島国 バエル王国 真夜中の会談
先週の投稿が出来ず、待っていた方はすいませんでした。
これからの会話は全てバエル王国の言葉になりますので「」で統一します。
「あなた達は暫くこの港町で待機してください。先ほど渡した資金があれば三人で一ヶ月は過ごせる筈です」
「はい、判りました」
「定期的に連絡はしますが、連絡が途絶え資金が尽きそうならラロックさんに報告して指示を仰いでください」
「判りました」
島国 バエル王国の王都に一番近い港町に着くとリーシアは船長にこの町での待機を命じた。船員の三人はこの港町でトリス達の帰還を待つことになり、船員に指示を終えるとトリス達は王都に向かった。王都はこの港町から場所で一日かかる。今は昼を過ぎたところなので王都に三人が王都に着いたのは翌日の夕方だった。
「ここがバエル王国の王都ノエルになります」
王都の関所を通過し都に入るとリーシアは嬉しそうにトリスにノエルを紹介した。リーシアにとっては数年ぶりの故郷なので喜びが溢れていた。
「戦時中だが王都にはまだ影響はないようだな」
「いえ、そうでもありません。私の記憶ではもう少し賑わっていました。普段ならあそこの広場では露店や旅芸人がいますがら」
「戦況が長引いたせいで国外からの旅行者や商人が減っています。今は必要最低限の貿易しかしていません」
リーシアの説明にアルフェルトが補足し現状のバエル王国の情勢をトリスに説明した。船の中でも多少は聞いていたが実際に見るとまた違った印象を受けた。
「そうか。それでこれからのことだが、まだ城門は開いているのか?」
「いえ、この時間に王城に行っても門は閉まっています」
「私の身分を証して帰還したことを門番に伝えれば入城できます」
「いや、アルフェルトが帰還したことは国王以外に知られたくない。できれば家臣達には隠しておきたいから夜までどこかで休んでいよう」
何か策があるのかトリスはそう提案してきた。トリスの策については何も判らないが、国王だけにアルフェルトの帰還を知らせるのは至難だ。だがトリスは気にした様子はなく宿屋を探し始めた。
日が落ち夜になって暫くするとトリス達は王城まで来ていた。王城に通じる橋や門は全て閉まっておりとても侵入することはほぼ不可能だった。
「トリスさん、やはり門は閉まっています。明日出直した方が良いのでは?」
「問題ない。それよりも王の寝室はあそこから?」
トリスはリーシアの言葉を流し王城の一部を指さした。
「はい、王の寝室はあの辺りです。どうしてご存じなのですか?」
「調べておいた。それで王の特長だが、褐色の肌に短髪の銀髪で、三十後半の男で間違いないか?」
トリスは王の特長をアルフェルトに伝えアルフェルトは戸惑いながら頷いた。
「よし、王は寝室に戻ったからこれから会いに行く。二人とも少し怖いかもしれないが我慢してくれ。声は出すなよ」
バエル王であるボルフェルトは寝室に戻り寝付き用の酒を飲んでいた。内乱が収束しないため、心労が貯まり酒を飲まなければ寝付きが悪いのだ。主治医からは日に日に増える酒の量を注意されているが止めることはできなかった。
「ふぅ、どうしたものか」
昼間は家臣が見ているので虚勢を張り威厳を保っているが、寝室で一人になると気が弱くなってしまう。内乱が長引けば国内が荒れ民が苦しむ。国力が低下すれば他国に付け入る隙を与えてしまい最悪バエル王国が消滅するか属国になってしまう。それだけは防ぐ必要があるので、内乱が治まって欲しいと一番願っているのはボルフェルトだった。
「アルフェルトは無事に暮らしているだろうか」
弱気になるとどうしても愛娘のアルフェルトのことを思ってしまう。第一王子とは違いアルフェルトは王族の責務をきちんと果たしてくれていた。
不甲斐ない兄に代わり国政を手伝いボルフェルトを支えてくれた。娘でなく息子であれば間違いなくアルフェルトを王にしていた。ボルフェルトはアルフェルトを寵愛している。だから、国外に逃がした。
国外に逃がすと面と向かってアルフェルトに伝えればアルフェルトは首を縦に振らない。だから強者を探すように命じた。アルフェルトは王命に逆らうことはできず国王の予想したとおり国を出た。後はアルフェルトを国外に留めておけばアルフェルトの命は助かる。仮に反乱軍が買ったとしてもアルフェルトの性別を伝えれば命までは奪われることはない。可能であれば異国の地で良き夫を見つけ幸せに暮らして欲しいと願っていた。
「!?」
ボルフェルトが思案に暮れているとベランダから物音が聞こえた。国王の寝室は城の上層部に位置しているので動物や人は入ってこられない。野生の鳥でも迷い込んだのかと思い、ボルフェルトはベランダに通じるテラス戸を開けると信じられない光景がボルフェルトの目に映った。
「アルフェルト!」
「……お父様?」
どこか目の焦点が合っていないアルフェルトがベランダに座り込んでいた。国外に逃がした愛娘がおり、外から侵入することができない場所にいることにボルフェルトは驚きを隠せずにいた。
「アルフェルトどうしてここに? いや、どうやってこの場所にきたのだ?」
「…………船で戻ってきました。…………夜になったので城に入ることにして、空から落ちてきました」
アルフェルトは辿々しくこの場所にきた経緯を話したが、気が動転しているのか要領を得ない説明をし始めた。ボルフェルトはアルフェルトの説明を聞いてますます混乱した。
「どう言うことだ?」
ボルフェルトが疑問に思っているとアルフェルト以外の人の気配に気がついた。ボルフェルトは気配のする方を見ると見覚えのある女性が崩れ落ちていた。
「お前はリーシアだな。どうしてそんな。それに隣りにいる男は誰だ!」
「お、王様にこのような醜態をお見せして申し訳ございません。この者は私とアルフェルト様が見つけた者です。こ、ここにいる理由は落ち着いたらお話しますのでできればお待ちください……」
リーシアは顔面を蒼白にして国王に懇願してきた。国王もアルフェルトとリーシアの様子からただ事ではないと判断し三人を寝室に招き入れた。
「お初にお目にかかります。私は国のアルカリスで冒険者をしているトリスと言います。生まれも育ちも平民であるため作法や言葉使いに粗野でありますが御容赦ください」
トリスは国王の寝室に入ると国王に挨拶をした。言葉とは裏腹にその姿勢は見事なものだった。流暢なバエルの言葉。手を胸の前に合わせる姿勢はバエル王国での礼儀作法の一つで、身分の高い者に挨拶をするときの作法だ。
「余はバエル王国の現国王であるボルフェルト・ラドン・バエルである。異国よりよくぞ我が国にきた。話を聞きたいからそこの椅子に座れ」
ボルフェルトはトリスの挨拶に気を良くしたのか夜の訪問にも関わらず歓迎した。
「それでどうして余の寝室に突然現れたか説明して貰おう。アルフェルトとリーシアはまだ回復していないからお主から説明しろ」
「はい。このような訪問をした理由は三つあります」
「三つか、一つは思いつく。とんでもない自己紹介だな」
「恐れ入ります。国王の仰るとおり私の力量を確認して頂くためです」
「この城で最も警備が厳しいこの場所に侵入する。しかも警備の者は誰一人も気が付いていない。暗殺者であれば驚異だ。お主の力量はしかと伝わっておる」
ボルフェルトは平静を装ってトリスと会話をしているが内心はトリスを脅威に感じていた。この場所まで一人で来るなら今よりも脅威に思わないが、トリスはこの場所に三人で来ていた。
諜報員として訓練を受けたリーシアならまだしも、戦闘訓練などは一切したことがない足手まといのアルフェルトを引き連れている。それだけの目の前にいるトリスがただ者ではないとボルフェルトは確信していた。
「それで二つ目の目的を聞こう」
「はい、二つ目の理由はアルフェルト王子の帰還を知らせないためです。アルフェルト王子には内通者の特定を行うために動いて頂きたい」
「内通者!」
トリスの内通者という言葉にアルフェルトは声を上げて驚いた。リーシアも声を上げなかったが驚いていた。
「アルフェルトよ、大きな声を出すな。警備の者に気が付かれる」
「し、失礼しました」
「トリスよ、どうして内通者がいると判った?」
「軍の行軍において補給は要です。補給路に関わることは軍の内部でも一部の者しか知らないはずです。なのに反乱軍の遊撃隊は的確に輸送部隊を襲撃しました。遊撃隊の実力よりも本来はこのことの方が重要です」
「……そのとおりだ。今回の問題は城内にいる内通者についても解決しなければならない。だがいまだにその目処がたっていない」
「そこでアルフェルト王子にその内通者をおびき寄せるための囮になっていただきます」
「ほう、我が国の第一王位継承者を囮に使うのか?」
「お戯れを。バエル王国では女性は王位に就けません。国王は私が既にアルフェルト様が王子ではないことを知っているはずです」
「なぜ、そう思う?」
「アルフェルト様の口調と仕草です。あなたは先ほどから王子らしく振る舞っていないアルフェルト様を叱責しません」
「ふむ、つまらん奴だ」
トリスの態度にボルフェルトは面白くなさそうにした。アルフェルトが王子らしくない態度は一目見たときから判っていた。既にトリスに正体を明かしているとボルフェルトは予想していた。先ほどの態度はトリスを困らせるつもりで非難したが空振りに終わった。
ボルフェルトはトリスのことは警戒しているが好意を持ち始めていた。異国の言葉を流暢に使い、平民なのに礼儀正しい。国王に恐れず意見や考えを言うが実力者にありがちな高慢な態度もない。先ほどの態度は少し困らせようと悪戯心をだしたのだ。
「それでアルフェルトをどのように使うつもりだ?」
「次の軍事会議はいつになりますか?」
「明後日だ」
「では、明日の一日だけアルフェルト様に城内を徘徊して頂きます。数人の侍女と重鎮の幾人かに帰国したことを告げ、そのまま私と城を離れます。そして、明後日の会議で……」
「アルフェルトが我が命令を達成したと告げるのか?」
「はい、言葉だけでは疑われますが、実際に姿を見た者がいれば信用するしかありません。」
「余がアルフェルトに出した命令は反乱軍の遊撃隊を撃破できる人材の確保だ。そのことは軍の関係者や重鎮達も知っている。内通者も知っている。アルフェルトが見事それを達成し戻ってきていると知れば内通者も当然動くか……」
「反乱軍が有利であるのは内通者の指示で遊撃隊が的確に軍の重要な部隊を襲撃できるためです。その遊撃隊を撃破できる準備ができたと公言すれば内通者は動きます。アルフェルト王子は城を離れ近くの街などで待機していると言えば接触してくると思います。仮に接触がなく内通者が判らなくてもこちらは反乱軍の遊撃隊を撃破いたします。失敗しても被害はでません」
「確かにこちらに被害がないのはいい策だ。そして、お主はその反乱軍の遊撃隊を撃破できるのだな」
「敵が情報通り五十人規模の隊であれば問題ありません」
トリスの言葉を聞いてボルフェルトは思考した。目の前のいる男は見栄や虚勢を張るような人物ではない。だから五十人もの敵を相手取る手段か策があるのだろう。トリスの言葉を信じトリスの策に乗るかボルフェルトは悩んだ。
「……………………余の寝室に訪れた三つ目の理由をまだ聞いてなかったな」
ボルフェルトの暫く考え口を開いた。
「三つ目の理由は私のもう一つの愚策を聞いて貰うためです」
「愚策とは何だ?」
「先ほどの策をより確実にするために反乱軍との戦いをタトラ平原で行っていただけませんか」
タラス平原はバエル国の中心にある平原で戦場にはうってつけの場所だ。だが、王都から離れているいるため大軍を送るには補給を確実に送る必要があった。
「なるほど反乱軍と決着をつけるのか」
「はい、このまま内乱が長引けば他国から介入が増えてきます。お互いに疲弊してくれば他国からの援助が必要になり、最悪は属国や国の解体に繋がります。そうなる前にこの内乱を終わらせる必要があります」
「確かに余もそのように考えている………… そうか、だからアルフェルトを囮にするのだな!」
ボルフェルトはようやくトリスの策に気が付いた。
「父上、どう言うことですか?」
「この男は内乱を終わらせるためにタラス平原で決戦をするように提案してきたのだ。当然そこに大軍を送るには補給部隊も送る必要がある。補給部隊を出せば今までのように襲撃をされるだろう。この男はそれを防ぎ、更に先ほどの策とともに内通者を暴こうとしているのだ」
「そんなことが可能なのですか?」
アルフェルトの質問にトリスが答えた。
「可能です。まず、補給部隊を三つに分けます。それぞれ補給部隊の郵送路や物資については担当する将軍か貴族しか知らないように厳命します。お互いに連絡をとるのも禁止します。そして、補給部隊が到着しなければその担当の将軍と貴族を厳罰にするのです」
「なるほど、そうなると自分達の輸送路を他人に明かす訳にはいかない。それでも口を開くとしたら……」
「内通者本人か内通者と結託しているか、弱みを握られている可能性があります。内通者もこちらの策はそこまでは予想すると思います。だが、内通者の目的はこの内乱を反乱軍に勝利させることです。決戦となれば補給部隊を必ず潰す必要があるので向こうも危険を覚悟して強行にでるでしょう。そして、邪魔になるのはアルフェルト王子がどうやって反乱軍の遊撃部隊に対抗するのかです」
「先ほどの案だけでは内通者は動かない可能性がある。だがこの策を合わせれば動くしかない。国軍は反乱軍よりも数が多い。決戦となると向こうの勝率は三割から四割程度だ。元々それをさせないために反乱軍は補給部隊を襲っていたのだ」
「内通者かそれに関わる人物は高い確率で私に接触してくるのですね」
「そうだ。だが、この作戦には一つ問題がある。アルフェルトに接触してきた者いなかった場合と全く関係のない人物だった場合だ。それだとどこの補給部隊が襲われるか判らない。それではお主が護衛に就くことができないぞ」
ボルフェルトの言葉にトリスは最後の策をボルフェルト達に明かした。
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