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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
探求者としての時間
131/140

大都市アルカリス 辿り着いた者達

「ぷはぁっ」

「ふぅ」


 川の中からい出たクレアとフェリスは川岸に這い上がり息を整えた。服が水に濡れた所為で身体の体温がかなり低下している。鉛のように重くなった身体を気力で動かし川から這い上がった。


「死ぬかと思った!」

「本当ですよ。流石に駄目かと思いました」

「でも、フェリスの冷静な判断で助かったよ。川に落ちたらすぐに魔術で私を抱え水の中を移動してくれて本当に助かったよ」

「移動というより少し川の流れに逆らっただけです。結局流れには逆らえずここまで流されてしまいま…………。クレア、髪の色が戻っていますよ」

「えっ」


 クレアは魔導小物入れ(マジックポーチ)から鏡を取り出し自分の顔を写した。そこには銀髪の髪の色が金髪に戻っていた。クレアはトリスから貰ったペンダントを取り出してみるとペンダントの魔鉱石が壊れていた。


「壊れちゃった」

「あいつらの攻撃を受けたときに破損したんでしょ」

「せっかく作って貰ったのに……。トリスに謝って直してもらおう」

「それがいいでしょう。それよりも着替えましょう。いつまでも濡れた服を着ていると風邪を引きます。クレアは着替えを持っていますか?」

「大丈夫。トリスに言われてタオルと着替えは数日分は用意してある」

「なら、クレアから着替えて下さい。僕は火をおこします。身体が冷えているのでまずは温かいスープを作ります」


(着替え、食料、焚き火の材料。トリス普段から常備しておけと言われて助かった)


 フェリスは魔導鞄(マジックバック)から野営用の小鍋や薪などを取り出した。クレアも魔導小物入れ(マジックポーチ)から着替えとタオルを取り出した。革鎧や服が濡れている所為で脱ぐのに苦労したが、濡れた身体をタオルで拭いて着替えたことで大分身体が楽になった。


 歳の近い異性がいる側で着替えをするのは気になる。しかし、普段からトリスの指導で稽古中に着替えをするときは同じ場所でしていた。その為、クレアとフェリスは気恥ずかしさあまり感じなかった。


「着替え終わったよ」

「では、交代しましょう。焚き火は用意できたので物干し台を組み立てください」

「了解」


 クレアはフェリスが用意した簡易物干し台を組み立てた。濡れた衣服がなるべく早く乾くように焚き火の側に設置した。フェリスは濡れたロープや服を脱いで代えの服に着替えた。着替え終わった二人は濡れた服や装備を焚き火の側に置いて乾かした。


「鍋の水が沸騰してきたね」

「では、乾燥スープをいれましょう」


 フレイヤとローザが保存食用に作った乾燥スープはお湯にいれるだけでスープができあがる。栄養価が高く味も悪くない。沸騰したお湯に乾燥スープを入れると鍋から食欲をそそる匂いが漂ってきた。フェリスは乾燥スープとお湯をよく混ぜて二人のマグカップに注いだ。


「では、いただきましょう」

「うん」


 フェリスとクレアはスープを口に含んだ。温かいスープは内側から身体を温めてくれる。先ほどまで鉛のように重たかった身体が体温を取り戻したことで軽くなってきた。クレアとフェリスはスープがなくなるまで無言で食べ続けた。


「美味しかった!」

「ごちそうさま」

「さて、これからどうしよう」

「救援を待つのが一番でしょう。僕達は川に落ちましたが、ヴァンは落ちていません。ヴァンがトリスさんや組合(ギルド)に報告しているでしょう」

「…………助けに来るかなぁ」


 クレアは助けが来るか不安になっていた。『塔』に流れている川に落ちた場合は助からないことが多い。行方不明者の扱いとなって捜索が打ち切られてしまう。自力で戻ることも考えてみるが、この場所はどこか判らないのに動いてしまうのは良策とはいえない。


「大丈夫です。きっと救援はきます。それよりも僕達は生き延びることを考えましょう。幸いなことに食料は数日分はありますし、水も川の水を使えば節約できます。問題は魔物が襲ってきたときに対応できるです」

「魔物! ここに魔物がいるの?」

「判りません。ここが『塔』の中なのかそれとも『塔』から出た場所なのか検討がつきません。でも、警戒は怠らないようにしましょう。クレアは予備の剣は持っていますか?」

「あるよ。ちょっと切れ味に問題はあるけど……」


 クレアはリューグナーのメンバーから攻撃を受けた際に剣を手放してしまった。手元にあるのは予備の剣だけだった。


「では、ここを拠点として行動します。幸いなことにこの場所には魔物や獣の足跡はないので比較的安全だと思います」

「不幸中の幸いだったね」

「そうでもありません。水は川から確保できますが、食糧の問題が出てきます。手持ちは食糧は三日分です。四日目以降の食糧を確保する必要があります。川の中で魚を見かけなかったので狩りをする必要があります」

「私は狩りの経験はないよ」

「僕もないので何とかするしかないです。今日は休んで体力を回復させ、二人の体力が回復したら周囲の探索を始めましょう」

「判った。じゃあ、フェリスから休んで。私を助けるために川の中で魔術を使って疲れているでしょう」

「お言葉に甘えます。見栄を張りたいところですがそんな余裕はありません」

「何か食べる?」

「大丈夫です。先ほどスープを飲んだので」


 フェリスはそう言うと交代の時間だけを告げて横になった。疲れているせいか横になるとすぐに睡魔が襲ってきたフェリスはすぐに寝入った。クレアは周囲を警戒しつつ焚き火の炎をぼんやりと見ていた。


(トリスは助けに来てくれるかなぁ)


 話し相手がいなくなると急に寂しさがこみ上げてくる。クレアがこんなに寂しい思いをするのは久しぶりだ。母親のフレイヤが仕事で夜いないときはいつもこんな感じだったことを久しぶりに思い出した。あの頃はフレイヤがいない夜が寂しくて布団の中で耐えていた。


(ママは心配しているかな……。寂しいなぁ。また、みんなに会いたいよ)


 クレアは焚き火の炎を見ながら家に帰れることを切に願った。




「じゃあ、予定通り探索をしよう」

「はい、まずは準備をしましょう」


 フェリスが休みクレアも休み終わり、クレアとフェリスは周囲の探索に出かける準備を開始した。干してあった装備品が乾いているか、傷薬や目印になる道具を確認して出発の準備を整えた。


「じゃあ、準備はいい?」

「はい、……………………ちょっと待ってください」

「どうしたの?」

「川上の方から何か聞こえません?」

「川上から?」

「人の叫び声のような声が聞こえました」

「救助かな?」

「判りません。警戒しましょう」


 フェリスはそう言うと杖を構えクレアは予備の剣を抜いた。二人が警戒していると確かに人の叫びの声が聞こえる。それは自分達を呼ぶ声ではなく悲鳴に似ていた。声は次第に大きくなりクレア達は一旦川岸から距離をとった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 人の悲鳴がはっきりと聞こえた。クレアとフェリスは身構え周囲を警戒した。すると川上から灰色の球体が出現した。見たこともない物体にクレアとフェリスは唖然あぜんとしていると、灰色の球体は不規則な動きをして二人の近くの川岸に辿たどりついた。


「何、あれ」

「判りません。逃げた方がいいかもしれません」

「逃げるな。苦労してここまで来たんだ」


 フェリスの言葉に応じたのか灰色の球体から声が聞こえた。その声はクレア達がよく知っている声だ。


「二人とも迎えに来たぞ」 


 灰色の球体が割れて中にはトリスとヴァンがいた。トリスはクレアとフェリスが無事だったことに安堵しているのかいつもよりも穏やかな顔をしていた。


「トリス!」

「トリスさん」


 クレアとフェリスはトリスに近づき抱きついてきた。トリスは苦笑しながら二人を受け止めた。


「一日会わなかっただけなのに随分と好かれたな」

「もう、冗談を言わないでよ。知らないところにきて怖かったんだよ」

「知らないところなら『塔』も一緒だろ」

「『塔』とは違います。川に流されて見ず知らずのところにきて僕もクレアも死ぬかと思ったんですよ」

「そうか。それはすまなかった。だが、二人とも無事で何よりだ。家のみんなが心配していたぞ」


 トリスはそういって二人を引き離した。フェリスはトリスが迎えに来たことで満足したのか素直に離れたがクレアは若干名残惜しそうだった。


「おい、ヴァン。何時までへばっている」

「も、もう少し休ませてください。あんなの耐えられないです」


 ヴァンは力なく地面に項垂れていた。


「トリス、ヴァンはどうしたの?」

「一緒に川を下ってきただけなのにへばった」

「あんなの川下りじゃないです。丸い球体の中に入って外の様子も分からず川を下るなんて聞いてないです」

「一緒に付いてくるって言ったのはお前だろ。危険だと注意もしたろ」

「そうですけど……」


 一人だけ川に落ちなかったヴァンは少しだけ罪悪感に飲まれかけていた。トリスもそのことに気が付いていたのでヴァンの動向を許可し連れてきた。


「ありがとう、ヴァン」

「心配してくれて嬉しいよ」

「クレア、フェリス」


 クレアとフェリスはヴァンの気持ちが嬉しくお礼の言葉を述べた。その言葉はヴァンの中にあった罪悪感を綺麗に流してくれた。


「さて、再会の挨拶はここまでにするぞ。二人が無事だったのは喜ばしいことだが、予想通りここに辿たどりついたか」

「トリスさんはここに来たことはあるのですか?」

「ああ、できれば二度と来たくないと思っている場所だ」


 フェリスの言葉にトリスの顔が豹変した。今までに見たことがないくらい真剣なトリスの顔にクレア達は驚いた。


「いいか、ここは『塔』よりも危険な場所だ。この場所も安全だとは言えない。今から移動するから気配をなるべく抑えろ。そして、大声はだすな」

「どう言うことですか?」

「フェリス、疑問に思うかもしれないが今は言うことを聞いてくれ」

「わ。判りました」


 トリスの真剣な言葉に三人は頷き指示に従った。トリスは三人を連れて静かに移動した。




 クレア、フェリス、ヴァンの三人は見たこともない魔物の群れに驚いていた。鼠のような小さい魔物が燃えるような赤い毛皮を纏った熊と争っていた。熊は足で鼠を踏みつけ、鋭い爪で鼠を殺すが鼠達は怯まず集団で熊を襲う


火羆(ひぐま)噛鼠(すねずみ)の縄張り争いか。好機だ。あの魔物は気性が荒いからどちらかが死ぬまで争いを止めない。他の魔物達も巻き込まれるのを恐れて近くにいないはずだ」

「トリスさん、あの魔物を知っているのですか?」

「知っている。だが詳しく説明している暇はない。このまま真っすぐ行くと左に曲がる道があるからそこまで走るぞ」


 フェリスの質問にトリスは短く答えると一気に走り始めた。クレア達は魔物達の戦いを一瞥するとトリスの後を追った。道はトリスの言うとおり真っすぐ進むと左に曲がる道があった。しかし、左に曲がり少し進むと行き止まりになっていた。


「行き止まり。道を間違えたのですか?」

「いや、間違っていない。入り口を塞いであるだけだ」


 トリスはそう言うと壁の手を当て魔術を使った。トリスが触れるとその場所の壁は崩れ人が入れるだけの大きさになっていた。


「入るぞ。中は暗いからフェリスが光の魔術で先導しろ。俺は最後に入って壁を塞ぐ」

「はい」


 フェリスは杖に光を灯して洞窟の中へ入った。洞窟の中は思った以上に広く道も大きい。フェリスは警戒しながら進むと大きな空間にでた。そこは自然にできた空間ではなく何処か人工的に作られたような感じがした。


「魔物が入った形跡はないな。ここならゆっくり休めるぞ」


 トリスはそう言うと近くにあった段差に腰をおろした。その段差もよく見れば綺麗に整地されていた。


「この場所はトリスさんが作ったのですか?」

「ああ、十年前にこの空間を見つけて整備した」

「トリスさんが一人で作ったのですか?」

「俺一人では作れない。だから一緒に作ったんだ。フェリスがよく知っている人だ」

「それって……」

「想像の通りだ。この場所は賢者ウォールド・シリアファンプが最後に冒険した場所。『迷宮』だ」

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