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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
暗殺者としての時間
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島国 バエル王国 残された感情

東京都にお住まいの方なら知っていると思いますが、今日の夕立は凄かったですね。

なんだかんだで夏の感じがして、そろそろ夏本番になりそうです。

そして、初回投稿から二年が経ちました。時が経つのは早いと実感しています。

 バエル城の玉座の前にはナジム伯爵が拘束され膝を屈していた。国民の前にはだされなかったがセルジオも拘束され、家臣達の前で二人はこれからボルフェルトに裁かれる。


「ナジムよ、何か申し開きはあるか」

「……貴様に弁明することはない。だが、一つだけ聞きたい。戦場で起きたアレはなんだ!」

「王に対してその物言いは不敬だぞ!」

「よせ、アレとは火球のことでよいな?」


 王に対して不敬な態度をとるナジム伯爵に近衛騎士や警備兵が注意しようとするがボルフェルトはそれを制止した。ボルフェルトは最後の情けとしてナジム伯爵の質問に答えた。


「あれはセルセタ神からの神罰だ。国が荒れることを憂いたセルセタ神のお力だ」

「ふざけるな、神などはいない。仮にいたとしても人の争いに手をだすか! 神は全ての者に対して平等の筈だ」

「神は全ての者に平等か…… 確かにその通りだ。神に祈ったとして人の争いはなくならない。神が清らかな世界を望むのであればもっと大勢の者に神罰がくだる」

「そうだ。だからアレは人の手によってもたらされた。違うか」

「否定はしない。だが、それがどうしたというのだ?」

「卑怯者め。戦で勝てないからと言って卑怯な手段を使うなどと王のすることか!」

「卑怯か………… それは違うぞ」


 卑怯とナジム伯爵に言われ、穏やかだったボルフェルトの表情は険しくなった。


「かつて弓や槍が最強の武器とされていた。しかし、現代では遠距離なら魔術の方が効果的だ。様々な武術が生まれ接近戦も槍がもっとも効果とは言えなくなった」

「なにを話している」

「戦では勝つためにあらゆる手段を講じる。兵士を鍛え、兵糧を蓄え、情報を集める。そして、最も効果的な方法で相手に勝つ。それだけだ。私はお前と同じことをしただけだ。お前は人や馬を育て武器にしようとした。私は別の方法を試した。それがたまたま上手くいっただけだ」

「お、俺と貴様が同じだと。その話が本当なら俺は運が悪かっただけなのか」

「そうだ。私は運に恵まれ、お前は運に見放された。それだけだ。納得できなくとも現状をかえることはできない。俺が勝ち、お前が負けたのだ」


 ボルフェルトは敢えて言わなかったが、自身が勝った要因は皮肉なことにセルジオの裏切りによってもたらされた。もし、セルジオがナジム伯爵側につかなければ、ナジム伯爵は大陸から傭兵を雇わなかった。傭兵団を雇う伝手は全てセルジオが仕切っていたからだ。


 傭兵団が来なければアルフェルトはトリスを雇うこともなく、タラス平原での戦いは国王軍が敗退していた可能性が高い。王座を奪おうとした強欲な男によって国が荒れたのに手を組んだ嫉妬に狂った男のせいで計画に不具合が生じたのだ。


「さて、無駄話はここまでだ。そろそろお前達の刑を決める。アルフェルト!」

「はい」


 ボルフェルトに呼ばれ、家臣達と並んでいたアルフェルトは一歩前にでた。女性らしく化粧をしドレスに身を包んだ美しい姿だが、その表情や雰囲気は凜としていて王族らしい姿だった。


「今回の戦の功績はそなたの働きが大きい。反乱軍の処罰はお前の意見を聞く」

「ありがとうございます。では、僭越ながら申し上げます。まず、兵士達やその家族については罪に問いません、彼らは主に従っただけです。また、ナジム元伯爵が雇った傭兵団については国外追放とします」

「妥当だな」

「反乱軍に加担した貴族については各々事情があると思いますが、反乱軍に加担した者は位を二つ下げ私財の没収とします。領地の管理については十年間は監察官の監視の下で運営させます。不正や賄賂を送った場合は即死罪とします。そして、主犯たるナジム元伯爵とそれに加担したセルジオ殿については『死罪』ではなく奴隷としてこの国に尽くしてもらいます」

「「「「「!?」」」」」


 アルフェルトの言葉に玉座の間にいた全員が驚いた。誰もが主犯達は死罪となると思っていたのに奴隷として生かすと誰もが思わなかった。玉座の間は騒然とし始めた。


「アルフェルト様、どうしてこの者達を生かすのですか?」

「彼らに相応しいのは死罪です。いや、彼らだけではなくその親族達も死罪とすべきです」


 家臣の中からそのような発言を飛び交うがアルフェルトは表情を変えることなく彼らの質問に答えた。


「人間は死んでしまえばそれまでです。見せしめとして殺すのも今後の反乱を防ぐ有意義がありますが、私はそれよりも彼らの能力を活かした方が良いと思いました。彼らの家族を人質にして国のために働かせます。もし、逃亡や再度反乱を起こすのであれば彼らの家族にその代償にします」

「だ、代償とはどうするのですか?」

「そうですね。死罪にするのは簡単なので、セルセタ神への生贄や民衆達への慰み者にでもしますか。ナジム元伯爵には息子や娘がいますし、セルジオ殿は独身ですが親族は多くいますので丁度いいと思います」


 裏切ることは許さないとは言わず、人質にとった者達へ責任を取らせるとアルフェルトは告げた。そのときのアルフェルトの声はとても冷たく、それと同時に為政者としての風格を漂わせていた。


「ふ、ふざけるなそんなことは許さない」

「ナジム元伯爵。あなたに許す許さないの権利はありません」

「ならば殺せ。生き恥を晒してまで国に仕える気はない」

「生き恥? 何を言っているのですか。あなた達にそんな権利はありませんよ。あなた達の死なんて価値なんてありませんから」

「「!?」」

「あなたが死んで数年間に渡る国力の低下が回復するのですか? あなたに従って焼け死んだ兵士やその家族に死んで詫びて何になるのですか? あなた達は死んでも罪を償うことは許されない。病気になろうと怪我をしようと死ぬまであなた達は働き、国に貢献するのです」


 その言葉に玉座の間にいた誰もが口を閉じた。アルフェルトが言った刑はとても残酷なものだ。もはやナジム伯爵達には人としてのまともな生活は送れない。死ぬまで国に貢献するただの生き人形になるのだ。


「アルフェルトの言う通りだ。死の苦しみなんてすぐに終わる安息だ。それよりもこれから数十年に亘る自由なき過酷な人生が国を乱した者への最大の刑だ。皆の者なにか異議はあるか」


 ボルフェルトの決定に異議を申し立てる家臣はだ一人いなく、ナジム伯爵とセルジオは観念したのか口を開くことはなかった。ボルフェルトはナジム伯爵とセルジオを連行するように騎士に命じ、国を裏切った者達は素直に応じた。これから先の暗い未来に絶望し心が壊れ始めていたのだ。


「アルフェルトよ最後に一つだけ聞く。お前の兄である第一王子はどうする?」

「正当な王族はお父様と私のみです。私が子をなし得なければ血が途絶えます。なのでお兄様には種馬として生きていただきます。あの人に価値があるのは王族の血筋だけです」

「そうか、私かお前に子ができなければ王族の血が絶える。それだけは防ぐ必要があるな」

「お父様は次のお妃を迎えるご予定はありますか?」

「ないな。余は既に二人の王妃を迎え彼女達を愛した。国王としては失格だが、彼女達以外を妃にすることはもうない。故に子供を作ることはない」


 ボルフェルトはそう言うと第一王子の処遇を決めた。第一王子は今後、王族としての地位は剥奪され、数人の妻を娶ることになった。その相手については今後議論されるが、第一王子は自由に相手を選ぶ権利するらなくなった。


 愛した妻との子供にこのような措置をするのはボルフェルトは心苦しかった。しかし、反乱軍に感嘆したことは許されることではない。死罪にせず生きることのみを許すのがボルフェルトからの最後の愛情だった。


 こうして反乱軍の罪は裁かれ数年に渡る内乱は幕を閉じた。




「本当にありがとうございました」

「ありがとうございました」


 ギレルとベルディアを迎えに行くためと母親の容態を確認するためトリスは村に戻っていた。アルフェルトとリーシアは裏切り者を拘束するために早馬とともに王都に戻った。幸いなことに村は戦渦に巻き込まれることはなく、母親も順調に回復することができた。


 トリスは村へ戻り戦争の終結を村人達に伝えると村人達は安堵した。喜ぶ村人を放置してトリスは怪我をした母親の見舞いに向かった。母親は既に意識を取り戻し立ち上がるところまで回復できていた。息子は命の恩人であるトリスのことを話すと母親は涙を流しながら感謝し、息子も母親と一緒にお礼を言った。


 トリスの前で深々と頭を下げる親子を見て、もう自分がすることはないと判断してトリスは親子に背を向けた。


「冷たいな。一言ぐらい声をかけてもいいじゃねえか」


 立ち去るトリスに声をかけたのはギレルだった。その隣にはベルディアがおり、彼女はお辞儀をしてトリスを迎えた。


「出立する。準備はできているか?」

「ああ、いつでも発てる準備はしている」

「なら、これから王都に行く。一番近くの港に船があるからそこから大陸へ帰る」

「俺らも帰れるのか?」

「傭兵は皆国外追放だ。二度とこの地に来ることはできないが牢獄に入るよりマシだろう」

「ありがてぇ」


 ギレルはそう言うとベルディアを連れて荷物を取りに戻った。トリスは村の入り口でギレルとベルディアを待つことを伝えた。この村での用事は全て終わったトリスは一刻も早くこの村から立ち去りたかった。あの母親から離れたかった。


 トリスは伊達や酔狂で母親を助けた訳ではなかった。似ていたのだ。自分の母に。髪の色や肌の色は違っているが、顔立ちや雰囲気が亡き母に似ていた。それに気が付いたのは先ほど母親を見舞いに行ったときだ。母親の浮かべる笑顔が自分の記憶にある母と似ており、母親が斬られたときに無意識にあのような行動を起こしてしまった。


 そのことに気づいたトリスは自分に人らしい感情がまだ残っていたことに驚いた。それと同時に恐怖した。復讐のために生きている自分にまだそのような感情があることに戸惑い一刻も早くこの感情を忘れようとしていた。




「待たせたな」

「暫くお世話になります」


 ギレルとベルディアが荷物を持って戻ってきた。トリスは二人を引き連れ村を後にした。村から離れ暫く歩いているとギレルが思い出したかのようにトリスに話し掛けてきた。


「そう言えば一つ聞きたかったんだいいか?」

「なんだ」

「冒険者はみんなお前さんのように強いのかい?」

「…………質問の意味は判らないが俺より強い奴は何人か知っている」

「それはイーラ。イーラ・エーデのことか?」


 イーラの名前がギレルからでたことでトリスは目を見開いてギレルをみた。


「やはり、そうか。お前さんはイーラの知り合いだったのか?」

「どうして、イーラのことを知っている?」

「頼まれたんだ。十年間以上前に殺す依頼を受けッ」


 ギレルは最後まで言葉を述べることはできなかった。トリスから発せられる凄まじい殺気に身動きどころか息をすることもできなくなった。


「お前がイーラを殺そうとした盗賊か?」

「ちがっ、ちがっ」


 違う。との短い言葉すら言うことができず、せめて誤解を解くためにギレルは小さく首を横に振った。ギレルが首を横に振るうとトリスの殺気は幾分か弱まった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「――落ち着いたら話せ。お前はイーラが殺害された現場にいたのか?」

「………………俺は行っていない。依頼を受けたときに俺の勘が警鐘を鳴らした。絶対に勝てないと感じたから依頼を受けず逃げ出した。だからその後イーラがどうなったかは知らなかった。……殺害されたのも今知った」


 ギレルは当時のことはゆっくり話し始めた。トリスは殺気を収めギレルの話を聞いた。


 ギレルは傭兵団を立ち上げる前は各国を旅して資金集めをしていた。そのときのインフェリス国に立ち寄ったときにイーラの暗殺の依頼があった。腕に自信があったギレルは盗賊に変装して依頼を行おうとした。下見のために旅行中のイーラに接近しようとした。しかし、イーラを遠目で見た瞬間に鳥肌が立ち悪寒が走った。ギレルは下見の段階で心が折れそのまま逃げるようインフェリス国を離れたとトリスに話した。


「お前さんの見たときからイーラのときと同じように危険を感じた。同じ冒険者と聞いたときに知り合いだと思ったんだ」

「そうか。俺からも一つ聞きたい。イーラの殺害を依頼した奴は誰だ」

「男だ。本名までは知らないが多分偽名だ」

「その男の特徴は…………」


 ギレルは依頼した人物の特徴を話した。背丈や髪や目の色、顔立ちなど覚えていることを全てトリスに話した。トリスはその男の特徴をよく知っていた。かつて自分の友であり、仲間であった男の特徴と一致していた。


 トリスは自分の心から復讐の感情が騒ぎだつことに歓喜を感じながらギレルにある提案を持ちかけた。

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