港街サリーシャ 思わぬ・・・
『サリーシャに正義の使者現る!?』
『ついに動いた領主の切り札。街の病巣を駆除』
『憲兵長の好敵手帰還!! 最初の任務で悪漢を退治!』
『被害者達の集い。街の掃除屋に依頼か?』
『旅の剣士。義によって悪を打つ!』
ヘルと戦った一件から三日後、サリーシャの街は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。今まで好き勝手にしてきたヘルとヘルが雇った用心棒達が街の隅に死体が発見されたのだ。
発見された死体は全員酷い拷問を受けたようで、身体には裂傷や火傷が残っていた。顔が判別できるように首から上はほぼ無傷だったが歯はすべて折られ、口を糸で縫われていた。
彼らの遺体はすぐに火葬されたが、その遺骨は誰も引き取ろうとしなかった。それならと一人の老婆が引き取り、彼らの遺骨を自分の家畜小屋の肥溜めに捨てた。老婆もかつてこいつらのせいで肉親を失っていたのだ。
街の病巣だった者達の最後は人として扱われることなく終わった。
街の新聞屋達ははこの件を聞きつけ、逸早く号外として街のいたるところで配った。買い物のために外出をしていたクレアはその号外を持ち帰りレイラとトリスに見せたのだ。
「どの新聞も書いていることは一緒だけれど、悪人を倒した人はバラバラなのねぇ」
「うん、みんなこの人のこと知りたがっていたよ。一体どんな人物なのか興味あるみたい。トリスが名乗り出てみたら? きっと街の英雄になれるよ」
「興味ない。面倒だ。鬱陶しい」
トリスはここ数日の事後処理に辟易していた。ヘルの件が済んだ後はすることはないと思っていたトリスだったが事態は思わぬ方向へ進んだ。トリスに依頼したガゼルとデイルはトリス一人で百人も倒せるとは実のところ思っていなかった。しかし蓋を開けてみると百人の私兵は全員死亡しており、トリスはかすり傷一つ負っていなかった。
デイルもガゼルも多少自分の身を守れるように護身術を学んでいるのでトリスの実力が桁外れだと再認識した。そこでデイルはトリスに戦闘の指南を憲兵にして欲しいと依頼した。勿論講習料は払い、正体はばれないようにする約束で多対数時の戦闘方法の指南を憲兵に教えるように依頼した。旅の路銀の足しになれば思いトリスは参考程度の講義を行うことにした。
講義は憲兵の第一から第十まである隊からそれぞれ五人選ばれた五十人に行った。その中にはリックスの姿もあった。トリスが講義で教えたのは誰でも使える二種類の魔術についてだ。もっとも魔術と言っても魔鉱石を媒介にしているので厳密には魔術ではない。それでも安価な魔鉱石で誰にでもできるので汎用性もコスト面でも有用な魔術だ。
講義で教えた魔術はトリスはヘルの私兵と対峙したときに使った光の魔術と風の魔術を応用した魔術だった。光の魔術は一瞬で目がくらむほどの光量を発生させ、相手の視力を奪うことができると説明した。
風の魔術は大きな音を発生させるもので、大きな音を出すことで相手の聴覚を奪い、更に一瞬だが身体を硬直させることができると説明した。
憲兵たちは光と音だけで相手を行動不能にできるとは思わなく、最初はトリスの講義を半信半疑だった。だが実際に教壇でトリスが光の魔術を使うと受講者の大半が目をやられ、更に続けて大きな音が部屋に鳴り響いた。受講者達は見ることも聞くこともできなくなり、その場から動けなくなった。身をもって体験したことで講義に信憑性が増し、受講者達は真剣にトリスが教える光と音の魔術を学んだ。
講義が終わる頃には五十人全員が魔鉱石を媒介にして使えるようになった。注意事項として光の魔術は光量が強いと失明する恐れがあり、音の魔術は音が反響するので狭い場所では聴覚障害を起こすので使うときは気をつけるよう言い渡し講義は終わった。
そして、事件は起きた。いや、事件が起きたが、問題は起きなかった。
講義の翌日、賭博で負けた傭兵が八つ当たりで周囲の物を破壊し始めたのだ。酒に酔って興奮していたのか周りが止めても聞く耳を持たず、取り押さえるために憲兵達が出てくることになった。
憲兵が出てきたことで傭兵は更に興奮して子供を人質に取った。人質の子供は恐怖の余り目を瞑り、傭兵は憲兵にいなくなるように要求してきた。駆け付けた憲兵の中にトリスの講義を受けた者がおり、子供が目を閉じているので早速光の魔術を使用した。
結果、傭兵は光を凝視したために目を潰されその場で動けなくなった。憲兵達はすぐに子供を救出し、暴れていた傭兵も捕縛することができた。
今までこのような事件が起きると大概人質が怪我をするか、人質の安全を考慮して犯人を取り逃がしてしまうことがあった。しかし、今回は損害はほぼ皆無で傭兵も無傷で捕縛することができた。
事件に関係した憲兵は早速このことを上司に報告し、昨日講義を行ったトリスを絶賛した。その報告を聞いた隊長達はトリスにもっと講義を行って貰えないかとデイルに直談判をしてきた。デイルはそのことをトリスに伝えたが一度目の講義で自分には向かないと悟りトリスは断った。
しかし、たまたま街へ買い出しに出かけたトリスは街の憲兵と接触してしまった。その憲兵はトリスの講義を受けていた憲兵だったのでその場でトリスに講義の依頼をしてきた。当然トリスは断りその場から離れたが、諦めきれない憲兵がトリスを追いかけてしまった。それを見た街の住民はトリスを犯罪者と勘違いしてトリスを通報してしまった。
犯罪者でもないのに街中の憲兵に追われることになったトリスは何とか逃げることに成功し、ゲイルの館に戻ることができた。だが追われている最中は怪我人を出さないように気を遣っていたのでかなり疲弊していた。
更に不幸なことにその日はラロック達との食事会だった。だが突然の騒ぎで非番だったリックスは仕事に駆り出されてしまい食事会はなくなってしまった。楽しみにしていた食事会がなくなったことでトリスは大いに落胆した。
余談だがその一連の報告を聞いたデイルとガゼルは腹を抱えて大笑いしたと言う。
そんな経緯もありトリスはこの数日間は街に出かけずデイルの館に籠もっていた。もう目立ちたくないのか街の英雄の話にも興味がなく、次の目的地の商業都市ダリスに早く向かいたかった。だがデイル達の紹介状はもう少し時間がかかるのでデイルの館に留まるしかなかった。
「英雄の話よりも友人や知人達への挨拶は終わったのか?」
「終わったよ。学舎の友人や近所の人への挨拶はもう終わったているよ」
「私も娼館でお世話になった同僚、知り合いの方への挨拶は終わりました」
この街で安全が確保されたレイラとクレアだがこの街を出て行くことを決めた。この街にいれば少なくとも領主のデイルが保護してくれる。だが二人にとってはこの街余り良い思い出がない。できれば他の街で暮らしていけるならそうしたいと思っていた。
これからどこに住むかはまだ決まっていないが、トリスと一緒に商業都市ダリスに向かうことになった。ダリスはサリーシャから北東に位置するこの国の一番の商業都市だ。
ダリスは大都市アルカリスと王都リサリアとの丁度、中間の位置にあるため人の流れと物の流れが最も多い都市だ。そのため商売が最も盛んで働き口さえ見つかれば住むには申し分のない所でもあった。
可能であればレイラとクレアをそこで暮らして欲しいと思うのがトリスの本音だが……
「ねぇ、トリス今日はどんな稽古するの?」
トリスの心境とは裏腹にクレアは冒険者になるのを目指していた。ここ数日間行っている稽古にクレアは嬉々として取り組んでいる。亡き父親の面影を追い掛けているのか、いまだ冒険者になる夢を諦めてはいなかった。いつか大都市アルカリスに行くと口癖のようにトリスに話をする。
トリスの最後の目的は大都市アルカリスに戻り冒険者に復帰することだ。だが冒険者になって冒険をしたい訳ではない。飽くまで冒険者になるのは手段であって目的も『塔』の攻略に勤しむことではない。
(大都市アルカリスにいるあいつらに見つけ出しそして……)
トリスが三日後にサリーシャを出ることが決まった日にトリスは、レイモンドとヴァン、ザック、オルト、ダフネと会食をした。オルトから今回の件についての感謝と現状の裏組織についての話とリズ村にいる筈のレイモンドがここにいる理由を聞かされた。
「数年前にオルトからあいつらを始末する依頼があったんだ。だが旦那が知っているとおりその頃は俺は病で動けなかった。それでリズ村で旦那と別れた後でそのことを思い出して追っかけてきたのさ。サリーシャでヴァンと会うことになっていたから相談しようと思っていた」
レイモンドの話を聞いてトリスはどうせなら村を出る前に思い出して欲しいと思った。もし事前にオルトのことを聞かされていたら最初にオルトを尋ねることができた。そうすればもっと楽に事が進んだかもしれない。
だが、レイモンドが忘れていたおかげでラロックやザック、そしてレイラ達に逢えたのでトリスはレイモンドを責めることはしなかった。
「なるほどね。それでレイモンドはこの後リズの村に帰るのか?」
「ああ、母ちゃんに土産を買ってリズの村へ帰る。ヴァンとは予定通りここで別れる」
「じゃあ、ヴァンはこのままアルカリスに行き冒険者になるのか?」
ヴァンは子供の頃から冒険者になることを夢見ていた。数年前にレイモンドが病気になり介護のためにリズの村に残っていた。だがトリスがレイモンドの病気を治療してくれたおかげで介護の必要がなくなった。自由になったヴァンは自分の夢を追いかけるためにリズの村を出たのだ。
「はい。この後は大都市アルカリスに行き冒険者登録する予定です」
「そうか。がんばれよ。俺もいつかは行くつもりだ。そのときは色々と教えてくれ」
「私がトリスさんに教えることはあるとは思いませんが、アルカリスで会うことは楽しみにしています」
ヴァンは照れながらそう言い、瞳には強い意志が感じられた。ヴァンの顔立ちは母親譲りの柔和な顔つきので、野生的な顔つきのレイモンドとは似ていない。だが意志の強さや槍の腕前は父親譲りだとトリスは感じた。
「それで話は変わるがこの街の裏組織はもう俺を狙うことはないのだな」
トリスはレイモンドとヴァンからこれ以上聞くことはないので本題の件をオルトに聞くことにした。
「はい。お陰様でこの街も昔のように穏やかになります。私とダフネで裏の勢力は牛耳ることができたので今後トリスさんに御迷惑をかけることはありません」
トリスの疑問にオルトが答えた。ヘルが死んだことによって裏組織の勢力図が一変した。ヘルに着き従っていた者は今まで好き放題していたために各方面から恨みを買っていた。だが、ヘルや『三人組の悪漢』がいなくなったことで今まで大人しくしていた者達が一斉に蜂起し、ヘルの部下たちを襲い始めた。オルト達はこうなることが判っていたのでヘルの部下達を報復される前に保護していた。
そんなことをすればオルト達の立場が危うくなるが、オルト達は冷静な話ができる場を提供した。暴力を行わないことを前提として代表者同士に話し合いの場を設けた。
話し合いの焦点はヘルやヘルの部下達から被害を受けた被害者への賠償と加害者達の今後についてだ。賠償については加害者側の財産の没収と賠償金を払うことで合意した。賠償金の額も五年ほど真面目に働けば返せる額なので被害者側も渋々承認した。
被害者と加害者の今後については人数が多い被害者側をダフネの配下にして、加害者側をオルトの配下にすることになった。ダフネは身内には甘いが理不尽なことは毛嫌いしているので被害者が加害者に害意を与えることは許しはしない。むやみに危害を与えた者は罰を与えることを確約した。また、逆に加害者が賠償金を払わずにいた場合はそのときも制裁を与えるとも告げた。
仮に問題が起きたときはオルトが処理することにもなった。オルトは合理的に物事を判断するので問題が起きたときは双方の言い分と第三者の意見を聞いて彼の判断の下に裁かれる。それら決まり事が決定したことで話し合いは無事に終了した。
その結果、この街の裏組織の勢力図はダフネがトップとなりオルトが補佐する形式となった。また、今回の騒動の中心となったトリスについては接触することを禁止した。トリスの実力が異常に高いので、下手に接触し問題を起こすと街が混乱する。無闇に近づいた者や良からぬことを考え接触した者には厳しい罰を与えることになった。
そのことをオルトから聞いたトリスは一安心するが自分が魔物のような扱いをされて少し不満だった。
「トリスさんそれは仕方ありません。あの倉庫での戦いを見たときは本当に死を覚悟しました。後でオルトの協力者と知ったときは敵対しなくて良かったと心から思いました」
ダフネはトリスの心中を察ししてフォローを入れた。正直に言うとダフネはまだトリスが苦手だった。あの日倉庫に訪れたダフネにとってトリスはお伽話に出てくる魔人と同じとように思えていた。
オルトから作戦のことは何も聞かされていなかったダフネにとって、次々に死体の山を築くトリスは人外にしか見えなかった。その男が倉庫の階段を上がり自分たちに近づいてくるときは恐怖で気が狂いそうになったほどだ。
付き添いの女性、リーシアに小声でトリスは味方だと聞かされたときも信じられずにいた。オルトとトリスが親しく話しているのを見てようやく安堵した。だが、ダフネは未だにトリスを警戒している。そのためかトリスを一般人として扱うことはこの街ではもうできない。裏組織のトップがそう認識しているのでそれを覆すことは至難だった。
その話を聞いてトリスは少し腑に落ちなかったがこれ以上話しても意味はないので一番気になっていたことを質問した。
「それでザックはどうしてそんな顔をしているんだ? 何かあったのか?」
終始黙りこんでいるザックにトリスは話しかけた。会食が始まってからザックはずっと申し訳なさそうに沈黙していた。理由はトリスの依頼にあった医者を見つけ出すことができずにいた所為だ。
ザックはあれからレイラに毒を飲ませていた医者を探し回った。調査した結果、既に医者はこの街を出ていることが判った。行き先についても調べたが結局どこに向かったのか判らなかった。
「トリスさん、申し訳ないです。あれだけ助けて頂いたのに何も返せずすみません」
ザックは恩人であるトリスに恩を返せずに思い詰めていた。だが今回のザックの功績はトリスの中では高い。またオルトやダフネもザックには感謝していた。
ザックの判断で街の住民たちや組織の被害者達がヘル達に復讐でき、かなりの留飲が下がった。そのおかげで組織の加害者と被害者の話し合いも問題なく終わったのも事実であり、ザックの働きに関してはオルトやダフネは高く評価していた。
だがザックにとっては一番力になりたかったトリスには何もしていない。その想いにザックは捕らわれ塞ぎ込んでいた。こうなってしまうと周りが何を言っても何も解決しない。ザック自身で解決しないとどうにもならないのだ。
「でしたら私と一緒にアルカリスに行きませんか?」
落ち込んでいるザックを見かねてヴァンが思わぬ提案をしてきた。その提案にザックは首を傾げた。
「私と一緒に先にアルカリスに行きましょう。アルカリスでトリスさんが来るのを待つのです。待っている間にトリスさんの欲しい情報を集めて役に立てばいいのではないですか?」
「確かにそれは助かるな。ヴァンに情報を集めて貰うつもりだったがヴァンの本職は情報収集ではない。専門家のザックが適任だと思う。良ければ頼まれてくれないか?」
ヴァンの提案にトリスも同意した。その言葉を聞いてザックが天啓を受けたように立ちあがり大きな声で返事をした。
「やります。やらせてください。情報を集めることは得意です。汚名返上のためにヴァンさんとアルカリスに行きます」
「それは心強いです。私一人だと不安なところもあったので嬉しいです。ザックさん、これからよろしくお願いします」
ヴァンは席を立ちザックに右手を差し出した。
「ザックでいいです。これからよろしくお願いします」
「なら、私のこともヴァンと呼んで下さい。一緒に頑張りましょう」
ザックはヴァンの右手掴み握手をした。ヴァンとザックが先にアルカリスに行くことが決まり、ザックもやる気を取り戻して意気揚々と次の目的を見つけた。そんな若者の姿を大人たちは優しく見守り今回の件は全て片付いたと安心した。
いよいよトリス達がこの街を出る前日、ゲイルは関係者を呼び夕食会を開いた。参加者は街を出るトリス、レイラ、クレアの三人と彼らを見送るゲイル、ガゼル、ティナ、ラロック、リックス、リーシアの九人で行われた。
美味しそうな料理やガゼルお薦め酒がテーブルに所狭しと並べられている。ラロック達と行く予定だった店の魚料理も特別に配達されテーブルに並んでいる。トリスがこの街で最初に飲んだ麦酒も冷たく冷やされて用意されていた。
九人では食事の量が多いと思ったが健啖家のトリスと育ち盛りのクレアがいたのでその心配はなかった。用意された料理は綺麗に片付けられた。参加した皆は楽しいひと時を過ごしていた。
料理を食べつくした皆は男女に分かれて歓談を楽しんでいた。
特にティナとレイラはここ数日でかなり親密になっていた。ティナは気懸かりだったガゼルの病が順調に回復し、酒が飲めるまで回復しことでティナの心身ともに余裕が生まれた。そこで同じ館に住むレイラと何度か話しているうちに二人の仲は急速に深まり、今も楽しく話をしていた。
クレアとリーシアも歳が五つしか離れていないこともあり姉妹のように接していた。成人をまじかに控えているクレアにリーシアは大人の心得や化粧品の選び方、お酒の飲み方などをレクチャーしていた。
一方男性陣の五人は華やかな話とは無縁は仕事の愚痴や悩みの話をしていた。
「本当に今日はみんなから怪しまれて大変でした。ここでトリスさんと会食するなんて知られたら同僚に何て言われるか」
「そんなに大変なのか今の憲兵は?」
「大変というよりトリスさんに会いたい奴が多すぎるんです。勘のいい奴は今回の騒動を片付けたのはトリスさんだって気が付き始めています」
そう言ってリックスは自分のグラスの酒を飲んだ。リックスの話では憲兵にとってトリスは英雄的な存在になっており、『三人組の悪漢』や『ヘルの私兵百人』を倒したのはトリスが行ったと知られ始めている。
事件のあった数日後に突然旅人から講義が行われ、それが誰にでもできる方法であった。教授した人物はきっと高名な人物で凡夫である筈がないと憲兵達はそう結論付けた。そして、一連の騒動を片付けたのトリスだと推測し始めたのだ。
事情を知っているラロックから情報を得ていたリックスは口を滑らせないようその手の話題には触れないようにしていた。だが、その行動が逆に怪しいと思う者もいて、勘の鋭い同僚の何人かはリックスの行動を怪しんでいた。
今日も本来なら仕事の予定だったが、昨日のうちに早引きすることを同僚たちに伝えると何人かの同僚が勘ぐってきた。勿論本当のことなど言える筈もなく、叔父のラロックの手伝いがあると適当な理由をつけてここに来ていた。
そのことをこの場で話すと皆大笑いしてリックスの苦労を労った。特にガゼルはリックスの口の堅さに感服して特別に給金を上げると言ってきた。勿論今のガゼルにはそのような権限はないがリックスは次回の査定を楽しみにすることにした。
「それで新しい庭師の都合はついたのですか?」
「先代の息子が良い感じに育った。十年前はまだ駆け出しだったが今は立派な庭師になっていたので話をしたら向こうも二つ返事で引き受けてくれた」
「これで『都市』からの紹介があっても、断ることができます」
トリスは次の話題として気になっていた庭師について聞いてみた。ガゼルは先代からの付き合いのある庭師に相談したところ自分の息子を推された。腕を見てみたところ確かにまだ荒削りなところはあるが、それでも十分及第点に達していたので雇うことになった。
ゲイルは密偵を送られたことがよほど頭にきていたのか、信用できるところからの紹介でないと雇わないと言い張った。多少腕が落ちようが構わないと思っていたが、今度の庭師は信用もできる。腕も問題ないので安心していた。
「そう言えば話にちょくちょく出てくる『都市』と言うのは商業都市ダリスのことですか? それとも別の都市のことですか?」
トリスは気になっていた単語を周囲に聞いたところ思わぬ返事が返ってきた。
「トリス殿のように外から来た人には判らないが、ここで『都市』と言うと大都市アルカリスを指す。そして、アルカリスの一部の連中はこの街を自分たちの思い通りにしたいと思っている」
「アルカリスの人はわざわざこの街に干渉するのですか?」
「ああ、一部の権力者達だけだがアルカリスはこの街を狙っている」
トリスの疑問にガゼルはこの街とアルカリスの関係について話を始めた。
大都市アルカリスで採掘された魔鉱石や魔物の死骸は他では取れない。その為、この街から他国に船で輸出するのが一般的な輸送路となっている。輸送事態は鉱山などと仕組みは一緒なので問題はないが、逆にアルカリスへの物品の搬入についてもこの街が主に受け持っている。
アルカリスの付近では園芸農業、主に野菜などが育てられている。それ以外の小麦や豆などと言った保存ができる穀物は全て輸入に頼っている。肉や魚などに関しても同じことが言え、生活に関連する物はこの街か若しくは商業都市から賄っている。
物の値段についてはこの街の領主が決めることになっており、自分たちの利益やアルカリスの人達の生活を考え毎年、若しくは数ヶ月単位で物の値段を決めている。凶作になったときは商業都市ダリスと連絡を取り合いアルカリスと交易を結んでいた。
「それなのに今の市長は自分達の利益しか考えていない。全く何を考えているのだ!」
「父上、怒ると体に悪いよ」
「そうだトリス殿。もしアルカリスに行くなら市長の首を取ってきてくれ。その後のことは我々が何とかする!」
「父上。冗談でもそのようなことは言わないでくれ。トリス殿も困ってしまう」
話をしているうちに段々ガゼルは興奮してきた。酒が入っているせいかかなり物騒なことを言い始めるガゼルをデイルが窘めた。
「ねぇ、トリスもアルカリスに行くの?」
アルカリスの単語を聞きつけ冒険者志望のクレアがいつの間にかトリスの傍に来ていた。酒を飲んでいるようで少し顔が赤く、飲み方を教えていたリーシアも付き添っている。保護者のレイラはティナとの会話が盛り上がっているのか、クレアの変化に気が付いていなかった。
「私も行きたい! トリスと一緒に冒険者になりたい!」
酒を飲んだ所為かクレアは興奮しながら自信の希望をトリスに伝えた。
「確かにトリス殿が冒険者になるなら『塔』で獲得した品は私が買い取りますよ。直接買い取りができるように専属の商人をつけます。勿論クレアさんの品も緒に買い取ります」
クレアの言葉にラロックが便乗しトリスに商談を持ちかけてきた。通常冒険者が『塔』で獲得した物は個人の物なので必ずしもギルドで換金する必要はない。しかし交渉や品物の目利きができる海千山千の商人に勝てる者は冒険者にはいない。大抵はギルドで売るのと変わらないか、下回ることが殆どだ。しかし、個人的に繋がりのある商人が要ればギルドの仲介手数料がない分高く売ることができる。
「それでトリスは冒険者になるの? ならないの? 教えてよ!」
「そんなことどうでもいいだろう?」
「どうでも良くない!」
「どうしてだ?」
「どうしても知りたいの!」
酒に酔っているせいかクレアは必要以上に絡んでくる。周りの大人達もトリスの動向が気になるのか誰も止めようとはしない。トリスは何とか誤魔化そうとするがクレアが必要以上に粘ってくるので諦めた。いずれは判ることなので話すことにした。
「ここだけの話だが俺は冒険者に戻る予定だ」
「ホント!」
「本当だ。だが今すぐと言うことはない。まだやるべきことがある。冒険者になるのはそれが終わってからだ」
トリスはそう言い自分のグラスの酒を一気に飲みほした。
「それはいつ終わるの?」
「さあな。早ければ数ヶ月で終わるが、長ければ数年はかかるかもしれない」
「――私は早く冒険者になりたい。パパは成人したらすぐに冒険者になって活躍していたとママから聞いた。私ももうすぐ成人になるからそのときには…………」
興奮した所為なのかまだ酒に慣れていない所為なのか、クレアの酔いは早く回りそのままクレアは眠ってしまった。トリスはクレアが崩れ落ちる前に支え抱き止めた。
「寝室に運ぶか」
トリスはクレアを抱き上げ寝室まで運ぶことにした。デイルは給仕を呼んで運ばせようとしたが、トリスは断りクレアを寝室に運んだ。部屋を出る前に一言レイラに断りを入れた。レイラは付き添うと申し出たが、ティナがレイラとまだ話をしたそうだったのでトリスはレイラの申し出を断った。
「トリスさんは気遣いのできるいい人ですね」
トリスが部屋を出て行くとティナはそうレイラに話しかけてきた。
「レイラは再婚を考えていないの?」
「再婚ですか!?」
「ええ、前の旦那さんが亡くなって十年も経ったなら新しい人を見つけてもいいと思うの。あなたはまだ若いのだから。何なら私が紹介するわ」
ティナの言葉にレイラは驚いてしまった。レイラは再婚については考えたことはなかった。いや、考える余裕がなかった。クレアを娼婦にしないように一日も早く借金を返すことで精一杯だった。だがそれはもう過去の話で、これからは自分の幸せについても考えて良いのだ。
レイアは今年で三十五歳だが外見は二十代前半に見える。容姿は整っているため相手に困ることはないだろう。ティナが仲介すればより取り見取りだ。しかし、レイラには気になっている男性がいた。
「やっぱりトリスさんに気があるのね。あの夜と一緒の顔をしているわよ」
ティナの言葉通りレイラはあの夜のことを思い出していた。
トリスがヘルと対面する日の夜、レイラは一人で中庭にいた。昼間にトリスが作った稽古用の道具を見つめていた。レイラを目撃したティナはそのときのレイラの顔が、恋人の帰りを待つ者に見えていた。
その後ティナは少しお節介を焼くことにした。レイラにあることをお願いし、館の使用人たちに今日は休むように言いつけ、客室のある所へは行かないように厳命した。
ティナのお節介のおかげでレイラは周りを気にすることなく、トリスとの約束を果たすことができた。
そのときのことを今思い返しても顔と下腹が熱くなるのをレイラは感じていた。あの夜は自分にとって幸福な夜だったと言えるほどの出来事だった。それを自覚するとレイラはトリスに惹かれていることもはっきり判ってしまう。
「…………私はトリスさんを異性として気になっています。それは正直な気持ちですが、その感情が助けられた義理から来るのか、それとも純粋な好意なのかはまだ判っていません」
「――そう、確かにまだ会って日が浅いし、それに急いで結論をだすことでもないわね。旅の道中で確認するのもいいと思うわ」
ティナはレイラの今の気持ちを尊重し、それ以上は何も聞くとはなかった。いつかレイラが誰かを好きになり、その人と幸せになることだけを願った。
「何やら楽しそうな話をしているな。私達も混ぜてくれないか?」
男達の話題がなくなったのか、ガゼル達がレイラとティナの元に移動してきた。
「あら、そちらのお話はもういいのですか?」
「トリス殿が席を外されたので少しレイラ殿と話をしたくてこちらに来た」
ティナの質問にガゼルはそう答えるとレイラにある質問を投げた。
「レイラ殿はトリス殿と昔から面識があると思ってよろしいか?」
「いいえ、違います。正確に言えば私ではなく夫のイーラです。私はイーラから話を聞いていただけで直接あったのはこの前が初めてです」
「そうか。では彼の話をイーラ殿から聞いたのは何時頃か?」
「二十年くらい前になります。イーラが彼の人柄に惚れて自分のパーティーに何度か誘ったと聞きました」
「人柄? 剣の腕とかではなく?」
「はい。詳しくは覚えていませんが、確か人柄に惹かれたと聞いています」
ガゼル達は先ほどトリスの口から冒険者に戻ると聞いた。冒険者になるのではなく戻ると。トリスの実力なら冒険者として名を馳はせた人物であると推測していた。
トリスの実力は確かなもので剣の腕は勿論、魔術も巧みに使い、力任せのごり押しなどはせず、きちんとした戦術を組み立てられる人物だ。理由は不明だがこの二十年間は冒険者を休業して別の職業に就いていたとガゼル達は思った。
それで実際の冒険者時代はどうだったのかと思いレイラに訊ねた。だが、レイラの返答は予想とは違った回答だった。
「他に何か言っていなかったか? 剣の腕ではなく戦いの強さなどについて」
「いえ、特にそのような話は聞いていません。ただ、気になっていることは一つあります」
「気になっていることか?」
「はい、当時イーラはトリスさんは亡くなったと言っていました。イーラと面識があるのは本当なので別人とは思っていません。でも、どうして亡くなったことになっていたのかが不思議です」
「トリス殿が亡くなっていた?」
「正式には行方不明者として死亡認定されたのです。『塔』に入って十日間以上帰還しない人はそのように扱われます。」
『塔』に入った冒険者は十日間帰還できなかったものは死亡認定される。これは冒険者組合が決めたことだ。『塔』の中で行方不明になった者は行方を探索されるが、十日以上経過した場合は冒険者組合は手を引き、死亡扱いになっていた。
そのことをふまえて考えると、トリスは過去に『塔』の中で行方不明になった。そしてどうやって帰還したかは不明だが、二十年経った今になって姿を見せたことになる。
「ますます彼の謎が深まったな」
「そうだね。でも人の詮索はここまでにしよう」
ガゼルとゲイルは酒の席の余興として少しトリスの過去を探ってみた。余り褒められたことではないが、一つの街を預かる領主としてはトリスのことは深く知る必要があった。しかしトリスに恩があったために余興程度に留めたのだ。
トリスの話はここまでとなり、そろそろ夜も更けてきた。夕食会はお開きの時間が近づいてきたが、ティナは最後にもう一度レイラにある確認をした。明日この街を出て行くレイラにとって最後に確認しておきたいことが一つあった。
「レイラ。あなたの所在を家族に連絡しなくてよろしいの? 特にアルカリスにいるのは義弟でしょう?」
「大丈夫です。前にも言いましたが私たちは死亡したことにして下さい」
ティナと同じことをトリスにも言われた。しかしレイラは何故か義弟に連絡を取ろうとしなかった。それどころか自分とクレアは死んだことにして欲しいとデイルと交渉した。その言葉にデイルは最初は驚いたが、余りにもレイラの様子が頻拍していた了承した。
レイラの言い分は、既に自分達は死んだとされており、イーラの実家とは縁が切れている。そのため今更連絡をしても迷惑をかけるだけなので、死亡したことにして欲しいと意向を伝えた。結果、レイラとクレアはこの後の旅の途中で死んだことになる。その後はデイルが新しく用意した身分証明書を使用することになっていた。
「…………ティナ様や皆様が疑問に思っていることは理解しています。丁度、クレアもトリスさんもいませんので本当のことをお話しします。余りいい話ではありませんが……」
「娘であるクレアに聞かせたくないのは判るけど、どうしてトリスさんにも聞かせたくないの?」
「ティナ様。この話をするとトリスさんがまた私たちのために動いてしまうからです。彼には十分過ぎるほど良くして頂きました。もうこれ以上私達の家族については関わらないようにして欲しいのです」
「判ったわ、これから聞く話は誰にも話さないと約束するわ。みんなもいいわね!」
「お気遣い感謝します」
ティナ達はこれからレイラの話すことは口外しないと約束した。レイラはそのことに感謝をしながら十年前の出来事を話した。ことの発端は十年前イーラ達の家族旅行のためアルカリスを離れたことからになる。
当時イーラが率いていたパーティーはアルカリスでトップの地位を獲得していた。トップを務めるイーラが戦闘面でパーティーを盛り上げ、義弟であるモンテゴ・ルフェナンが補佐として経理や交渉、作戦の立案などを担当していた。
モンテゴ・ルフェナンは貴族の次男であり、長男が家督を継いだために冒険者になった人物だ。貴族の頃に培った教養などを活かしてイーラとともにパーティーを大きくしていった。
だがパーティーが大きくなればその分問題も起きる。人格者であったイーラは公平に処罰を与え問題を処理していたがモンテゴは違った。合理的に考えパーティーの利益に繋がることを第一に考え行動していた。
例えば二人の人間が争いがあったとき、イーラは双方の意見を聞き非がある方を罰し、またもう一方にも軽微な罰を与えた。しかし、モンテゴはパーティーの利益を優先させるので強者の味方をする。
どんな状況でも強者を優先し、強者に軽微な罰を与え、たとえ被害者であっても弱者は加害者として罰を与えられた。このことはよくイーラと対立し、いつしかパーティー内で派閥のようなものができるまで追い込まれた。
しかしそれはパーティーの存続に関わることだった。このままではパーティーが分裂してしまう恐れがあり、モンテゴからイーラに謝罪をしてきた。モンテゴは今後はイーラに方針に従うと約束し、誠意の一環としてイーラに家族旅行に行くように勧めた。目的地はモンテゴの故郷であったスーサ領であった。
イーラが何度も勧誘をしていた冒険者の故郷でもあった。その冒険者は『塔』で行方不明になり既に亡くなっていたのでイーラは追悼の意を込めて旅行をすることにした。
イーラ達家族が旅行に出かけて数日が経過したある日、イーラ達は盗賊に襲われた。二十人程度の盗賊だったが、当時のイーラの技量を持ってすればレイラ達を守りながらでも対応できた筈だった。しかし、イーラは殺された。
盗賊たちと対じしている最中にモンテゴと部下数名が助けに来たのだ。イーラとモンテゴは協力して盗賊たちを全滅させた。モンテゴは盗賊の情報を掴み、イーラ達の危険を察知して救援にきたとイーラに話した。イーラは駆けつけた義弟にお礼を言うためにモンテゴに近き、そのときモンテゴの凶刃がイーラを襲った。
モンテゴは義兄の腹に剣を突き刺したのだ。イーラは突然のことで対応が遅れ、負傷してしまったが、更に追い打ちをかけるモンテゴの剣を躱した。そして、モンテゴを返り討ちにしようとしたが、モンテゴの剣の刃には毒が塗ってあり、イーラは剣を振り上げたまま力尽きてしまった。
一連の出来事を見ていたレイラはクレアとともにモンテゴに殺されると思った。だが意外にもモンテゴはレイラ達を気絶させただけだった。
次にレイラが目を覚ましたときは人買いの馬車の中だった。傍らにはクレアがいたので一瞬安堵したがイーラがいないこと、そして気を失う前に見たことも覚えていたので、見知らぬ馬車の中で夫の死を理解するしかなかった。
「その後、私達はこの街に連れて来られ、私は娼館が働くことになりました。今日まで生きてきました」
レイラの話を聞いて皆はあまりの内容に口を開けずにいた。トップパーティーの先代リーダーが今のリーダーに暗殺されたなど大きな事件だ。下手にこの情報を漏らすとアルカリスが大混乱におちいる可能性があった。
それにレイラの話に出てきた死亡した冒険者についても皆は気になった。先ほどのレイラの話から思いあたる人物が一人いた。デイルが我慢しきれずその冒険者についてレイラに聞いてしまった。
「ちょっと待ってください。その亡くなった冒険者と言うのはもしかして」
「はい。トリスさんのことだと思います」
皆が予想していた回答がレイラ口から出た。そうなるとモンテゴとトリスは知り合いの可能性が出てくる。だがそれに異を唱えたのがリーシアだった。
「トリスさんとモンテゴが知り合いの可能性はないと思います」
「リーシアなぜそう思う?」
「トリスさんを尾行したときに酒場でモンテゴの名前がでました。ザックさんがトリスさんに伝えたのですが。そのときのトリスさんの反応は知らないとはっきり言いました。あれは演技などにはとても見えません。知り合いが冒険者パーティーのトップリーダーと知ったにしては反応が薄過ぎます」
ラロックの質問にリーシアは答えた。だがレイラの次の言葉で事態は更に悪化した。
「モンテゴは一度名前を変えています。イーラの妹と結婚したときに改名したのです。イーラの母方の家族で家名を継ぐ人がいなくなり、モンテゴ達が家名を受け継ぎました。そして、モンテゴはルフェナンの家名と一緒に名前を変えました」
レイラの言葉に部屋の空気が重くなった。そして、レイラは一呼吸するとイーラを殺した人物の名前を告げた。
「モンテゴの昔の名前は『ルセーヌ』、『ルセーヌ・モルス』です」
「「「「「「「……………………!?」」」」」」」
レイラがその名前を口にしたとき、部屋にいた者は全員に寒気が走った。部屋の窓や扉は閉まっており、すきま風が流れた訳ではない。だが全員が確かに感じた。途轍もない寒気を感じ全員の鳥肌が立つほどの悪寒がしたのだ。
しかし、それ以上は何も起きなかった。皆で部屋の中を見回したが不審な点はなく、先ほどの悪寒の正体は判らなかった。
それよりもレイラの話の方が重要だった。だが、話を聞くこと以外に何もできなかった。レイラの話の大きさに誰も何もできないと判断した。唯一できることはこの話を他者に決して漏らさないこと。特にトリスに話をした場合にどのような行動を起こすか予測ができない。獅子の尾を踏むよりも恐ろしいことが起きてしまう可能性があった。
結局、夕食会はそのままお開きになった。誰もいなくなった部屋の片隅にいた一匹の蜘蛛に誰も気が付くことはなかった。蜘蛛は静かにその場に留まっているだけだった。
翌朝、朝食を食べ終えたトリス達は予定通り商業都市ダリスに向かった。空は雲一つない晴天で旅の出発には文句無しの天候だった。トリス、レイラ、クレアは見送りにきた人達に笑顔で別れを告げて港街サリーシャを後にした。
これにて一章が終わりました。
次章は「聖者としての時間」になります。
その前に閑話を幾つか投稿する予定です。
ここまで読んでくださった方には感謝いたします。
2020年12月6日に誤字脱字と文章の校正を修正しました。