お出かけ1
「ん、んー…」
少し目を開けてみると、太陽の光が一気にやってきた。
入ってくる日差しにまぶしさを感じつつも、何度か目をパチクリと開閉して目を光に慣らす。
そうすることで目は慣れたものの、まだ頭が働かずボケーっとしているので、顔でも洗ってすっきりしようと思い、ゴロンと回って布団を出て、洗面所へと向かった。
「あ、お兄ちゃんおはよー」
「ん、おはよ」
途中で亜希が挨拶をしてきたので軽く返しつつ洗面台へとたどり着き、髪が濡れぬようヘアピンで髪をまとめた後、バシャバシャと顔を洗う。
そうやってすっきりしたところで、あくびとともに体を伸ばした。
―――今日は、由佳と鈴香と一緒に買い物に行く日だ。
そのことに気づいた途端、ハッとして慌てて時計を見る。時計の針は、10時半を示していた。
―――よかった。寝坊はしていなかった。
集合時間を決める際に、『文化祭で疲れちゃうから、明日は集合時間ゆっくりにしようよ』と鈴香が意見を出し、俺と由佳もそれに賛同したために、今日の集合時間は12時半になっている。9時とかから遊びだすとかだったら遅刻しているところだったと、そうでないことに安堵する。
ヒヤッとして完全に意識もはっきりとしたところで、自分の部屋へと戻り、今度はタンスとにらめっこをして、今日着ていく服装を考える。―――考えたのだが、正直どんな格好していけばいいのかわからない。
俺の持っている服は、今の自分の身体に似合うようにと、ほとんどがかわいい系統の服だ。しかし、果たしてそんな服を着て行っていいんだろうか?
あまり機会自体多いわけではないが、外で遊ぶ時などの女の子らしい恰好をするときには、自分の持っている服から自分の好きな格好を選んでいるので、俺の着ている服は男受けという意味ではいいと思う。でも、入院中にひたすら見たお昼のバラエティ番組のコーディネイト対決コーナーでは、俺がかわいいと思った服装に関して、『異性からはよく見られるかもだけど、同性から見たらイマイチかも?』みたいなこと言っていたし、かわいいかわいい格好していったら、『うわぁ…』って、引いた目で見られるかもしれない。
―――って、そうだ。鈴香も一緒なんだから、服選ぶって話だけど、もしかしたら運動することになるかもしれないな。
鈴香は中学まで、サッカー部で男子とバチバチにレギュラー争いしていたくらいに運動神経は良いし、運動も大好きだ。
―――うん。そのことも考慮して、今日は動きやすい服装にしよう。
どんなコーデにするか決め、それに着替えたところで亜希が俺の部屋に顔を出してきた。
「お兄ちゃん、今日お母さん寝坊しちゃったらしくて、今日のお昼は500円で好きなもの買ってって言ってたよ――って、お兄ちゃん珍しいね。10時くらいまで寝てたのに服、着替えるなんて。今日、誠也君と遊ぶ日だっけ?」
「いや、今日は学校の友達と遊ぶんだ」
―――そう口にした途端、亜希の纏う空気が変わった。
亜希は驚いた顔を一瞬した後、ゴクンと一回息をのんだ。
「そ、それってさ、男友達?女友達?」
「え?女友達だけど…」
そう返すと、少しの間顎に手を当て考えた後、俺に対して質問を投げてきた。
「その子たちってどこの中学かわかる?」
今度は、俺の方が固まる番だった。
―――え?何で亜希は二人の出身中学なんて聞いてくるんだ?
そう、疑問で頭がいっぱいになるものの、とりあえず亜希の質問に答えてから質問すればいいやと2人の出身中学を思い出そうと頭を回す。
「えっと…、確か北中と東中だったはず」
俺の答えを聞いた途端、亜希は目を輝かせた。
「それならさ、私も一緒に行かせて!」
「え!?亜希も一緒に!?」
その言葉で、なぜ亜希が二人の出身中学を聞いてきたのか分かった。もし仮に、俺の出身校で亜希が転校前に通っていた南陵中学や、今亜希が実際に通っている三田南部中に二人が通っていたとしたら、在学しているときや兄弟やなんかから亜希のことを知っていて、そこから俺の正体がばれてしまうかもしれないと警戒したのだろう。そして、その心配がないと分かり、一緒に行きたいと言ってきたと、そういうことか。
「流石に、友達と一緒に出掛けるのも初めてなのに、そこにいきなり妹まで連れて行くってわけにはいかないだろ?お前とは前に買い物にも行ったし、我慢しててくれよ」
「いや、またお兄ちゃんと一緒に買い物行きたいって気持ちもあるけど、今回はそっちが目的じゃないの。―――前に出かけた時も、お兄ちゃんナンパに絡まれてたし、自分が女の子だって自覚があるかどうか心配だし、友達に関しても、お兄ちゃん家で学校のことあんまり話さないからよく知らないし、どんな子かわからないから不安なんだよ」
―――俺は、小学生か。そして、お前は俺の保護者か。
ついつい頭の中で突っ込みを入れる。少し気恥ずかしいものの、亜希が俺のことを真剣に考えてくれているというのはうれしいとも思う。―――でも、今回はダメだろ。
「いや、お前が俺のことを思ってくれてるのはうれしいけどさ、流石に初めて一緒に遊び行くって時に妹同伴ってのはそりゃないだろ?二人はいい子だし、何かあったらすぐ連絡するからさ」
「だったら、せめて聞くだけでもいいからー」
もう、スーパーでお菓子をねだる幼児のように駄々をこねるもんだから、しょうがなく『料理部』のグループで、『ダメならダメでいいんだけど、妹も連れて行っちゃダメかな?妹が一緒に行きたいって言ってきて』とダメもとでメッセージを送ったところ、意外にも
『いいよー』『了解』と、大丈夫ということを示す返事が返ってきた。
―――うっかりしていた。二人とも無茶苦茶いい子だから、こんなメッセージ送ったりしたら肯定してくれるに決まっているじゃないか。
―――というわけで、なんか亜希も一緒に行くことになった。
◆◆◆◆
「ていうか、お兄ちゃんその恰好は何?」
話がひと段落したところで、亜希が質問を投げてきた。
「え?何って、今日着ていく服だけど?一緒に行く子の一人が、中学で男子に交じってサッカー部でレギュラーだった子がいるから、運動するかもしれないなって思って」
そうやって、なんとなくパーカーの両裾をそれぞれの手で持って、亜希に見せるようにすると、亜希の目絵が途端に冷たくなった。
「いやいや、だからってそんな恰好はないでしょ」
そういわれて、改めて自分の格好を見つめ直す。
俺の格好は、上は綿の白色に『We are children!!』とプリントされたTシャツに、黒色、いや紺色かな?まあ、そんな感じの色のハーフパンツを履き、その上から中学時代に来ていた水色のパーカーを羽織っている。
―――そんなにおかしいかな?俺、男だった頃も、全力で運動するときとか、こういう格好で出かけているけど…。
そう思い、実際に亜希に言ってみると、亜希はさっきまで冷たくなっていたのが急に変わり、大声を上げた。
「おかしい、間違いなくおかしいから!かわいいとか男受け狙いすぎとか以前に、いくらなんでもそんな恰好じゃ一緒に行く相手に引かれちゃうから!―――もう、なんていうかこれはお兄ちゃんが元男ってことじゃなくて、もともとファッションセンスがないんじゃないかな。―――ほら、まだ集合時間まで時間あるから、一緒に選び直すよ」
「えー…」
「一緒に行く友達のことも考えなよ!ほら、着替えるよ!」
そうやって声を掛けられ、しょうがなく重い腰を上げる。
そうして、俺たち二人は、服装を選び直した後、軽く朝昼ご飯を食べて、二人との集合場所である駅へ行くべく家を出た。
『メイドな俺と執事な彼女』という短編を書いてみたので、よかったらそちらも読んでいただけると嬉しいです。
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