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体育祭5

すいません。遅れました。

ーーーやばい。どうしよう。

大縄跳びを終えてお昼休憩に入ってからも、俺は悩んでいた。

母さんが用意してくれたサンドイッチもなかなか口に入っていかない。

ーーーいや、やっぱり言った手前、広瀬くんを応援するべきだよな。でも、うーん…。

そんな思考が何回も何回も回って終わらない。

20回ほど繰り返しただろうか?そんなタイミングで、俺はとんでもないことに気づいた。

ーーー俺、アホだろ。応援する人が2人いるだけで、別にどっちかしか応援しちゃいけないなんてことは言われてないじゃないか。


何でこんなことに気づかなかったんだろう。

そうだよ。父さんがテレビで野球をつけてる時だって、暇だからとりあえず見るものの、そこまで野球に興味がもっていなかったので、特にどちらかを応援することはなく、どっちも頑張れーなんて考えながら見てたじゃないか。

柔道でも、全日本選手権みたいな日本人同士の試合の時は、別にどっちかだけを応援することなんてせず、両方とも応援していたじゃないか。


ーーー両方を応援しよう。

そう思うと、気が軽くなり、サンドイッチは先程までは一体なんだったんだと言わんばかりにポポンとお腹の中へ入っていった。


◆◆◆◆


そして時は過ぎ、とうとうクラス対抗リレーが始まろうとしていた。


ーーークラス対抗リレーは、各クラス4人の走者がそれぞれ400m、グラウンドに書かれたトラックを1周し、合計1600mを走り、どのクラスが1番速いかを競う競技だ。

大縄跳びと並んで体育祭の華であるこの競技は、大縄と違い全員競技でないにも関わらず、上位に入った時に獲得できるポイントの配点が高い。

よって、各クラス優れた運動神経を持つ者が選び出され、他の競技とは比べものにならないほど熾烈な争いが繰り広げられるのだ。

また、それが決勝ともなれば文字通り、他の競技とは空気が違う。

そんなピリピリとした空気が客席側にも伝わって、応援する側も気合が入ったようで、応援の声も今まで聞いた中で1番の声量だった。


「只今より、クラス対抗リレーを行います」


生徒会のアナウンスにより、学校中から歓声が湧く。

それと同時に校長先生が、スターターピストルを持って、台の上へと上がった。

ーーーまじか。校長がスタートの合図出すのか。

まさかの事実に、生徒がザワザワとざわつく。

反応が期待通りだからか、校長は距離があるうちのクラスのベンチからでも分かるほど、頰を緩ませた。

しかし、ゴホンと一度咳払いをした後、表情を緩んだものから真面目なものへとを作り直し、その上でピストルを持った右手を上へと上げた。


「位置について、よーい…ドン!!」


掛け声と同時にパーンとスターターピストルが鳴り、リレーがスタートする。

その音と同時に、第1走者達が一斉に飛び出した。

ーーー第1走者は、リレーにおいて大変重要な役割だ。

そこには、走り出すということ、つまりはクラウチングスタートをするということが関わってくる。

クラウチングスタートは、やろうと思えば多くの人が出来るものの、やはり陸上競技経験者とそれ以外で出来が違う。

そんなこともあり、うちのクラスの第1走者には陸上部の田辺(たなべ)くんが選ばれている。

その田辺くんは、流石陸上部というだけあって周りの3年2年の第1走者にも引けを取らず、全体で2位というポジションで第2走者にバトンを繋いだ。

その後、第2走者の溝脇(みぞわき)くん、第3走者の中山(なかやま)くんとバトンは繋がり、3位までポイントが入る中、うちのクラスは全体で3番目という好位置でバトンが渡ろうとしていた。

ーーーその時、後ろから1つの影が、1の3の、広瀬くんのクラスの選手の姿が現れた。

そのまま2つのバトンは第4走者、アンカーへと渡り、誠也と広瀬くんはほぼ同時、ほぼ同位置にてバトンを受け取ることとなった。

バトンが渡ると2人は一気に加速する。


ーーー広瀬くんは、足が速かった。

野球をやっている、しかも、3年生が引退する前から、1年生ながらレギュラーではないものの試合に出ていたと聞いていたので、運動神経が良いのは予想はついていたが、選手によっては足が遅い人もいるからどうなのだろうと思っていたが、とても速く、どんどんと前の選手との距離を詰めていった。

ーーーしかし、その(かたわら)には1つの影があった。

ーーー誠也だった。

すごい速さで追い上げる広瀬くんの背中にピッタリと張り付き、離されることなくついていく。

ーーー誠也は元々運動神経が優れている。

高校こそ先生とぶつかることを避けて写真部に入部したものの、中学時代はバリバリの運動部であるサッカー部で2年生の時からスタメンに選ばれていたぐらいだ。

だからといって、中3で部活を引退してからブランクがあるのにおかしいと思ったのだが、高校に入ってからも、誠也はトレーニングは続けているのだ。いや、夏の終わりから始めたと言う方がいいだろうか。

ーーーそう、俺との朝のランニングだ。

俺の体力強化のために付き合ってもらっていたものの、やっぱり誠也とは対等な友人で、親友でいたいから付き合ってもらうのだけは嫌だと、誠也自身のトレーニングにも付き合っていたのだ。

というのも、実は誠也も高校に入ってからどんどん体力や筋肉が落ちていたのを気にしていたので、それの練習に付き合うと言ったのだ。

ーーーよって、今の誠也は中学の時の全盛期の肉体と同じ、いや身長やなんかは伸びているから全盛期以上になっている。

2人はピッタリとくっついて前を追うものの、差は少しずつしか縮まらず、なかなか追いつかない。

それは、当然だ。

前を走る2人も、誠也広瀬くんと同じようにアンカー、走るのが遅い人が起用されることなんてない。むしろ、そんな相手に1年生ながら少しずつでも間を詰めている2人が異常なのだ。

半分を超えたところで、誠也は広瀬くんの後ろから横へとズレて2人は並走する形となる。

ーーーラスト200mを全力で駆け抜けるつもりだ。

そんな2人のデッドヒートに、前を走る選手もいるというのに、2人から目を離すことができない。

そしてそのままレースは進行し、ゴールテープが切られ、アナウンスがかかった。


「1位ー2の5、2位ー2の7、3位ー1の3、4位ー1の5、5位ー3の5、6位ー2の2」


ーーー結局、アンカーにバトンが渡ってから最後まで、順位が変動することはなかった。

誠也と広瀬くんはほぼ並走するように、少しだけ広瀬くんが前に出た状態でゴールをした。


この場合、俺が応援していた2人のうち、広瀬くんが先だったのだからそっちを祝福するべきなのかもしれない。

それでも、俺は広瀬くんではなく、負けたはずの誠也から目を逸らすことができなかった。


「くそっ!!」


聞こえないので確かか分からないが、おそらくそう口にしながら顔をしかめる誠也。

こんな姿を見るのは、いつ以来だろうか。

部活動の大会は見に行かなかったからしていたのか分からないが、俺が見たのは少なくとも小学校まで遡るほどだ。

ーーーそれほどまで、悔しかったのだろう。

今回の体育祭、今までと違うのは写真部のみんなにサポートしてもらったことだろう。

最初は、頑張ろうと意気込んでいたのに、写真部としての仕事が出来なかったので落ち込んでいたが、やっぱり写真部のみんなが自分のサポートを、応援してくれたのは嬉しかったようで、写真部のみんなの為に、本気で1番になろうと、せめて1人ぐらいは抜かしたかったのだろう。

そんな感情を表す誠也に、1人の男性が声をかけた。


「お疲れ様、高原くん」


それは、写真部の顧問の先生だった。

誠也は、声をかけられると表情を更に暗くした。


「すいません。1番取るどころか、1人も抜かせなくて」


そう呟く誠也だが、先生はそんな誠也の言葉とは裏腹に、両肩に手を置き、少し揺さぶるようにしながら口を開いた。


「何言ってるんだ!すごいじゃないか!陸上部や野球部、サッカー部を相手に一歩も引けを取らなかったじゃないか!」

「そうだぞ!」


その声の主は、写真部の部長さんだった。

他にも、何人か写真部の部員が誠也たちの周りにやってきている。

どうやら、先生と話している間に、あそこまでやってきていたようだ。


「本当に、お前すごいよ!」

「そうだよ!俺だったら、後ろの人全員に抜かれてるぜ!」

「お前がリレーのアンカーに選ばれることなんかないから、その例え意味ないだろ!でも、高原本当に、本当にすごいよ!」


彼らは口を開き、誠也に賞賛の言葉をかける。

どうやら彼らは、誠也の走る姿を見て、居ても立っても居られず、駆けつけたようだ。

そんな部員たちに賞賛され、誠也も嬉しそうに笑った。

たしかに、リレーで結果を出すことは出来なかったかもしれない。

それでも、仲間たちに迎えてもらうことはできた。

ーーー良かったな、誠也。

喜ぶ誠也の姿を見て、こっちまで顔がほころんだ。


その後、誠也はクラスに戻ってくるとクラスメイトたちにも賞賛された。

閉会式も無事行われ、体育祭は閉幕した。


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