故郷スーサ 墓前の切望
本日最後の投稿です。
スーサ領の収穫期が終わり、収穫祭も先日大いに賑わい終わりを告げた。これからは農閑期に向けて仕事が始まる。スーサ領の冬は多くの雪が降る為各家庭では薪の確保や食料の貯蓄などを始める(が始まる)。雪が降り始めると旅路は困難になるのでファリアは明日この村を旅立つ。
ファリアは旅立ちの前にウォールド・シリアファンプの墓を訪れていた。スーサ領にある小高い丘の上にファリア……トリスはマルクの許可を得てウォールドの墓を作った。日が昇れば一日中日が当たるこの場所にウォールドを埋葬できトリスは十分に満足した。
これからの墓の管理は村の住人が定期的に行ってくれることになっているのでもうここでのやり残すことはなにも無くなった。故郷で過ごした数十日は本当に充実した日々だった(であった)。あの迷宮にいた頃はもう二度と味わえないと何度憔悴し絶望した事だろうか。それでもウォールドがいてくれたからトリスは今まで生きていくことができた。だがウォールドは老衰で死んでしまった。
友であり、仲間であり、師であり、そして父親のような存在だったウォールドが迷宮で死にトリスだけが生きて再び日の当たる場所に帰ってきた。日の当たる場所は本当に心地良かった。人としての営みがこんなにも尊く、素晴らしいものだとは思いもよらなかった。
(これでもう何も思い残すことは無くなった。)
「ウォールド、あなたの言う通りにしたけど駄目だったよ。」
トリスはそう呟きウォールドが最後に言った遺言を思い出していた。
『復讐をする前に人として生きてくれ。恩人に恩を返すのでもいい。困っている人を助けることでもいい。故郷に戻りそこで生活するでもいい。復讐を行う前に人の営みをもう一度過ごしてくれ。それの過ごした日々よりも復讐する心が勝っているのであれば残りの人生好きにするがいい。』
ウォールドは死ぬ間際にトリス...エデモスにそう告げ静かに息を引き取った。
ウォールドが死にエデモスは名前を変えた。エデモス・ダンテの名前を捨てトリスと名を改めた。それは決意であった。これから行うことの所業にエドモスの名は相応しくなかった。本当なら迷宮を脱出した後に直ぐにでも大都市アルカリスに向かい目的を果たしたかった。だがその前にウォールドの遺言を守ることにした。
リサの村で、サリーシャの街で、旅の途中で寄った村や町で、恩師の故郷で、故郷のスーサで、ウォールドの遺言の通りに人として生きてみた。だが駄目だった。心の底にある黒く歪な炎は消えることはなかった。
「人として生きてみた。善行を行って周りから聖者と言われた。けど駄目だ。この思いは消えなかった。むしろ自分が如何に卑しい人間だと気が付いたよ。どうしようもない自分に気が付いたよ。」
山賊から村を救った。
困っている人を救いたかった。
違う。
人を殺した時に自分の心が耐えられるか試しただけだ。
恩人の家族を救った。
恩人の家族に不憫に思ったから。
違う。
自分の心残りを消したいだけだった。
領主の父親の病を治した。
救いを求める声に応えたかった。
違う。
領主に貸しを作りたかっただけだ。
領主の依頼を受けた。
街の人を救いたかった。
違う。
自分の実力を測る為だった。
恩師の家族の憂いを断った。
世話になった恩師に恩を返したかった。
違う。
自分への証人が欲しかっただけだ。
故郷の人を助けた。
故郷の人が心配だった。
違う。
後顧の憂いを断つためだった。
全て自分のためだった。他人への愛情も同情も人情も全てなかった。自分への損得しかなかった。
「ああ、本当にどうしようもない。」
人としての貌が壊れていく。
心に残ったしこりが取れていく。
自分の中のある本当の自分が出てくる。
もう後には戻れない。
復讐者としての自分が表に出てくる。
抑えきれない。
否、
抑える気が無い。
もう自分は人でなくなる。
「ウォールド、俺はもう人として生きられない。だから最後に謝るよ。不出来な息子でごめん。」
墓標に告げトリスは背を向けた。背を向けたトリスの貌は既に人の貌では無かった。
「クククッ、さぁ始めよう。これからは人でなく、聖者でもなく、だたの復讐者の時間だ。」
復讐者の貌を隠す偽りの仮面を着けよう。
目的のためには全てを利用しよう。
人も心も全て道具として使い、復讐を完遂させよう。
この日、人は復讐者に成り、人の心は無くなった。
これで「聖者としての時間」は終わりです。
閑話を挟んで「帰還者としての時間」になります。
いよいよ次章から復讐者が『大都市アルカリス』に帰還します。
彼は一体誰に復讐するのか。どのように復讐を完遂させるのか。どうぞお楽しみにしてください。
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