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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
探求者としての時間
128/140

大都市アルカリス 抗う者達

アパート修繕でドリルが使われている。

ドリルの振動が部屋まで伝わって辛い。

 ダールの慈善事業は名ばかりで実際はダールの性癖を満たす悪行であった。ダールは少年性愛者で色白の線の細い子を寵愛している。公にできる趣味ではないので、ダールは慈善事業の一環として貧民街の子供を引き取りある施設で生活させている。


 表向きは貧しい子供達に教育して手に職をもたせると公言しているが実態は違う。昼間は確かに学問や仕事に必要な勉強などを行っているが、夜はダールの相手をさせられる。この国の法律では十五歳以下の子供にそのような行為をすることは認めていない。だが、少年達は貧民街で育っているため、元の生活よりも施設の生活の方が良いためダールの言うことを聞くしかなかった。


「おい、そんなことが許されていいのか!」


 トリスからダールの慈善事業の話を聞いた親方は激高した。


「ダール本人も法に触れていると思っているから裏で行っているんだ」

「なら、証拠を集めてっ」

「証拠を捏造したと言われて訴えた方が負ける。ダールは腐っても市長だ。市長とやり合うならそれなりの発言力が必要だ。冒険者一人と武器屋の店主じゃ話にならない」

「なら、市民全員に訴えかければ……」

「あいつの政策に対して市民の不満は今のところない。ダールは慈善事業の以外はこの都市に有利な政策をしている。市民に訴えてもうわさ話の題材になるだけだ」

「それでも、幼い子供を食い物にしているのは……」

「食い物にされているのは子供達だけじゃない。ダールの政策は確かにアルカリスにとっては有益だが、周りの街や都市のことを考えていない。自分達が優位になるような政策が多いから近隣の領主達からは嫌われている」

「なら、そいつらに助力を求めれば」

「無理だ。嫌いという理由だけで領主達は動かない。いや、正確に言えば動けない。アルカリスから輸出される物は他の場所では替えが効かない物が多い。ダールに睨まれて輸出制限されたら領地の運営に支障をきたす」


 トリスの説明を聞いて親方は黙るしかなかった。トリスの言うとおり武器屋の店主には手に負えないと悟ったのだ。


「さて、話がそれたな。もう一度と確認するがダールの慈善事業のことは知っていたな」

「――知っていました。彼に引き取られた子供のことが気になり、様子を見に行った子が施設の実態を知り私達に伝えました。私はダールの凶行を知りながら止めることができずにいます」


 ロベルトはまるで懺悔をするように告白した。ロベルトは自分の後任者がそのような非道を行っていることに酷く心を痛めている。また、それに対してなにもできずにいる自分を責めていた。


「そうか。加担していないならそれでいい」

「私を咎めないのですか?」

「咎める? 何もせず落ちぶれた男をなぶる趣味はない」

「手厳しいのですね」

「そう思うなら何か行動を起こせ。負け犬でも嫌なことがあれば吠えて抵抗するぞ」

「父さんは負け犬じゃない!」


 突然、部屋の扉が開きトリスとロベルトの話に一人の女が割り込んできた。歳は二十歳前後でまだあどけなさが残るの女性だ。赤の混じった栗色の髪がとても印象的だ。


「誰だ、お前は」

「私の名前はロザリアよ。それよりも父さんを負け犬呼ばわりするな」

「ロベルトの娘? 似ていないな」

「正確に言えば養子です。市長を辞任してここに来たときに一緒に暮らすようになって養子にしました」

「そんなことはどうでもいい。父さんを負け犬呼ばわりしたことを謝れ」

「ロザリア、お客様に失礼なことを言うな」

「失礼なのはこの男よ。父さんのことを何も知らないのに負け犬みたいに言うなんて!」

「いいから黙りなさい。今の私達はトリスさんの慈悲に縋らなければ生き残れない。謝りなさい」

「くっくっくっ。いや、謝る必要はない。久しぶりに戦闘以外で人から敵意を向けられてちょっと新鮮だ」

「旦那?」

「いいだろう。もし、お前の言うことが本当なら俺はロベルトに謝罪しよう」

「あっさり認めるの?」

「いや、俺からある条件をだす。その条件を達成できたら謝罪し、時計の量産や販売などを取り仕切ってもらう」

「本当ですか?」

「ただし、条件が達成できなかった場合はそれなりの対価を頂く。この条件を飲めるか?」

「まだ、条件を聞いていないわ」

「勢いに任せて乗るかと思ったが意外と落ち着いているな」

「勝負事や契約に関することはきちんと条件を確認しろって父さんから教わったのよ」

「いい、教育だ。では、俺から出す条件は三つ。まず、量産用の時計を作って貰う。試作品でいいから意匠が異なる物を五つ作ってもらう」

「五つも!」

「量産する際は意匠が異なったものがあった方がいい。大まかな図面はこれだ。時計の機密部分に関しては教えられないが、接続部分を図面通りに作れば時計は動くから問題はない」

「判ったわ」

「次に量産から販売までの企画書を作って貰う。審査はこちらが用意した人物にして貰う」

「不正はなしよ」

「当然だ。勝負ごとに不正があった場合、それは勝負ではない。この二つの条件を半月で行って貰う。人材や資金に関しての制限はない」


 トリスはそう言うとバックから皮袋を取り出してテーブルに置いた。


「金貨五十枚ある。支度金に使え」

「ほ、施しは受けないわ」

「勘違いするな。金がなくて条件が達成できないとは言わせないためだ。足りないならもう五十枚追加してもいい」

「……十分よ。それで三つ目の条件はなに?」

「来年の市長選に出て、ダールを蹴落とせ」

「「「!?」」」


 トリスの言葉に三人は声にならない程驚いた。


「だ、旦那。さすがにそれは無茶だ」

「別に市長に当選しろとは言わない。ダールが当選しないように手を尽くせばいい」

「私が出ても逆に避難されて終わるだけです」

「ロベルトがでる必要華はない。もっと適任者がいるだろ」


 トリスはそう言ってロザリアを見た。


「わ、私ですか!」

「そうだ。先に二つの条件を満たせば時計の量産の権利は譲る。生産から販売まで一任する」

「……そう言うことですね」


 トリスの意図にロザリアは気付いた。生産から販売までを一任されると言うことは部品の材料の買い付けや職人達の管理まですることになる。最低限の部品の買い付けだけで材木、金属が必要になり、職人の管理となると食事や作業着、作業用工具など様々な物資が必要になってくる。これだけでも各市場に顔を売る機会ができて、時計を販売することになればさらに顔が広くなる。


「ロザリアよりも適任者がいるならそいつに任せてもいい。人選や手段に口を挟むつもりはない。三つ目の条件を満たした場合は時計の権利も譲る。売り上げの一割……、いや半分の五分でいい」

「一つ質問していい?」

「いいぞ」

「あなたも人脈として使用してもいいの?」


 ロザリアは満面の笑みを浮かべながら訪ねてきた。彼女はトリスの資本や冒険者の肩書を利用するつもりだ。


「いいぜ。俺が納得する条件や策があった場合は乗ってやる」

「では、まずは二つの条件を達成する必要がありますね」


 ロザリアはそう言って右手を差し出した。トリスはその手を掴んだことで契約が成立した。




「ロザリア、今からでも考えなおさないか」


 トリス達が帰った後、ロベルトはトリスとの契約を破棄するようロザリアを説得していた。


「今更後には引けないわ。それに時計の権利を貰えればここにいる人達がもう一度やり直せる」


 ロザリアは窓から見える貧民街を見た。この場所はアルカリスの夢や希望に惹かれ集まった人たちが挫折や夢半ばで敗れた人達が最後に行きつく場所だ。いや、それらの人はまだいい。自分で選ぶことができた人達だ。自分で選ぶことすらできずにいる人も多くいる。


 ロザリアがそうだ。ロザリアは物心ついたときにはこの貧民街に住んでいた。両親の顔は知らない。唯一の肉親は兄だけだった。兄と同じような境遇の子供達と集まり共に生活をしていた。どうして子供達がこの場所にいるのか理由は様々だ。だが、ロザリアたちは自ら選んでこの場所に来たのではない。


「私は……私達はこの場所を変えたい。子供達が安全で安心して暮らせる場所にしたい。窃盗や物乞いなんかせずに自分達で仕事をして日銭を稼ぎたい。そして、ダールから兄弟達を救いたい」


 ロザリア達がダールの悪行を知ることができたのは兄のおかげだ。貧民街でダールに連れていかれた子供が心配になり、ロザリアの兄が施設へ会いに行った。ロザリア達にとっては弟分が元気で過ごしていればそれでよかった。しかし、実態は違った。


 ロザリアの兄は面会したときの弟分の様子に疑念を持ち、施設に侵入して内部を探った。そして。ダールの悪行を目にした。ロザリアの兄は弟分を助けるために施設へ侵入して捕まった。弟分を助けることはできずロザリアの兄は暴行の末に亡くなった。


 遺体は貧民街の入り口に捨てられていた。いや、ロザリアの兄は辛うじてまだ生きていた。虫の息だったが驚異的な生命力で死んではいなかった。しかし、出血が多くロクな治療ができないこの場所では助けることができなった。ロザリアの兄は最後の力を振り絞ってダールの悪行を伝え息を引き取った。


「ダールは兄さんの仇でもある。ダールに復讐できるなら私はなんだってやる」


 ロザリアは兄が死んでからはロベルトから様々な知識を学んだ。文字や計算だけでなく、政治や経済まで学べることは何でも学んだ。そして、いつか兄の仇を討つと心に決めていた。


「一世一代の大博打。絶対に成功させて見せる」


 トリスの出した条件は厳しい。二つの条件に関しては達成できる可能性はある。しかし、三つ目の条件に関しては難しい。もし、失敗したらロザリアは奴隷落ちになると予測している。ロザリアは失敗したときの条件を確認していなかった。


 ロザリアにとってトリスの出した条件は自分達の悲願でもあった。失敗したときの恐怖から二の足を踏みたくはなかった。必ず達成する意気込みでいた。


 後日、その意気込みは実を結んだ。トリスが出した二つの条件をロベルト、ロザリアは見事達成した。今後はロザリアが立ち上げた紹介で時計の生産から量産までを取り仕切ることとなった。ロベルトはロザリアを補佐しながら貧民街の相談役として彼らを雇用した。また、トリスからの紹介でラロックとも手を結び堅実に事業を進めていくことが決まった。

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