表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/72

実習

場面転換無茶苦茶多いです。

朝早起きして走ってヘトヘトになってから学校に行き、かつ筋肉痛で一日中苦しむ、なんていうことを繰り返していく内に時間は過ぎていき、週末を、土曜日を迎えた。

土曜日、ということで今日は料理部での初めての実習、ケーキ作りがある。

実習ってことは、材料はどうしたのかっていう疑問が出てくると思うが、ケーキの材料については昨日の部活動で高校の近所のスーパーで購入をしたので、今日は実習をするだけで大丈夫だ。

そんなことを考えていると、ふと、昨日の買い出しについて思い返してしまう。

ーーーああ、予想外の展開続きで大変だったなぁ…。

昨日の買い出しでは、2人の予想外の行動に、俺はおばけ屋敷に行ったりしていたわけでもないのに、驚き疲れてしまったのだ。

鈴香が牛乳と紙カップに入ったカルピスを間違えて持ってきたり、「作り終わった時に飲む用!」と豪語して部費でグレープ炭酸ジュースを買おうとしたり、お母さんと買い物に来た小学生のように、こっそり買い物カゴの中にお菓子を入れてきたり…。

ーーーあれ?2人の予想外の行動って言ったけど、全部鈴香の行動じゃないか?

「由佳、ごめん」と、まだ今日会ってもない由佳に謝りながら、俺は実習の準備を進めた。


◆◆◆◆


「それじゃ、行ってくるね」

「え?お兄ちゃん、制服で行くの?」


家を出ようとすると、お昼になってようやく目をこすりながら起きてきた亜希の姿を捉えたので、「行ってくる」と挨拶をして出て行こうとすると、亜希に止められた。

ーーーもう亜希のやつ、忘れたのかよ…。

思わず、呆れてしまうーーー亜希だけに。


「うちの高校、制服以外での登下校、たとえそれが部活であっても禁止だぞ?

だから俺、男だった時部活に行く時も、わざわざ制服着てただろ?」

「あー…、そういえばそうだったね」


俺の言葉に、亜希は「そんなこと、カケラも覚えてなかった」と言わんばかりに苦笑いを浮かべ、頰をポリポリとかきながら返す。

そんなやり取りを経て、再度「じゃあ、行ってくるな」と口にして家を出て、学校へと足を運んだ。


◆◆◆◆


無事学校に着き、足を止めることなくそのまま家庭科室へと足を向け、家庭科室の扉を開いた。


「あ、なっちゃん」

「西山さん、こんにちは」


教室の中には、すでに由佳と石田先生がいた。

こちらも「こんにちは」と返して、由佳の隣に腰をかける。

ーーーって、あれ?


「あれ、鈴香は?

私、結構ギリギリだったと思うんだけど…」


そう言いながら、スマホのホームボタンを押すと、12時55分という時刻を確認することができた。

ーーーうん、やっぱりギリギリだ。

部活の開始時刻は13時の予定だったので、俺が到着したのは部活が始まる5分前だったということになる。

そう思い、再度由佳の方を向くと、由佳は「あーー…」と、よく分からない声を出した後、言葉を紡ぎ始めた。


「鈴香のやつ、まだ来てないのよ。

ーーーもう、あいつ、今日部活あるってこと、忘れてないでしょうね!?」

「あー…、なるほど」


ーーー普通に遅刻だった。

普通の部活ーー中学時代、俺が所属していた柔道部もそうだったーーだったら、遅刻者は置いておいて活動を始めると思うけど、今回は、料理部の所属部員がたった3人だけだったということもあり、鈴香が来るまで待つことになった。

そして5分後、鈴香が姿を現した。


「はぁ、はぁ、すいません!遅れました!」


そう声を上げながら、入ってくる鈴香。

そんな鈴香を、石田先生は笑顔で迎えた。


「良いわよ、良いわよ。

それじゃあ、始めて行きましょう」


石田先生の笑顔は、慌てて取り繕ったものには見えず、心の底から溢れたようなものだった。

ーーー先生も、部員が減っちゃったのは辛かったのかな?

そう思えると、石田先生がもともとかわいいおばあちゃんという印象だったが、更に可愛く感じられてしまう。

そんなことを挟みながら、調理実習はスタートした。


◆◆◆◆


ケーキの作り方というのは、基本的には混ぜて、焼く、この2行程だ。

卵をクリーム状になるまで混ぜ、そこに砂糖と溶かしたバターを加えて再度混ぜ、そこにふるいにかけた小麦粉を加えてヘラなどを使ってゆっくり混ぜて、そこで生地が完成。

その生地を型に入れ、あらかじめ170〜180度に温めたオーブンで1時間と少し焼くと、完成。

ーーーこれがケーキの基本、スポンジケーキの作り方だ。

ケーキ屋さんみたいなプロが作っているところなら、多少作り違うのかもしれないが、あくまでも基本はこんな感じだ。

それを踏まえた上で、今回、料理部で作るのはショートケーキだ。

ショートケーキはまず、スポンジケーキをつくって、そこからイチゴや生クリームでデコレーションをして作る。

ショートケーキを作ると、そう聞いた時、俺は思わずガッツポーズをした。

ーーーデコレーションに使うイチゴぐらいなら、そこまで必要はない。だったら、俺が包丁を使うことはないだろう。

ーーーそう思っていたのだが…。


「今回が初めての実習なので、実力を見るためにも、包丁を使う作業は鈴香さん、奈津希さんの2人にやって貰いましょう」


ーーー石田先生から、予想外の言葉が飛んできた。

いや、何の反論のしようもないくらい、まともなセリフなんだけど、俺の胸には痛く、痛く刺さった。

ーーーいや、だから俺、包丁使うの苦手なんだって…。

思わずそう言いかけるものの、『せっかく普通入らないような料理部なんて部活に入ったんだ。

ここで練習しておけば、将来1人暮らしをした時なんかに役に立つかもしれない』と自分に言い聞かせ、言葉を飲み込む。

そうして俺は、包丁を手に持った。


◆◆◆◆


ーーーイチゴってどうやって持つんだ?

頑張るぞと意気込んですぐ、俺は壁にぶつかった。

包丁の使い方として、初心者には『持つ手は猫の手』というのがよく言われる。

当然、初心者の俺は、素直にそれを実践しようと思ったわけだが…。

ーーーイチゴ、ちっちゃいから猫の手だと持ちにくいぞ?どうやって持てば良いんだ?

そこで、思考が停止してしまう。

猫の手で持とうとすれば上手く持てず、普通に持てば危険。

しょうがないから、普通に持って切ろうとすると、石田先生から注意が入った。


「ダメよ?そんな風に持っちゃ。

イチゴとか、小さいものはこんな風に持てば良いからね?」


ーーー俺、アホだろ。

普通に、自分で悩んでるなら、先生に聞けば早かったじゃないか。

そう思いつつ、俺は言われたことを実行した。


◆◆◆◆


「「出来た!!」」


俺と鈴香が、感極まって声を漏らしてしまう。

時間がかかること2時間半、ようやくケーキが完成した。

ーーー正直、綺麗かと言われたら『うん』とは頷けないだろう。

でも、みんなで協力して作った、出来たということが、たまらなく嬉しい。


「それじゃあ、食べていきましょうか」


石田先生の声で、生徒の中で1番慣れている由佳がケーキを切り分け、俺たちそれぞれの前に切り分けられたものが出される。

ーーーおお、なんか感動だ。

家でケーキを焼くときは、めんどくさいし余分なお金がかかるので、トッピングをしたりはしない。

なので、自分でトッピングまで済ませたケーキが目の前にあるとなると、どこか感動ものだ。


「それじゃあ、いただきます」

「「「いただきます」」」


先生の声の後に続いて、俺・由佳・鈴香が声を上げる。

フォークを手に取り、先端の方を切り、それにフォークを刺して口に運ぶ。

ーーー美味しい。

凄い、凄い美味しい。

自分で作ったという達成感も相まってか、そのケーキはとても美味しく、すぐに平らげてしまった。


「どう?美味しかった?」

「「はい!」」


石田先生の言葉に、俺と由佳は同時に声を上げた。



その後、実習レポートを記入して、俺は料理部としての初めての実習を終えた。

その実習は、初めてということで紆余曲折あったが、とても楽しいものになった。

評価感想ブックマーク頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ