商業都市ダリス 故郷の凶報 弐
更新が遅れまして申し訳ございません。
『スーサ領のことについてお話することはできません。』と言ったダーヴェィンの言葉にトリスは噂が間違いないことを確信した。
疫病が流行った場合はまず領主は領地からの感染拡大を防ぐために早馬を飛ばして交流のある街に警告と救援を求める。スーサ領であれば交流のあるこのダリスに一番最初に早馬が来たはずだ。そして連絡を受け取ったダリスから王都にも早馬が行き対策が取られる。
ダーヴェィンが先ほど言った『調査団の派遣』とは疫病の真偽の確認と対策を行うための人員派遣のことだろうとトリスは予想していた。
実際にトリスの予想した通り、スーサ領からの連絡を受けたダリスの領主は直ぐ王都へ早馬を送った。後は王都からの調査団に対応を任せダリスでは風評被害を防ぐため、ダーヴェィンを含むスーサ領に関わる者を呼び事の経緯を話したのだ。
ダーヴェィンが呼ばれたのは収穫期で無いためこの時期一番交流があるのは定期的に行商人を派遣する行商人組合であったからだ。
この話を聞いたダーヴェィン達は感染被害と風評被害を防ぐため領主と話を行った。その結果スーサ領への行商人の派遣などは一時停止し、表向きは「街道にある橋が老朽化に伴い事故の危険性がある。」と連絡している。
だがいつの世も情報を完全に防ぐことはできないので噂程度にスーサ領のことが漏れていた。まだ噂程度の域で大事にはなっていないのでその噂は放置している。実際に噂の真偽を確かめるにはスーサ領に行くしかないが、馬車で十日間はかかる道のりだ。早馬を出しても三日から五日程時間がかかる。わざわざ噂の真偽を確かめる為にそのようなことをする者はいないと判断し放置しているのだ。
ダーヴェィン達にはスーサ領のことは緘口令が出ている。そのため詳しい話をトリスにすることはできない。だが先ほどトリスから譲って貰った魔鉱石は紛れもなくB級品の上物だった。ダーヴェィンは商人としての誠意としてワザと遠回しな言い方をしてトリスに真相を打ち明けたのだ。
「ありがとうございます。」
「こちらもこれだけの物を譲って頂いたのにこのような事しか言えずすいません。もし、宜しければうちの商品を幾らかお譲りしますがどうでしょうか?行商で売っている物など一通りは揃っています。」
「では、薬の材料があれば譲って下さい。」
「薬の材料?ありますが薬では無く薬の素材で宜しいのですか?」
「ええ。薬ですと加工することができないので。」
そう言ったトリスの言葉にダーヴェィンは驚きを隠せなかった。
トリスが立ち去った後にダーヴェィンは魔鉱石を見ながらあることを思い出していた。港街サリーシャでここ最近B級品以上の魔鉱石が幾つか販売されたことだ。
通常魔鉱石は大都市アルカリスで採掘される。B級品以上の品物が出回る場合アルカリスから何らかの情報が齎される。だがサリーシャで販売された魔鉱石は出所が不明で突然出品された。
サリーシャで販売された魔鉱石はもしかしたらダーヴェィンが今手にしている魔鉱石と同じ出所、つまり先ほどのトリスと言う旅人が所有していた物では無いかとダーヴェィンは推測していた。
そうなると彼は何者なのだろうか?冒険者にも見えるが先ほどトリスは魔鉱石の代金として薬の材料を持って行った。たぶん彼はこれからスーサ領に行くのだろう。そこで疫病の治療のために薬を作成する。だが薬を作成するには疫病に対する知識と薬を調合する知識が必要になる。
冒険者に見えた彼は医者か薬師なのか?だがそのようには見えなかった。応接室に残ったダーヴェィンの疑問は晴れることは無かった。
行商人組合で情報と薬の材料を得たトリスは宿に戻っていた。できれは今日中に旅立つための準備をするために。
本来ならフレイヤとクレアが定住するダリスに残るつもりだったがそうも言ってられなくなった。幸いなことにフレイヤ達はシェリー達と顔見知りになったことだ。
この街で生まれ育ったシェリー達であれば何かトラブルが起きても彼女達に頼ることもできる。無作法であるが金銭を多めにフレイヤに渡せば当面生活にも困ることは無いだろう。
トリスがそのように考えているとコンコンっと部屋の扉をノックする音が聞こえた。トリスは返事をしつつ部屋の扉を開けた。
「トリスさん、今お話ししてもよろしいですか?」
扉を開けるとフレイヤとクレアが立っていた。トリスは二人を部屋の中に入れ、クレアとフレイヤはベットの上に腰掛けトリスは部屋に一つだけ備え付けてある椅子に腰を下ろした。トリスが腰を下ろすとフレイヤはさっそく部屋を訪れた理由を話し始めた。
「トリスさん、私とクレアの働き場所が決まりました。アーロンさんのお店で働くことになりました。」
「えへへへ、すごいでしょ。さらに下宿先まで決めてきたんだよ。」
二人は嬉しいそうに事の経緯を話し始めた。
朝フレイヤとクレアが目を覚ますと見知らぬ部屋に寝かされていた。周りを見渡すと昨日集まった人達もいたので一安心したがトリスの姿が見当たらなかった。二人は部屋を出て、下に降りる階段があったので降りてみるとアーロンが朝食を作っていた。
アーロンにトリスのことを聞くとシェリーを昨晩のうちに家に送りそのままトリスも宿に戻ったと聞かされた。二人だけ酔いつぶれて泊まることになって恥ずかしかったが昨日はとても楽しかったので後悔はなかった。
アーロンが朝食を作っている間何もしないのは気が引けたのでアーロンの手伝いをすることにした。昨日の汚した食器を洗い、椅子やテーブルを掃除する。そんなことをしていると次々とウォールドの親族達は起きてきた。皆が揃うと丁度朝食が出来上がったので皆でアーロンの作った朝食を食べた。
トリスとシェリーがいないことに皆気が付きアーロンはフレイヤ達に話したことを皆に話した。親族達はトリスが既に帰宅したことに残念がりまた話を聞きたいと朝食を食べながら雑談していた。
雑談をしている最中にトリスとフレイヤ達の話題になった。昨日の事もありフレイヤとクレアはウォールドの親族達とだいぶ親しくなり、特にクレアは同い年の子供たちと随分と打ち解けていた。
最初はトリス達を夫婦、父娘かと思ったがトリスは二十年も迷宮を探索していた。クレア年齢を考えるとその可能性は低い。それにフレイヤはトリスを敬称で、クレアはトリスを呼び捨てで呼んでいるため家族と言う線は無いだろうと思っていた。
周りに促されてフレイヤはトリスとの関係を簡単に話しをした。
夫の昔の知り合いでたまたまサリーシャで会うことになったこと。
サリーシャでもめ事が起きこれ以上のトラブルを避けるためにダリスに来たこと。
ダリスで職を見つけここで暮らして行こうとしていること。
それらのことかフレイヤはウォールドの親族達に話をした。
「なら、うちで働かないか?」
フレイヤ達の話を聞きそう言ったのはアーロンだった。
アーロンの店では給仕を何人か雇っていた。しかし雇っている給仕の一人の女性が妊娠した。今はまだ妊娠が見つかったばかりで悪阻も酷くないがそう遠くないうちに辞めることになる。従業員の募集をかける予定だったがフレイヤとクレアが良ければ二人を雇っても良いとアーロンは考えた。
住む場所も店の二階を使用すれば言いと言ってくれた。家賃に関しては店の防犯及び店の清掃と仕込みの手伝いで相殺するとも言ってくれた。給金や時間帯に関しても悪くない条件を提示してきたのだ。
「その話は受けるのか?」
「はい。知らない人のところで働くよりもいいと思いまして。」
「そうか。それはよかった。」
「それで折り入ってトリスさんにお願いがあるのです。」
「なんだ?」
「お金を貸していただけませんか?」
フレイヤ達から詳しい話を聞くと下宿するアーロン店の二階には生活用品が無い。部屋は広いがそれだけで家具や寝具と言った物はまるでなかった。アーロンも幾らか支払うと言っていたが破格の条件で雇って貰うのにこれ以上好意に甘えるのは悪いと思った。
「きちんんと利子をつけてお返ししますのでどうでしょうか?」
フレイヤの頼みにトリスは自分の金銭が入った財布を丸々フレイヤに渡した。
「トリスさんこれは?」
「すまないが、俺はこれから旅にでる。旅先のところは金貨や銀貨は滅多に使わない。だからこの金は預けるから自由に使ってくれ。」
「え、トリスもう旅に出るの。」
フレイヤとクレアは驚いた。もうしばらくこの街に滞在すると言っていたのでもう少し一緒にいられると思っていた。
「急に出ることになった。すまない。」
「また、会える?」
「そんな顔をするな。今生の別れでもあるまいし。冬までにはまた来るさ。もし来れなかったとしても手紙くらいは書くさ。」
トリスはそう言って立ち上がりクレアの頭を撫でた。旅をしている最中にクレアを褒める時や慰める時に頭を撫でるとクレアは喜んだり、元気になったりする。
子供をあやすみたいだがクレアは本人は喜んでいる。頭を撫でられ気持ちよさそうに目を細めているクレアの隣でフレイヤが羨ましそうにしていることにトリスは気が付かなかった。
昼間宿を引き払った後、トリスはアーロンとシェリーの店に訪れた。定休日であったが幸いなことにアーロンとシェリーはそれぞれの店にいた。トリスは急遽旅立つことになったことを伝えるとアーロンとシェリーは驚いたが昨日の話を思い出し二人は納得した。トリスはまたこの街を訪れることを約束し、フレイヤとクレアのことを二人に頼んで街の出入り口である門に向かった。
一つ目の夜の鐘が鳴るとダリスの門は閉まる。今から街へ入る人は少なくまた、門を出る人は滅多にいない。今から街の外に出ても付近の村や町にたどり着くことはできない。野宿するのが目に見えて判る。
だがそんな時間帯なのに街の外に向かう人影が一つあった。馬や馬車は無く徒歩で街を出ていく一つの人影が。
次の更新は連続で登校する予定です。書き溜めていますので少しお待ちください。
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