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文化祭4

「だったらさ、来週の日曜日に、俺と一緒に遊びに出かけないか?」

「――――え?」


 広瀬君の言葉が、俺の中で何度も何度も反響する。

 ―――あ、え、う…。予想だにしていなかった言葉に、頭がうまく回らない。なんとか冷静になろうと、広瀬君から目はそらさないものの、一度大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。

 ――――すー、はー。すー、はー。

 うん。深呼吸で、とりあえずは落ち着くことはできた。だから、この後どうするか考えていこう。

 ―――…うん、考えていこう。

 ………。

 ―――…いや、まじでどうしよう。

 考え出しはしたものの、考えたところでどうしようもなく、思わず頭を抱えてたくなる。なんせ、これは間違いなく、俺の勘違いでも何でもなく確実に、俺は広瀬君にデートに誘われているのだ。

 正直、普段の状況であったなら、俺はたとえ相手が誰であろうと断っていただろう。なんせ、あくまでも俺は男なのだ。同性愛の趣味もないし、断るに決まっている。

 だが、今回の場合はそういうわけにもいかなかった。その理由は、誘ってくる前に聞いてきた、一つの質問にある。

 ―――「話は変わるけど、西山は来週の日曜日って予定とかあるの?」

 ―――この言葉が問題なのだ。

 そう、あの発言によって俺は前もって聞かれているのだ、来週の日曜日は空いているかと。相手に空いていると理解されているのに、そのうえで誘いを断るというのはどうしてもしにくい。そんな状態なのに合わせて、目の前で心配やら不安やらを含んだ目をしつつもまっすぐと広瀬君はこちらを見てきているのだ。そんな姿を見てしまっては、もうどうしようもなかった。


「わかりました」

「え?」


 広瀬君は俺の言葉が理解しきれなかったのか、聞き返してくる。


「来週の日曜日、一緒に遊びに出かけましょう」


 そう言葉を口にすると、広瀬君はこちらから見てもわかるほどに表情を輝かせた。


「本当か!?」

「はい。でも、1つだけ気になることがあって、来週の日曜日って明後日のことですか?それとも、9日後の日曜日のことですか?そこだけちょっと不安なんですけど」

「あ、来週、9日後の方だ!じゃあ、詳しくはまた追って連絡するな!」


 そう口にしながら、喜びを表すようにダッシュで広瀬君は去っていった。そんな広瀬君を見送った後、俺は脱力するようにその場に座り込んだ。

 ―――ああ、どうしよう。

 思わず、口から苦笑いが漏れる。

 ―――まさか、初デートを同性である男と、それも女の子の姿ですることになるなんて。

 直面する事実に思わず呆然としているものの、頬をパンパンと2回ほど叩いて思考をリセットさせる。

 ーーーデートじゃなくって遊びに行くだけだ、それも、男友達と。

 なんとか自分にそう言い聞かせて気持ちをリセットしていると、後ろから何かにツンツンと背中をつつかれた。「え?」と口にしながら後ろを向き確認する。


「やっほー、なっちゃん。―――って、なっちゃん大丈夫?顔色なんか悪いけど」

それは、もともとの目的、写真の件をお願いをするためにここに呼んだ当の本人、由佳と鈴香であった。


◆◆◆◆


「えっ!!広瀬君に一緒に遊びに行かないかってに誘われた!?」

「ちょっと!2人とも声が大きいですよ!」


 大声を上げる2人に対し、慌てて静止に入る。しかし、2人は俺の静止なんか気にせず、いや、この言い方は2人に失礼か、俺の静止への関心は話の内容への興味に負けてしまって、止まることができないようだ。


「え!?それってつまりデートってことだよね!?いつから2人は付き合ってたの!?」

「いや、別に付き合っていないですって!!とりあえず落ち着いてください!!」


 そう止めるものの、2人はなかなか落ち着かず、まともな会話になるのにはかなりの時間を要した。


◆◆◆◆


「つまり、2人はまだ付き合ってなくて、恋人同士のデートってわけじゃなくて本当に遊びに出かけるだけなのね?」

「はい。『まだ』って部分が気になるけど、大体そんな感じです」


 そう言うと、2人は力が抜けたように「はあ…」と声を漏らした。


「びっくりしちゃったよ。私たちの知らないところで、いつの間にか付き合いだしたのかと思っちゃった」

「そんなのあるわけないじゃないですか。もし誰かと付き合うとしたって、赤の他人ならまだしも、2人なら勝手に誰かにばらしたりしないって信用できますし、相談ぐらいしますよ」

「なっちゃん…」


 そうこぼしながら由佳が、こちらに飛びついてこようとしたのだが、なぜか途中で、動きを止めた。そして、何か情緒不安定そうな挙動をしながら、口を開いた。


「ということは、広瀬君となっちゃんは、あくまでも友達ってわけなのよね?」

「?ええ、まあ。そうですけど…」


 そう返すと、由佳は先ほどよりもさらに目を輝かせた。


「だったらさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、なっちゃんは明日って暇?」


 ―――明日の土曜日は、文化祭後で疲れているだろうから、ゆっくりしようと思ってあけてあるけど…。


「空いてはいますけど…」

「来週の日曜日には、広瀬君と出かけるんだから、服装も準備しておかないといけないわよね?」

「?いえ、服なら母さんが買ってきたものがあるので大丈夫だと思いますけど…」


 正直にそう返すと、由佳は地面を見つめて、「そうじゃないって!」と言わんばかりに頭をかき回した。

 ―――?どういうことなんだろ?

 そう頭を悩ませていると、鈴香は由佳の肩にポンと手を置き「なっちゃん、良くも悪くも鈍感そうだから、正直に口にしないと伝わらないんじゃない?」と口にした。

 ―――え?鈍感って何?どういうこと?

 鈴香の言葉によって、俺がさらに頭を悩ませている間に、由佳は改めて」俺のほうを見つめ直していた。そして、ゆっくりと口を動かした。


「――遊びに行きたいなって。広瀬君と友達同士で出かけるって話なら、私たちのほうが広瀬君よりも先になっちゃんと友達になったんだから、休みの日に一緒に遊びに出かけるのを先越されるの、悔しいなって思ったの!」


 最後のほうは、半ばやけくそ気味になりながらも、由佳ははっきりと言葉を口にした。

 ―――フランクフルトを買いに行った時にも話したが、まだ俺たち3人で休みに出かけたということはなかった。もちろん、休みに遊びに出かけたという事実だけで仲の良さというものは測れるというものではないが、それでもそれより後に友達になった子に先を越されるのは嫌だったのだろう。


「わかった。じゃあ、明日は三人で買い物に行こっか」

「え?いいの?」

「私も、2人と一緒に遊びに出かけたいですし。それに、由佳にここまで必死に頼まれたら、友達として頷かないわけにはいかないじゃないですか」


 俺がそう口にすると、由佳は顔を真っ赤に染めた。自分の行動を後から振り返ってみると、とても恥ずかしったのだろう。

 そんなこんなありつつ、俺たちは明日3人で遊びに出かけることになった。








「―――って、そういえばさ、なっちゃんはどうして集合時間よりも早くに私たちを呼び出したの?」

「―――あ!!!」


 伝えるべき肝心の情報である、誠也に写真を撮られてもいいかと聞くことを忘れていたことを、鈴香の発言によって思い出し、俺は思わず大声をあげてしまった。その後、2人に対していいかどうかお願いをすると、2人は快く了承してくれた、了承してくれたのだが…。


「にしても、そんなお願いまでされちゃうなんてねー」

「うっ…、なんですか?」

「いやー。やっぱり、なっちゃんと誠也君は仲いいなーって思ってさ」

「だから、誠也と私はあくまでも友達であって、そういう関係ってことはないからね!?」


 俺と誠也がそういう仲なんじゃないかという疑惑が、再浮上してしまった。というか、広瀬君と付き合ってるって勘違いされたときあんなに驚いていたのは、この疑惑が二人の頭の中にあったからかもしれない。

 二人になんだかんだいじられつつ、残りの時間を過ごし、俺たちは料理部のテントへと足を運んだ。


最近忙しく、更新ペースが遅れています。

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