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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
聖者としての時間
23/140

故郷スーサ 病の原因 壱

次の更新は連続で登校する予定です。書き溜めていますので少しお待ちください。


先週投稿する予定でしたが急な出張のため出来ず申し訳ございません。

今日は何本か連続で投稿しますのでよろしくお願いします。

ダリスを出たトリスはひとまず速足でダリスを離れた。まだ日が出ているため移動するのは目立たぬように速足で移動した。


馬や馬車を使用すればもっと早く移動できるがトリスは馬を操る術を知らない。だが人目さえなくなればトリスは馬よりも速く移動することができる。




深夜、トリスは街道を疾風のように駆け抜けた。人の走る速度より遥かに早くスーサ領に向かっていた。

トリスの両手両足は義肢で出来ている。その素材は迷宮に住む特殊な粘液生物(スライム)を使用しており、義手や義足は魔力と感覚(イメージ)を送ることで思い通りに動かす事ができる。感覚(イメージ)さえきちんと出来ていれば馬よりも速く走ることも可能だ。


人目のある場所でこのような速度で走れば何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性があるのでトリスは極力人目に付かない夜に移動することを決めた。義足に魔力と感覚(イメージ)を送り街道を高速で移動する。


長年薄暗い迷宮にいたおかげでトリスは夜目が利くので移動に不自由することは無い。その甲斐があって一晩でスーサまでの道のりを三分の一も到達することが出来た。


トリスは日が昇ると移動する速度を人が走る速度まで抑えた。途中で休憩できる場所を見つけ一旦そこで仮眠を取り日が沈む頃にまた走り始めた。その夜も昨夜と同じように走り、日が昇る頃にはスーサ領まで徒歩で一日の距離までたどり着いていた。



トリスは日が昇ると少しの間仮眠をしてまた移動し始めた。今度は歩くよりも少し早い程度の速度でだ。早く移動してしまうと顔につけた付け髭が取れてしまうからだ。


トリスは仮眠をした場所の近くの小川に寄り体を洗った。その時に髪の色を変えて付け髭をつけた。トリスの地毛は黒髪だが日に当たると茶色が強く見えるので常に茶色に見えるように髪を染めた。付け髭も髪の色と合わせた物を購入していた。


スーサ領はトリスの故郷で二十年以上前に冒険者になる為に故郷を出た。両親は既に他界しており兄弟もいない。唯一の親戚は母の弟が家の近くに住んでおり、小さい頃に一緒に遊んだ従兄妹達がいるくらいだ。


二十年以上も前に出て行った幼馴染が今更生きて帰ってきても混乱を招くだけだ。もともと今スーサ領に来るのは生存の知らせや疫病の事ではなくウォールド・シリアファンプの遺灰を埋葬するためだ。


ウォールドはトリスにとって友であり、仲間であり、師匠であり、父親のような存在だった。だからウォールドの遺灰は丁寧に埋葬したい。晩年薄暗い暗い迷宮で過ごしたウォールドの墓はせめて日がよく当たる穏やかな場所に埋葬しておきたい。その思いからトリスがよく知る故郷のスーサに埋葬することにしていた。


最初はスーサ領には人知れず訪れる予定だった。だがスーサ領で疫病が流行っていると聞いた時このまま見過ごすより、生まれ育った故郷に恩返しがしたい気持ちが沸き上がりあり急ぎ帰郷したのだ。


だが自分の事を話すつもりはないのでそれ故の変装であった。



スーサ領まであと半日と言った距離のところで荷馬車が街道に止まっていた。荷馬車の向きからしてスーサ領から来たことが判る。もしかしたらスーサ領で起きていることが判るかもしれない。トリスは急ぎ荷馬車のもとに駆け付けた。


荷馬車のもとにたどり着くと男が子供に必死に呼びかけ、何か薬のような物を飲ませようとしていた。子供は全部で五人いて、子供達は見るからに衰弱しており呼吸も乱れていた。


「どうかされましたか?」

「!?」


トリスは極力優しい声で男に話しかけたが突然話しかけられた男は驚き振り返った。


「おめえは誰だ?」

「私は・・・ファリアと言う旅の者です。これからスーサ領に向かうところでこの荷馬車を見つけたので声をかけた次第です。」


トリスは敢えてファリアと偽名を名乗った。トリスと言う今の名前も昔の名前もここでは使うつもりはなかった。


「そうか。なら引き返した方がいいだ。今スーサは変な病が流行っている。オラはスーサで百姓をしているムージだ。」

「そうですか。もしかしてその子供達は。」

「ああ、村の子だ。病にかかって一番衰弱している子供だけを運んできた。このまま村にいても助からねぇ。ならせめて街のお医者に見せればもしかしたら助かるかもしれないと思って来たがさっき急に容体が悪くなっただ。薬師の婆様が作った薬湯も飲めねえ程弱ってきただ。」


ムージはそう言うと目から大粒の涙を流した。病の子供たちを前に何もできない自分が情けなく涙を流した。


「宜しければ私が診ましょう。これでも少しは医療を学んだ覚えがあります。」

「本当か?」

「ええ、ムージさんは鍋に湯を沸かしてください。人肌程度のお湯でいいです。できたら呼んでください。その間に私が子供達を診察します。」

「判っただ。直ぐに用意する。」


今は藁をも掴みたい状況なのでムージはトリス……ファリアの指示に素直に従った。


ファリアは荷馬車に乗り横たわっている子供達を見た。皆かなり衰弱しており、呼吸も乱れている。一人ずつ脈を測ってみたが思った以上に速いがその割には体温が低い。このままでは数日中に息を引き取ってしまう可能性があった。ファリアは子供の頬に手を触れ魔術で体の状態を診ることにした。


ファリアは探索魔術を応用して人体の構造を把握することができる。通常探索魔術は周囲の情報や動物を察知するのに使用するが、ファリアはウォールドの教えでそれを生き物に使用しすることを学んだ。


この魔術を使うと魔物であれば弱点を知ることができ、人であれば怪我や病気などの異常を見付けることができるようになった。

今、こうして子供達の病を診ることが出来るのは全てウォールドの教えのおかげであった。


ファリアは子供達全員を診終わると病の原因についても判った。だが子供達の病は一言で言うと奇妙だった。ファリアの知識では通常では起こりえないことだった。


「お湯の準備ができただ。」


ファリアが悩んでいると外でお湯を用意していたムージから声がかかった。ファリアは一旦思考するのを止めムージのところに向かった。


「ありがとうございます。こちらも終わりました。」

「何か判っただか?」

「はい、病の原因が判りました。」

「ほ、本当け?こ、子供達は助かるだか?」

「ええ、助かると思いますが妙なんですこの病。」

「妙とはなんなんだ。」


ファリアは一旦荷馬車を降りムージの用意したお湯に塩と砂糖を入れながら続きを話しを始めた。


「この子供達が患っている病は寄生虫の影響です。」

「寄生虫?」

「はい、本来なら寄生虫は虫下しなどの薬剤で駆除します。農村なら必ず飲みますよね?」

「ああ、薬師の婆様が定期的に作ってみんな飲んどる。」

「なのに子供達の体内には寄生虫がいてそれが人体に悪影響を及ぼしている。それが病の原因です。」

「ど、どうすればいいだか?」

「解決方法は二つ。薬を投与して人体から追い出す方法。しかし通常の薬が効果が無いのであれば効果のでる薬を色々試すしかない。けどそれでは時間がかなりかかってしまう。」

「じゃあ、もう一つの方法はどうなんだべ?」

「寄生虫は人体の腸。簡単に言うと下腹部にいます。二つ目の方法は直接この虫を取り除きます。」

「そ、そんなことできるだか?」

「はい、肛門に。お尻の穴に管を通してそれを使って取り出します。管を入れている間は子供達が暴れないように魔術で眠らせます。」

「!?」


ファリアの言葉にムージを驚きを隠せなかった。治療のために肛門に管を入れるなんて聞いたことがない。しかも子供達を魔術で眠らせることなんて出来るのだろうか?魔術の知識に乏しいムージにとって魔術は火や水を操る方法としか知らない。目の前にいる男の言葉を信用して良いのかムージには判断がつかなかった。


「驚くのも無理はありません。しかしこの方法なら直ぐに治療することができます。後はムージさんの判断に任せます。このまま子供達を街へ連れて行くか。それとも村に引き返すか。それともここで治療をするかはお任せします。」


ファリアはそう言うと塩と砂糖を溶かした水を味見して程よい加減になったことを確認して鞄から取り出した数本の水筒にお湯を入れ始めた。

鍋にあったお湯を水筒に入れ終わった頃今まで黙っていたムージが口を開いた。


「判っただ。あんたに治療をお願いするだ。だがもし子供達に何かあったらオラはオメエを許さない。例えオラが死ぬことになってオメエを絶対に許さねぇ。」

「判りました。ではまず一番体の大きい子にこの水筒に入っているお湯を飲ませてください。それから荷馬車から降ろしてください。それと私が治療している間に他の子供達にもこの水筒に入っているお湯を飲ませてください。できれば全部飲ませて欲しいですが小さい子は半分でもいいです。」

「判っただ。言う通りにするだ。」


ムージはそう言うと荷馬車に戻っていった。ムージが荷馬車に戻るのを確認したファリアは魔導鞄(マジックバック)からテントと幾つかの瓶や壺そして粘液生物(スライム)を取り出しテントを荷馬車の近くに設置した。テントを設置してから暫くするとムージが一番体の大きい子を抱えて降りてきた。


「この子が一番年上で体も大きいだ。」

「判りましたこれからテントの中で治療します。ムージさんは先ほど言ったように残りの子供にお湯を飲ませてください。後できれば周囲を見張っていてください。手元が狂うと危ないので何かあった時は大声を出さずに呼んでください。」

「判っただ。」

「では子供をお預かりします。」


ファリアはムージから子供を受け取るとテントに入った。子供をうつ伏せに寝かせるとさっそく魔術で子供を深い眠りに落とした。もともと病で意識が混濁している子供は無抵抗に眠りの魔術にかかった。


ファリアは球形になっている粘液生物(スライム)に魔力を通して管状に形を変えた。粘液生物(スライム)は魔力と感覚(イメージ)で好きな形に変えることができ動かすこともできる。ファリアはこの。粘液生物(スライム)と探索魔術を使って今から子供から寄生虫を取り除くのだ。




ムージが周りの見張りをしながら子供達にお湯を飲ませた。不思議なことに最初はお湯を飲むのも辛そうにしていた子供達だったがお湯を一口飲むと少し元気を取り戻したのか二口、三口をお湯を飲み始めた。それでも体力が低下しているせいか水筒を全部飲むことは出来なかった。


ムージは一旦子供達を寝かし外の様子を確認した。初夏のこの時期には珍しく雲一つない抜ける様な青い空が広がってとてもいい天気だ。もし病が流行っていなければ今頃この子供達は川に遊びに行き、水遊びや釣りをして元気に過ごしていただろう。子供好きのムージにとって今病で寝込んでいる子供達が不憫で仕方がなかった。


荷馬車に付近に設置されたテントを見たが変わった様子はない。あの旅の男を信用して子供を渡して良かったのか今でも判らない。だがあの旅人の優しい瞳は何処かで見た気がする。ムージが子供達の治療をあの男に任せてのはあの瞳に引かれたからでもあった。


遠い昔に見た気がするあの優しい瞳を。


「ムージさん。終わりました。子供をお願いします。」


テントの方から自分の呼ぶ声が聞こえた。慌ててテントに向かうと子供を抱えてファリアが立っていた。ファリアに抱かれた子供は先ほどとは打って変わって穏やかに寝息を立て静かに眠っていた。心なしか顔色も良くなったきがする。


ムージはファリアから子供を受け取ると荷馬車に子供を寝かし次の子供をファリアに渡した。


「ではこの子を治療します。他の子供は先ほどのお湯を飲みましたか?」

「全部は飲みきれなかったけど半分以上は飲んだだ。」

「それはよかった。ではまた先ほどの同じお湯を沸かしてください。思った以上に水分が出てしまったので。」

「わっ、判っただ。」

「ではまた、治療が終わりましたら呼びますね。」


ファリアはそう言って次の子供の治療を開始した。




日が頂上よりも傾き始めた頃、ファリアのすべての子供の治療を終えた。子供達から取り出した寄生虫は驚くべきことに魔獣と化していた。


通常『塔』に住む生き物を魔物と呼ぶ。それは『塔』の外と中では生き物の生態系が違っているからだ。では『塔』の外には魔物はいないかと言うと正解でもあり不正解でもあった。『塔』の外には魔物はいないが魔獣は存在していた。魔獣は獣や鳥、昆虫と言った動物が魔力を取り込み変質した生き物だ。


魔物の様に火を吐くなどの事はしないが身体能力は魔獣化すると大きく向上し狂暴性も増す。今回取り出した寄生虫も薬に対する抵抗力と元々持っている毒が強化されているようだ。

だがこうして取り出す事が出来て子供達の容態も改善した。後はこの寄生虫に効果のある薬剤を作れば疫病を治療する事が出来る。


「では念の為汚れた衣類はここで燃やします。ムージさんは子供達の様子を診ていて下さい。目を覚ましたら先程作ったお湯を飲ませて下さい。」

「判っただ。」


ムージは出会った頃の悲壮感は無くなり明るく返事をした。治療を終えた子供達は皆汚れた衣服を脱ぎ毛布にくるまっている。治療で汚れた衣服は二次感染の恐れがあるので今からファリアが燃やす事にした。幸いな事に季節は初夏だ。毛布にくるまっていれば風邪を引くことない。


治療を終えた子供達は皆穏やかな寝息を立てて眠っていた。先程までの苦しみが嘘のようだ。そんな子供達の寝顔を見ながらムージは良かったと胸を撫で下ろした。


「うっ、ううん!」

「ここはどこ?」


荷馬車に横たわっていた体の大きい子二人が目を覚ました。目を覚ました子供達は見知らぬ場所に居ることに驚いたが、村で何時も遊んでくれるムージの姿を見つけると安心したのかムージに声をかけた。


「ムージさんここどこ?」

「お母さんは?」

「ツキ、ヒノ。目が覚めただか?」


起きた子供達に気が付いたムージは子供達に詰め寄り何処か具合の悪いところはないかと聞いた。ツキとヒノと呼ばれた子供達は何処も悪く無いことをムージに伝えるとムージは歓喜した。ファリアに言われたお湯を早速二人に飲ませた。


「ファリアさーーん、子供達が目を覚ましただ。何処も悪く無いと言っているだ。」


ムージは外で衣類を燃やしていたファリアに声をかけた。ファリアもその言葉を聞いて安心した。


「ムージさん、火の始末をしたらスーサに行きますので荷馬車を反転させて下さい。」

「判っただ。ツキ、ヒノ。荷馬車を反転させるから他の子供達を押さえてくれ。」

「「わかった。」」


ツキとヒノはムージの指示に元気良く答えた。その返事を聞いたムージは目頭が熱くなった。



この話の途中からからトリスの名前をファリアに変更しています。


いつも通り誤字脱字の指摘や感想などを頂けると幸いです。

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