初日2
通算20万PV突破しました。ありがとうございます。
あと、今回は少し長めです。
その後、しばらくして学校に着いた。
ーーーなぜ、このような時間が過ぎ去った言い方をしているかというと、あまりに耐えがたい時間だったためだ。
銀髪で整った容姿をしている俺。
そんな目立つ容姿をしていて、なおかつ高校の制服を着ているのだ。
ーーー誰あの子?あんな銀髪の子ってうちの高校にいたっけ?
そんな風に、大量の視線が俺たちを捉えるのは当然のことだろう。
ーーーだがしかし、当然だと分かっていても、その視線に耐えられるかどうかといえば、それは耐えられないに決まっている。
視線が辛い。ただただ辛い。
そんな登校時間10分ほどを過ごして、俺たちの精神は心の底から疲れ切っていた。
心底疲れ切ってるが、そんな様子を見せてしまっては余計に目立つので、精一杯普段通りに振る舞っている。
「お前は職員室だろ?そこまで送るか?」
「いや、流石にそこまでしなくて…。
ーー大丈夫だよ。職員室って、職員玄関から入ってすぐのところでしょ?
それなら流石に大丈夫だよ。」
ーーーあっぶねぇぇ!!思わず、素で返しちゃうところだった!!
誠也のやつは、とっとと別れれば多少は視線の数も減るだろうと配慮してくれて、そう言ってくれたのだろう(もしかしたら、目立つ俺と別れれば、自分は目立たなくなるという計画の元、やってるのかもしれないが)。
しっかりと俺を、編入生の西山奈津希として、学校の中を知らないという設定で扱ってくれていたのに、当の俺が素で対応してしまいそうになった。
そんなことを挟みながらも、俺たちはなんとか別れて、俺は職員室の前へと辿り着いた。
俺は職員室の扉の前へと行きーーー通り過ぎた。
ーー職員室って、何でこう入るの緊張するかな?
生徒が入りやすいように、もっと馴染みやすくするべきだろうと思うけど、まあそんな思考は今は関係ない。
俺は扉の前に戻り、「失礼します。」と言いながら扉を横に開いた。
その瞬間、先生方からの視線が突き刺さる。
ーーーうわぁ…。なんかヒソヒソ声がすごい聞こえてくる。
辛い。ただただひたすら辛い。
先生方には悪気はないのはわかる。生徒と思わしき人物が、銀髪で職員室に入ってきた。
そんな状況になれば、ついつい隣の先生に「ねぇ、あれどういうこと?」と聞きたくなるのはしょうがないことだと俺も分かっている。
でも、分かっていても辛いものは辛いのだ。
視線が突き刺さって辛い。そんな状況を、1つの声が壊した。
「おお!西山、おはよう。」
生徒指導部長特有のなぜか入り口から1番近い机の位置から、椅子に座ってぐるりと回りながら、山崎先生がこちらを向いて言ってきた。
その一声で、職員室の空気がガラッと変わる。
ーーーまあ、生徒指導部長なんだから、銀髪を怒るなり、その他諸々どのようにも対応してくれるだろうしな。
視線が来なくなって落ち着いたところで、山崎先生が再度口を開く。
「今日から、頑張っていこうな。」
「はい。よろしくお願いします。」
「じゃあ、とりあえず担任の先生と挨拶しとかないとな。金子先生ーー!!」
先生の声に反応して、1つの「はい!」という高い声が、職員室に響き渡り、1人の女性が立ち上がって、こっちに小走りで向かってきた。
「こちらが、西山の入るクラスの担任の金子千尋先生だ。」
「金子千尋っていいます。
これから一緒に頑張っていこうね。」
ーーー金子千尋先生。
男として通っていた時、俺のクラスの英語の教科担任だった先生だ。
25と若く、なおかつ美人なのに授業も面白く、親しみやすいと生徒からの評判が良い先生だ。
正直、男だった時と同じクラスで構わないと思うのだが、前の担任だった吉川勉先生は40過ぎの男性だったということもあって、女性特有の質問のしやすさなどから金子先生が選ばれたのだろう。
「はい。よろしくお願いします。」
頑張ろうという思いを込めて、笑顔でそう返した。
◆◆◆◆
その後、編入生として扱われなければならないので、金子先生と2人で苦笑いしながら、学内施設の紹介や、時間割や授業時間、部活動の紹介なんかをしてもらっていると、すぐに時間は過ぎていき、朝のホームルームの時間となった。
俺は金子先生に連れられて、教室へとやってきた。
ーーー1の5、ここが俺の新しいクラスみたいだ。
金子先生は俺に「ちょっとここで待ってて。」と言って、中へ入っていった。
「おはようございます。実は、今日はうちのクラスに編入生がいます。」
「「「編入生?」」」
生徒の声が、重なり合うのが聞こえた。
「せんせーい、編入生ってなんですか?」
扉の外だから誰かも分からないが、男子生徒の声が聞こえた。
「編入生、まあ分かりやすく言えばこのクラスに新しい仲間が増えるってことです。」
「え!まじ!?それって転校生ってことか!」
「…まぁ、そういうことですね。」
微妙な沈黙から、金子先生が編入生と転校生の違いを説明しようかどうか悩んで、その上でもう意味はほとんど同じだし、いっか!って判断したのが伝わってきて、思わず苦笑いしてしまう。
「じゃあ、入ってきてください。」
そう言われて俺は扉を開き、教室の中へと入っていく。
ーーーうお、やっぱり無茶苦茶見られるな…。
そう思いつつも、今まで見られてきたそれよりも、比較的辛くなかった。
それは多分、相手が高校生だっていうのがあるだろう。
先生方の場合は、下手に年を取っているから、微妙に陰口はいけないだとか自制心が働くのか、こっちまでギリギリ聞こえるレベルの小声での会話が聞こえてくるのだ。
でも、高校生の、この教室の場合は違った。
何が違うかと言えば、やっぱり声の大きさだろう。
高校生たちは、思ったことを何の躊躇もなく口にしているのだ。
そのおかげで、ヒソヒソ声の時にあった避けられつつ何か言われているという感覚が失われて、比較的楽になっているのだ。
ーーーまあ、比較的楽というだけで、「おお、銀髪!」「わー可愛い。」みたいな声が聞こえてくるのは辛くもあるんだが。
「それじゃあ、自己紹介してもらってもいいかな?」
金子先生が黒板に俺の名前を書き終えて、言ってきた。
それに対して「はい。」と返事をして、教卓の真ん中に立つ。
「西山奈津希といいます。
先々月までは体調が優れず、入退院を繰り返していましたが、先月から体調が徐々に改善してきて、今回編入することになりました。
よろしくお願いします。」
俺の自己紹介が終わると、それに合わせて金子先生が口を開く。
「じゃあみなさん、西山さんについて気になることも多くあると思いますので、質問タイムを設けたいのですが、絶対ホームルームだけじゃ終わらないので、次の時間が英語なので、英語の時間を使ってやりたいと思うので、それまで待っていてください。」
先生がそう言うと、ホームルームは終わり、教室はガヤガヤと騒がしくなった。
「じゃあ、西山さんの席なんだけど、改善したとはいえ、身体が弱かったこともあるので、窓際の1番前になったんだけど、大丈夫?」
「はい。全然大丈夫です。」
席のことも事前に教えてもらっている。
俺が1番前になったのは、設定的にすぐさま教員が補助に入れるようにというものの他に、俺が懐に踏み込まれ過ぎて、ボロを出しそうになった時に、「はい。私語はそこらへんでやめておこうね〜。」とヘルプに入れるようにというもののためらしい。
こういうことは、既に事前に電話で情報交換し終えている。
席の他には、自己紹介の練習や初日の授業の進め方、質問タイムを設けるということに加えて、ある程度質問に対する模範解答を作っておく、といったものがあった。
ーーーちなみに、朝、誠也が言っていたあっちというのは自己紹介含めて、女性らしく振る舞えるようになったか、ということを指していた。
俺も1ヶ月、何もせず待っていたわけじゃないので、そこそこ出来るようになっているのだ。
荷物を広げたり準備をしたりしていると、時間はあっという間に過ぎ、1時間目が始まった。
その間、先生の言いつけを破って、俺に話しかけてくる人はいなかった。
級長の号令で立ち上がり、礼をして着席をする。
「じゃあ、さっき言った通り、授業に入る前に西山さんへの質問タイムを設けたいと思います。
西山さん、また前に来てもらってもいいかな?」
「あ、はい。」
ーーあ、質問って教卓のところで受けるんだ。
別に自分の席でやらせてくれても良いんじゃないか?とか思ってしまうが、まあ従っておこう。
「んじゃ、質問〜。その髪の毛って地毛なの?」
立ち上がり手を挙げながら、1人の男子がそう言った。
ーーーって、翔平じゃないか。
俺が男だった時、柔道部で一緒だった友達、秋山翔平だった。
よくよく見てみれば、誠也だってこのクラスにいる。
ーーー学校サイドも、俺のことを考えてくれたのかな?
俺にとって学校は、慣れない環境、いや、女性として振る舞わないといけないというきつい環境なんだ。
少しは俺のことを考えてくれて、こういうクラス分けにしてくれたのかな、なんて思い校長たちに感謝する。
「あ、地毛です。曾曾曾祖母さんが、ロシアの方の人だったみたいで、その特徴が私のタイミングで出てきたみたいです。」
「へぇー、そうなんだ。じゃあさ「秋山くん、質問は1人1つでお願い。」えー、先生1個ぐらいいいじゃんか〜。」
続けてもう1つ質問を投げようとした翔平が、金子先生に止められて、苦情を言ったところで、クラスに笑いが起こり、俺自身もクスクスと笑ってしまう。
ーーーなぜか、俺が笑うとクラスから笑いが消え、よく分からない雰囲気が広がった。
ーーーえ、なんでなんでなんで!?
思わず慌てて、キョロキョロと左右に首を振っていると、よく分からない雰囲気は更に広がっていった。
◆◆◆◆
その後、ちょくちょくボロは出しそうになったものの、なんとかそこを取り繕いつつ、乗り切ることが出来た。
そうやっていると、今度は山藤美希さんっていう、明るい茶色に髪を染めた女の子に問いを投げられた。
「西山さんって格闘技出来たりする?」
「え、格闘技ですか?」
思わず柔道やってましたと答えてしまいそうになるものの、明らかに俺の女の子としての設定と矛盾してしまうので我慢する。
「あ、いえ。そういうのはやったことないです。」
そう返すと、山藤さんは残念そうに、「えー。じゃあ、噂の『銀髪格闘少女』は西山さんのことじゃなかったのか〜。銀髪なんてなかなかいないから、そうだと思って聞いたのに。」と口にした。
ーーーえ、なにそれ。
俺の中で、嫌な妄想がブクブクと膨れ上がる。
いや、そんなわけないだろと自分に言い聞かせながら、山藤さんに俺から質問を投げた。
「あの、『銀髪格闘少女』って何ですか?」
「え!?知らないの!?って、西山さんは入院してたんだっけ。なら知らなくてもおかしくないか。
最近、この街に出てきた噂の1つだよ。」
「う、噂ですか!?」
俺が驚きの声を上げると、山藤さんは口角をぎゅっと上げ、再度口を開いた。
「夏休みのイロンモールに現れた、幻想的なまでに美しい少女の亡霊の話。
あまりの美しさに、とある男性が声をかけたんだけど、ひらりと躱されて、仲間の亡霊2人と一緒にイロンモールのどこかへ消えていったーーーっていう噂なんだ。」
「へ、へぇーそうなんですか。」
ーーーやべぇ、それ俺のことじゃん。
思いっきり、俺と亜希と若菜さんでショッピングした時の話じゃん。
ビクビクするものの、どこまで俺の噂が広まっているのか、どこまで尾ひれが付いて広がっているのか、気になる。
俺は意を決して、俺から山藤さんに質問を投げる。
「あ、あの、その『銀髪格闘少女』ってそれで終わりなんですか?」
「ん?もしかして、西山さんそういう話行ける感じ!?」
山藤さんがテンションを上げながら、聞き返してくる。
ーーーやべっ。俺、噂話とかどちらかといえば苦手なんだけど。
小学校の頃、噂話を本気で信じて友達の仲違いしてしまって以来、俺は噂話やそれ関係のことは信じないようになった。
そんなわけで、俺の中で噂話は、苦手というところを超えて、嫌いという域にまで到達してるレベルである。
でも、ここでより詳しく聞くには、どうにか取り繕わなけねばならない。
「あ、そういう話はどちらかといえば苦手なんですけど、その話と『銀髪』って共通点があるからか、どこか親近感を持っちゃいまして…。」
「ああ、そういうことね。
この噂は、元々は『つぶやいたー』にアップされた動画から始まってるんだ。
動画は銀髪の女の子が、声をかけてきた男性を制圧するところまでで構成されているんだ。
銀髪ってのはわかるんだけど、顔やなんかは遠くから撮影してたから、よく分からなくて、銀髪の西山さんに会ったから、もしかしてって確認してみたんだ。
よくよく考えてみれば、西山さん身体が弱いんだから、そんなことできるわけないよね。
ごめんね?」
俺の言葉を信じた山藤さんは、快く噂の全貌を話してくれた。
ーーーああ、なるほど。
映像が、俺が油断している相手を反射的に制圧したところまでしかなかったから、そこから尾ひれがついて、聞いたような噂になったのか。
顔が映っていないところから撮った動画で良かった…。顔が映ってたら、設定と矛盾していることがバレて、すぐさま俺の正体がばれていたかもしれない。
その後も、質問タイムは続いていった。
◆◆◆◆
「他には質問はありませんか?
なければ、質問タイムは終了して、授業に入っていこうと思うんですが。」
質問があることを示す挙手がなくなったところで、金子先生が声を張り上げた。
それを聞いて、俺はやっと一息ついた。
ーーーやっぱり、質問が続けられると辛いな。
女性言葉を使うというのにも神経を使うし、整合性を取るためにちょくちょく嘘を混ぜているというのも、精神的に辛い。
やっとこれで、気持ちが少しは楽になるな。
そう思った瞬間、1つの手が上がった。
その手の方を見ると、先程も手を挙げていた山藤さんが手を挙げていた。
「じゃあ、山藤さんで最後にしましょうか。
山藤さん、どうぞ。」
金子先生の声に「はい。」と返事をして、山藤さんはその場に立ち上がった。
「西山さんと、高原くんに聞きたいんですがーーー」
ーーーえ、俺と誠也の2人に?
「ーーー今朝、西山さんと高原くんが一緒に、喋りながら登校してるのを見たんですけど、お2人の関係性ってどうなってるんでしょうか?」
「え?」
思わず、反射的に声を漏らした後、1つの思考へと辿り着く。
ーーー当たり前じゃねーか。あれだけの人にジロジロ見られてたのに、入るクラスに1人も目撃者がいないなんて奇跡、あるわけねーだろ。
自分の中に生まれた「何で?」という疑問は解消されたので、質問に答えようとするのだが、セリフが浮かんでこない。
ーーーまずい。俺と誠也の出会った設定って、なんだっけ?
ヘトヘトになっていたからか、思考が回らない。
でも、話し出さなければ、怪しまれてしまう。
思考のまとまらないまま、とりあえず話し出す。
「あの、えっと、そのですね…。」
ーーーまとまらないにも程があるだろ!
何か、何か早く言い出さないと。
そう思うも、全く思考がまとまらず、手を意味なく細かく動かして考えるも、全然まとまらない。
ーーーやばいやばいやばい。
焦っていると、椅子を引く音が教室に響いた。
ーーー誠也だった。
誠也は立ち上がると、山藤さんの方を向いて口を開いた。
「奈津希と俺の家は結構近くにあって、前に奈津希が体調が良いからって1人で散歩に出かけて、途中で体調を崩して動けなくなってたから、声をかけて、自宅まで連れていくってことがあったんだが、その時からこいつの家と家族ぐるみの付き合いをするようになったんだ。
一緒に登校してたのは、奈津希のお母さんから、1人で登校させるの心配だから一緒に行ってくれないか?って頼まれたからだ。」
ーーーおお。そんな設定、確かにそんな設定だった。流石、誠也は記憶力が良いな。
ポケーとその場で思考が止まってしまうが、ハッとし慌てて口を開く。
ーーー誠也の言ってることを補強するために、俺も同じこと言わないと。
「そ、そうなんです!
この間、母さんが誠也に無理を言って頼んだのを、誠也が快く受け入れてくれて、それだから一緒に登校したんです!」
少しどもりながらも、そう言い切った。
これで信じて貰えたかな?と周りをキョロキョロ見渡すと、先程も味わった、生暖かい空気が広がっており、目の合う人全員が生暖かい視線を向けてきた。
ーーーえ、何で?
そんな疑問を残しつつ、質問タイムは終わり、英語の授業が始まっていった。
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