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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
越冬者としての時間
135/140

大都市アルカリス 装備新調

新年最初の投稿です。

一ヶ月近くも投稿できないとは思いもしませんでした。


1月に投稿した「異世界転生~故郷を訪ねて三千里? 家族と会うために異世界を冒険します~」も見ていただくと嬉しいです。

 秋の収穫祭が終わりを告げ、農民達は厳しい冬に備える。保存食の確認。家を暖める薪の備蓄。病気になったときの薬草の確保。冬を越すための準備は数多くあり、これらを雪が降る前に終わらせる必要がある。厳しい冬を乗り越え、暖かい春を迎えるために余念はない。そして、それは冒険者にも言えることだった。


「春までにこいつらの武器を新調しろとはまた無茶な依頼だな」

「無理なのか?」

「無理ではないが、必要な素材の値段が高騰している。それなりに金がかかるぞ」


 親方はそう言うと鉛筆を舐めながら紙に大まかな予算を書いてトリス達に見せた。トリスに同行しているクレア、ヴァン、エル、ジョセフは親方が提示した金額を目にして顔が引きつった。自分達が考えていた予算の数倍の値段だった。


「ボッタクリじゃないですか!」

「そんなわけあるかい。これでも親切な値段だ。旦那の紹介だから利益をギリギリまで押さえたんだ。高いのは素材が高騰している所為だ」

「そんなぁ」


 親方に食ってかかったクレアはその場にへたり込んでしまった。専用の武器が手に入れられるかもしれないと意気込んでいたのでその落差は大きかった。


 リューグナーから得た見舞金が支払われ、クレア達の資金が一気に増えたことで装備を新調することとなった。武器を失ったクレアもそうだが、ヴァンの槍とジョセフの斧は金属疲労で限界に近かった。エルは剣から徒手空拳に戦闘スタイルを変えたため、満足な武器を持っていなかった。


 クレア達は武器のことをトリスに相談するとトリスはクレア達を親方の店を紹介した。腕のいい職人に専用の武器を造って貰えると意気揚々と親方の店を訪れ、装備を新調する筈だったのにその目的が崩れてしまった。


「まあ、そんなに落ち込むなよ。既製品で良ければいいのが買えるぞ。これなんかどうだ? 細剣(レイピア)だが耐久性は長剣(ロングソード)並みだ」


 親方は店の商品の細剣(レイピア)をクレアに渡した。クレアは手に取って細剣(レイピア)の使い勝手を試してみると良品だが手に馴染む感触はなかった。


「確かにいい剣だけどあまり手に馴染まない」


 クレアはそう言って細剣(レイピア)を親方に返した。クレアの


「駄目か……」

「親方、分割支払にしてみてはどうですか?」


 落ち込むクレアを気の毒に思ったリズが分割支払を提案した。


「確かにある程度の分割支払でもいいが、もし払えなくなってトンズラされたら俺達の生活が困窮してしまう。せっかくここまで盛り返したのにまた元の生活に戻るのは……」


 親方はそう言いながらリズのことを心配した。親方の店は以前とは違って繁盛していた。親方がやる気を取り戻し、リズも以前よりも精力的になったおかげで店は良い方向に変わっていた。自分が無気力だったときも支えてくれたリズには感謝しており、前の貧しい暮らしをさせないよう努力していた。


 親方の今の目標は質の良い武器を造ることリズを一人前の職人に育てることだ。リズは勤勉なためこのまま五年ほど修行を重ねれば立派な鍛冶職人になる。それまではこの店を維持し続けなければならないため、親方としては危険な橋を渡ることはできなかった。


「ならこれを担保にしてくれ」


 親方が悩んでいるとトリスは魔導鞄(マジックバック)から魔鉱石を一つ取りだし、テーブルの上に置いた。魔鉱石を見た親方は驚きの声を上げた。


「こ、こいつはかなり純度が高い魔鉱石だな」


 鑑定士ではない親方は正確な等級は判らないが、仕事柄魔鉱石を扱っているので目の前にある魔鉱石が高品質の物だとすぐに判った。


「こいつらの支払が滞ることがあればこれを売れば補填できるだろう?」

「十分だ。だが、いいのか? おまえさんが損をするかもしれないんだぞ。嬢ちゃん達が支払いせずに逃亡したり、俺が持ち逃げするかもしれないぞ」

「親方とクレア達のことは信用しているし、金には困ってないから問題はない」

「金には困ってないか一度言ってみたい台詞だな。よし、春までに武器を完成させてやる。もう一度おまえさん達の要望を言ってくれ」


 トリスが担保を出してくれたことにより金銭の心配がなくなり親方の制作意欲が出てきた。クレア達もトリスにお礼をいい、親方に自分の武器の特徴を伝えた。


「私は長剣の両刃がいいです。突きが得意なので!」

「折れにくい直刀でいいな。刀身の長さは後で計るぞ」

「俺は槍です。できればこの槍と同じ作りにして欲しいです」

「この槍はかなりの業物だな。手入れも行き届いていたがもう限界だ。柄もこれを機に新調した方がいい。腕のいい職人を知っている」

「俺は両手持ちの斧だ。刃は片刃でいいから厚く重く造って欲しい」

「一撃に全てを賭ける戦法か。あまりお薦めはしないが仲間がいるなら一人くらいそんな奴もいてもいいな」


 クレア達の希望は親方が受諾し何事も進んでいったがエルの希望だけは親方が難色を示した。


「大ぶりの手甲か……。確かに威力と防御面に問題はないが、嬢ちゃんに扱うことができるのか?」

「私が女だから腕力がないと思っているの?」

「いいや、腕力じゃなくて嬢ちゃんの戦い方だ。あんた足技を使うんだろう?」

「判るのですか?」

「俺の故郷でも徒手空拳を使うやつがいて嬢ちゃんと佇まいが似ているんだ。そいつも女だったから手技よりも足技を使っていた。足技が主体ならこの手甲の大きさは邪魔になる」

「足技は対人専用で魔物には使いません。足を痛めると移動や戦闘の離脱に影響が出るので……」

「それは判っている。だが、客の得意な技を活かせない武器を売るのは俺の矜持に反する」


 親方はそう言うと鉛筆を握りしめ紙に何かを書き始めた。何かを書くがすぐにそれを訂正して、また鉛筆を走らせる。それを何度も来り返した。


「親方が長考してしまいました」

「時間がかかるのか?」

「そうですね暫くかかると思うのでお昼ご飯でも食べてきてください」


 リズの説明によると親方は一度悩み出すと周りの声が聞こえなくなる。時間はかかるがその分良い物を作るアイディアがでるので暫く待って欲しいと説明した。


「エル、どうする?」

「この後用事もないので私は待てます。皆はどうする」

「私も付き合うよ。どんなアイディアがでるのか楽しみだし」

「俺も興味があるな」

「仲間がどんな装備になるのか確認する必要はあるだろう」


 エルの武器にクレア、ヴァン、ジョセフは興味がありエルに付き添うこととなった。親方のアイディアがまとまるまでトリス達は一旦親方の店を出て昼食を食べることとなった。




「どうだ。これなら足に負担を減らすこともでき、攻撃力が損なわれることもない」


 親方はそう言うって自分のアイディアをまとめたデッサンをトリス達に見せた。トリス達が昼食を食べ終え、親方の店に戻ると親方のアイディアはまとまっていた。親方のアイディアは足首や脛までカバーできるロングブーツだった。


「普通のロングブーツとは違って戦闘に特化している。つま先とかかとの部分で攻撃ができるように鉄が仕込まれ、足首や臑には衝撃を吸収できる素材を仕込む。素早く脱着もできるようにファスナーも付いている」


 親方はエルにデッサンを見せながらのアイディアを説明した。親方の説明を受け、エルもこの装備なら自分の特技が活かせると思い、疑問に思ったことや自分の要望を親方に伝えた。


「なるほど膝も攻撃手段としてあるのか……」

「はい、できれば膝当ても付けて貰えると助かります」

「ただ、付けるだけだと面白みがないな……。よし、靴職人と服職人を呼んでいろいろ検証してみるぞ。面白くなってきたぞ」


 親方は子供のように目を輝かせながらエルの装備を受領した。そんな親方の様子にトリスは念のために釘をさした。


「注文したこっちが言うことじゃないが、本業の鍛冶を忘れていないか?」

「莫迦を言うな。忘れるわけないだろ。このロングブーツを構想しているときも剣や槍、斧のことも考えていたわ」

「ならいいが、エルの装備の内容を聞く限りだと鍛冶は関係ないだろ?」

「確かに剣とか違って鉄を使う部分は少ない。だが、そう言った物を作るのも鍛冶の勉強だ。同じ物を作るだけじゃ視野が狭まっちまう。ときには違う物を作ることで新たな発想をえるのも鍛冶士の仕事だ」


 トリスは親方がそう言うのならこれ以上口出しをするのは野暮だと思い親方の好きなようにさせた。弟子のリズも楽しそうに仕事をする親方に付き添っている。


「親方、作業は明日からで今日は素材の仕入れだけしますか?」

「そうだな。ついでに靴職人と服職人を探すか。腕のいい職人には心当たりがあるぞ。俺はそいつらに声をかけるからリズは買い出しを頼む」

「了解しました。ついでに食べ物も買ってきます。親方はまだ昼食も食べていませんよね」

「そう言えばそうだったな。昼は携帯食ですませるから夕食は豪勢にしてくれ」


 親方とリズはトリス達がいることも忘れて仕事の話を始めた。トリス達はこれ以上此所にいても邪魔になると判断し親方の店をでた。


「念願の専用武器が手に入る。嬉しいなぁ!」


 親方の店を出るとクレアは胸の内を吐露した。その思いにエルもすかさず反応した。


「そうだよね。自分の武器ができるのって嬉しいよね」

「どんな武器に仕上がるのか楽しみだよね」

「浮かれるのはいいが、支払を滞ることはするなよ」

「そんなの判っているよ」

「本当か? 怪我や病気になって冒険に行けなくても支払日はくる」

「「うっ」」

「ヴァンとジョセフも肝に銘じておけ、怪我や病気は誰もがなる。昨日までは無事に過ごしていたとしても明日が無事だとは限らない。日々の生活や貯蓄は可能な限りしておけよ」

「「「「はい」」」」


 トリスの忠告にクレア達は気を引き締めた。親方が自分達の依頼を引き受けてくれたのはトリスが担保を出してくれたからだ。それなのに自分達がトリスに迷惑をかけてしまうのは恩を仇で返すと同じことだ。そんな不義理なことはできないことをクレア達は再認識して家に帰った。


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