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文化祭3

 あの後はしっかりと休憩することなく働き、時刻は11時となり、俺は自分のクラスでの役割を終えた。

 ―――まあ、いざ自由時間を迎えたからと言って、特にすることはないんだけどね。

 三十分後にはもう部活のほうに顔を出さないといけないし、そんな状況でほかのクラスの出し物を回ったところで、全力で楽しむことはできないだろう。

 ―――あ、ジェットコースターはそれとは別枠です。ジェットコースターはそんなの関係なく楽しめるだろうけど、単純にあの列に並んでいたら部活の集合に遅れてしまう。

 そんなわけでどうしようもなく廊下をふらふらとさまよっている―――あれ?これじゃ、さっきまで(働いているとき)とやっていること大差ないな―――と、俺はあるとんでもないことに気づいた。

 ―――あ、写真の件、二人に許可取ってないじゃん。

 誠也と取り付けた写真を撮影するという約束、それに由佳と鈴香の二人を巻き込んだにも関わらず、俺は二人に対して許可をもらうなどをしていない。

つまり、俺はあの約束を勝手に取りつけてしまっているのだ。

 ―――謝罪も含めて、これはメッセージアプリではなく直接伝えたほうが良い、いや直接伝えなければいけないだろう。

 そう判断すると、俺は二人と一緒に作ったメッセージアプリのグループ、『☆料理部☆』に「ちょっと話したいことがあるから、部活の集合時間より少し早くに来てもらっても良い?」と書き込んだ。


◆◆◆◆


 俺はメッセージを打ち込むと、すぐさま行動を起こし、売店を出す昇降口の付近へと足を向け歩き出した。

 俺のせいで集合時間よりも先に来ることに、貴重な自由時間を削ることになってしまうのだ。先にたどり着いて、相手を待つというのは当然の行動であろう。

 ―――といっても、昇降口まではすぐについてしまうのだが。

 広いや遠いといっても所詮は学校内なのだ。さっさとついてしまう。今から売店のすぐ近くに行くのは先生たちにも迷惑なので、とりあえず二階にある一年生と二年生が利用している昇降口と一回をつなぐ階段で腰を下ろし、特に何か用事があるというわけではないがスマホの電源を入れた。ロック画面には一件のメッセージ、鈴香からのメッセージが表示されていた。

―――『わかったよ』

―――『それじゃあ、十分前ぐらいに行くようにするね』

 了承をもらえたことによかったと思いつつも、それでもやっぱり今から15分ぐらい待つことになってしまうということを再確認して、ちょっと憂鬱になる。

 とりあえず、二人来るまで時間があるという事実は変わらないので、漫画でも読んで待っていようとメッセージアプリを閉じて漫画アプリを開いたところで、「あれ?西山?」と誰かに声をかけられた。

 その声につられ、思わず声のしたほうへと首を振る。そこには――――


「あれ?何でここでスマホいじってるんだ?部活に顔出さなくていいのか?」


――――広瀬君の姿があった。


◆◆◆◆


「広瀬君、どうしてここに?」

「俺は昼飯だよ。もう11時回ってるからな、おなか減ってきたから売店で何か買おうと思ってさ。西山のほうは?お前、料理部だろ?ここにいるってことは、売店に顔を出しに来たってことじゃないのか?」


 そう言ってくる広瀬君に対して、思わず苦笑いが漏れる。

 事情を説明しようにも、誠也の写真の件について何もかも全部話すというのは、かなり時間がかかってしまう。

しかし、説明するのにその一件に一切触れないなんてことは絶対に無理だ。

 ―――うん。あの一件に関して、ところどころ省略しつつ説明しよう。


「ああ、実はちょっと事情がありまして…」

「事情?」

「はい。ちょっと、部活に顔を出すよりも前に料理部の仲間に話さないといけないことがありまして、そういうわけで二人を待ってる感じです」


 そう事情を広瀬君に伝えると、なぜか広瀬君の表情が曇った。

 ―――え?特に広瀬君の表情が曇るような話なんてしてないよな?

 想像していない状況に思わず顎に手を当て考えてみるものの、思い当たる節はなかった。

 ―――え?じゃあ何が原因だったの?

 そう思いながら、再び広瀬君のほうへと顔を向けると、そんな疑問は当の本人、広瀬君自身の口から放たれた言葉になって解消されることになった。


「もしかしてそれって、高原と何か関係があるのか?」

「え?」


 広瀬君の口から誠也の名前(いや、この場合は苗字か)が出たことに驚き、思わず声が漏れてしまった。

 ―――え、広瀬君と誠也って知り合いだったの?というか、知り合いだったとしても、何で由香と鈴香の二人に話す内容が誠也関係だってわかったの?俺、まだその件についてだれにも漏らしてないんだけど。

 そんな俺の疑問を知ってか知らずか、広瀬君はこちらの様子を確認しながら言葉を紡ぎ始めた。


「実はさ、さっき俺、西山と高原が2の7の教室前の廊下で話してるのを見かけたんだ。なんか込み入った話をしているようだったし、普通の話だったら当日に話すんじゃなくて前もって連絡していると思ったから、料理部の仲間に話す内容って高原と話していたのと何か関係があるんじゃないかと思ってさ」


 ―――へぇ。広瀬君、俺と誠也が話しているところを見てたのか。

 それなら、広瀬君の口から俺が二人に対して話す内容が誠也関係なのではないか?と聞こえてきたのにもなんとなく納得がいく。

 そう判断すると、俺はもうこの件に関して広瀬君に説明するのは、全部話してしまったほうが簡単に伝わるだろうと自分の中で結論付け、この件の全貌に関して広瀬君に話し始めた。


「実はそうなんです。誠也、高原君とはこの学校に通いだす前から知り合いなんです。その誠也から、ちょっと写真を撮ってもいいかって頼まれまして」

「え?何で写真?」

「誠也、写真部なんですよ。なんか文化祭中、写真部内でだれが一番いい写真が撮れるか競争しているらしくって、私こんな格好ですから写真を撮らせてもらえないかって頼まれたんですよ。でも、流石に一人でコスプレしているような写真を撮られるのは恥ずかしかったんで、私単体じゃなくて料理部の仲間と一緒に取ってくれないかって頼んだんです。誠也はその条件を快く了承してくれたんですけど、肝心の料理部の友達にその話一切していなくて…。だから、そのことについて友達に伝えるために、ここで待っている感じです…って、広瀬君どうかしましたか?」


 どこからかはわからないが、俺が話をしている途中から広瀬君は俺から目をそらして少し下を向いていた。それによって、彼の表情に影が出来ていた。

 ―――何か、変なところでもあっただろうか?

 思わず心配して、広瀬君を見てはあわあわとうろたえるものの、広瀬君はあまり大きな反応を示さず、小さく相槌を打つだけだった。

 そんな調子で少し時間が経過した後、広瀬君はゆっくりと口を開いた。


「西山は高原と仲がいいんだな」

「え、うん。それなりにはね」


 反射的にそう返すと、広瀬君はさらに顔をしかめた。

 その後、何回も首を左右に振った後、再び口を開き、言葉を紡いだ。


「話は変わるけど、西山は来週の日曜日って予定とかあるか?」

「え?来週の日曜ですか?――えっと、今のところは何の予定も入ってないですけど?」


突然の問いかけに対して慌てて頭を回して、これまたつい反射的に思いついたことをそのまま口に出してしまう。

―――後から思えば、この選択は大きな間違いであった。

俺の返事を聞いた後、広瀬君は再度口を開いた。


「だったらさ、来週の日曜日に、俺と二人で遊びに出かけないか?」

「――――え?」


 予想外の広瀬君の言葉に、俺は言葉が出てこなかった。

 


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