学園祭対策会議
翌日の金曜日、俺と由佳と鈴香の3人は、部活に出るために家庭科室へとやってきていた。
ーーーちなみにだが、俺と由佳、鈴香は無事和解することができた。
どうやら2人とも、俺がずっとそっぽ向くまで本気で俺が怒っていると気付いていなかったらしく、俺の様子がおかしいと察すると、少し2人で話し合い、すぐさま謝ってきてくれて、和解する流れとなった。
ーーー自分たちが悪いと思うや否や、すぐさま謝ってきてくれるあたり、やっぱり2人ともいい子だよな。
なんか上から目線みたいで嫌だなと思いつつも、改めてそう思いながら待っていると、顧問の石田先生と副顧問の山田先生が家庭科室に入ってきた。
石田先生は、俺たちが家庭科室にいるのを確認すると、「遅れてごめんなさい。それじゃ、始めていきましょうか」と口にした。
その声で俺たちもスイッチを切り替えて、学園祭、文化祭前最後の部活動が始まった。
◆◆◆◆
ーーー誰か疑問に思ったりしただろうか?
料理部の活動日は火曜、金曜、土曜の3日間で、学園祭が行われるのは来週の木曜と金曜だ。
ーーーあれ?今日は金曜日なんだから、明日と来週の火曜日、まだ2日活動する日が残っているから、最後じゃないんじゃないか?と。
そう、先程文化祭前最後の部活動と言ったが、正確には違う。火曜日と明日の土曜日にも、しっかりと活動があるのだ。
なのに、なぜ最後の部活動なんて表現を用いたかというと、今日が文化祭前最後の話し合いの場であるからだ。
明日の活動は、調味料を買うなどのちょっとした買い出しだけで、火曜日のそれは注文しておいた冷凍フランクフルトを受け取り、冷蔵庫に入れるだけだ。
それはつまり、今日が文化祭について意見を出し合える最後の部活動であるということなのだ。
ーーーしっかり、分かんないところがないか確認しておかないと。
「それじゃあ、これを1人1枚ずつ取ってって」
石田先生がそう言いながら、俺たちの座った机に資料と思われるものを3枚置いていく。
俺たちの手にそれが回ったことを確認すると、石田先生は口を開いた。
「それじゃあ、学園祭当日の日程について話していきたいと思います。まずは、1日目についてね」
そう言われて、俺たちは1日目について書かれている資料を確認する。
「体育祭では、料理部の活動はありませんので、各々自由に過ごしてください。でも、体育祭が終わった後にテント建てがあるので注意してください」
ーーーああ、テント建てるのか…。
俺は思わず、嫌な顔が少し漏れる。
というのも、テントを建てるというのは結構キツイのだ。
家庭用のキャンプで使うようなものならば、ある程度は楽であろう。
しかし、この場合のテントというのは、学校の備品のテントのことを指す。
あのテントは、いくつものパーツを組み合わせて作るのだ。6本足のテントの場合、各足に支える人と作業をする人が必要と考えると、その必要人数はなんと12人、結構な大作業となる。
ーーーって、あれ?人数大丈夫なのか?
今、俺が考えた最小人数であっても、12人必要なのに、料理部の人数は顧問副顧問部員合わせてわずか5人、とても足りるとは思えない。それとも、俺は6本足で考えたけど、4本足のテントを使うのだろうか?
どうしても不安になってしまったため、俺は思わず手を挙げた。
「あれ?西山さんどうしたの?」
「あの、テントを建てるのの人数って、足りるんでしょうか?」
ーーーあ、やば。学校にあんまりまともに通えてなかった設定で、テントを建てるのに必要な人数を知ってるのはおかしいか。
思わず「やらかした」と思うものの、周りからはそんな視線は来ることはなく、むしろ優しい眼差しで石田先生が口を開いた。
「ああ、大丈夫よ。うちのテントは保護者会の人たちと共同で使うの。だから、建てるのも一緒にやってくれるから、人数は問題ないわ。ごめんなさいね。説明入れ忘れてたわ。聞いてくれてありがとうね」
「いえ、わざわざすいません」
「2人も、何か気になることがあったらすぐに質問してね。分かんないまま当日を迎えるなんて、それこそ問題だもの」
石田先生はそう口にすると、説明を再開した。
「これで1日目の説明は全部です。それじゃあ、2日目の方に入っていくわね」
先生の声に従い、俺たちは配られた資料を裏返す。
「2日目なんだけど、開始時刻より前に食材や調理場の準備をしておきたいから、7時半から準備が開始できるように来てください」
「7時半かー…、起きれるかな…」
不安げに口にした鈴香のセリフに、思わず全員から笑い声が漏れる。
ーーー調理、特に大人数に振る舞う料理というのは大変だ。
いくら冷凍フランクフルトといっても、前日のうちに準備してそのまま外に出しっ放しなんていうことは出来ないので、食材の準備に関しては当日にやらないといけない。
そのために、間に出席確認など色々挟むので正確ではないが、9時半開始の2時間前、7時半という時間には学校に来ていないといけない。
作る数は決まっていて、かつ準備の工程が少ないフランクフルトですらこうなのだ、思わずご飯屋さんを営む人たちのことを考えると尊敬する。
「それで、当日のシフトなんだけれど、みんな11時半から3時間入って貰っていいかしら?」
「「「え?」」」
思わず、俺・鈴香・由佳から驚愕の声が漏れ、中でも由佳に関しては、間髪入れず石田先生に問いを投げかけた。
「先生、本当にそれでいいんですか?」
ーーー文化祭というのは、9時半から15時半までの6時間行われる。
その中で3時間と言われれば、普通の部活ならば「え!?半分も出なきゃいけないの!?」となるかもしれないが、うちの部活の場合は事情が違う。
ーーーなんせ、部員が3人しかいないのだ。
教師を含めても人数は僅かに5人、それなのに、その内の3人に半分もの時間好きにしてていいと言っているのだ。正直、驚くしかないだろう。
そんな中、石田先生はニコッと微笑みながら口を開いた。
「大丈夫よ。隣の保護者会の人たちにも、ピンチの時は手伝ってもらえるように頼んであるから。むしろ、覚悟してなさいよ。11時半からなんてお昼時だから、入ってすぐさま無茶苦茶忙しくなるわよ」
「え、でも…」
思わず俺も口を出すものの、先生は再度にっこりと、今度はどこか力強さも含んだ笑みを見せて口を開いた。
「大丈夫よ。みんな子供、ってこの表現はまずいかな?みんな生徒なんだから、教師にどんどん甘えなさい。
ーーー高1の文化祭は人生で一度きりしかないんだから、精一杯祭を楽しんで来なさい」
ーーーそこまで言われたら、異論を唱えるなんてことは出来ない。
俺たちはアイコンタクトをした後、「はい!」と返事をした。
その後も日程についてなど、確認は進んでいき、無事部活動は終わりの挨拶を迎えた。
「ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
由佳の号令に合わせ挨拶をし、そのまま帰ろうとしたところであることに気づいた。
ーーーやばい。服装について、まだ確認取ってなかった。
俺は慌てて「先生、すいません!」と声を上げる。
「西山さん?どうかしたの?」
「あの、当日の服装についてなのですが…」
「当日の服装がどうかしたの?」
「あの、うちのクラスお化け屋敷をするんですが、私、客寄せ係に任命されまして、客寄せの時の格好で来てもいいでしょうか?」
ーーー頼む!許してくれ!
俺は1日客寄せの格好をしていることを条件に、当日クラスの出し物の拘束時間を少なくして貰っているのだ。
許されないと、色々と面倒なことになる。
そんな俺の祈りが通じたのか、石田先生は「ああ、それなら全然いいわよ」と快く了承してくれた。
ーーーただし、「西山さんの可愛い姿、期待してるわね」と付け加えて。
…。
ーーーああ、なんか文化祭の日、益々休みたくなったな。
石田先生には何の悪気がないということは分かっているものの、それでもついついそう思ってしまった。
次回からやっと学園祭突入です。
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