故郷スーサ 病の原因 弐
本日二回目の投稿です。
「おじさんは何処から来たの?」
「お医者さまなの?」
「でも剣を持っているよ。」
「じゃあ、門番さん?」
「門番さんなのに病気を見つけ治せるの?変なのぉ。」
ファリアを乗せた荷馬車では子供達が全員目を覚ました。最初は見知らぬファリアを警戒したがムージが病気を治療した事を伝えると皆感謝しお礼を言った。
それからは子供の好奇心が警戒心より勝り先程からファリアに質問責めだった。
子供は大きい子からツキ、ヒノ、スイ、モック、キキと言いヒノとキキは女の子だ。
いい加減子供の相手も疲れたので子供達に消化のよい果実を与え寝るよう促した。体調が戻った子供達はファリアから差し出された果実を夢中になって食べる。あっという間に果実を数個食べると満腹になったことで眠くなったのか皆横になって眠り始めた。
子供達が寝たのを確認したファリアは御者台のムージの横に座った。
「ファリアさんは子供が苦手なのけ。」
「苦手と言うより接し方が判りません。お恥ずかしい話で私は独り身なので子供の相手は幼い頃にしただけです。」
「そうだか。だが子供達の笑顔はいいもんだよ。」
「そうですね。病が治って良かったです。ムージさんにもお子さんはいらっしゃるのですか?」
「ああ、今年で十四歳と十二歳になる息子と娘がいるだ。」
ムージはそう言うと妻の名前と子供達の名前をファリアに教えた。妻は名前はスミと言いファリアの良く知る人物だった。
スミはファリアの伯父の娘で小さい頃から良く面倒をみていた。気が強く少し男勝りなところはあったが誰にでも優しい子供だった。
スミの事を思い出すと自然にムージの事もファリアは思い出した。スミと年齢の近くスミと一緒に面倒を見ていた男の子。小さい頃は泣き虫で良くスミが慰めていた。気が小さく臆病だったが誰よりもみんなの事を思い行動していた。
ファリアは隣に座るムージを見ながら記憶にある男の子が立派になったと嬉しく思うのだった。
ムージが馬の手綱を引きながら荷馬車はゆっくりスーサ領に向かった。この調子でいけば日暮くらいまでには領主のいる村に着くことが出来る。
スーサ領は五つの村で構成されている。領主のいる村がスーサ領の中心にあり、ダリスから伸びている街道はこの村にたどり着く。領主の村から東と西にそれぞれ二つの村があり何処の村も領主の村から半日でたどり付ける距離にあった。
夕暮れが迫る時にようやく村を囲む柵が見え始めた、村に入るには門番に柵を空けてもらう必要があるので門番が見える距離に荷馬車が近づくとムージが大声で門番に呼びかけた。
「おーい。帰ってきただ。開けてけろ。」
ムージは大きな声で門番の男に声をかけた。門番は荷馬車の主がムージだと判ると急いで柵を開けた。開け放たれた柵を荷馬車は通り抜け村に入ったところで荷馬車を止めた。荷馬車が止まると同時に門番の男がムージに話しかけてきた。
「おい、ムージどうして帰ってきた。子供達に何かあったのか?」
「お兄ちゃん!」
「キキ⁉お前身体は大丈夫なのか?」
荷馬車で眠っていたはずのキキが兄の声で目を覚ましたのか荷馬車から出てきて門番の男に抱き着いた。門番の男は抱き着いたきたキキを抱きしめながら驚いていた。朝までまともに喋る事が出来なかった妹が飛びつく程回復した事に驚きながら門番の男は妹を抱き締めた。
「ご家族の方ですか?」
「そうだがあんたは誰だ?」
「お兄ちゃんこの人がキキ達を治してくれたファリアさんだよ。」
ファリアが答えるより先にキキが自分のことように自慢気にファリアを紹介した。
「旅の者でファリアと言います。街道でムージさんと会いその時に子供達を治療させて頂きました。その際に服が汚れてしまい、二次感染を防ぐ為に服は焼却処分させて頂きました。申し訳ございません。」
「あ、うん。服くらいはいいのだがキキは治ったのか?それに他の子供達はみんな治ったのか?」
未だ信じきれない門番の男はそう言うと証拠となる子供達が次々と荷馬車から降りた。キキが目を覚ましたことで他の子供達も目を覚ましたようだ。子供達は勝手知ったる村に着いたので毛布を被ったままそれぞれの家に走って行った。
「こらー。オメエ達そんな格好で外に出るな。」
走り去っていく子供達にムージは注意したが子供達は聞く耳を持たずそのまま自分たちの家に帰っていった。元気になった子供達が突然家に帰ってきたのを大人は大いに驚いた。服は着ていなかったが朝は立ち上がることも出来なかった子供が走って家に飛び込んで来たのだ。親たちは歓喜しながら愛する子供達を抱きしめ号泣した。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
子供からファリアのことを聞いた親たちは一斉にファリアのところに来てお礼を言い始めた。もしかしたらもう生きて会えないと思って朝に送り出した子供が元気な姿で家に帰ってきたのだ。子供の治療をしてくれたファリアは親にとっては恩人で感謝してもしきれない相手だった。
「皆さんお気持ちは嬉しいのですがまだこの村や他の村では病に苦しんでいる人がいると聞いています。お礼は他の人の病が治ってからでいいので領主様に会わせてください。」
ファリアの言葉に親たちは思い出した。まだこのスーサ領には病で苦しんでいる子供や大人達がいることを。ファリアは事の経緯とこれからの治療について領主と話をしたいと村人達に伝えた。
また、病が治療できることを知った村人達は今も病で苦しんでいる自分の家族を誰よりも早くファリアに診て貰いたかった。だがここで騒動を起こしてファリアの機嫌をそこねてしまうのは本末転倒なので素直にファリアの言うことに従った。
領主の家まではムージが案内を務めることになった。ムージは荷馬車を門番の男に預けファリアを領主の家に案内した。
ムージに案内されながらファリアは生まれ故郷の村を眺めた。古い家が取り壊され新しい家が建っているところがあった。昔は空き地だったところが畑になっていた。道も整備されたのか昔より歩きやすくなっていた。だが村の雰囲気は昔と変わらず気持ちが落ち着いてくる。そんなことを感じながら歩いていると領主の家にたどり着いた。
「領主様ぁ。」
領主の家にたどり着くと中年の男が丁度家から出てきた。見た目は五十手前の男だが見た目からして活力に溢れる男だった。ムージの言葉からするとこの男がここの領主であろう男はムージの声に気が付くとこちらに近づいてきた。
「村が騒がしいと思ったらムージお前が帰って来たのか。子供達はどうしたまさか皆・・・。」
「領主様落ち着いてくだせえ。子供達は皆無事だ。こちらのファリアさんが治療して下さっただ。子供達は走れる程元気になっただ。」
「何それは本当か?一体どうやって治療したのだ?出来れば病にかかっている者にも・・・。」
ムージの説明に領主は驚きながらファリアに尋ねてきた。ファリアはそんな領主の態度が懐かしく昔の記憶を呼び覚ました。領主の彼は昔から自分の事より領民を大事にしていた。ファリアのことも何時も気にかけており、彼の弟と冒険者になると言った時は大層身を案じてくれた。
ファリアは昔の様に彼の本名を言いそうになるのを気を付けながら言葉を発した。
「ご領主様、御初に御目にかかります。私は旅の者で名をファリアと言います。詳しい事情をご説明しますのでまずは話の出来る場所をご提供下さい。」
「ああ、そうだな。ここでは込み入った話もできない。今から来客室に案内するので着いて来てくれ。」
領主はそう言うと屋敷の扉を開けファリア達を招きいれた。
ファリア達は屋敷の来客室に案内された。領主はファリアとムージをソファーに座るよう促し彼らが座るのを見計らうとさっそく自己紹介を始めた。
「先程は取り乱して申し訳ない。私はこのスーサ領を統治しているマルク、マルク・モルスだ。それで早速だが何があった?子供達は本当に回復したのか?」
「先ほどもお伝えしましたが私は旅の者で名をファリアと言います。このスーサ領に来る途中でムージさんと会いその時に子供達を治療いたしました。私は医学を学んだことがあり今回はその知識が役に立ちました。」
マルクからの質問にファリアは出来るだけ丁寧に説明した。ムージにあった時の事や治療方法についても話をした。ファリアの説明を一通り聞き終わった後にマルクは頭を抱えた。
「そうか。そのような方法で治療したのか。」
「領主様どうしただか?」
「ムージよ。今の方法だとファリアさんしか治療できない。そうなると誰から治療を行う。もし仮に治療を持っている間に誰かの家族が亡くなった場合どうする。」
マルクが苦悩している理由をムージに話し、それを聞いたムージも理解した。確かにトリスの治療には時間がかかっていた。そして病の重症度の差はあるが老若男女合わせてこの村にだけでも患者は五十人いる。他の村も合わせれば二百人を超える。ファリアが全員の治療を終えるのに一体何日かかるか予想が出来ない。
「どうすればいいだ。せっかく治療できるのに誰から治療すればいいんだ。」
「ムージさん落ち着いて下さい。今みんなが取り乱しても意味はありません。それに解決策はあります。」
「なんだと!」
「それは本当け?」
「ええ。先ほど子供達から病の原因になっている寄生虫を取り出しました。この寄生虫を使って新しい薬を作るのです。この寄生虫を弱らせる薬を作り、病人から寄生虫を駆除できれば後は自然と回復する筈です。」
「そんなことが出来るのか?」
「出来る、出来ないではなく『やる』のです。病に苦しんでいる人を助けるために。」
「その心意気買った!!」
突然部屋の扉を開きそちらに目を向けると老婆が立たずんでいた。老婆は不適な笑みを浮かべ部屋に入ってきてファリアの前に立った。
「マル坊、子供達を治療した御仁がいると聞いたがこの方か。」
「マーサさん。マル坊は止めて下さい。私はこれでもここの領主です。」
「ふん。そんなことよりもこの方で間違いないのか?」
「全く突然来てその態度は・・・、いえ何でもありません。」
マルクは突然部屋に入ってきた老婆に文句を言おうとしたが老婆の一睨みで怖じ気づき老婆の言う通りにした。
「ファリアさんこちらは我が領地で薬師をしているマーサさんです。マーサさんこちらの旅の方が、子供達を治療して下さったファリアさんです。」
文句を言うマルクを一睨みし黙らせたマーサはファリアに深々と頭を下げた。
「この村で薬師をしているマーサだ。子供達を治療してくれて本当に感謝する。本来ならあんたを歓迎して飲み明かしたいところだが患者はまだ居る。先ほどの話は聞かせて貰った。老体だが薬の知識はそこそこあると自負している。よろしければこの婆を使ってくれ。」
「頭をお上げください。私の方こそ頼りにさせて頂きます。」
ファリアはマーサに頭を上げるように促しマーサは頭を上げファリアの顔を見た。
「ファリアさん、昔どこかで会っておらぬか?」
「!?」
ファリアの顔を見たマーサは不意にそのようなことを呟いた。確かにファリアは十五歳になるまでマーサとよく会っていた。マーサはファリアの母親の友人で小さい頃はよく世話になっていた。ファリアの母親が亡くなった時もマーサは親身になってファリアの今後について考えてくれた恩人でもあった。
「残念ですが初対面だと思います。私はこのスーサ領に来たのは初めてです。どこかの街で会ったかもしれませんがマーサさんと会った記憶はありません。」
「そうかね。私はこのスーサから出たことはあまり無いし、遠出したのはせいぜいダリスまでさね。変な事を言ってすまんかったね。」
「いえ、大丈夫です。」
「じゃあ、もう一つ質問させておくれ。あんた程の医学に知識がある人がどうしてここに来たんだい。このスーサ領は果実が名産ではあるがそれ以外は何も無いところだよ。珍しい薬草なんかも無いしわざわざ病の噂を聞きつけて尋ねて来てくれたのかね?」
マーサは質問はマルクも気になっていた。病のことは確かに早馬でダリスと王都に連絡した。感染症の疑いが強かったので秘匿されている筈だ。噂程度にはなっているかも知れないがわざわざその真偽を確かめる為にここまで来るのは余程の酔狂と言える。
その疑問に対してファリアは静かに答えた。
「私がこのスーサ領に来たのは知人への恩を返すためです。」
「知人?この領地にいらっしゃるのですか?」
「誰だね。それは?」
「エデモス、エデモス・ダンテです。」
「「「!?」」」
ファリアの口から出た意外な名前にマルク、マーサ、ムージは驚いた。
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