体育祭4
目と目が合うと、広瀬くんはニコッと笑いながら口を開いた。
「西山、3人4脚おめでとう。すごかったな」
「ありがとうございます」
そう普通を装って返すものの、やっぱり面と向かって言われると少し照れくさくなってしまい、思わず自分で頰をポリポリと掻いてしまう。
恥ずかしい思いはさっきテントで散々してきたので、もう流石に嫌だ。
そう思い、俺はどうにか3人4脚の話題からうまく話を逸らそうと、口を開いた。
「クラスのテントから出ているってことは、広瀬くんはこれから競技に出るんですか?」
「うん。これからムカデ競争で、その後すぐクラス対抗リレーの予選なんだ」
ーーーえ?リレーの予選?
「え?リレーって、予選だけやるんですか?」
「え?うん。リレーは午前の内に予選だけやって、午後の最後に決勝だよ」
そう言われてから、しばし顎に手を当て考える。
ーーーなるほど。リレーは何といっても運動会や体育祭の華である。だから、午前は予選だけにして午後に決勝をとって置くんだな。
自分の中でそう結論が出て、なるほどと口をポケーと開けながらうんうんと頷いていると、なぜか広瀬くんは、俺を不思議なものを見るような目で見てきていた。
ーーーえ?何かおかしいか?
改めて何かおかしいところはないか考えてみると、すぐにそれは思い当たった。
ーーーあ…。俺、明らかにおかしいじゃん。
誰でも、体育祭や文化祭のスケジュール表を渡されたら、ある程度は目を通すのは当たり前だと思う。
だけど今年の俺は、中学とのシステムの変化やら自分の身体の変化やらであまりやる気が出なかった。
そのために、スケジュール表を貰ったのに確認したのは、当日の集合時間と解散時間、お昼休憩の時間ぐらいで、どの競技がいつやるかなんかは一切確認しなかったのだ。
ーーーこれは、一般的に見て、明らかに異常と言えるだろう。
ちなみにこれは、思い返せばさっき3人4脚の集合に遅れることとなったのの原因の1つでもある。
そんな訳で、場には微妙な空気が流れてしまっている。
ーーーやばいやばい、どうしよう。
嫌な空気から話逸らしたくてここに逸らしたはずなのに、なぜかそこでまた困ってしまうという状況に陥ってしまっている。
どうにかして再度話を逸らそうと、俺は必死に頭を回しながら口を開いた。
「あ。そ、そういえば!私、そろそろクラスのテントに戻らないと!それじゃあ広瀬くん、ムカデとリレー頑張ってください!」
「え、あ、おう。頑張るよ」
ーーー話逸らすっていうか、強制的に終わらせてるじゃないか!
自分が絞り出した結論に自分自身でツッコミを入れるものの、口から出てしまったものはしょうがない。
広瀬くんに対して手を振りながら、少し小走りでその場を後にした。
◆◆◆◆
そんなこんなありながら、俺はクラスのテントへと戻ってきた。
ぐるぐると運動場の周りを回っているのと、広瀬くんと話している時間を合わせると、結構いい感じの時間になったので、戻ってきたのだ。
とはいうものの、なんか広瀬くんに変な印象与えちゃったかなー、大丈夫かなー、とついつい不安になってしまう。
そうぐるぐるぐるぐると考えながら座っていると、アナウンスが飛んできた。
どうやら、広瀬くんも参加するムカデ競争の予選がスタートしたようだった。
自分のクラスのムカデは、次の組のレースに出るようなので、広瀬くんのところはどうなるんだろう?と探してみると、1番手前のムカデの真ん中辺りに位置する、広瀬くんの姿を見つけた。
そのまま広瀬くんのクラスのムカデを目で追ってみると、広瀬くんたちのクラスのそれは、周りと比べて明らかに遅かった。
そのことから、周りと比較して明らかに練習をしていないのが見て取れた。
ーーーまあ、みんな運動部の男子みたいだし、忙しかったのかな?
そんな訳で、息が合わず転倒したり、前の人が「倒れたなら、倒れたままでも強引に引っ張っていけばいいじゃないか」と言わんばかりに強引に足を前に進めようとしてまたコケたりと、ムカデ競争でのミスのフルコースと言わんばかりにミスをしてしまっていた。
それによって、周りからは笑い声が飛んでいたのだが、当の本人たちは「まあ、こんなに盛り上がったからいっか!」とばかりに笑顔だった。
ーーーすごいな。
もし自分だったら、失敗ばかりでしかも周りから笑い者にされたことにイライラして、自分も出来なかった1人なのを棚に上げて、周りに不満をぶつけてしまっていたかもしれない。
自分とは違い、彼らは人間が出来ていると感じ、また、それと比べて自分はまだまだダメだなと、再実感することとなった。
そんなこともありつつ、次の組のレースに自分たちのクラスが出るので、そちらに目を向けようとした瞬間、視界の端からすごいスピードで動く、1つの影が目に入った。
え?なんだろう?とそれに合わせて首を動かすと、それはまたもや広瀬くんだった。
ーーーああ、そういえばさっき、ムカデ競争が終わったらその後すぐにリレーの予選だって言ってたな。
この後リレーなのに、そんな全力で走って大丈夫なのかな?と思ったり、あまりに慌ててる姿を見て思わず頑張れーと、自分たちのクラスのムカデのことを忘れ、なぜかレースでもないのに応援したりしていると、広瀬くんは無事、ムカデ競争が終わる前にリレーの集合場所に到着した。
先生に点呼を取った後、リレーの選手が並んでいる列の、前から2番目の場所で腰を下ろした。
「ああ、間に合ったんだ。良かった」と目を切ると、広瀬くんと同じ列に誠也が座っていることに気づいた。
ーーーあれ?
誠也と同じ列ってことは、広瀬くんと誠也は走る順番が同じということだろう。
ーーーって、え!?広瀬くんもアンカーなの!?
ってことは、誠也と広瀬くん一緒に走るの!?
◆◆◆◆
ーーーまさか、広瀬くんもアンカーだとは…。
クラス対抗リレーの選手が入場した後に改めて確認してみても、誠也と広瀬くんは同じ場所、朝礼台の前のアンカーがバトンを貰うポジションにいた。3列に並んで、誠也は前から2番目、広瀬くんは前から3番目だから、予選の組は違うんだろうけど、もし2人とも決勝に進んだら俺はどっちを応援するべきだろうか?
写真部のためにも誠也には頑張って欲しいし、向こうからも言われて、さっきはこっちから応援していますと言った手前、広瀬くんを応援するべきだろうか?
そこまで考えてから、俺は考えることをやめた。
理由はすごく単純なものだった。
ーーー馬鹿だろ、俺。
さっきの考えは、例を出してみると、初めて書いた漫画を漫画賞に出した時に「うわー。いきなり『君は天才だ!すぐに連載してくれ!』みたいに言われたらどうしよう〜」って考えるようなものだ。
クラスは1年から3年までに20クラスもある。
また、高校生というのは成長期、伸び盛りの時期のため、そんな時期の1年というのは非常に大きい。
そんな状況で、1年のクラスが2つも20分の6、10分の3という確率にはいるというのは、不可能に近いだろう。
ーーーうん。考えるだけ無駄だ。
そんなことはほぼありえないのだから、心配するなんて精神をすり減らすだけで得なんかないな。
そう考えが落ち着くと、俺はテントから前に出て、リレーの観戦と応援に参加した。
◆◆◆◆
ーーーおい、嘘だろ。
レースの結果が信じられず、俺は朝礼台前へと来て、リレーの結果の再確認をして、俺は思わず、その結果が嘘だと、そうだと思わずにはいられなかった。
決勝へと進出したチームが記載されているボードには、こう記載されていた。
ーーーー3の5、2の2、2の5、2の7、1の3、1の5。
つまりは広瀬くんの所属するクラスと俺と誠也の所属するクラスが1年生ながら決勝進出を決めているというものだった。
ーーーおい、まじかよ。
俺がそんなことありえない、絶対ないと切り捨てた状況がそこにあり、俺は思わずフリーズしてしまった。
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