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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
帰還者としての時間
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大都市アルカリス 躊躇と雇用

今年もあと一日。今日は三話登録して今年の締めとします。

最後の三つ目。


冒険者ギルドを出たトリスはジョセフが案内した何人かの鍛冶師の元を訪ねていた。しかしどの鍛冶師もトリスの剣を直す事は出来なかった。


トリスの剣は無名だがかなりの業物で銘が彫られていないのが不思議な程の代物だった。これを直すにはもはや東方の技術をきちんと会得した鍛冶師でないと直せない程だった。


そうなると剣を変える必要が出てくるが、似た造りの剣はあったがトリスの手に合う物は無く、結局予備の武器を何本買って今日は帰る事にした。鍛冶師を案内したジョセフはまさか自分が紹介した鍛冶師全員が駄目だった事にひどく落ち込みトリスとの別れ際にある約束をしていった。


「今日はすまね。案内を買って出たのに全く役に立たなくてすまね。後日また案内するから待っていてくれ。今度は鍛冶師に詳しい人から色々聞いてくるからそれまで待っていてくれ。」


そう言われるとトリスはジョセフの申し出を無下に断るようなこと出来ず、再度会う約束をして今日は家路についた。

家の門を開けるとトリスは地面にある痕跡を見つけた。トリスは警戒するため探索魔術を使い家の中を確認した。




トリスは家の扉を開けるとフレイヤが奥から出迎えに出てきた。


「お帰りなさい。」

「ああ、今戻った。」

「お茶を用意しますか?」

「頼む、リビングに持って来てくれ。今後の事も話したいからお茶を一緒に飲もう。」

「はい。」


フレイヤは指示された通りにお茶の用意を始めトリスはリビングのソファーに腰を下ろした。ソファーで待っているとフレイヤがお茶と茶請けをテーブルの上に置いた。フレイヤがティーカップにお茶を注ぎトリスに差し出した。トリスはティーカップを受け取りそのままお茶に口をつけ一息ついた。

フレイヤも自分のティーカップにお茶を注ぎ紅茶を飲んだ。


「無事に冒険者登録はできた。だがまだ仮登録らしい。」


トリスは今日あったことを掻い摘んでフレイヤに話しをした。冒険者登録は無事に終わったこと。剣の修理は出来なかったことなどを今日あったことをフレイヤに話しをした。


「俺の方はこんなところだ。今のところ剣の修理は出来ないから明日から『塔』に行って階級(ランク)を上げるための活動する。」

「わかりました。」

「それでそっちは何か変わったことはなかったか?」

「私の方は・・・・・・。」


トリスにそう言われフレイヤはローザ達のことを話そうとした。彼女たちは奥の今は客室で休ませている。トリスなら理由を話せば彼女達を置いてくれるとフレイヤは予想していた。しかし、いざ話すことになるの躊躇してしまった。


病人を勝手に家に招き入れ、病気の彼女の為に風呂や客室を使用した。赤の他人、しかも病人と一緒に生活することに感情的に嫌悪する人は大勢いる。トリスもそう言った種類の人間だった場合どうなる。そう言った負の考えをフレイヤはローザ達の事を話すのを躊躇してしまった。


「何か言い辛い事でもあったか?」

「いいえ、そんなことはありませんが......」


見知らぬ病人を家に招き入れ看病しているなど知ったらトリスは激怒するだろうか?最悪三人とも家から追い出されたどうする?フレイヤの頭の中で一瞬悪い方向へ物事を予想してしまいそれが原因でローザ達の話しが出来なかった。


「それなら奥にいるのは誰だ。」

「!?」


フレイヤが話すより先にトリスは家に誰かがいることに気が付いていた。先ほどの家に入る前に使った探索魔術で奥の客室に人がいることをトリスは認識していた。もしフレイヤの客であれば彼女から話が出ると思ったがフレイヤは先ほどの会話ではないも言わなかった。


一方フレイヤはトリスがこんなにも早く気が付くとは思わず、説明するタイミングを完全に失ってしまった。どう説明すればいいか考えているとトリスは次の行動に出た。


客室の奥に向けてトリスは殺気を放ち、トリスはそのまま立ち上がり奥の客室に向かった。トリスの殺気に反応したのか一番奥の客室の扉が開き男が出てきた。トリスは間合いを一気に詰め、掛け声と共に相手の顔面に向けて拳を繰り出した。


「破っ!」

「っ。」


男はトリスの拳を躱した。だが左足が悪いのかトリスの拳を躱したところで体制を崩し倒れた。トリスはその隙を見逃さずに再度拳を男に繰り出そうとした。


「待ってください。」


奥の客室から掠れた女性の声が響いた。トリスは繰り出そうとした拳を止めた。倒れた男は何か言おうとしたがそれよりも早くトリスは奥の客室に入った。

奥の客室には顔を包帯で巻いた女性がベットに横たわっていた。


「そう言うことか。」


トリスは女性の姿を見て何かを察した。トリスに遅れてフレイヤも客室にたどり着いた。


「ダグラスさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。っと言いたいところだが左足を酷使してしまった。」

「手を貸します。掴まってください。」

「ありがとう。」


フレイヤは倒れている男に手を差し伸べ男もフレイヤの手を掴み立ち上がった。その様子を見ていたトリスは警戒を解き安心したのか一言呟いた。


「無駄な気を張ったようだ。」



トリスは三人から事情を聴くためローザがいる客室の椅子に腰掛けていた。当事者のフレイヤ、ローザ、ダグラスも部屋の中にいた。二つあるベットのうち一つはローザが使用しており、今は上半身を起こしている。それをフレイヤが支え、足の悪いダグラスはもう片方のベッドのに座っていた。


「フレイヤ、始めに言っておくが後で罰則を与える。」

「・・・はい。」


トリスは冷たくそう言いフレイヤもその言葉に頷いた。雇用主として今回のフレイヤの行動は寛容出来ないとトリスはそう判断しフレイヤを罰則することにした。


「待ってください、レイラのせいではありません。私たちがレイラにお願いしたのです。」

「病人の私たちが無理を言ってレイラを頼ったのです。」


トリスの言葉を聞き、ダグラスとローザはトリスに事実とは異なる事を伝えフレイヤを庇った。


「何か勘違いされているようだが、あなた達は現状では私の客では無い。黙って家に上がり込んだ不法侵入者だ。使用人のフレイヤが招きいれたのなら客として接するがあなた達のことはフレイヤから何も聞いていない。従ってあなた達の話しを聞く理由も従う理由も無い。」


トリスの言葉にダグラスとローザは黙ってしまった。


「しかし、今のやり取りと二人の状況で大体のことは判った。フレイヤこの二人はサリーシャの娼館にいた時の知り合いだな。」

「はい、女性はローザと言い私の面倒を見てくれた方です。男性はダグラスさんと言い店の用心棒でした。」

「やはりな。」


トリスはローザとダグラスがフレイヤの事を『レイラ』と娼婦の頃名前を呼んでいた。そのことからサリーシャで働いていた時の知人と予想し、予想通りの返答をフレイヤがした。


(お人好しのフレイヤの事だかつての知り合いと偶然再会して相手の状況に同情し、この家に連れてきたのだろう。)


トリスはそこまで推測していたがきちんとフレイヤの口から説明を求めた。


「フレイヤ、今日あったことを全部話せ。嘘だと判断した場合はそれなりの対処を俺はする。」

「判りました。」


フレイヤは今度こそ嘘偽りなく今日あったことをトリスに話しをした。

ダグラスに出会ったこと、

ローザと再会したこと、

二人をここまで荷馬車で運んできたこと、

ローザを治療しこの部屋で休ませていたこと、

どうして直ぐにトリスに話さなかったこと、などきちんとトリスに話をした。


トリスは真剣にフレイヤの話しを最後まで聞いた。そしてフレイヤが話し終わるのを待って一言伝えた。


「フレイヤ、ローザさんの病とダグラスさんの怪我が治るまではこの家で看病しろ。」

「ト、トリスさん、いいのですか?」

「手を差し伸べたなら最後まできちんと面倒をみろ。それに病人や怪我人をこのまま追い出しても目覚めが悪いだけだ。二人が完治するまでは俺の客人として扱う。」


トリスはそう言うと椅子から立ち上がりローザに近づき彼女の首に両手を当てた。ローザとダグラスはトリスの行動が判らず一瞬警戒をしたがフレイヤは『大丈夫です。』と言い二人を警戒を解いた。


トリスはローザの容体を診察した。ローザは典型的な性病にかかっていた。病気の進行はまだ初期段階で幸いな事に子宮や骨などの無事だった。これなら薬を何回か投与すれば治すことができる。。


トリスはローザの診察を終えると次にダグラスの首に両手を当てた。ダグラスは一瞬警戒はしたが先ほどのフレイヤの言葉を信じて抵抗はしなかった。


ダグラスの左足は骨が砕けた後治療がきちんとされていなかった。これでは左足が満足に動かず日常生活にも支障がでる状態だった。仮に今から治療したとしても完治するには時間がかかることも判った。

診察を終えたトリスは椅子に座り直しローザとダグラスに口調を改めてある提案をした。


「ローザさん、ダグラスさん、あなた達は先ほど言ったように病気や怪我が完治するまでここで面倒を見ます。その後はどうするつもりですか?」

「もちろん働いてお金を返します。レイラには薬の他にも良くして貰っているので薬代だけでなくかかった費用を全額返します。勿論トリスさんにもお礼はします。」

「夫と二人で必ず返します。」

「何か当てでもあるのですか?」


トリスの言葉に二人は首を横に振った。お礼はすると言ったが病が完治した後の就職先の当ては二人には無かった。


「そうですか。ではあなた達をこれから使用人として雇うと言ったらどうしますか?」


トリスの意外な言葉にダグラスやローズだけでなくフレイヤも驚いた。何故病人や怪我人をわざわざ雇うなど通常ではあり得ない。お荷物をわざわざ雇う雇用主など聞いたことが無かった。

三人の疑問にトリスはきちんと話をした。


「まず、ローズさんですがあなたの病気はまだ初期段階です。皮膚にかぶれや膿などはあるけど骨や生殖器に異常はありませんでした。薬の投与で完治することもできるが私が治療すれば明後日から普通に生活できるまで回復させることが出来ます。」

「!?」

「次にダグラスさんですが、あなたの左足の治療は通常であればだいぶ時間がかかります。ですがこちらも私が治療すれば明日の昼頃から普通の生活ができます。その代りかなり痛い思いを一晩して頂きます。」

「!?」


トリスの話しを聞いてローザとダグラスは狐につままれたような気分になった。トリスの態度から嘘や偽りを言っているようには見えない。だが本当にそんな短時間で病気や怪我が治るのか疑ってしまう。


「お二人が疑うのは判ります。詳しい治療方法は返事の後で無いと話せません。それだけこれから行う治療は私が秘匿している物です。赤の他人には教えることはできません。」

「どうしてそこまでして私たちを雇うとするのですか?」

「正直に言えばダグラスさんを雇うためです。ローザさんは現状ではおまけです。」

「どう言うことですか?」


トリスの言葉にダグラスは疑問に思った。今までのやり取りでトリスがダグラスを気にいる理由が判らなかった。


「あなたは先ほど私の攻撃を避けた。殺さない程度には手加減しましたがまさか足の悪い方に躱されるとは思いませんでした。」

「きょっ、恐縮です。」

「もしあなたの足が万全ならあなたは反撃をして私を行動不能にすることも出来た筈です。それならあなたの足を治療してここで用心棒兼執事として雇った方が双方の利益になると判断しました。」


トリスの言い分は正しかった。トリスの攻撃を受けたときダグラスの左足が完治していたらそのままトリスの拳をかわした後に腕を掴んで取り押さえる事が出来た。


「その技量を買って先程の提案を出しました。無手で人を捕らえる技術を持っている人は希少です。武器を持ち込めない場所に行くときの護衛としてはあなたは最適だ。怪我をしたから前の職場を解雇されたと聞きましたが前の雇用主は人が見る目がないと私は思います。」


トリスの言葉にダグラスは救われた気持ちになった。ダグラスの技術は亡き父に教わったもので形見の技術だった。その技術を正当に評価し雇用してくれるトリスに感謝しかなかった。


「業務内容はお二人にはここに住み込みで働いて貰います。ダグラスさんはこの家の警護と雑用。ローザさんはフレイヤとこの家の家事をお願いします。私がいない時はフレイヤの指示に従ってください。有事の際はダグラスさんがフレイヤの代わりに指示をしてください。」


トリスの提示した業務内容にダグラスとローズは問題はなかった。むしろ業務内容より給金の方が気になってしまった。


「給金はお二人を合わせて最初はこれくらい出します。もちろん家賃と食費を引いた額です。二ヶ月後にもう一度査定しますが最初はこの額でお願いします。この金額で良ければ私の治療を受け入れここで働いてください。」


トリスが提示した額はダグラスがこの都市にくる前の金額の三倍に相当していた。二人合わせた金額だが家賃や食費が既に引かれた額だとあまりにも破格な金額だった。

二人は互いの顔を見合わせた相手の意思を確認した。二人は一言も言葉を口にしなかったが互いの目を見た時に既に答えはでた。


「ここで働かせてください。」

「よろしくお願いします。」


ダグラスとローザは頭を下げトリスに提案を飲んだ。



「さて。では治療を行いますか。治療が終わるまでは客人として扱いますので寛いでください。」


トリスはそう言うとダグラスとローザの服装を確認した。ローザは既に病人服を着ているがダグラスは私服たった。お世辞に綺麗とは言えない物だったので来客用のガウンを渡すことにした。


「フレイヤ、来客用のガウンが確か買ってあったよな。」

「はい、サイズ違いの物が三着あります。」

「ダグラスさんに合う物を持ってきてくれ。・・・いやどうせ着替えるならなら風呂に入って貰うか。風呂の準備は出来ているか?」

「お風呂の準備は出来ています。」

「なら、ダグラスお風呂に入って下さい。その後の足の治療をします。お風呂も治療の一環ですの長めに入って足を出来る限り動かしてください。」

「判りました。」

「ローザさんはこのままここで休んでいてください。消化の良い食べ物をフレイヤに作って貰います。」

「ありがとうございます。」


トリスはフレイヤに指示を出しつつこれからダグラスとローズの治療を行うことを伝えた。そして最後にフレイヤを手招きして自分の前に立たせた。


「フレイヤ、今回のようなことは絶対するな。似たような事があったらまず相談しろ。言い出しにくいのわかるが賊が侵入していると勘違いする。」

「すみませんでした。」


トリスはフレイヤに注意をし、フレイヤも素直に謝った。だがそれで許すほどトリスは甘くはなかった。フレイヤの額の前にトリスは右手をだした。トリスは右手の中指を内側に丸め親指で押さえこんで、一呼吸して親指を離し中指でフレイヤの額を弾いた。


「ひぐぅ!?」


フレイヤは情けない声を上げ涙目になりながら額を抑えその場に蹲った。トリスはそんなフレイヤを見ながら一言言い放った。


「これで今回の件は不問とする。いいな。」

「ううう、はぁい。」


痛みに耐えながらフレイヤは何とか返事をし、トリスはその言葉を聞き満足そうに頷いた。



今年最後の更新です。

読んでくださっている方がいて励みになっています。


来年はもう少し更新日時を定期的にできればいいかなぁと思っています。


いつも通りに誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

評価やブックマークをして頂けるととても嬉しいです。


それではよいお年を。


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