入口にあるテーブルでお茶を飲みながら二人を出迎えた。
「この時間に帰ってきたと言うことはついに乙女を卒業したのかね。今日の夕食はお赤飯でも炊くかい?」
「ち、違います。私達はまだ乙女です。」
「おやおや、まさか男の裸を見て気絶したのかい?駄目だね。そんなんじゃ男に愛想をつかされるよ。」
「だから男の人とは寝ていません。」
朔夜の言葉にナルが過剰に反応する。
朔夜はこうやってパーティーの仲間を揶揄う癖がある。相手が過剰に反応するとさらにエスカレートするのでエルの様に何も言わないのが一番の良い対処である。しかしナルは過剰に反応してしまいさらに朔夜に揶揄われてしまった。
ナルは必死になって否定するが朔夜はあの手この手でナルを揶揄う。そんなやり取りがしばらく続いたが、一頻ナルを揶揄った朔夜は満足したのか、今度は天元槍華のサブリーダーとしてエルとナルを出迎えた。
「さて、冗談はおいておいて、二人ともよく戻ったね。実際は心配していたよ。」
「「ご心配をおかけしました。」」
エルもナルも朔夜の気遣いに気が付き素直にお礼を言った。
「いいさ。無事に戻ったんだから。それで何があったんだい。言いたくなければ無理には聞かないけど。」
「私とナルは九階層で道に迷いました。それで時間までに戻る事が出来なくて『塔』で野営をして過ごしました。」
「ほぉ、『塔』で野営したのかい?でもその割には元気そうだけど。それに野営したなら戻るのも少し遅い気がする。」
冒険者が『塔』で野営を行うと夜行性の魔物への警戒で心身共に疲れ果ててしまう。朝を迎えると冒険者は直ぐに野営地を離れ『塔』から脱出する。だがエルとナルは疲れた様子も無く、戻って来る時間も昼を回っていたので少し遅い時間であった。
「実は九階層である人に助けられました。その人が色々世話を焼いてくれたのです。」
「その為、私とエルは無事に帰って来ることができました。」
エルとナルは昨日あった事を細かく朔夜に報告した。
「あ、あんた達、嘘をつくならもっと上手な嘘をつきな。」
「やっぱり。」
「信じて貰えなかったね。」
エルとナルの報告を聞き終えた朔夜は最初にそう言い呆れた表情でエルとナルを見た。エルとナルは半ば予想していた通りの朔夜の反応に肩を落とした。
「誰が聞いても嘘だと思うだろう。E階級が赤い猟犬の群れを倒したのはまあいいさ。新人ても何か別の職業をしていたら腕はそこそこ立つから。
でも、その後に幽霊を素手で倒して、野営地でお風呂に入って、朝まで爆睡。翌朝には助けて貰った新人冒険者の案内で紅蓮を採取したなんて、だれが聞いても嘘だと判断するさね。」
「でも本当何です。これが証拠です。」
エルは鞄から紙を取り出し朔夜に渡した。朔夜はその書類を見るとそれはギルドの証明書であり、エルとナルがC階級に上がる為の試験の一つである『規定数の紅蓮を収めた受領証明書』だった。
受領証明書の日付も今日の日時が書かれており間違いなくエルとナルは規定数の紅蓮を今日収めている。
そうなると先ほどのエルとナルの報告の信憑性は増すが朔夜はどうしてもエル達の話しを鵜呑みにすることは出来なかった。
(どうしたものかねぇ。)
嘘を言っていないエルとナル。嘘とは思っていないがどうしても納得できない朔夜。そんな三人の間にいつの間にか沈黙が訪れ気まずい雰囲気になってしまった。だが気まずい雰囲気が突然の来訪者によって破られてた。
「姐さん、お邪魔するぜ。」
行きよいよく館の入り口が開くと大男が館の中に入ってきた。館に入ってきた男は辺りを見回し朔夜を見つけると彼女の前まで近づき礼儀正しく頭を下げた。
「朔夜姐さん、お邪魔します。」
「ジョセフ、またあんたかい。毎日毎日よく飽きもしないで来るね。」
扉を開け朔夜に頭を下げた男は数日前にトリスに鍛冶職人を案内したジョセフだった。
「そこを何とかお願いします。今日こそ教えてください。」
「なになに、ジョーは姉さんに何か頼み事?もしかして天元槍華に入りたいの?」
「ダメだよ。ジョー君は男だから天元槍華は入れないんだよ。でもそっち方向に目覚めたなら仕方ないよね。」
ジョセフが突然訪問したことによって先ほどまで三人の間にあった気まずい雰囲気は霧散した。訪問してきた男がエルとナルにとっては良く知る幼馴染のジョセフだったからだ。
ジョセフはエルとナルにとっては幼馴染であり、悪友であるため、気兼ねなく接することが出来る男性であった。
朔夜にとっても歳の離れた弟のようで冒険者になる前は良く面倒を見ていた。
「うるせぇ。黙っていろ。ニセ双子。」
「また、ニセ双子って言ったなぁ。」
「私達は従姉妹だよ。似ている従姉妹だよ。いい加減覚えそうないと本当に鳥頭になるよ。」
「誰がとり・・・・・・。いや、悪かったな鳥頭で。確かに顔以外は似てなかった。すまんナル。」
そう言ってナルの慎ましい胸を見ながら「元気だせ。」と笑顔でジョセフはナルを励ました。
ナルは自分の胸とジョセフの交互に見て、最後にエルの胸を見た。平均値を上回っている従姉妹の胸を見てジョセフの言っている意味を理解した。
「シャッア!」
ナルはジョセフに向かって抜き手を放った。しかし体術があまり得意ではないナルの攻撃は簡単にジョセフに防がれた。
「おいおい、どうしたナル。急に攻撃なんかして。」
「人が気にしていることを言うジョー君には死が相応しい。」
「俺は何も言ってないぞ。なあ、エル。」
「私に振らないで。ナルも落ち着きなさい。あんたが怒る気持ちも判るからさ。」
「持っている者が持たざる者の気持ちなんて判らないでしょ。だからガサツって言われるんだよ。」
ブチッ!
エルの何かが切れた。エルの雰囲気が一瞬で幽鬼の様に変貌した。昨日に引き続きまたナルの気にしている事を言われ堪忍袋の緒が切れた。
「誰がガサツだって。」
エルはナルに近づきそのままナルの二の腕を両手で掴み拘束した。
「え、エルちゃん。ちょっと痛いんだけど。」
「大丈夫よ~。骨が碎けてもちゃんとお医者さんに連れて行くからさ。それよりも誰がガサツだって。」
エルは気にしている事をナルに言われナルを問い詰める。その様子にジョセフは自分の思った通りの展開になり満足げな表情を浮かべていた。
そんな彼らを朔夜は面白そうに眺めていた。本心から嫌っている訳ではない彼らなりの挨拶だと朔夜は認識していた。
「あんた達は相変わらずだね。」
「ガキの頃からの付き合いですから。あの二人を同時に敵対するのは分が悪いですから。互い争うように仕向けるのが一番です。
それよりも姐さん、前からお願いししている件はどうしても教えて貰う事はできませんか?」
「はぁ、私も教えてやりたいんだけど他のメンバーの手前ねえ。」
「そこを何とか。出来れば案内して戴けませんでしょうか。お礼はちゃんとしますから。
「お礼ってあんたの武器の事じゃないでしょ。」
「そうですけどでも約束した手前俺の責任でもあります。」
「口約束なのに義理堅いね。あんたが女なら直ぐにでもパーティーに入れて教えるんだけど。」
朔夜がサブリーダーを勤める。天元槍華は女性のみで構成されいるパーティーだ。パーティーメンバーの数はアルカリスでは最大級でリューグナーを凌ぐ。だがメンバーは非戦闘員の方が多くパーティーの功績では全冒険者パーティーの三位についている。
天元槍華は朔夜の両親の観月とマーヤが作ったパーティーだ。当初は他のパーティーと同じだったが母親のマーヤが妊婦を保護をしたのがきっかけで女性を保護するようになった。
最初は保護をして自立するまで面倒を見ていたが中には男性恐怖症を患った女性も何人いた。彼女達は男性から受けた仕打ちで心に大きな傷を抱えていた。心の傷は身体の傷と違い治らない事が多く、彼女達をそのまま面倒を見ているうちに女性のメンバーが大半を占めるようになってしまった。
父親の観月はもはや自分がパーティーにいるのは問題があると考え、マーヤが妊娠した折に冒険者を辞めギルドの職員として働くことにした。僅かに残っていた他の男性冒険者もその時にパーティーから抜け、マーヤはそのまま天元槍華のリーダになり女性のみのメンバーで構成することにした。
ギルド職員になった観月の伝手を使い東区画で最も大きな館を購入し裏手にある建物も購入した。館で保護した女性を寝泊まりさせ、裏手にある建物で織物や服の仕立てなど女性でも出来る仕事を与えていた。
来客を奥に入れないように玄関の前に会談用の椅子やテーブルを用意しているのも奥に住んでいる女性と接触しないようにする為だ。
そんなことを二十年以上も続けていたので天元槍華では男性蔑視の傾向が強い。
サブリーダの朔夜がなんの対価も無く男性の頼みごとを引き受けるとメンバーの中には快く思わない者が出てくる。いくら可愛い弟分の頼み事とは言えパーティーメンバーの不況を買うようなことは朔夜は出来なかった。
朔夜がそんなことを悩んでいるとナルへの折檻が終わったエルはジョセフ達の話しに割り込んできた。
「ジョーは何が知りたいの?私も協力しようか?」
「鍛冶屋を探しているんだ。東方の技術を習得している一級品の腕を持つ鍛冶職人だ。」
「ジョー君は武器を大斧から剣か槍に代えるの?確か東方の技術はその二つに特化しているよね。」
エルから解放されたナルも二の腕を擦りながら話しに参加した。
「違う。最近知り合った冒険者に教えてやりたいんだ。そいつの得物が大分ガタが来ているみたいで修復できる職人を探している。」
「知り合ったばかりの人の為に苦労するなんて相変わらずだね。」
「ジョー君見た目のせいで知り合い少ないから。」
「うるせな。別にいいだろ俺が誰の為に動こうと勝手だろ。」
「ごめん。ごめん。それでどんな人なの?ジョーの最近知り合った人って。」
「トリスって言う新人だよ。」
「「ええええええええぇっ!」」
ジョセフから思わぬ人の名前が出てエルとナルは大声を上げた。
「なんだい、エルもナルも急に大声出して。」
「ジョー君その人って黒髪、黒目で二十代半ばの人?」
「二十代半ば?ああ、あの人は見た目は若作りだけど四十歳過ぎているぞ。でも黒髪で黒目で反りがある剣を使っている。」
「「ええええええええぇっ!」」
再び先ほど同じ大声を上げるエルとナル。まさかトリスの年齢が自分達の親と同じ世代だとは思っていなかったからだ。見た目の割には落ち着いたのにも納得が出来た。
「あんた達さっきからどうしたんだい?大きな声を出して。」
「その人です。その人です。」
「私とエルが昨日助けて貰った人です。」
「なんだって!」
ナルの言葉に驚きながら朔夜は情報を整理する為、ジョセフとエル、ナルからそれぞれあった出来事を聞いた。
「世間は狭いね。」
「そうですね。」
話しを一通り聞き終わった朔夜はそう呟いた。ジョセフも相槌を打った。
「まあ、これならジョセフの頼み事も聞けるね。」
「姐さん、いいですか?」
「ああ、エルとナルが世話になった人なら誰も文句は言わないよう。今度、そのトリスと言う人を連れてきな。」
「判りました。何時頃がいいですか?」
「決まっているだろ巨大猪を倒した後さ。」
朔夜はそう言うと獲物を狩る狩人の目をして近くに立てかけてある自分の得物を見た。それは槍様に長い柄の先に反りのある刀身を装着した武器だった。父親観月の故郷の武器で薙刀と呼ばれる物だ。朔夜はこれを変幻自在に操り魔物を討伐するB階級の冒険者であった。
「近日中にあいつは出てくる。私の勘がそう言っている。早ければ明日には出てくる筈さ。」
朔夜は恋人を待つような言い方でそう言うが口元は獰猛な笑みを浮かべていた。
巨大猪はジョセフやエル、ナルにとっても関わり合いのある魔獣だ。ジョセフらはこの街で生まれ育った為、当然八年前に起きた事件にも関わっている。その事件が原因でジョセフは朔夜と知り合うことが出来た。
八年前に巨大猪が東門を破った時にたまたま家から出ていたジョセフ達は朔夜に助けられたのだ。朔夜もその時はまだ冒険者になったばかりだったが市民に被害が出ないよう巨大猪を対峙した。
その時の様子を見ていたジョセフ達は彼女に憧れ冒険者になることを決めた。それから朔夜を探しだし彼女と交流を持つようになった。朔夜は弟や妹が出来た気がして三人を本当の弟や妹のように接した。
エルとナルが冒険者になる時は自分のパーティーに加え、ジョセフについてもできる範囲で面倒を見ていた。
三人ともD階級の為、直接討伐に参加することは出来ないが朔夜の手助けを出来るように備えることにした。
そんな可愛い弟や妹の手前無様な事は出来ないと朔夜は気合を入れ直し巨大猪討伐に心を躍らせていた。
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