文化祭5
短めです。
あと、累計40万PV突破ありがとうございます。
俺たちはしばし話し合った後、朝組み立てた料理部の売店を行うテントへと足を運んだ。―――って、そういえば…。
「朝は、本当にありがとうございました」
俺は振り返って二人のほうを向き、ぺこりと頭を下げる。そう、下げたのだが、2人は何で頭を下げたのかわかっていないようで、2人は漫画であったら?マークが2人の間に浮かび上がっているように、口をポカーンと開けた。そして、2人の表情に関する俺の考えが合っていたと証明するように、由佳が俺に質問を投げてきた。
「朝って…、何のこと?」
「ほら、朝準備していたら時間ギリギリになっちゃって、私だけ早めに上がらせてもらったやつだよ」
そうやって感謝の訳を説明すると、2人は俺の言った内容を理解したように「あー」と声を上げた。―――と思ったら、今度はなぜか二人そろって苦笑いをして、頬をポリポリとかき出した。
―――あれ?
朝というと、準備しなければいけないものが多く、俺があのままいたとしても、文化祭開始時刻より早く終わるかどうかわからなかったから、その後、俺がクラスの衣装、今も来ている和風お化けの衣装である浴衣に着替えるために席を外してしまったことも重なり、2人は時間を延長して、本来2人は自由時間である文化祭開始直後まで働くかなければいけない状況だったと思うんだけど、何かあったのかな?
「あの後何かあったんですか?」
2人の挙動を不思議に思い、浮かんだ疑問を2人に対してそっくりそのままぶつけると、2人は目を合わせてアイコンタクトをした後、ゆっくりと口を開き、事情を説明してくれた。
「実はね、あの後なんだけど、なっちゃんが上がった後すぐに、私たちも上がることになったのよ」
「え!?どうやって!?」
着替える必要のあった俺を先に行かせたという事実が証明するように、あの量はとても、あの後数分で片付けられるような量ではなかったはずだ。それなのにどうして…?
そんな疑問に対する答えは、案外単純なものだった。
「えっと、隣で売店出すPTAの人たちが、自分たちの準備はもう終わったからって手伝ってくれたんだ」
―――あー、なるほど。
どうしてすぐに終わったのか。どうして二人はどこか気まずそうなのか。そんな疑問は、鈴香が口にした言葉によってすべて解消した。
隣で準備をしていたPTAの売店に関しては、かなりの人数がいて、人手が足りているどころか、むしろ多すぎて余ってしまっているまであった。
準備が完了する前に文化祭が始まってしまうという事態に備えて、重要なものは最初のほうに運び終えているので、あと残っている仕事は、必要な分の荷物をテントまで運ぶだけという事情を知らなくてもできる単純作業だけだったはずだ。
だから、詳細を知らないPTAの人たちであっても、容易に実行できるだろう。そんな残った仕事を、PTAの人たちがあれだけの人数で手伝ってくれたっていうなら、すぐ終わった理由もわかるし、2人がどこか気まずそうなのも、自分たちがやろうと思って送り出したら、予想外の形で終わってしまって、自分たちがやったわけじゃなかったから言いにくかったのだろうと推察できる。
どうしてそうなったかわかると、俺は2人に対して「そっか、それならよかった」と口にした。すると、2人は眉をひそめた。
「え?よかったってどういうこと?」
どうやら、俺がそう口にした理由がわからなかったらしい。そうわかると、俺は改めて口を開いた。
「いや私、2人に仕事全部やらせる形になっちゃってたんで、2人に言うのもなんか変かもだけど、さっきのことに対して少し負い目があったんだ。だから、仕事が早く終わって、2人も文化祭が始まるのに間に合ったっていうなら、よかったなって思ってさ」
そう言うと、2人も俺の言葉の意味が伝わったようで、「あー」と口を開いた。
その後、少し俺たちの間に何とも言えない空気が流れ、思わず互いに見つめあい、互いに笑みが漏れる。
「それじゃあ、先生も待ってるだろうし、そろそろテントのほうに行こっか?」
由佳の発言に俺と鈴香も「うん」と返事をし、由佳の後ろをついていった。
◆◆◆◆
―――テントにたどり着くと、そこはまるで戦場のようだった。
お昼時ということもあって、テントの前にできた列は列はすでに長蛇で、中では2人の顧問の先生と2人の助っ人と思われる女性教諭がせわしなく動き回っていた。
大の大人4人が必死に回している様子は圧倒的で、思わず俺たち3人はテントの少し後方で息をのんだ。
その状況のまま少し経つと、石田先生が俺たちの存在に気づいたようで、周りの先生方に「ちょっと外すわね」と声掛けをしてから、俺たちのもとへと歩いてきた。
「みんな、ごめんなさいね。ちょっと忙しい状況から始めることになっちゃって…」
先生は眉をひそめながらそう言ってくる。
そんな言葉を聞いてから、由佳が鈴香に、そして俺に対してアイコンタクトを取ってきた。
―――あ、そういうことか。
見つめているうちに由佳の訴えてきたことがわかり、首をコクンと降ることで由佳に対してサインを送る。そうやって、俺と鈴香から応答を受け取った由佳は、一度大きく息を吸った後、はっきりと口を開いた。
「大丈夫です!」
―――私たちはしっかりと予行練習をしているから、やるべきこと、するべき仕事はすでに頭に入っている。
石田先生は、『大丈夫』という言葉の中にそういう意味が入っていると理解すると、先ほどまでの謝罪している状態から様子を変え、こちらを試すような目で見てくる。
こちらも、そんな先生の視線に応えるべく、『できる!』『やれる!』と目で訴えた。
「わかったわ!じゃあ、5分後から入ってもらうから入れるように準備して!由佳さんは助っ人で入ってくれた近藤先生に代わって会計に、奈津希さんは山口先生に代わって調理場に、鈴香さんは、フランクフルト自体は近くに冷蔵庫があるから大丈夫だけど、出すときに使うプラスチックのパックと串が尽きてきたから、冷蔵庫からそれぞれ出してから、奈津希さんのいる調理場に合流して!」
「「「はい!」」」
会話を終えると、先生はテントの中へと戻り作業を再開し、俺たちはテントの中に入る準備として、手を消毒し、エプロンをつけ、髪の毛が落ちぬよう髪の毛をまとめに入る。
こうして、本当の意味での、俺たちの戦場が始まった。
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