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何を出す?

翌日の放課後、俺は家庭科室にいた。

ーーー理由は単純、部活動がこれからあるからだ。

そういう訳だから、この場には当然由佳と鈴香と顧問の石田先生もいる。あと、今回は前回というか今までは出席していなかった、副顧問の先生の山田愛(やまだあい)先生も教室内にいる。


「じゃあ、そろそろ始めていきましょうか」


パンパンと手を叩いて、石田先生が話を切り出した。


「今日の部活動は、来月に迫った学園祭について決めていこうと思います。

そのために、今日は山田先生にも来てもらいました」


石田先生の発言に合わせて、山田先生が頭を下げた。

それを見て思わず、「ああ、そうだったんだ」と口をぽかんと開ける。

ーーーん?あれ?

なぜか突然、進行がそこで止まった。

なんだろうと首を振って確認すると、みんなの視線が俺に向かって集まっていた。

どうやら、先程「ああ、そうだったんだ」と思ったときに、無意識に「へー」と声を出してしまっていたらしい。


「す、すいません!続けてください!」


慌てて立ち上がり、声を上げながら頭を下げる。

ーーーは、恥ずかしい。

座った後、思わず机に突っ伏してしまう。

ーーーもう、いい加減思ったことがそのまま口に出る癖直さないと。

そう思い直し、両手で両頬をパチパチと叩いた後、顔を上げる。

そんなことを挟みつつ、石田先生は話を再開した。


「学園祭、特に2日目の文化祭についてなんだけど、料理部は毎年売店を出しているの。

今年も、今までと同じように売店を出そうと思っているんだけれど、何か出したいものはある?」


そう言われて、思わず顎に手を当てて考える。

ーーー何がいいだろうか?

文化祭で出すんだから、ある程度短時間で出来て簡単に作れるものでしょ?屋台で作るものって言えば、たこ焼き、わたあめ、ポップコーンとかだよな…?

たこ焼きは短時間で出来るけど、綺麗な形に作るのが難しいから無理だし、わたあめとポップコーンは、そもそも作る機械がないとどうしようもないものだし、たとえ機械があったとしても、料理部(・・・)が出すものというには合わない気がする。

なんというか…、料理部なのに料理してるって感じがしない感じ?

そんな感じでなかなかいいアイディアは出てこない。

ーーー何かいいものあるかな?

そう思っていると、鈴香が「はい!」と勢いよく手を挙げた。


「あら、じゃあ弘山さん」

「唐揚げが良いと思います!」


ーーー唐揚げ。

それは老若男女に愛される食べ物の1つで、鶏肉やタコなんかを用いて作られることが多い。

唐揚げにも種類はあるが、鈴香が言っているのはタコなどではなく、一般的に『唐揚げ』として知られている鶏肉の唐揚げのことだろう。

下味をつけたものに片栗粉をまぶして、高温に暖めた油でカラッと揚げる。二度揚げなど、作り方に細かい違いはあれども、基本的にはこの作り方が一般的であろう。

(まあ、自分は二度揚げなんてめんどくさいからやったことないけど。)

唐揚げは、冷えても美味しく食べられる、お弁当にも起用されることの多い便利なおかずなので、屋台で出すにも、うっかり冷ましてしまっても美味しく食べられるという利点もある。

ーーーそれに、唐揚げならばコンビニなどでも似たような商品が売られているのをよく見るし、お祭りなどでもよく屋台を見かけ、生物(なまもの)でもないことから、客から見ても『これ外で売ってるけど、衛生的に大丈夫なのか?』と思われることもないだろう。

ーーーまさに、文化祭で出すには最適な料理の1つであろう。


それなのに、石田先生はそんな鈴香の意見を聞いて、苦笑いをしていた。

それどころか、鈴香の意見に対してNOサインを出した。


「ーーー鈴香さん、意見を出してくれたのはとても嬉しいのだけれど、それはちょっと厳しいかな?」

「どうしてですか?お祭りの屋台やコンビニなんかで、似たようなの売られているので可能だと思うんですけど」


自分も唐揚げという案に納得しかけていたために、思わず咄嗟に、強い口調で質問を石田先生に対してぶつけてしまう。

先生はそんな俺の態度に対して苦い顔1つせず、にこりと笑みを見せて出来ない訳を教えてくれた。


「うん。普通だったら、私も唐揚げでいいと思うの。

ーーー少し言いにくいけれど、弘山さんと西山さんは料理部に入ったばっかりで、それにあんまり料理が上手とは言えないわ。

そんな2人に油で揚げる必要のある唐揚げ、しかも文化祭なんていう、場合によっては急がないといけない環境でやらせるのは危険なんじゃないかと思ったの。

せっかく意見出してくれたのにごめんね?」


そう言い、石田先生は少し申し訳なさそうな笑みを見せた。


「いえ、なんかこちらこそすいません」


鈴香も、眉を下げながら少し笑みを見せた。

ーーー俺と鈴香の料理テクは、正直いって素人に毛が生えたレベル、いや、最早毛が生えてない普通の素人レベルだろう。

そんな人に危険な真似をさせたくないと思うのは、部活の顧問として、当然の判断であろう。

俺も、鈴香に続くように「すいません」と頭を下げた。

俺たちの謝罪を聞くと、石田先生は再度口を開く。


「全然いいわよ。こっちこそ、勝手にそう判断しちゃってごめんねーーーって、このままじゃ、このやり取りがずっと続いちゃいそうだからここで終わりにしましょう。

そういう訳だから、揚げ物以外で何かやりたいものはあるかしら?」


そう言われたことで、再度頭を回して考えてみる。

ーーー何がいいだろうか?

真剣に考えてみるとさっきとは違い、1つのものが頭に浮かんだ。

ーーーでも、あれって本当にそうなのかな?

思いつきはしたものの、本当にそうなのかという不安が頭をよぎって、言い出さずに自分の中であれだとどうだろう?これだとどうだろう?と、さっきのたこ焼きなんかのように、自分の意見の欠点を探してしまう。


「あら?西山さん、何か思いついたんですか?」


そうしているのが、無意識のうちに外に出ていたのか、石田先生に指名された。

ーーーえ、あっ、うっ。

躊躇するも、当てられてしまったものは仕方ないので意を決して椅子を引き立ち、口を開く。


「ふ、フランクフルトがいいと思います」

「フランク?」「フルト?」

「あんまり料理部としては褒められたことじゃないかもですけど、フランクフルトは業務用スーパーだったら、解凍したらすぐ食べられる冷凍食品?もあると思いますし、あらかじめ茹でておいて提供するときに茹でたものを焼くようにすれば、衛生的にも安全だと思いますし…」


そう言って見たものの、後半に行くにつれだんだんと自信がなくなっていき、思わず小声になってしまう。

ーーーああ、やっぱりダメだよな。

そう思ったところで、予想外の言葉が飛んできた。


「いいと思うわ、フランクフルト」

「え?」


反射的に声が聞こえた方を向くと、それは由佳の発言だった。


「フランクフルトっていったら屋台じゃ定番だから人も集まるだろうし、何より提供時間を短くできて衛生面もなんとかなりそうな算段がついているのはありがたいわよ」


その言葉に続くように、石田先生も口を開く。


「そうね。色々問題もあるかもしれないけれども、何より衛生面が大丈夫というのはいいと思うわ。

それじゃあ、料理部が文化祭で出すものはフランクフルトということで進めていきたいのだけれど、大丈夫ですか?」

「はーい、大丈夫です。」


石田先生の問いかけに鈴香が声を張り上げて返事をすると、それに続くように由佳、山田先生も頷く。

そんなこんなで、俺たち料理部はフランクフルトを文化祭で出すことに決まった。

ーーー自分の意見が採用されて、嬉しく思いつつもどこか恥ずかしい、なんとも言えない気分だった。

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