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料理部

体育を終え、その後もなんやかんやありながら時間は過ぎていき、全ての授業を終えて放課後に突入した。

とりあえず、荷物を纏めるだけ纏めてリュックを背負い、由佳の前へと歩みを進めた。


「準備、出来ました。」

「うん。じゃあ、行こっか。」


その声を聴くと、鈴香が慌ててリュックを背負って、「おいてかないでよ。」と駆け寄って来る。


「置いてくつもりなんかなかったわよ。」

「えー、本当に?私の目には、私のことなんか一切気にせず、私を置いて、今にも教室を出て行こうとしたところに見えたんだけど。」

「そんなつもりはなかったわよ?

ーー由佳の反応があまりに遅いから、由佳のことなんか素で忘れて、出て行っちゃおうとは思ったけど。」

「ちょ、それって私を置いてこうとしたのと大差ないじゃん!」


2人の、何の遠慮もないやり取りに、少し場違い感を感じる。

ーーー俺と誠也がしゃべってるときも、似たような雰囲気になってんのかな?

少し逸れたことを考えつつ待っていると、由佳が「あっ。」と声を出し、こちらに謝罪して来る。


「ごめんね。勝手に2人で盛り上がっちゃって…。」

「全然、大丈夫ですよ。」

「でも…。」

「私もこれから、2人の中に入っていけるような関係になれるように頑張りますね。」


そう言うと、2人は目を見合わせた後、「私たちも、なっちゃんともっと仲良くなれるように頑張るね。」と揃って口にした。

その後、俺たちは教室を後にして、家庭科室へと向かった。


◆◆◆◆


「それで、こっちが西棟ね。

ーーって、なっちゃん、まだ教室以外で授業やってないから場所わかんないよね。」

「あはは。そうですね、頑張って覚えます。」


思わず笑い声が、乾いたものになってしまう。

ーーーごめんなさい。実は知ってるんです。

そう思うものの、そんな風に口には出せないため、あははと乾いた笑いを続ける。


「西棟2階の1番南のこの部屋が、家庭科室よ。

料理部の活動は基本的にこの部屋で行うから、放課後はここに来てね。」

「「はーい。」」


今度は俺だけでなく、鈴香も一緒に返事をする。

由佳はそれを笑いながら受け取りーーー


「じゃあ、入ろっか。」


ーーーそう言い、由佳は家庭科室の扉を横にスライドさせた。

すると、由佳の開いた扉の向こう側に、1人の女性が立っていた。




ーーー石田真紀(いしだまき)先生。

うちの学校ただ1人の家庭科の先生にして、俺がこれから所属する料理部の顧問の先生。

年齢は50代に突入しているらしく、年齢に応じて最近、白髪が増えてきていたり、顔にシワも出てきたりしていると噂の、優しい笑みをよく浮かべる可愛らしいおばあちゃん、という比喩にピッタリ合うような可愛らしい先生だ。

そんな先生が俺たちに向けて口を開いた。


「ああ、中野さん、弘山さん、それに西山さん、いらっしゃい。

今日から、改めてよろしくね。」


その言葉に由佳が慣れたようにすぐ「よろしくお願いします。」と返し、由佳にワンテンポ送れるように、俺と鈴香も「よろしくお願いします。」と言う。

すると、石田先生はニコリと笑って、「じゃあ、あの辺りにでも座って。」と言い、1つの机を指差し、俺たちを教室内の席へと誘導した。


◆◆◆◆


席に着くと、再度石田先生が口を開いた。


「じゃあ改めて、料理部顧問を務めています石田真紀です。これからよろしくね。」


それに対して、再度俺と鈴香が「よろしくお願いします。」と返すと、うんうんと頷き、再度口を開いた。


「じゃあ、料理部について説明していくわね。

料理部は、基本的に週3回、火曜日金曜日土曜日の3日を活動日としています。

火曜日に何を作るかやることを決めて、金曜日に必要食材の買い出しをして、土曜日に実習という形を取っています。」

「なるほど。」「へー。」

「なので、今日は火曜日なので何を作るか決めるんだけど、今回は私から提案させて貰ってもいい?」


そうやって、首を少し傾けながら聞いてくる石田先生。

その姿はまさしく、優しいおばあちゃんといったようだ。

ーーーあ、50代の人におばあちゃんを頭の中だとはいえ、連呼するなんて失礼だろ、と思うかもしれないが、これはあくまでも俺のイメージ像なのだ。

うちの母方の祖父母は、21という若さで結婚して、2人が22の時に母さんが生まれた。

母さんも24の時に俺を産んだので、俺にとっておじいちゃん、おばあちゃんというのは、50代の、まだ定年退職もしておらずバリバリ働いているイメージが強い。

なのでつい、50代ぐらいの人に対して、おじいちゃん、おばあちゃんといった表現を使ってしまう。

そんなことを考えていると、由佳と鈴香の2人が「はい。」と返事をした。

ーーって、やべ。思考が逸れて、反応が遅れた。

2人に一瞬遅れて、俺も「はい。」と返事をする。

すると、石田先生は安心したと言わんばかりにニコッと笑って、その後、再度言葉を紡ぎ始めた。


「今週の土曜日の実習なんですが、今回は新入部員歓迎の意を込めて、ケーキを作りたいと思います。」


ーーーおお、ケーキ。

俺たち3人から思わず「おお。」と声が漏れた。

2人については分からないが、俺はケーキ作りには多少の自信があるのだ。

というのも、中学時代に俺は、テスト期間が始まるといの一番に勉強ではなく、スポンジケーキを作っていたからだ。

スポンジケーキは基本的に工程は混ぜる、型に入れる、焼くの3工程ぐらいしかないし、料理本に載っているそれぞれの材料の量を間違えなければ、基本的に失敗しない。

そして何より、食材を切るという工程が存在しないのだ。

ーーー俺は包丁を使うのが苦手だ。

というか、あんなの毎日料理したりする人しか使い慣れていないんじゃないか?とすら思う。

別に一切切れないわけじゃないが、肉を切ろうとしたり、玉ねぎをみじん切りにしようとしてもどこかうまくいかないのだ。

まあ、今回作るのはケーキなんだから関係ないか。

そんな風にテスト期間に、毎日ケーキをホールで作っては俺1人、もしくは亜希と2人で1日のうちに消化しきるということを繰り返していた。

だから、俺はケーキ作りならそう簡単には負けないぞ。


「あれ?西山さん、ケーキ作りは得意?」


表情に考えが漏れていたのか、石田先生が聞いてくる。

ーーーやばいな。この癖、直さないとな。

そう思いつつ、返事をしようと口を開く。


「はい。スポンジケーキなら家で何度か作ったことがあります。」

「え、そうなの。それは心強いわね。」

「それに、ケーキ作りには食材を切る工程がありませんし。」


石田先生の放つ、おばあちゃんのような話しやすいオーラに、ついつい余計な、理由までも話してしまう。

そう言った瞬間、教室から、正確に言えば教室内の全員から、笑い声が漏れた。


どうやら、食材を切る工程がないから得意と言ったことを、「私はこれが出来ません。」と宣言したように受け取ったようだった。


「なっちゃん、食材切るのは確かに初心者の壁だけど、今宣言する流れじゃなかったでしょw」


そう言って、鈴香が笑う。

ウケるつもりがなくウケたことが、自分自身を笑われてるみたいで、なんか少し癪だ。

でも、切るのが苦手なんてことはいつかはバレるものだから、早いか遅いかの問題か。

そう何とか自分で問題に整理をつけた。


「はいはい。じゃあ、どんなケーキを作るか決めていきましょう。」


いち早く笑いから抜け出した石田先生が手を叩きながらそう言い、話し合いが始まった。



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