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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
暗殺者としての時間
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島国 バエル王国 真昼の会談

「反乱軍と決着をつける。場所はタラス平原だ」


 ボルフェルトは会議が始まると同時にそう宣言をした。反乱軍の遊撃隊への対応かと思っていた将軍や大臣達は突然の王の宣言に動揺した。


「は、発言をよろしいでしょうか」

「ドルフ将軍、発言とは何だ」

「突然の王の言葉に皆が驚いております。タラス平原での決戦と言うことでしょうか?」

「無論だ。国軍の主力を持って反乱軍を鎮圧させる。反乱軍の戦力は多くて三万。こちらの戦力は五万。数の上ではこちらが有利だ。ならば我が国軍が最も有効な場所で迎え撃つ」


 確かにボルフェルトの作戦は理にかなっている。今までは双方の被害を最小限にするために大戦は控えていたが、ボルフェルトは長引く内乱に終止符を打つために今回の作戦を立案したと家臣に伝えた。


「早期の解決はここにいる誰もが賛成です。しかし、大軍を動かすとなると補給の件が…………」

「財務大臣よ、はっきり言え何かあるのか?」

「はい、前に被害があった通り反乱軍の遊撃隊を抑えなければまた補給部隊が壊滅します。大軍で進軍し補給が満足に届かなくなると兵の士気に関わりますので……」

「その通りだ。だが、既にそれについては対応している。アルフェルトが先日帰還した。反乱軍の遊撃隊に対抗できる戦力を異国から持ち帰った。余の命を見事に果たしたのだ」


 王の言葉に家臣達は驚いた。アルフェルトが国を出たのは二十日ほど前だ。そんな短期間で戦力を集め帰還したとは喜ばしいことだ。


「それは本当に使える戦力なのでしょうか?」

「ドルフ将軍、アルフェルトを疑うのか」

「恐れながら一国の将軍として意見を言わせていただけると達成するまでの時間が短すぎます。反乱軍の遊撃隊は数は少ないですが手練れの者が何人かいます。その者に対応できる人材など簡単に見つけることはできません」

「ドルフ将軍の言うことはもっともだ。だが、余はその実力を十分に見た。アルフェルトと一緒にな」

「それはどう言うことでしょう……」

「お待ちくださいっ」


 ドルフ将軍の言葉を警備隊長が遮った。


「警備隊長、どうした。急に大声をだして」

「失礼しました。しかし、王の口から聞き捨てならない言葉がありましたので無礼を承知で発言します。失礼ですが王よ、何と仰ったかもう一度言って頂けますか」

「アルフェルトと一緒に見たと言ったのだ」

「信じられない……」


 ボルフェルトの言葉に警備隊長は顔面が蒼白になった。警備隊長の徒ならぬ雰囲気に家臣達は驚き、唯一警備隊長の心情を理解していたのは近衛騎士達だけだった。


「――私は王子の帰還を知らされていない」

「私もだ」


 警備隊長は絞り出すような声で言い、近衛騎士長も苦い顔をしながら答えた。


「それは君達の部下の職務怠慢では?」

「外務大臣。お言葉ですが職務怠慢ですむ話ではありません。城の警備を任されている以上、皇族の帰還を上司に知らせないと言うのは大問題です」

「近衛騎士もそうだ。王子が帰ってきたなら身辺警護に就く必要がある。それなのに王子の帰還を知らせないのは不自然過ぎる。しかも王子は国外の人間を王に会わせた。一歩間違えれば王族が暗殺されていたかもしれません」


 警備隊長と近衛騎士長の言葉を聞いて王を除く会議の出席者達はようやく事態の重さに気が付き顔色を悪くしていた。


「どうやらアルフェルトが連れてきた者の実力は皆が判ったようだな。警備隊長や近衛騎士長が知らずに…… いや、この城のいる者が気が付かぬうちに城に入り込み、余と対面した。実力は申し分ない」

「しかし、潜入が得意だからと言って戦力になるとは……」

「ドルフ将軍は心配性だな。だが、アルフェルトが雇った者はそもそも野戦で戦って貰うのではなく反乱軍の遊撃隊を相手にして貰うのだ。暗殺、襲撃、手段を問わず達成してくれればよい」

「反乱軍の遊撃隊の人数は五十人近くいます。中隊規模の人数を相手にするのは無理があるのでは?」

「反乱軍の遊撃隊で厄介なのは数人の実力者だ。その者達をどうにかすれば後は一般兵で対応できるだろう。しかし、それも問題ない。アルフェルトが雇った者は百人の傭兵を一人で相手にし、無傷で勝利した戦歴がある。諜報部隊長の娘、リーシアが実際にその現場を居合わせたのだから誇張ではないと余は思っている」

「!?」


 突然、娘の名前を出されリーシアの父親である諜報部隊長は今日一番の驚きをみせた。


「お、王よ、娘に会われたのですか?」

「何だ、お主はまだ会っていないのか? 息災であったぞ」

「こ、心遣いありがとうございます」

「うむ、アルフェルトが余の命を達成できたのはリーシアの功績も大きい。この内乱が終わったら然るべき褒美を授けるぞ」

「そ、それは痛み入ります」

「話が大分逸れてしまったが反乱軍の遊撃隊についてはアルフェルトに一任しする。我々のすべきことは一刻も早く反乱軍を鎮圧させることだ。異論のある者はいるか?」


 ボルフェルトの言葉に異を唱えるものは誰もいなかった。


「よかろう。では、コンチェルト元帥」

「はっ」

「補給部隊を三つに分けタラス平原に輸送するように指示をだせ。それぞれの補給部隊には将軍一人をつけろ。敵に情報が漏れないように各補給部隊同士の物資及び輸送路の連絡は禁止する。物資の手配は財務大臣が行い、割り当ては元帥から各将軍に伝えよ」

「横の繋がりは絶つのですか?」

「そうだ。万が一にも情報が漏れ輸送部隊がタラス平原に着かなければ敗戦になる。輸送部隊がもし届かないようなことがあれば関わった人物全員を処罰する。よいな」

「はっ。そのようなことが起きぬよう管理を徹底します」

「では、残りの将軍はタラス平原での戦陣を任せる。此度の一戦で決着をつける。よいな」


 ボルフェルトの言葉に皆が従い会議はそのまま終了した。




 会議でタラス平原での開戦が決定したことで城の中だけでなく王都及び周辺の町や村は一気に騒がしくなった。兵士達は大規模な戦に備え準備を始め、商人達は少しでも利益を出そうと躍起になっていた。平民も被害が出ないように準備を始めた。特にタラス平原の周辺にある村は戦渦に巻き込まれるのを恐れ安全な町に避難を始めていた。


 国民のほとんどは大戦になることは不安や恐れがあるが、今回の戦で内乱が終わり平和な日々に戻れると思うと国王の勝利を願う者が多数いた。しかし、その反対も者も少なからずいた。


「おのれ、ボルフェルトめ。これで勝利したつもりか」


 一人の男が自室で苦悩していた。自身の主君である王族を呼び捨てにして呪詛のようにボルフェルトとアルフェルトを罵っていた。


 男は第一王子を幼い頃から謀り疑心暗鬼を植え付けた。基が素直な第一王子は成長するにつれそれを真実だと思い込み、男の傀儡になっていった。王子がボルフェルトによって廃嫡されたときは、幽閉される場所を敢えて反乱が起きる可能性がある領土に送った。


 反乱軍が拠点にしているナジム領は男が管理する領地ではない。ナジム領はナジム伯爵が管理している土地で島の東側にある王都とは反対の西側にある。王都から離れているため反乱を起こすには打って付けの場所で男はナジム伯爵と通じて反乱を起こした。


 男はナジム伯爵の野望を知っていた。それを巧みに操り自分が国王軍の情報を反乱軍に流し反乱軍の勢力を徐々に広めていった。国外から傭兵団を雇い入れたのも男の案だ。傭兵団の戦力は男が思っていた以上にあり、あと一歩のところまで計画が進んだ。


 アルフェルトさえ帰還しなければあと数ヶ月でこの反乱は成功していた。それが消えてしまうことに男は苦悩し焦っていた。何とかしてタラス平原の戦を反乱軍に勝利させるには男も今までは以上に動くしかない。足がつかないように慎重に行動してきたが反乱軍が鎮圧されてしまえば元も子もない。


 男は覚悟を決めナジム伯爵に会議の内容と男の今後の行動を記載した密書を送った。




 バエル王国の領土は建国時から統治は国王が行っていたが東と西で産業は違っていた。島の東側は船着き場に適した海岸線があり、西側は山や森林などが多く存在していた。そのため東側には大陸からくる船が多く貿易も盛んだ。西側の山からは石炭や亜炭が存在するので鉱山が盛んで、森林は林業として有効に活用していた。


 島の東側と西側両方で産業が行えるため人々の生活水準に差はない。そこで生まれ育った平民達に不満はなかった。しかし、統治する貴族は違った。島の東側に領地を持つ貴族は王都から近いため政治や王に意見することができる。対して西側の貴族は王都から遠いため国政に関われないことが暫しあった。


 自分の領地の経営に手一杯な小、中貴族はまだ良いが、西側を統括するナジム伯爵は不満に思っていた。ナジム伯爵は西側で一番の発言力と広い領土を持っていた。更にナジム伯爵は建国時に大いに貢献した。その実績から初代王の妹を当時のナジム伯爵は正室に迎えた。ナジム伯爵の一族は王家の分家でもあった。


「ゆえに我々が国政に関与できないのは問題であり、更に私が国王となっても血筋には問題はない」


 現当主のナジム伯爵は酒に酔うと親しい人にそのような意見を常々言っていた。優秀でさらに野心家であるナジム伯爵はいつか王政に関わりこの国を動かす人物になりたいと思っていた。王の言いなりになっている重鎮達よりも自分の方が国の役にたつと思っていた。


 現にナジム伯爵が当主になってからは前当主よりにも二割以上の利益を出していた。その実績があるが故にナジム伯爵は増長し、更に御輿として使える第一王子を手中に収めた。王都にいる内通者と協力して今回の内乱を起こした。


「ふむ、王は遊撃隊に対する手をうってきたか。厄介だな」


 ナジム伯爵は内通者から送られてきた手紙を読みそう呟いた。だが、その呟きとは裏腹にナジム伯爵には余裕の笑みを浮かべていた。ナジム伯爵にとって遊撃隊の存在はどうでも良かった。内通者の顔を立てて雇っただけで当初から遊撃隊には期待はしていなかった。


 王国軍の補給部隊を何度も壊滅させたのは嬉しい誤算ではあったが失敗していてもナジム伯爵の計画には影響はなかった。内乱を起こす前からタラス平原での戦闘も視野に入れていた。むしろ小競り合いを繰り返すよりも大戦で一気に勝敗を決したいと思っていた。


 ナジム伯爵は部下に二つの指示を出した。一つはタラス平原での戦闘の準備を兵士にさせること。二つ目は遊撃隊を内通者の指示に従うように命令を出した。遊撃隊に関しては潮時だと判断したのだ。彼らは傭兵であるため一般兵との連携ができない。大戦で使用するには扱いが難しいと考えた。


 内通者は遊撃隊を今までと同じように補給部隊を襲撃するように扱うだろう。遊撃隊が補給部隊を壊滅させればこちらの勝利は堅くなる。しかし、仮に失敗したとしてもタラス平原での戦に勝てば良いとナジム伯爵は判断した。


 ナジム伯爵は二つの指示を出し終えると自らも出陣するため戦の準備を始めた。


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過去の投稿も修正を行おうと思っています。

設定などは変えずに誤字脱字と文章の校正を修正していきます。


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