体育祭3
「遅れてごめん!」
慌ててテントを飛び出して入場門に行くと、本当に時間はギリギリで、点呼係の教師に無茶苦茶名前を叫ばれているという状況だった。
真っ直ぐにその先生へと向かっていき遅れたことを謝罪した後、首を振って由佳と鈴香を探す。
そして2人を見つけ合流すると、今度は由佳と鈴香に対して謝罪していた。
「もう、あんまり遅いから心配しちゃったよ。どうしたの、なっちゃん?」
「そうそう。『点呼そろそろだから、トイレ寄りながら行こう?』って声かけたら『先に行ってて』って返ってきてたから先に来てたのに、全然来ないからびっくりしちゃったわよ」
どうやら俺は、2人に声をかけて貰ってたらしいのだが、朝寝坊した時に声をかけてくれた母さんに対してするように、「んー、先に行ってて」と無意識に返してしまっていたらしい。
「あの、うっかりそのままポケーと座ってました」
「「……」」
そんな返事は予想してなかったのか、2人は思わず口を閉ざした。
「本当に2人とも、すいません。わざわざ声までかけてくれたのに…」
俺は2人に頭を下げた。
わざわざ声かけまでしてくれていたのに、こんなことになってしまって本当に申し訳ない。
そんな俺を、2人は笑顔で許してくれた。
「大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしちゃったけど、なっちゃんが無事ってだけで全然OKだよ」
「そうそう。それに、鈴香なんて普段寝坊して遅れるなんて日常茶飯事だし、なっちゃんと同じことを林間学校で起こしてあげた私にやったことあるんだから」
「ちょっと、今関係ないんだからそのこと掘り返さないでよ!」
よくよく見てみると、2人ともこちらをチラチラ見ていた。
ーーーああ、俺に罪悪感を抱かないか心配して、鈴香の過去話してくれたんだな。
そんな風に思うと、思わず笑みがこぼれてしまう。
そんな俺を見て、2人も笑みを浮かべた。
「よし!それじゃあ、そのことは忘れて競技に集中しよう!3人4脚、頑張るぞ!!」
「「おおー!!」」
鈴香の声かけに合わせて、俺と由佳は声をあげた。
◆◆◆◆
ーーー3人4脚、それは3人の息を合わせる競技である。
簡単に言えば、3人が横に並び、隣り合った人の足をと手ぬぐいなどで1つに結んだ上での徒競走と言えるだろう。
前述したように、この競技において最も必要なのは3人の息を合わせることである。
3人で足を結んでいる、特に真ん中の人に関しては両足共に他人と動きを共有しているために、息を合わせて足を出さないと上手く加速することが出来ず、場合によっては転んでしまう。
『それでは、3人4脚予選第2組の人は準備をしてください』
本部にいる生徒会の人からのアナウンスがかかり、俺たちはスタートラインに並んだ。
ーーーうちの学校は、3年生7クラス、2年生7クラス、1年生6クラスの合計20クラスある。
何で1年だけ6クラスなの?と思うのだが、近年の少子化の影響を受けて、今年から募集要員を変えたかららしい。
各クラスからそれぞれ1チームが出場するため、7クラス7クラス6クラスの3組に分けて予選をして、各組の上位2チームが決勝へと駒を進める。
「まず出すのはなっちゃんは左足で、私と鈴香は右足ね?」
「うん」「大丈夫」
出す足について、改めて確認をしてスタートの合図を待つ。
すると、体育教師である山崎先生がスターターピストルを片手に台の上へと登った。
ということは、どうやら山崎先生がスタートの合図をするらしい。
先生は台の上へと登ると、一度並んでいる生徒を見てから改めて前を向き、口を開いた。
「位置について、よーい…」
ーーードン!
その掛け声と同時にピストルが鳴る。
「「「1!2!1!2!1!2!」」」
「「「はい!はい!はい!はい!はい!はい!」」」
さらに、それと同時に各チーム、それぞれタイミングを取る声も飛び交う。
うまく息が合わず転倒したクラスも出てきて、場は混沌としてくる。
そんな状況で、俺たち3人はどうかというとーーー
「「「1!2!1!2!1!2!」」」
ーーーなんと俺たち3人は、第2組の1番前へと前へと躍り出ていた。
ーーー実は、俺たち結構3人4脚の練習、頑張っていたのだ。
みんなで冷凍フランクフルトを買いに行ったあの日、試食をするために袋ごと水に浸けて解凍したのだが、冷蔵庫に入れて解凍するという本番で実際にやる方法が8時間もかかると聞いて短く感じたが、それでも1時間ちょっとかかっているのだ。
その間、一応部活なのでスマホをいじっている訳にもいかず、どう時間を潰したかというと、3人4脚の練習をしていたのだ。
何気ない雑談で、顧問の石田先生に「体育祭、何の競技に出るの?」と聞かれて、「3人で3人4脚に出ます」と由佳が3人を代表して答えたら、石田先生から「じゃあ、せっかく時間が空いてるから、練習したらどう?」と手ぬぐいまで用意して提案してくれたのだ。
その練習を終えた後、「せっかく1時間半も練習したんだからいいところまで行きたい」と、鈴香が言い出し、俺もそれに賛同した。
鈴香は、中学まではバリバリサッカーをやっていたということもあってか、俺と同じく負けず嫌いだったのだ。
そんな俺たちに由佳も頷き、その後も練習を重ねたのだ。
そしてその結果ーーーー
「第2組、1位1の5、2位3の3、3位2の5ーーー」
ーーーなんと俺たちは予選を1位で通過することができた。
「やった!」「よし!」「しゃあ!」
俺たちは思わずその場で円を作り、ぴょんぴょんとジャンプをしながらハイタッチを交わした。
その後、決勝でも無事実力を発揮することができ、なんと俺たちは学校全体で3位になるという快挙を成し遂げた。
◆◆◆◆
「すごいね3人とも!全体で3位なんて!」
「うんうん!男子にも勝ってポイントゲットするなんて!」
「どれだけ練習したの!?」
「本当だよ!すごいよ西山さん!」
テントに戻ってくるやいなや、すぐさま山藤さんに「すごい!」と声をかけられると、それをきっかけに俺たち3人はクラスメイトの5分の1ほどの人数に取り囲まれ、賞賛の声を、病弱という設定もあって期待されていなかったのか特に俺が、浴びることとなった。
「あ、あはは…」
俺たちからは、思わず苦笑いが溢れる。
確かに、褒めてもらえるのは当然嬉しい。
そう、嬉しいのだが、流石にここまで賞賛されるとなんだか恥ずかしくなってきてしまう。
「ちょ、ちょっと私トイレ行ってきます!」
「え?な、なっちゃん?」
「西山さん?」
あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなり、俺はトイレと言い訳をしてテントを飛び出した。
◆◆◆◆
ーーーさて、テントを出たはいいがどうしようか?
「トイレに行く」と言って出てきたが、トイレというのはあくまでただの言い訳で、特に行きたかった訳でもない。
というわけで、今俺は特にすることがない状態だ。
だが暇だからといって、トイレに行くと言って出てきた以上、すぐ戻っては「あれ?トイレじゃなかったの?」と疑われてしまう。
そういう訳にもいかないので、とりあえずぐるぐると運動場を回っていることにしよう。
回ってみていると、生徒だけでなく多くの保護者の姿を目の当たりにした。
ーーー高校生になっても、親御さんって結構来るもんなんだな。
そんなことに対して驚きつつ、周りを回っていると、俺はある人物に遭遇した。
「あれ?西山」
「あ、広瀬くん」
それは、俺の女の子になってから出来た初めての男友達で、俺に告白をしてきた人でもある、広瀬祐樹くんだった。
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