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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
探求者としての時間
129/140

大都市アルカリス 妬む者達

コロナワクチンを接種しました。

副反応が辛いですね。熱と倦怠感が酷くて寝込みました。

来週もう一度打ちますので投稿は無理だと思います。

『飛翔の魔女』


 アルカルスに住んでいる魔術師なら最近耳にするこの二つ名はベルセール・ルフェナンのことを指す。冒険者であり、魔術師である彼女は空を自由自在に駆けることで物語に出てくる魔女を彷彿させるのでこの二つ名がついた。


 彼女が自ら考えた魔術は既に論文にまとめられて発表されている。魔術師であれば誰でも自由に空を飛ぶことができるこの魔術は魔術師の長年の夢を実現させた。魔術師はこぞって彼女の魔術を使い大空を飛ぶようになった。


 最初はアルカルス周辺だったが情報は次第に大きくなり、国内から周辺諸国へ。周辺諸国から大陸全土へ情報が伝わり、冬が訪れるよりも早く情報は拡散された。大陸の内部に住む魔術師は空を飛べることに大いに感動し、諸外国でのベルセールはその功績と感謝の意味を込めてベルセールを『飛翔の魔女』と呼んだ。


 時の人となったベルセールを素直に喜ぶ者と妬む者がいる。前者はベルセールと一緒に行動するリューグナーのメンバー。後者はベルセールの兄であるアルモルとそのメンバー達であった。


 リューグナーのリーダーであるモンテゴには長子のアルモルと次子のベルセールがいる。アルモルは父親譲りの知の才能と母親の家系である武の才能を受け継いでおり、リューグナーの後継者と言われている。有望な若手たちはアルモルの傘下に入り次世代を担う者ととして活躍していた。


 一方ベルセールは秀でた才能はなく、魔術師の才能も遅咲きであったために誰からも期待されていなかった。並の魔術師までなんとか成長できリューグナーに所属したが、リーダーとしての素質はないため周囲から期待されることはなかった。


 ベルセールと行動するメンバーも将来有望の若手とは言えなかった。リューグナーに入団を許されたが、特質した才能などがないためリューグナーのお荷物として扱われた。そんな彼ら、彼女達は必然的に身を寄せ合うことになり、ベルセールと行動するようになった。


 肩身の狭い思いをしていたベルセール達であったが、ベルセールが『飛翔の魔女』と呼ばれるようになり周りの評価が変わってきた。アルモルの傘下からは何かと嘲笑され、古参のメンバーからは無視されていたがベルセールの活躍が励みになり周囲のメンバーも今まで以上に努力するようになった。その努力が実を結びつつあった。


 お荷物と思われていた者達が次第に成果を出してきた。古参メンバー達はそのことに驚きつつ素直に称賛した。逆にアルモルの傘下の者達は面白くなかった。今まで蔑んできていた者が頭角を現し自分達を出し抜かれることに危機感を持ち始めたのだ。


 リーダーであるモンテゴはそのことについては傍観していた。自分の後継者はアルモルと既に決めていた。ベルセールのことは一人の娘として愛しているため冒険者になって欲しくなかった。魔術師の才能に目覚め、冒険者となるとベルセール本人の強い意志があったからでこのまま冒険者を続けて欲しくなかった。


 また、ベルセールには人を使う才はない。人を使うには非情になる必要がある。ベルセールのような気弱な人間にはできないことでそう言う面でもモンテゴはアルモルを後継者と決めていた。だが、アルモルに危機感を持たせ成長を促せる良い機会なので傍観することにしていた。




「クソ!」


 アルモルの自室にある机を思いっきり殴った。拳が痛むがそれ以上に苛立っていた。苛立っている理由は夕食の際に立ち寄った店での出来事だった。


 今日は『塔』の攻略が順調に行き、パーティーメンバー達と冒険者御用達の居酒屋で夕食を食べることになった。店に入り麦酒で乾杯していい気分で過ごしていた。そんなときに他のテーブルに座っていた冒険者達の会話が耳に入った。


 冒険者達はかなり酔っぱらっており大声で話をしていた。最初は自分達のことや『塔』のことについて盛り上がり、それが次第に異性の話や飲み屋の話になっていた。ありふれた話でアルモルも最初は気にも留めていなかった。しかし、その話題がリューグナーの話になった。


 彼らは十年以上も前から冒険者だったため、剣聖イーラがいた頃のリューグナーも良く知っていた。今のリューグナーと昔のリューグナーを比べ好き勝手に話していた。そして、リューグナーの話が次世代になったとき彼らはアルモルの不興を買った。


 彼らはアルモルとベルセールを比べどちらが後継者に相応しいか話を始めた。最近に何かと話題に出るベルセールを持ち上げた。十代後半になったばかりなのに既に二つ名を所有する彼女を冒険者達は大いに持ち上げた。ベルセールのことをよく知らない者達からすれば将来有望な魔術師だった。


 そんな話を聞いて兄であるアルモルは面白いわけがない。幼少の頃から自分の後を追うことしかできなかった妹が、自分よりも優れているとは思わなかった。確かに魔術の才能に目覚めたときは驚きもしたが並の魔術師程度にしかならなかった。だからアルモルにとってベルセールは出来の悪い妹でしかなかった。


 父親の才能と伯父の才能を受け継いだ自分こそがリューグナーの後継者であり、最も優れた冒険者になると信じている。たまたま幸運に恵まれ二つ名を手に入れたベルセールとは格が違うと認識している。それなのに冒険者達の話を聞くのを堪えられなくなり店を出て家に帰ってきた。


「僕の方がベルセールよりも優れているのにっ」


 アルモルは小さい頃から才があるために何でもそつなくこなしていた。挫折などを味わったことはなく生きてきた。それゆえに自分の思い通りにならないことが我慢できなかった。


 数年前にアルモルは冒険者になった記念に剣を新調しようした。今まで使っていた剣よりも切れ味が良く頑丈な剣を求めた。大陸の東の技術を持った職人の話を聞いてその職人に剣を作って貰うために依頼をした。


 リューグナーの後継者である自分の剣を作ればその店の宣伝になるのに職人は依頼を断った。実績も経験もない若造に剣を作る気にはならないと断られた。アルモルはその職人の言葉に怒り店の評判を落とすように動いた。店は傾きその職人は貧民街の傍までに行くまで落ちぶれた。


 普段はそんな素振りを見せないアルモルだがそう言った気性の荒さも持ち合わせていた。


「ちくしょう。ちくしょう!」


 アルモル何度も何度も拳を机に叩きつけ己の感情をぶつけた。それは深夜まで続いた。




 翌日、アルモルは外出した。『塔』の攻略には行かずに今日は身体を休めた。冒険者の繁忙期であるこの時期のアルカリは祭りのような賑わいであった。生まれたときからこの都市で暮らしているアルモルにとっては見慣れた風景だった。


 アルモルの足は自然に北区画にむかった。北区画は冒険者が使用する武器や防具、道具を取り扱う店が多いアルモルは掘り出し物がないか店を一軒一軒廻った。店には普段取り扱って品の他に外国から仕入れた物なども溢れていた。


 繁忙期の冒険者は一日で大金を稼ぐ者が多くいる。店はその冒険者に売るために普段は店に置かない物を仕入れ言葉巧みに冒険者に売る。珍品など多く占めるが中には掘り出し物がある。アルモルはそれを狙っていろいろな店を訪れた。


 太陽が西に傾き始めた頃、アルモルは昼食を食べるために店に入った。昨日のこともあって冒険者が来るような店ではなく庶民があまり行かない高級店に入った。店内は落ち着いた雰囲気で店の隅々まで清掃が行き届きとても清潔だ。貴族である両親はこういった店を好みよく通っていた。


 料理と飲物の注文をしてアルモルはこれからの予定を考えた。昼食前にめぼしい店をまわったが収穫はなかった。気分転換をするのが目的だったのでそれは概ね達成できた。なら、この店で美味い料理を食べてこのまま帰るのもいいかと思った。


「ここだよ。この店だよ」


 不意に入り口から若い女性の声が聞こえた。アルモルが入り口に目を向けるとそこには銀髪の少女がいた。少女は冒険者なのか服装は軽装だが剣を携えていた。アルモルはその少女から目が離せなくなった。正確に言えば少女が持つ剣から目が離せなくなった。


 鞘に収まっているが何処か市販の剣と異なる雰囲気を持っていた。アルモルは少女に声をかけようとしたが運悪く料理が運ばれてきた。アルモルが目を離した隙に少女の姿は見えなくなりアルモルは急いで入り口に向かった。


「ちょっといいですか」

「はい、なんでしょうか」

「先ほど入り口にきた銀髪の女性はどうした?」

「席に空きがなかったので今日のところはお帰り頂きました。お客様のお連れ様でしたか?」

「そうじゃない。すまないが一旦外に出る」


 アルモルは店員にそう伝え店の外に出たが銀髪の少女は既にいなかった。


「くそっ」


 せっかく自分の求めた物が目の前にあったのに運悪くそれを見逃してしまった。


「絶対に見つけてやる」


 銀髪の女の冒険者はそんなにもいない。冒険者組合に尋ねれば見つけることができる筈だ。見つけることができれば剣を譲ってもらう。金額は向こうの言い値で支払うが、拒否するようであれば奪うまでだ。


 アルモルはそう心に誓い店に戻った。




「クレア、剣を新調したんだ」

「うん、前の剣はもう限界だったから新調したんだ。いい剣が見つかってよかったよ」

「ちょっと変わった意匠ね。他の国の剣なの?」

「大陸の西にある国で作られた剣みたい。前の剣よりも頑丈で切れ味があるよ」

「材質に魔鉱石が使われているね。かなりの値打ち物に見えるけど予算は大丈夫だったの?」

「大丈夫。中古で買手がつかなくて安かったよ」

「こんなにいい品質なのに買手がつかないの?」

「前の持ち主とその前の持ち主が非業の死を遂げたから安くなったよ」

「非業の死って不吉じゃない?」

「エルちゃんは心配性だね。大丈夫、女の私には関係のない死因だから問題ないよ」

「そうなの?」

「一応、トリスにも鑑定してもらったけど魔術的な処置はないって言ってた」

「それら、いいけど……」

「それよりも浮いたお金でちょっと高いお店に行ったんだけど、席が空いてなくて断られちゃった」

「そのお店って前に話したお店?」

「うん。話を聞いて行ってみたかったんだよね。今度一緒に行こう」

「いいけど、ナルも誘っていい?」

「うん、三人で一緒に行こう!」

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