1つの終わり
慣れていないのでちょこちょこ編集しています。
前触れもなく消したりしますがご容赦ください。
暗い、暗い、地の底で一つの灯火が消えようとしていた。
「すまない。許してくれ」
歳は七十を過ぎた老人が、目の前の男に許しをこうていた。
老人の身なりはボロボロで、髪も髭も伸び放題になっていた。都市の浮浪者の方がまだ身綺麗と思うほど見窄らしい容姿だ。
男の身なりも老人と同じようにボロボロだった。髪や髭は伸び放題になっており、二人には清潔感などは一切なかった。だがそれは仕方がないことだ。二人の他にこの『迷宮』には誰もいない。いるのは自分たちと同じ様に上から落ちてきた魔物か、その魔物が生んだ魔物しかいないのだ。
「いや、許さなくてもよい。だが、謝らせてくれ。今まで黙っていたことを。ワシの最後の我が儘じゃ」
老人は目の前の男に再度謝った。男の手を握りしめ、深く深く謝罪をした。
そんな老人の謝罪に男は何も言わなかった。いや、何も言えないのではない。返す言葉が見つからないのだ。
男は困惑している。この二十年間苦楽を共にした老人が今更そんな些末なことで謝っているのが理解できなかったのだ。
人にとってこの場所はとても辛く厳しい環境だ。そんな場所で男は老人と助け合いながら過ごしてきた。いや、助け合うのはと言うのは少し語弊があるかもしれない。男は老人に助けて貰ってばかりで、老人は一人でも生きていけたのかもしれない。
だが、男にとって老人は友人であり、仲間であり、師であった。同じ様に友に裏切られた境遇を共有するかけがえのない存在である。
男は老人から様々なことを学んだ。ここでの生き方は勿論、人との暮らしの中での知識、善人と悪人の見分け方。各国の文字や言葉、文化。宮廷での礼儀作法や食事のマナー、社交ダンスなど様々な教養まで教わった。無知無学な男に老人は楽しそう教えながら二人は生きてきた。
男はいつの頃からか老人を父親のように思い始めていた。博識な老人にとって無学な男がそんなことを思うのは分不相応かもしれない。だが、男は老人に対して父親のように慕い、尊敬して過ごしてきたのだ。
2020年9月20日修正を行いました。