病院暮らし2
今回は少し短めです。
身体検査。
この言葉からイメージされるのは、聴診器を用いた検査、触診などだと思う。
だがしかし、俺に対して行われたものは違った。
「じゃあ、背筋伸ばして立って下さいね〜。
あっ、踵はしっかりとつけて下さいね。」
…うん。
確かにこれも身体検査なのだろう。
しかし、こんなところからやり始めると思わなかった。
「西山奈津希さん、身長148.7cm、体重39.6kgです。」
学校生活において、学年が変わる、進学するなどが起こる4月に行われる行事の1つであるもの。
そう、身体計測である。
って39.6kg!?
「ちょっと軽すぎじゃないですか!?」
女子の体重について詳しくは知らないが、柔道部の時、俺より頭1つ小さいくらいの女子が60kg台だったはずだ。それと比較すると明らかにおかしい。
「確かに少し細すぎだね。
うーん…、もしかしたら今の身体にも過去の状態が反映されてるのかも!
それなら奈津希さん、1週間ずっと点滴の栄養だけで生活してたらから、おかしくないと思うよ。」
不安に思い質問すると、測ってくれていた美春さんが想定ではあるが、優しく答えてくれる。
ーーーーいや、過去の状態が反映されるなら俺の身体、こんなに軽くないと思うけど。
元の俺の身体は180近くあるし、筋肉もつけていて、柔道の階級としては73kg級だったから、ゲーム始める前は75、6kgあったはずなんだけど。
そんな考えが浮かぶが、頭を左右に振り考えるのをやめる。
きっと直前の食事環境だけが反映されたんだ。
どうせ悩んだところでどうもならないので自分の中ではそれを事実としておこう。
それはひとまず置いておくとしよう。
俺は目の前にメジャーを持ってやってきた美春さんを警戒する。
ーーーーここからが地獄だ。
美春さんは作った笑顔というよりも、自然に出てきてしまった笑みを浮かべて、こちらとの距離を少しずつ詰めてくる。
言葉に表してみると、別に普通、むしろ美人な人がやっているから美味しいまであると思えるのに、現実を見てみると、それからは恐怖しか感じない。その原因はやはり、笑みであろう。
自然に出てきた笑みと表現すると、どこか柔らかい笑み、例えるなら子供を微笑ましく見つめる親の顔といった笑みを想像するのだが、美春さんの笑みはそんな笑みとは全然違う。
ーーーどす黒い感情が溢れ出てきたような笑みだ。
身体が恐怖でかたくなる。
逃走経路を確認しようと後ろを向く。
よし、非常口までは一直線だ。
少しずつ後ずさりしていたのをやめ、身体ごと後ろを向き、走り出した3歩目。
何かにぶつかった。
それは、別のナースさんだった。
「ほら、ダメよ、きちんと計らなきゃ。」
ナースさんは、そう言い俺の背中を押し、俺を美春さんの前へと突き出した。
い、いや、ちょっと待って。まじで、ほんとに。
うわぁぁぁぁぁぁぁああああ…。
◆◆◆◆
「奈津希さんのスリーサイズは78-56-82のBカップです。」
「う、うぅ…。」
自分の中で何かが崩れていくのを感じる。
ーーー別に身体のサイズを計られることに対して泣いているんじゃない。
中学時代、先生が来るまでの間、何故か武道場にあったメジャーでウエストを計ったことはある。(女子も一緒だった。また、その時の俺のウエストは62cmだった。)
でも、スリーサイズと変えてしまうと話は別である。
ーースリーサイズって女子しか計んないじゃん?
いや、男でも計ることがあるのは知っている。
でも、日常的にその数値を使うのは女性だけであろう。その事実が、俺を女の子の身体になってしまったということをより深く実感させる。
そんな俺の様子を見て、励まそうとしてくれたのか、美春さんの声が聞こえた。
「だ、大丈夫だよ。それだけあれば寄せれば十分谷間は作れるし、それ以下の人なんてうじゃうじゃいるから。」
ーーー美春さん、それは励ましになってないし、そんな事実聞きたくなかったです…。
◆◆◆◆
やっとのことで、身体検査が終わった。
その結果、1つの結論が出た。
ーーー俺のこの身体は、本当の意味で『女』である、らしい。
勿論、自分自身でも確認してみたりした。
生まれて以来、ずっと付き合ってきた相棒がその姿を見せなくなってしまったのは確認出来ていたからそこまではいい。(当然ショックではあるのだが、事前に自分でチェック出来ていたためそこそこ落ち着いていられた。)
だが、検査によって俺の中に女性器が、いわゆる子宮があることが確認された。
この事実は、流石にショックだった。
自分の中では俺は今でも男である。
しかし、身体は確実に女のものへと変化してしまっている。
せめて女性器がなければ、見た目が女になっただけならばと思ってしまう。
その理由は単純だ。
ーーー生理が怖い。
自分の中の知識を超えた何か、それがいつかやってくると思うと恐怖で身体が震える。
流石の俺でもある程度は現実は見えている。
誠也を親友として信頼しているとはいっても、1ヶ月以内に元の身体に戻れるなんて身に合ってない期待はしていない。
となると100%、生理というものは俺の身体にやってくる。
そのことに悶々としていると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
山村先生か、はたまた美春さんか。
どちらかだろうと自分の中で結論をつけて、俺は「どうぞ。」とその人を招き入れた。
ーーー瞬間、息が止まった。
俺の病室に入ってきた人、それはーーーーー
「父さん、母さん、亜希…。」
俺の家族であった。