やること
新章開幕です。
時間は過ぎていき、7時間目を迎えた。
今までの授業とは違い、クラスメイト達がどこかだらしがないというか、先生が入ってきてもペチャクチャとしゃべっている声が教室に響いている。
そんな中、授業開始のチャイムが鳴った。
「はい。じゃあ、始めていきたいと思います。級長、号令を」
「起立、気をつけ、お願いします」
「「「お願いします」」」
さっきまでの雰囲気は何処へやら、号令に従って揃った動作、揃った声で礼と挨拶をする。
ーーーと、思っていた矢先、またざわざわと喋る声が聞こえてきた。
そんな状況に、金子先生は当然注意するーーーと思いきや、そんな様子は見られなかった。
「それじゃあ、今日は学園祭について決めていきたいと思います。それじゃあ、級長の2人よろしくね」
それだけを言うと、金子先生は教卓から教室の1番後ろへと、途中で椅子を持ちながら移動した。
それと同時に、由佳と男子級長が席を立ち、黒板の方へと向かった。
「よし!じゃあ、学園祭の2日目、文化祭で俺たちのクラスが出す出し物に話したいと思う!」
黒板に、教卓に到着するとすぐに男子級長、田中くんはそう口にして、その後に由佳へ視線を送る。
その視線を確認して、由佳は右手に持ったチョークを動かし黒板に文字を書く。
ーーーどうやら、進行を田中くんが務めて、由佳は書記に徹するようだ。
それを見て、田中くんは教卓を叩きながら口を開く。
「俺たちがやるのはそう、『お化け屋敷』だ!」
ーーー学園祭は2日制だ。
11月末に木曜と金曜の2日間を使って木曜日に体育祭、金曜日に文化祭が行われる。
また、文化祭では部活動を除くと3年生のクラスだけが火気を使うことが出来、また食品を提供することができる。
ーーーそういう訳もあって、思わず田中くんのセリフに驚く。
お化け屋敷なんていうのは、劇と出店と並んで漫画や小説などにも多用される文化祭の定番だ。
しかし、定番があるが故にお化け屋敷や劇といったものは被りやすく、希望してもできないというケースが多くある。
さらに、うちの学校の文化祭の制度の都合上、食品を扱う出店は3年生がやるので、劇とお化け屋敷は非常に倍率が高くなるはずだ。
『それなのに出来るんだ』と、ほげーと口を開けていると、俺の思考を読んだように田中くんが口を開く。
「知っての通り、1年からお化け屋敷を希望するクラスが3つ出たため先日抽選を行ったのだが、うちのクラスは無事、当たりを引くことが出来、お化け屋敷をできることになった」
ーーーおお、有難い。
机の下で手をこすり、「説明してくれてありがとー」と田中くんに感謝を伝えていると、田中くんの雰囲気が大声で全員のやる気を煽るようなものから、深刻なものへと変わった。
「ーーーしかし、これは逆に言えば、やりたくてもやれなかったクラスのためにも、必ず良いものにしなければいけない、責任重大ということでもある。
みんな、頑張っていこう!」
そう言うと、周りから「おう!」「うん!」と返事が返って来た。
ーーー良いクラスだな。
過去の経験だと、こんな状況になった時に自分も賛成していたのに、「えー、そんなんだったらやりたくないよ!何でそんなの言い出したの!?」とか言い出す輩が何人かいるものだが、このクラスはそんな人は1人もいなかった。
改めて、頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
「よし、じゃあ複数のチームに分けていこう!」
田中くんがそう言うことで、本格的に話し合いがスタートした。
◆◆◆◆
「それで、お前は何役になったんだ?」
誠也と一緒に帰りながら、会話をする。
本来なら、木曜日は誠也が部活があるために一緒に帰ることはできないのだが、今日は誠也の部活が休みだったため、一緒に帰ることができる。
「おばけ、幽霊だよ。なんか、銀髪だとライトに映えるし、銀髪の幽霊の漫画が人気あるらしくて、それにあやかってだって」
ーーー実は俺、おばけ役になっちゃいました。
最初は誠也と同じ設備を作る方の班に回ろうと思っていたのだが、クラスメイトから熱烈な勧誘をされ、由佳と鈴香からの後押しもあって、おばけ役を受けてしまったのだ。
「あれ?お前、料理部に入ったんだろ?
確か、料理部って人数すごく少ないってお前言ってたよな?
だったら、そんな当日に時間取られるのだとまずいんじゃないのか?」
そう、誠也の言う通りなのだ。
料理部は部員たった3人の部活だ。
料理部は文化部にカテゴライズされる部活なので、文化祭では出し物を出さなければならない。
3人で回すなんていうのは厳しいので(顧問も含めればもう少しいるけど)、出来るだけ部活の方に顔を出しておきたい。
そんな理由で、俺は設備を作る準備班の方になろうと思っていたのだ。
ーーーちなみに、誠也が準備班を希望したのは、誠也の部活が写真部で、学園祭中は撮影班として学校の公式サイトに載せる写真を撮らなければならないからだ。
今日、誠也の部活が休みなのは、そういう訳で今後忙しくなるため、その前に休みを設けた、という理由だ。
「そこは大丈夫。反対する時にそのことを口にしたら、『じゃあ、宣伝班ってことにしてクラスの出し物に出る時間は短くしてもいいからやらない?文化祭の日、1日おばけの格好しててくれたら、十分宣伝になるから!』って言われたから、おばけの格好をするだけで、クラスの出し物に拘束されるわけじゃないからな」
ちなみに、由佳と鈴香が後押ししたのは、『宣伝班でいいから』と呼ばれた後だ。
「へー、じゃあお前の写真撮っておかないとな」
「え、何でだよ!恥ずかしいからやめてくれよ」
「だって、つまりお前は1人だけコスプレしてる訳だろ?
だったら結構目立つから、俺に撮られなくても 別の部員に撮られるぞ?
だったら、俺が撮った方がいいだろ?」
ーーーうぐ。
事実なのかもしれないが、コスプレという身近で使われることはなかった表現に、思わず身体に拒否反応が走る。
少し深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
ーーーでも、確かにそうかもしれない。
他の人、誠也以外の写真部の人に写真を撮られた場合、どうなるだろうか?
俺の今の姿は、本来の俺のものとは違うものだ。
それでも、他人に自分の写真が撮られて管理されているかもしれないというのはいやだ。
そう思い、改めてしばらく黙って考えた後、コクリと頷き誠也に対して肯定を示す。
それを見て、誠也の口元が緩んだ。
ーーーコイツ、ニヤニヤしやがって…。
「そ、そういうお前こそ、カメラを向けられる立場なんじゃないか?
うちのクラスが誇る、クラス対抗リレーのアンカーさん?」
ーーー今度は俺が誠也をいじってやると思い、口を開く。
そう、実はさっきの時間、文化祭の準備の班を決めるだけでなく、体育祭の種目決めなんかも行われていた。
そこで俺は由佳と鈴香と一緒に三人四脚を、誠也はクラス対抗リレーのアンカーと借り物競争のパン食い競争のところに出ることになったのだ。
そんな俺の口にした言葉に、誠也は苦笑いをした。
「ーーー本当に嫌だよ、アンカー。
俺、運動部じゃなくなってから1年くらい経つんだぜ?そんな奴をアンカーになんかするんじゃねぇよ」
心底嫌そうな態度に、思わず俺にも苦笑いが移る。
思わず、切り出したのは俺なのに誠也をドンマイと慰め合いながら、俺たちは歩みを進めた。
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