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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
探求者としての時間
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大都市アルカリス 戻りし者達

 急な斜面の上に見える光は太陽の光なのか、それとも違う光なのかは判らないがトリス達に僅かな希望を与えるには十分だった。地面にある大きな蹄も後押ししトリス達はこの斜面を登ることを決めた。


「普通に登るのは無理があるよ……」


 斜面を登ることを決めると一番初めにクレアが挑戦した。『身体強化の魔術』を使って一気に斜面を駆け上がるが、途中で足を滑らせ戻ってきてしまった。続いてヴァンも挑戦したが結果はクレアと同じで数十歩斜面を登っただけだった。


 斜面は思った以上に固く湿っている。地面が湿っている所為で足下が滑り、思うように踏ん張りがきかないとクレアとヴァンは報告した。


「ここを登るには山を登るときに使うロープやくさびが必要だね。途中で休める場所もないのできちんと準備をしないと危険だ」


 ヴァンがそう言うがトリスとフェリスは別の方法を既に思いついていた。クレアとヴァンが斜面に挑戦している間トリスとフェリスは浮遊魔術の準備をしていた。ベルセールから教わった方法で浮遊魔術を護符(アミュレット)に付与をしていた。


 フェリスは自分用の杖の護符(アミュレット)を持っていたがそれは一人乗り用でクレアとヴァンを乗せることはできない。なのでクレアとヴァンが扱える護符(アミュレット)を用意していた。


護符(アミュレット)の加工は終わった付与はフェリスがやってくれ」


 トリスはバエル王国で入手したコバモトの木材を人が乗れる大きさと厚さに加工しフェリスに渡した。


「判りました。でも、僕よりもトリスさんの方が適任かと思いますが……」

「練習だ。冒険者ならどんな場所でも自分の技術を使えるようにしておけ」

「はい」


 フェリスはトリスから渡された護符(アミュレット)に魔術刻印を施し始めた。


「ねぇ、トリス達は何やっているの?」

「浮遊魔術を付与した護符(アミュレット)を作っているんだ」

「そんな便利な物があるの?」

「あるぞ。最近発表されたばかりだから一般には情報が伝わっていないが……っていきなり臑を蹴るな」

「…………私とヴァンが斜面を頑張って登っているのを横目に笑っていたんでしょ!」

「別に笑ってなんかいないぞ。自分から進んで挑戦することはいいことだ」

「本当!」

「だが、人の相談せずにいきなり行動にするのは問題だ。俺とフェリスが浮遊魔術のことを伝える前に行動していただろ」

「うっ」

「ここを早く脱出してフレイヤ達を安心させたいのは判るが少し落ち着け。魔物の気配は少ないが突然襲われる可能性はある。フェリスの作業を邪魔されないよう周囲を警戒しておけ」

「……はい」


 自分の迂闊な行動にクレアは反省したのか素直にフェリスの警護についた。ヴァンもクレアと同じ失敗をした自覚があるのか黙ってフェリスの警護についた。


(この先が地上に繋がっていれば問題はないが、もし、違っていたら別の方法を考える必要があるな。やはり、少し危険だが川を下る方法を検討するしかないな)


 トリスはこの先が地上に通じていないことを考え別の方法も検討した。自分が脱出したときと同じように川を下り海を目指すのが一番確実な方法だ。しかし、三人を連れて海まで目指すのは危険が大きい。


(この先が地上に繋がって欲しいのだが……)


 トリスは斜面の上の光を見つめながら自分達の行く末を案じた。




「なんか、フワフワしていて怖い!」

「船の上に乗っているような感じだ」


 浮遊魔術を付与した護符(アミュレット)に乗ったクレアとヴァンは護符(アミュレット)から落ちないようにしている。二人の護符(アミュレット)はロープが付けられ、飛行魔術を使えるトリスとフェリスがクレアとヴァンの護符(アミュレット)を引っ張り上げている。


「なるべく下は見るな。クレアとヴァンは大人しくしていろ」


 浮遊魔術を施してあるので護符(アミュレット)が落ちることはない。だが、地面に比べて不安定な場所なので慣れていないクレアとヴァンはどうしても不安感を持ってしまう。二人を宥めながらトリスとフェリスは飛行魔術を駆使して斜面を登っていった。


(思った以上に魔力を消費するな。俺は問題ないがフェリスは大丈夫か?)


 トリスは横にいるフェリスを見てみるが、フェリスの表情は意外と落ち着いていた。慎重ではあるが焦った様子もなく飛行魔術を扱っている。


 フェリスはベルセールから飛行魔術を習ってから暇さえあれば練習をしていた。空を飛ぶことは以外と楽しく上手に飛べるようになったらベネットを乗せる約束をしていた。その努力の成果がでており、飛行魔術の扱いはトリスを追い越していた。


 フェリスのことを気にかける心配がなくなり、トリスは自分の役目を集中することができた。魔物が近づいてこないことを確認しながらトリス達は斜面を登りきった。


「ここが出口?」


 斜面を登りきると目の前には木々が群れがあった。上を見上げると青空が見える。地上に戻ってきたのかそれとも『塔』の中に戻ったのかクレア達には判断がつかなかった。しかし、目の間に木々の惨状を見るといつまでも呆けている場合でなかった。


 目の前にある木々は酷く荒らされた形跡があった。強い力で押し倒された木が数十本もあり、葉や枝がむしり取られている。巨大な生き物が木に実っていた果実を採るために木を倒し、果実を食い荒らしたのだ。


「可愛そう。こんなことされたら木が死んじゃうのに……」


 幹を折れたら木、根元から倒された木は朽ちかけていた。まだ、成木でこれから数十年以上は生きられた木が無残に朽ちているのを見てクレアは心を痛めた。


「どうやらこの木を食い荒らしたのはあいつか、その仲間らしい」


 トリスはある方向を指さすとそこには大きな獣の死骸があった。何年も放置されていたので、皮や肉は野生の獣に食われ骨だけしか残っていない。残った骨はとても大きく野生の獣とは比べものにならなかった。


「この牙の特徴は……先ほど見た猪の魔物と似ています」

「なら、あの魔物がここに出てきたのか?」

「俺もフェリスとヴァンと同じ意見だ。この死骸は猪の魔物だ。しかもこいつは同族に殺されたようだ」

「同族に? どうしてですか?」

「理由までは判らないが、左の脇腹の骨が砕けている。横から大きな力を受けたんだ。それが致命傷になり朽ちたのだろう。こいつにそれだけの負傷を与えられるのは同族だろう」

「仲間割れ? 他にもっと強い魔物がいる可能性もありますよ」

「確かに『迷宮』や『塔』には多くの魔物が生息しているからその可能性はある。だが、地上にいない」

「地上?」


 トリスの地上と言う言葉にクレア達は困惑した。ここは地上と判ったわけではないのにトリスはここは地上だと断言した。三人の困惑した様子にトリスは後ろの空を指さした。トリスの指を指した方には巨大な大きな影があった。


「あれは……」

「もしかして……」

「『塔』なのか」


 三人の言葉にトリスは大きく頷いた。


「太陽の位置と『塔』の位置から考えるここはアルカリスと『塔』を挟んだ反対側の位置になるな」

「「「や、やったーーー」」」


 トリスの言葉を聞いてクレアは大声で喜んだ。『迷宮』から無事に脱出できたことに三人は声を上げて喜んだ。トリスとフォールドが二十五年以上も彷徨った『迷宮』と聞いたときは内心では二度と戻れないと思っていた。だから無事に脱出できたことを三人は素直に喜んだ。


「私、本当はもう帰れないと思っていたぁ」

「僕も正直に言えば無理だと思っていた……」

「二人ともそんなこと思っていたのかぁ。俺も正直に言えば助けに来たことを少し後悔したよ」

「何よそれぇ……」


 地上に戻れたことで安心したのかクレア達は心の内を明かした。トリスは軽口を言い合う三人に釘をさした。


「無事に出られたのはいいが、『迷宮』のこととこの場所のことは誰にも言うな」

「どうして?」

「『迷宮』は『塔』と同じくらい魔物と魔鉱石が存在する。そんな場所があると知ったらどうする?」


 トリス達は『迷宮』を脱出する際に何匹かの魔物を倒し、純度の高い魔鉱石を幾つか見つけていた。これらの収入はクレアの剣を新調するのに使うと決めている。


「どうするって冒険に行くよ」

「それは冒険者の考えだ。凶暴な魔物が出てくると知ったら一般人ならどう思う?」

「僕が一般市民なら怖くて逃げますね」

「フェリスの言うとおりだ。『塔』の出入口は魔物が出てこられないように対処してある。だが、ここは何も対処がされていない。今のところ被害は少ないがこれが公になれば騒ぎになるのは火を見るよりも明らかだ」

「だから、冒険者組合(ギルド)にも報告をせず、このまま放置するのは危険ではないですか?」

「ヴァンの危惧することも判る。穴を塞ぐこともできるが、下手に穴を塞ぐとそれはそれで問題になる可能性がある」


 ここから入ってくる雨水や洞窟内の湿気の影響で斜面が濡れている。そのため、容易に魔物が斜面を登れなくなっている。仮に出口を塞いでしまうと地面が乾いて魔物が容易に登ってくる可能性が出てくる。出口付近は斜面が緩くなっているので、出口を塞いだとしても壊されてしまう。


「冒険者組合(ギルド)に報告しないのは冒険者組合(ギルド)がここを独占する恐れがある。国や諸外国にきちんと報告して対応を取ればいいが、利益に溺れて自分達で独占してしまう可能性が高い」

「それなら国に直接報告すれば……」

「実績がほとんどない冒険者が報告しても信じてもらえない。下手に吹聴して騒ぎになったら都市が混乱するだけだ。放置するのが得策だ」


 トリスにそう言われクレア達三人は従うことにした。今は生きて戻れたことで十分だったし、冒険者組合(ギルド)や都市については自分達には荷が重いと判断したのだ。




「「「ただいま!」」」


 クレア達は家の扉を開け大声で帰宅したことを告げるとフレイヤが一番初めに顔を見せクレアに抱きついた。


「クレア、無事で良かった。怪我はしていないの?」

「フェリスが守ってくれたの。それにトリスとヴァンが助けに来てくれたから怪我もないよ」

「フェリス、ヴァン。二人ともクレアを守ってくれてありがとうね」


 フレイヤにお礼を言われフェリスとヴァンは照れくさくなったが悪い気はしなかった。そんな二人の頭に手が置かれ優しく撫でられた。


「二人も無事に戻って良かった。心配したんだからね」

「ローザさん!」

「今日は三人の好物を作るからね」

「あ、ありがとうございます」


 それからダグラス、ザック、ベネット、ロバートが三人が無事に帰ってきたことを喜び、家にいなかったエル、ナル、朔夜も帰宅時にクレア達が戻ったことを大いに喜びその日は夕食は三人の帰還祝いとなった。

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