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迷宮の底で復讐を誓う  作者: 村上 優司
関わる者としての時間
101/140

日常 策謀と心中

三回目の投稿です。

前の回を呼んでいない方はお気をつけください。


この話でこの章が終わりになります。

 世の中は偶然が重なることがある。そのことを実感した一日だったとトリスは今日の出来事を振り返る。昼間に冒険者組合(ギルド)の講習会でベルセールとフェリスが接触した。そして、夕方に帰宅しザックからの報告を受けそたときにザックもヴァランティーヌと接触したことを知った。


 フェリスと共に帰宅し、夕食まで部屋で読書しているとザックが訪れた。ザックは今日起きた出来事をトリスに報告し、ヴァランティーヌと接触したことをトリスに謝罪した。


「調査対象との接触に加え行動を共にし、更に再度合う約束をしてしまい申し訳ありません」


 ザックはクビになる覚悟でトリスに謝罪した。


「ご苦労だった。これからも引き続き調査を頼む」

「ト、トリスさん、厳罰はないのですか?」

「別に調査対象と過度に接触するのを禁止した覚えはない。むしろヴァランティーヌと接触できるなら彼女から家の内情を知ることができる。俺のことは話していないのだろう?」

「はい、それは言っていません」


 トリスの対応にザックは困惑していたが、トリスは自分の情報が漏れてなければいいと思っている。それよりも先ほどから何か言いたそうなザックと態度が気になった。


 ザックはヴァランティーヌと半日行動したと先ほどの報告した。もしかしたらあの事にザックも気が付いたのかもしれない。トリスはそう思いある事をザックに確かめた。


「それよりも他に何か言いたいことがあるのだろう? ベネットの事で」

「……………………ヴァランティーヌとベネットは姉妹なのですか?」

「ああ、確証はないが異母姉妹だ」

「――やはり」


 ザックはヴァランティーヌとベネットの笑顔が似ていると感じ、それから二人に癖や仕草に共通している部分を見つけていた。

 

「このことをベネットに話しましょう。家族がいると知ればきっと喜びます」

「話すのはいいがなんて話す。ベネットは私生児でしかも生まれて直ぐに捨てられた。姉や弟は不十分なく育てられたのにベネットだけが劣悪な環境で育った」

「…………」

「それに父親のジェテルーラにとってベネットは不要だと判断された。必要であれば捨てることはしない。だがあの男は自分の欲望のために女を抱き、子供を孕ませ不要と判断して捨てた。そんな男が自分の父親だと知ったら傷つくのはベネットだぞ。」

「しかし、」


 ザックはなおも食い下がろうとしたのでトリスは残酷な真実を告げた。


「ベネットが煩っている病だがあれは魔素の過剰摂取だ。この病については知っているな?」

「大気中にある魔素を常人よりも多く取り込み、大量の魔素を制御できずに体調を崩してしまう」

「そうだ。だがこの病は魔術師にとってはただの病ではない。この病が発病した者は大概は魔術師の才能が開花する。魔術師にとっては福音でもある。ベネットには魔術師の才能があり、そのことをヴォルフィール家の住人が知ったらどう思う」


 ザックはトリスの言わんとすることが判った。ワノエルィテとジェテルーラは諸手を挙げて喜ぶだろう。しかし、ジェテルーラの妻であるエイスは快く思わない筈だ。息子のエドゥワールまだ魔術師としての才能が開花していない。


「ベネットのことを思うならここまま黙っているしかないと俺は思う。出生のことを気にしなくなるよう育てるしかない。ザックその意見に反対ならお前からベネットに伝えろ。伝え方は任せる」


 ザックは結局トリスの言葉に反対できなかった。ヴァランティーヌですら家では冷遇されている。そこへ魔術師の才能を持つ私生児のベネットがきたら問題は必ず起きる。最悪の場合はベネットが命が狙われ、命が助かったとしても次世代の子を産むための道具になってしまう可能性がある。ベネットのことを本当に思うなら事実を隠匿するしかない。


 結局ヴァランティーヌとベネットの関係はトリスとザックしか知らない事実となった。ザックは余計な重荷を背負うことになったが自ら招いた事なのでその重荷を背負うことにした。




 トリスはザックを咎めるようなことはせず今後も調査を行うように言い退室させた。フェリスとベルセール。ザックとヴァランティーヌ。トリスの縁者と宿敵の縁者が接触し始めた。その事に関してトリスは関与しないことにしている。フェリスとザックが彼女達と深い関係になろうが彼らに接する態度は変わらない。


 宿敵の縁者についてもそうだ。目的の四人以外はどうなろうトリスは関与するつもりはない。障害になれば排除するし、無害であれば何もしない。トリスの目的はあくまでもあの四人だけだ。


 ただし、復讐するときに障害になるのであれば全力で排除する。宿敵の縁者であろうと身内であろうと関係ない。友愛や慈悲、情けなどの感情はトリスはもう持っていない。復讐を完遂させるためにトリスは今ここにいるのだ。非道と言われようが鬼畜と言われようが構わない。復讐のために力を、情報を、駒を集めているのだから。


 ベネットについてもそうだ。ザックの前ではベネットを保護するようなことを言ったがベネットには違う利用価値があった。父親ではなく母親に対してだ。ベネットの母親はエミールだ。エミールは死産だと思っていた赤ん坊は生きていた。


 エミールの赤ん坊は確かに生まれて直ぐに生きを引き取ったがその後に蘇生した。ジェテルーラが埋葬するために赤ん坊をカドルに託したのだ。


 カドルはジェテルーラからエミールを監視するように依頼を受けていた。エミールがジェテルーラの子供を妊娠したと周りに風潮しないか監視をしていた。出産時も口の堅い産婆の手配をし、出産もエミールに気が付かれないよう立ち会っていた。


 ジェテルーラから託された赤ん坊は最初は息をしていなかった。カドルは何処に埋めようか迷っていると赤ん坊が息を吹き返した。直ぐにジェテルーラに知らせようと思ったがカドルは敢えて黙っていることにした。いつかこの赤ん坊が役に立つかもしれないと思い育てる事にした。ベネットと名付けられた赤ん坊はこうしてカドルの下で育てられた。


 この事実を知っているのはトリスだけだ。カドルがトリスを暗殺しに来たとき本人の口から直接聞いたのだ。ベネットが持っている祈祷道具(ロザリオ)はそれを証明するための物で、エミールが赤ん坊のために発注した物だ。


 トリスはこのこと事実を知ってからエミールの行動を監視するようにザックに命令した。エミール一人だけでは目的をザックに気が付かれてしまう恐れがあったので、四人の家族全員を調査するようにした。その結果エミールの行動範囲を把握することができ、ベネットと引き合わせることができた。


 ベネットを教会に連れて行った本当の理由はエミールに合わせる事だった。自分とよく似た子供で愛する人の面影がある子供を見れば心が揺らぎ、その子供の事情を知れば知るほどある可能性に気が付いてしまう。自分の子供ではないかという疑惑と可能性に。


 エミールがベネットを自分の子供と知ったとき彼女はどのような行動をとるかまだ予測はつかない。夫を裏切りトリスの味方につくのか。それともトリスからベネットを奪い返すために敵対するのか。はたまた全く別の選択をするのか、現状では予想がつかない。できれば味方に引き込もうとトリスは考え、それに向けて策を立てている。


(まだ、焦る必要はない)


 確実に復讐を果たすためにトリスは念入りに準備を整えている。






 

前に投稿している『日常 氷菓と指切り』と『日常 講習と落とし穴』は時系列には今回と同じです。

今回でこの章は終わりになります。


次章より『暗殺者の時間』になります。アルカリスから離れ、別の国でのお話になります。


誤字脱字の指摘や感想などを頂けると嬉しいです。

評価やブックマークをして頂けると励みになりますのでよろしくお願いします。


過去の投稿もちょくちょく修正を行おうと思っています。

設定などは変えずに誤字脱字と文章の校正を修正しています。

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