体育祭2
難産で遅れました。
そんなことを経て、いよいよ体育祭が始まろうとしていた。
ーーーちなみに、今日は誠也と一緒ではなく、俺1人で登校した。
というのも、誠也の部活は写真部、俺は今日は体育祭終わりまで特に仕事はないが、誠也は今日から大忙しなため、早めに出なければならなかった。
なので、今日は1人で登校することとなった。
「ただ今より、20××年度、三田西高校学園祭、体育祭を開始いたします」
過去を思い返していると、生徒会副会長の音頭で体育祭が始まったようだった。
ーーー少しは話、真面目に聞いておかないと。
「まずはじめに、校長先生から挨拶があります」
ーー少しは、まじめに聞いておかないと…。
「皆さん、おはようございます。いよいよ、体育祭当日となりまーーー」
ーーーん〜…。
「校長先生、ありがとうございました」
ーーーえ!?もう、校長の話終わってるの!?
ついついウトウトしてしまって、話一切聞いていなかった。
一応、言い訳をさせてもらうと、ウトウトしてしまったのにも訳はあるのだ。
ーーー1つ目は寝不足だ。
寝不足といっても、ついつい普段と同じランニングしてから登校する時間に目が覚めてしまっただけで、目の下に隈が出来るほど寝不足というわけではないのだが、それでも、そんな状態でかつ日差しがいい感じに出ているため、気分的には日向ぼっこでもしている気分だし、その状態で校長の間延びした声で特に内容のない話を聞かされるのは流石にキツい。
ーーー2つ目は、どうしてもやる気が出ないのだ。
今までの体育祭は、前にも言ったと思うが、俺は運動神経が良かったため、複数の競技に出るのが当たり前だった。
そんなだったのに、今回は団体競技を除けば1つだけ、なんか周りの足を引っ張るだけになってしまった感じがして、どうしても「優勝するぞー!」といったやる気が出てこないのだ。
また、中学の頃とシステムが変わったこともある。
中学の頃は、常日頃から学年でクラス対抗でペナントを巡って競っていたので、体育祭も文化祭の合唱コンクールも、絶対に負けないとクラス全体で意気込んでおり、そのため中学時代は何やっても燃えていたのだが、高校からはそういう競争が常日頃からあった訳ではなく、突然体育祭で争い、しかも学年で争うのではなく、学校全体、1年から3年までの全クラスで争うのだ。
ーーーえ、せっかく争うんだったら多い方が楽しくない?
そういう意見はあると思うし、俺もそういう意見だったのだが、俺が全学年で争うことを拒否する理由はそこではなく、クラス分けにある。
ーーーうちの学校、三田西高校はいわゆる進学高で、普通科だけである。
それが何を意味するかというと、2年生から文系と理系でクラスが完全に分けられるのだ。
何故だかわからないが、文系は女子が多く、理系は男子が多い傾向にあり、そして当たり前だが、男子と女子では身体能力に差がある。
そのために、体育祭やクラスマッチでは文系やまだクラス分けがされていない1年のクラスよりも、理系のクラスの方が圧倒的に有利なのだ。
そんな訳で、ついついどこか冷めてしまうのだ。
あー、眠てー。
「これにて、20××年度体育祭、開会式を終わります」
「え?」
必死に睡魔と格闘していたら、いつのまにか開会式が終わっていた。
慌ててワンテンポ遅れながらもみんなに合わせて礼をする。
そして解散となってすぐに、誰かに背中を叩かれた。
「へへへっ。なっちゃん無茶苦茶ウトウトしてたね」
「鈴香か。いきなり叩かれたから誰かと思ってびっくりしちゃったよ」
叩いた正体、それは鈴香だった。
「なっちゃん、あれだけウトウトしてたってことは、もしかして寝不足?」
「あはは。ちょっとね」
「ダメだよ?しっかり寝ておかないと」
「いや、寝不足っていっても本当に少しだけだから、そこまでじゃないから大丈夫」
「え?なら、どうして?」
「今日、ポカポカしてあったかくてポケーとしちゃって、しかも校長がゆったり話すもんだから、どうしてもね?」
そう言うと、鈴香は納得したように「あー」と声を上げた。
「校長の話はねー、今日は大丈夫だったけど、私も普段の集会の時は耐えられないもんなー…」
思わず2人で見つめ合い、互いに笑みを見せる。
その後も会話をしながら、俺たちは自分たちのクラスのテントへと足を運んだ。
◆◆◆◆
ーーーああ、ダメだ。
場所をクラスのテントに移したものの、結局俺はまた睡魔と戦っていた。
やる気って、大事なんだなと、改めてそう実感する。
「お前、何ウトウトしてんだ?」
睡魔に押されて船を漕いでいると、誰かに声をかけられた。
振り向くとそこにはーー。
「あれ、誠也?何でカメラも持たずにテントにいるの?」
ーーーなぜか、誠也がいた。
なぜか、というのも、もともと俺たちが今日バラバラに登校したのは、誠也が用事があるからだ。
ーーー誠也の高校での部活は写真部だ。
中学時代、文化祭で教師と揉めたことのある誠也は、高校ではそんなことのないようにと、体育祭や文化祭の実行委員にならない写真部に入部した。
なぜ写真部は実行委員にならないのかというと、写真部は必ず文化祭・体育祭の当日に仕事があるからだ。
その仕事というのは、写真撮影ーーー学内の配布資料や学校のホームページ、場合によっては卒業生の卒業アルバムにも使われることのある、重要な仕事だ。
というわけで、誠也は今日、朝に撮るポジションの確認をした後、1日中忙しなく働いているはずだったのだがーーーーーなんで、ここにいるの?
俺のそんな問いに、誠也はどこか寂しそうな表情を見せながら口を開いた。
「ーーなんか、今日は仕事しなくていいって言われた」
「へ?」
ーーーえ?何で?
頭には?しか浮かんでこない。
写真部の活動なんて、コンテスト以外じゃ学園祭のためだけに活動してると言っても過言じゃないって言ってたのに、仕事なしってどういう事?
頭の中がぐちゃぐちゃになり、思わず反射的に「え!?何で!?」と聞いてしまう。
誠也は、苦笑いをしながら訳を話してくれた。
「いや、写真部の部員って、運動が得意じゃない人が多い、っていうか俺以外はみんなそんな感じらしいんだ」
「ほ、ほう」
「だからか、顧問の先生に何に出るんだ?って聞かれた時、パン食い競争とクラス対抗リレーですって答えたら、なんか『うちの部からリレーに選ばれる部員が出るなんて!』って、俺以外全員盛り上がっちゃってな、そしたら部長が『お前、今日は仕事しなくていいから、リレー頑張れ!』って言い出して、まさかのそれが採用されちまって、仕事が無くなった」
誠也は、一度やると決めたら何事も全力でやる男だ。
確かに、始める理由は実行委員になりたくないからという歪んだものだったかもしれないが、それでもやっぱり相手には悪気はなくても戦力外通告されたようなものだ。
ーーーきっと、寂しいのだろう。
そんなどこか落ち込んだ誠也を見て、俺はーーー
「馬鹿やろっ」
「痛っ!」
誠也のおでこに、デコピンを一発叩き込んだ。
「何すんだよ?」
「お前、何落ち込んでんだよ?そのままじゃ、リレーやパン食い競争で力出せねえぞ?」
「え?」
「写真部のみんなは、色々訳はあると思うけど、お前の為を思って今日仕事なしにして送り出してくれたんでしょ?他のリレーの人たちは、運動部の人がほとんどだから、それぞれの競技の審判とかで今日一日空いてるのはお前だけだと思うぞ?それなのに、力出し切れなかったら恥ずかしいぞ?」
少し煽りながら、誠也を激励する。
誠也も、途中で俺の意図を理解したようで、ニヤリと口角を上げる。
「だったら、下手な真似はできないな。ーーーありがとな、奈津希」
誠也の表情が普段の、何事へも全力で取り組むものへと戻る。
ーーーやっぱり、誠也はこうでなくっちゃ。
俺も思わず笑みが漏れてしまう。
「そういえば、お前そろそろ行かなくていいのか?」
「え?」
「3人4脚、集合かけられるのそろそろじゃないか?」
「え?本当に?」
「うん。今日に備えて、競技の順番丸暗記してたから間違いないぞ」
慌てて俺はリュックサックを取り寄せて、プログラムを確認する。
ーーー本当だ。今やってるのの、次の次が出番だ。
ーーーというか誠也、プログラム丸暗記するって、どれだけやる気あったんだよ…。そりゃ、そんだけ気合入れてたのに、やらなくていいよって言われたら凹むよな…。
そんなことも思いつつも、事実を確認すると、慌てて立ち上がった。
「教えてくれてありがとう。それじゃあ、行ってくる」
「おう。お前も頑張れよ」
そう、誠也とやり取りを交わした後、俺は入場門の方へと小走りで向かった。
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