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体育1

色々あった初日は終わり、女の子としての学校生活2日目を迎えた。

俺は、化粧台の前で前日よりも悪戦苦闘していた。


「むー、なかなか決まらない…。」


あまりに出来ないがために、思わず独り言が出て来てしまう。


「お兄ちゃん、どうしたの?

…って、あー。そんなに髪の毛ぐちゃぐちゃにしちゃってー。」


そう言うと、亜希は俺の背後へと回り込み、俺の髪をぐちゃぐちゃに纏めていたヘアゴムを外して、その上で俺の髪に櫛をかける。


「いや、今日体育があるから、纏めとかないと鬱陶しいかなって思ってさ。」

「あー、今日体育なのかー。」


そう言いながら、亜希は俺の髪を弄る。


「ーーーおい、亜希。」

「何、お兄ちゃん?」

「お前、ふざけ過ぎだぞ。

何で体育で鬱陶しいから纏めたいって言っただけなのに、何で編み込みみたいなことし始めてるんだよ。」

「えー、結果的に纏まって鬱陶しくなくなるんだからいいじゃんか。」

「ーーーああ、もう分かったよ。

でも、最初の目的は忘れんなよ。

体育なのにふんわり纏められて、崩れたりしたら、俺自分で纏め直せないんだからな?」

「分かってるって。」


そんなやり取りをしながら5分が経った。


「よし、出来た!」


亜希が声を上げた後、背中の方を鏡に向けたりしながらどんな髪型になったのか確認する。

ーーーって、おい。


「やってもいいって言ったは言ったけど、だからってこれは気合入れすぎだろ…。」


今の俺の髪型は、いわゆるお団子だ。

と言っても、もちろんただのお団子ではない。

少し緩めに纏めることで、オシャレという表現が正しいのか、テレビや雑誌に出てくるような女の子のような髪型になっている。

ーーーって、おい。


「こんな緩く纏めただけじゃ、運動したら解けちゃうんじゃないか?」

「あっ。」


後から聞くと、俺ほど長い髪をアレンジしたことがなかったらしく、興が乗ってしまったらしい。

本当に無意識にやらかしてしまったようで、俺は亜希を責めることは出来なかった。


◆◆◆◆


「んじゃ、行ってきまーす。」

「お姉ちゃん、行ってらっしゃーい。」


今日は昨日とは逆に俺の方が先に家を出て行き、数m先にある公園へと向かう。

すると、既に1つの人影が公園の中にあった。


「おはよう、誠也。待たせてごめんね?」

「いや、5分も待ってないから全然大丈夫だ。」


ーーー公園にいたのは誠也だ。

昨日は俺の準備が遅れたために、誠也が俺の家に来るなんてことになっていたが、本来俺たちが登校する際の待ち合わせ場所はこの公園と決めていたのだ。

というか、これってつまり、俺は誠也のやつを2日連続で待たせてしまってるってことじゃないか。

明日こそは俺の方が先に来て、誠也を待たせないようにしないと。

ーーーって、あれ?


「誠也、どうかしたか?

なんか変な所でもあるか?」


誠也のやつがこちらをジロジロと、普段よりも見てきたのだ。

思わず聞き返すと、誠也は視線に気づかれていたことに動揺しつつも、返事をしてくれる。


「いや、髪型がポニーテールなんだなって。

今までお前の髪型、結ばずまっすぐ下ろしたやつ、ストレートヘアだっけか?しか見たことなかったから驚いてさ。」

「まあ、今日は体育があるからな。

下ろしたまんまだと鬱陶しいし、かといってまだ自分ではうまく纏められないから、家からやってくことにしたんだ。」

「なるほど。」

「ついでに言うと、この髪型は『ポニーテール』じゃないぞ?」

「え?」


思わず誠也が声を上げる。

ーーーまあ、俺も女になるなんてことなく、同じ質問をされていたら、そんな反応示していただろうな。


「これは『1つ結び』なんだよ。」

「1つ結びって…、ポニーテールと何が違うんだ?」

「ふふふ、ポニーテールは大体頭の半分から上で1つに纏めた髪型を言って、1つ結びは半分より下で1つに纏めたもののことを言うんだ。」

「へー。」


自慢気に、最近知ったばかりの知識を披露する。

すると、誠也から予想外の問いが返ってきた。


「ならさ、丁度半分の所で1つに纏めたら、どうなるんだ?」

「え?」


ーーーそれ、どうなるの?

比較的上だからポニー?それとも1つ結び?

どっちだ?どっちだ?という疑問が頭の中で延々と繰り返す。


「わ、分かんないです。」


そう俺が言うと、誠也はどこか満足気だ。

まるで、『必死に背伸びしようとするからだよ。』とでも言いたげだ。


「全く、必死に女の子らしくなろうと背伸びし過ぎだよ。」


あ、言いたげじゃなくて普通に言いやがった。


そんなこんなありながら、俺たちは学校へと足を進めた。


◆◆◆◆


「そういえば、今体育って何をやってるんですか?」


人通りの多い道に出た所で、喋り方を直しつつ、誠也に話しかける。

誠也は、俺の喋り方の変化に苦笑いをした。

ーーーしょうがないだろ、まだ練習し始めて1ヶ月くらいなんだから、慣れてないんだよ。

そんなことをしつつも、誠也はきっちり返事をしてくれた。


「えーと、今は確か…長距離走だな。」

「へー長距離走かー、って長距離走!?」


思わず演技も忘れて声を上げる。

長距離走ーーー長距離といっても、陸上部が走る10000mとか、フルマラソンの42.195kmのような距離ではなく、陸上では中距離に当たるであろう1500m走の事を指している。

まさかの競技に、慌ててなんとか取り繕いつつも、声を張り聞き返す。


「何で!?長距離なんて体力テストの時に測ったばっかじゃないか!」


近くに知り合いがいたら、『あれ?西山さん5月の体力テストの時、まだ学校に編入してなかったよね?何で知ってるの?』と聞かれてしまいそうな事を、普通に口に出す。

ーーーしょうがないだろ。びっくりして、反射的に出ちゃったんだから。

そんな俺の様子に、誠也はまたまた苦笑いを披露した。


「今回のは来年の体力テスト用だとよ。

今のうちに測っておいて、その記録を体力テストの時に記入するらしい。」

「えー…。」


思わず心の底から不満の声が漏れる。

憂鬱な気分になった所で、俺たちは学校へと到着した。


◆◆◆◆


時は進んで、1時間目の終わり頃になった。

つまりは、まもなく2時間目の体育が始まるということを意味している。

教卓に立っている現代文の先生と時計を交互に見ては、『え、もうあと5分?』などと思い、さらに憂鬱になる。


ーーーというのも、俺は男の時からずっと、長距離走が大っ嫌いなのだ。

長距離走をすると、あの辛かった柔道の大会前の減量期間が思い出されるからだ。

柔道の階級は人には寄るが、あまり頻繁に変えるということはないだろう。

中学、つまりは成長期ということもあり、身長はどんどん伸びていき、また、身体も出来上がっていき、どんどんと筋肉もついて行く。

そんな中、体重を階級の所でキープするのは、はっきりいって地獄だった。

一度、柔道の大会の会場に、少し早めに来てもらえると、その様子を伺えるだろう。


話は逸れたが、ともかく俺は長距離走が大っ嫌いなのだ。

そんな思考をしていると、授業終わりのチャイムが鳴り、挨拶をして、1時間目が終わった。


…。

ーーーああ、やりたくない。

そんな思考ばかり出てきてしまうが、授業と授業の間の時間は僅か10分、そろそろ準備をしなければならない。

諦めて俺は席を立ち、カバンの中から学校指定のジャージの上着を取り出し、ブレザーを脱ぎ、リボンを外し、ブラウスのボタンを外していく。

ーーーえ?女子トイレとかで着替えないのかって?

今は10月、もう少しで冬になるくらいだから、体操服の上をわざわざ着なくても、Tシャツの上にジャージを羽織るだけで十分なのだ。

そうやって着替えていると、どこか視線を感じ、横目で確認する。

ーーーあ、男子生徒だ。

着替えを見られるというのは嫌だが、正直、彼らの気持ちは分かる。

ーーー身近な女子の身体のラインが出るのって、なんかドキドキして、ついつい見ちゃうよね。

共感こそするものの、自分が見られる立場に回れば気分は変わり、嫌な気分になるだろう。

ーーーって、翔平、何でお前まで見てんだよ。


友人の行動に呆れつつも着替えを続ける。

スカートに手を掛けた瞬間、「おおっ。」と男子の声が聞こえた。

ーーーおい、流石に声まで上げるのはどうかと思うぞ?

スカートを下ろした瞬間、歓声が消え、場が沈黙する。

その理由は明白。

ーーー俺が、スカートの中に体操服のズボンを履いていたからだろう。

こいつら馬鹿だろ?

俺でも流石に、男であった時はともかく、女である今は、異性の目がある中で下着姿を見せたりしないぞ?


そんなことを思いながら、教室を出て由佳と鈴香と合流し、開口1番、人生で出てくるとは思わなかった言葉を吐く。


「本当、男子って馬鹿だよね!」


俺の言葉に、2人は苦笑いをした。

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